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スペシャル対談:木村汎(拓殖大学海外事情研究所教授) VS 増田俊男
[力の意志2004年5月号 公開記事 No1]
▼〔増田〕
ソ連は91年に崩壊し、その後も幾度かの政変を経験し、経済的にも混乱しましたから、国際的な支援なしには国家の体裁が維持できない状況に陥りました。そこでIMFのような国際金融機関から支援が入った。当然この背後にはアメリカがいたわけです。98年にはルーブルが大暴落しIMFから資金が流れ込んだのですが、この際にもアメリカのヒモつきという事情がありました。
91年のソ連崩壊以来、ロシアは金融的にアメリカに支配されていきました。カネで縛られているものだから、外交的にもアメリカ追従を徐々に深めていったのです。エリツィンはその典型で、オルガルヒと呼ばれる新興財閥と結びついて私腹を肥やす一方、その見返りとしてオルガルヒは税金を払わない。ロシアにとって大きな収入源であるはずの石油産業から税金が入ってこないのですから、国の経済がうまくいくはずがありません。ロシアは腐敗政治と対外債務の板挟みで、危機状態と言えるところまで落ちたわけですが、この状況を跳ね返したのがプーチンです。
プーチン1期4年間で、GDPの140%にまで及んでいた対外債務を40%に減らすことに成功しています。マイナス成長が続いていた経済を黒字に転換させてもいます。
つまり数字を見ると地から天国へ向かっている。また、政治においてもアメリカに対してNOと言えるようになって、「強いロシア」を待望していた国民から圧倒的な支持を集めています。木村さんがご指摘されているように、ロシアの国民には「英雄」を求める気質がありますから、プーチンはその意味で、政治的にも経済的にも国民が待ち望んでいた指導者像を体現しているのだと思います。
▼〔木村〕
私たちロシア研究家はこのところ開店休業状態が続いていました。というのは、ロシアが弱くなってしまって面白くない。特にアメリカのロシア学者などは大学から予算をもらえないので、精々カスピ海、中央アジアといった周辺的な問題へと関心を転じています。大国から転落したロシアは、IMFを通じて自分たちに資金を借りに来るだけの存在との考え方がアメリカで支配的であった。日本の研究者もその影響を受けて、このところ閑古鳥が鳴いていたのですが、今後は「ロシアの復権」が大きくクローズアップされることとなるでしょう。
これまで、ロシア国家予算は原油価格が18・5ドル/B程度でうまくいくように試算されていました。今日、ロシア経済の四分の一は石油による収入が占めています。今年は23ドル/Bの原油価格を目安に予算を組んでいるようです。仮に15ドル程度まで原油価格が落ちたとしても、今までの蓄えがあるから大丈夫という強気の発言も出ています。
▼〔増田〕
いまは30ドルを超えていますから、ロシアにとったら御の字ですね。
▼〔木村〕
日本に対しても、譲るものはないというのがロシアの基本姿勢です。東シベリア・アンガルスク油田からのパイプラインにしても、ロシアからみると中東依存を軽減したいという日本の要求に応じてやろうとしているわけで、その引き換えとして政治的、外交的譲歩をする気はない。
一方、エリツィン時代に勢力を揮っていた新興財閥から強権的な旧KGB派へと、プーチン政権権力が変わってきています。ではスターリン時代の再現かというと、そこまでは戻らない。それでは世界の強国になれないことがプーチンは分かっていますから、同時に経済改革も進めなければならない。部下も二通り揃えています。サンクトペテルブルグから連れて来たエコノミストと、旧KGB系のシラヴィキと呼ばれる武力派です。プーチン政権はこの両グループに軸足を置いている。どちらから一方だけを取り上げては、今後のロシアを見誤ってしまいます。
▼〔増田〕
ロシアは石油依存型の経済といっても過言ではありません。しかも石油の利権を持った会社の数はそう多くありません。ユーコスのホドルコフスキーを逮捕しましたが、あれはデモンストレーションであって、腐敗した財閥だけが国家の富である石油を独占していることへの国民の怒りを解消させる効果がありました。同時に、財閥を解体し、税収を石油だけに頼るのではなく、経済改革によって裾野を広げなくてはいけないとの思いがプーチンにはありました。経済改革が成功するかしないかは、アメリカを中心とする自由主義陣営に経済の分野でどのように関わっていくかの一点に懸かっている私は見ています。イラク攻撃に見られたように、政治的にはアメリカ追従から脱しつつ、その一方でロシア経済を開放してアメリカの協力を得なければならない。ですから今後のロシアの運命はどのような形でアメリカと組むかということに懸かっているのです。
そこで世界の現状を見てみると、スペインの列車爆破テロにしても、イスラエルとパレスチナの紛争の激化にしても、不安定要素が山積している。またイラクの復興支援に関して言えば、アメリカとしては国連をうまく巻き込んで、国連主導に見せながら背後でアメリカがイラク政治を支配する戦略であり、そのためにはヨーロッパの足並みが乱れているほうがアメリカにとっては都合が良かった。
ところが、スペインの事件以来ヨーロッパは結束してしまった。ですから、フランスなどが6月30日を期限とするイラク政府への権限委譲の中身に口を挟んでくるとなれば、そう簡単に国際コンセンサスは得られないでしょう。これはアメリカ経済にとって大きなマイナスです。このような状況の中、プーチンはアメリカがジレンマに陥るのを待っているのだと思います。
http://www.sunra-pub.co.jp/bnumber/0405/0405/0405_kiji1.htm