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軍産インナー・サークル
http://www.asyura2.com/0403/bd35/msg/445.html
投稿者 エンセン 日時 2004 年 5 月 05 日 12:30:35:ieVyGVASbNhvI
 

 
まずは最初に、未読の人は、以下の関連投稿からお読み下され。
「ビッグ・リンカー達の宴」は長文なので、「インナー・サークル」だけでもOK。

インナー・サークル
http://www.asyura.com/0306/idletalk2/msg/886.html
ビッグ・リンカー達の宴
http://www.asyura.com/0306/idletalk2/msg/885.html


● インナー・サークルと地政学

複雑な国際情勢を読み解くにはさまざまな視点が必要である。

(略)

例えば米国の歴代政権有力者の顔ぶれを振り返るといずれの人物も大企業と繋がりがあることに気づくだろう。その関係を深く調べていくと網の目のように広がる役員兼任制度の存在が浮かびあがり、米国株式会社の源がここに存在することがわかる。

近年日本でも大企業を中心にコーポレート・ガバナンス(企業統治)の担い手として社外取締役の起用が注目を集めているが、米・欧の企業では取締役会や監査委員会や国際諮問委員会(インターナショナル・アドバイザリー・ボード)を通じた役員兼任制度が古くから一般的となっており、1914年には、ルイス・ブランダイス米連邦最高裁判所裁判官が網の目のように広がる役員兼任制度を「エンドレス・チェーン」と呼んだ。特に米国ではこの「エンドレス・チェーン」が大学やシンクタンクや財団の理事会・評議委員会にまで及び、その中から選び抜かれた一握りのエリート達が政府と民間との間を頻繁に出入りするリボルビング・ドア(回転ドア)が定着している。

世界的な社会科学者(社会学者、経済学者)であるマイケル・ユシームは、1984年に発表した邦題『インナー・サークル 世界を動かす陰のエリート群像』で、大企業を中心とする産業集中と役員兼任制度を社会的基盤とする階級原理の登場によって、所属する特定の企業のみならず実業界全体の利害を代弁し、政治的なリーダーシップを発揮するインナー・サークルの存在を明らかにしている。

(略)

このユシームの著作では、守秘義務の問題から「インナー・サークル」を構成するメンバーの氏名は一切公表されていないが、「インナー・サークル」になるためのステップを次のようにまとめている。


1 社内での昇進   大企業の上級経営幹部に昇進する。

2 外部取締役就任  いくつかの大企業の取締役会に外部取締役として名を連ね、
           さまざまな業種の経営問題に関与しグローバルな観点を身に
           つける。またそのことで社外的にも一定の評価を獲得する。

3 最高経営幹部昇進 大企業の最高経営責任者(CEO)かそれに次ぐ地位に昇進
           する。
         
4 経済団体の指導部 ビジネス・ラウンドテーブルやビジネス・カウンシルなどの
           主要経済団体(日本では経団連や経済同友会に相当)に参画
           する。また慈善団体や大学やシンクタンクなどの理事会にも
           参加する。

5 政府活動     政府機関の諮問委員会のメンバーになることで経済政策に関
           与する政府高官と親密な関係を築く。
           (実際には、政府や大学、シンクタンクの昇進からスタート
           するケースも多く見られる点を補足しておきたい)


クリントン民主党政権はウォール街を代表する投資銀行ゴールドマン・サックス出身のロバート・ルービンを財務長官に起用し、「ウォール街・財務省複合体」と呼ばれたが、2001年に誕生した現在のブッシュ政権も共和党エスタブリッシュメント勢力内のインナー・サークルもしくはそれに近い人物を主要ポストに多数起用している。一例としてあげた次の主要閣僚の経歴を見ればわかるとおり、金融、石油などのエネルギー、ゼネコン、エンジニアリング、メディア、情報通信、金属、製薬そしてアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)やランド研究所につながる国防企業などの利害を代弁するエリート達が集っている。


○ リチャード(ディック)・チェイニー副大統領
ハリバートン(石油関連)会長兼最高経営責任者(CEO)、ユニオン・パシフィック(鉄道)、P&G(日用品)、EDS(情報技術サービス)各取締役、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)上級研究員、アスペン研究所理事

○ ドナルド・ラムズフェルド国防長官
ギリアド・サイエンス(製薬)取締役会長、ゼネラル・インスツルメント・コーポレーション(放送技術)会長兼最高経営責任者(CEO)、ABB(エンジニアリング)、アミリン製薬各取締役、ソロモン・スミス・バーニー・インターナショナル(金融)国際諮問委員会委員長、インベスター(金融)アドバイザー、ジェラルド・R・フォード財団、アイゼンハワー交流奨学基金、スタンフォード大学フーバー研究所、国立公園財団、ランド研究所各理事

○ コリン・パウエル国務長官
統合参謀本部議長、国家安全保障問題担当補佐官、アメリカ・オンライン(メディア 現AOL・タイム・ワーナー)取締役、べクテル・グループ(エンジニアリング)顧問

○ コンドリーザ・ライス国家安全保障問題担当大統領補佐官
スタンフォード大学教授、シェブロン(石油 現シェブロン・テキサコ)、チャールズ・シュワブ(金融)各取締役、J・Pモルガン(金融 現JPモルガン・チェース)国際諮問委員会メンバー、カーネギー国際平和財団、ランド研究所各役員

○ ポール・オニール前財務長官
アルコア(アルミ)会長兼最高経営責任者(CEO)、インターナショナル・ペーパー(製紙)社長、ルーセント・テクノロジー(通信)取締役、ビジネス・ラウンドテーブル、ビジネス・カウンシル、カンファレンス・ボード各メンバー、アメリカン・エンタプライズ研究所(AEI)、国際経済研究所(IIE)、ランド研究所各役員

○ ジョン・スノー財務長官
CSX(鉄道)会長兼最高経営責任者(CEO)、カーマックス(中古車量販)、USスチール(鉄鋼)、ジョンソン・アンド・ジョンソン(製薬)、ベライゾン・コミュニケーションズ(通信)、サピエント(ネットコンサル)各取締役、ビジネス・ラウンドテーブル会長、ビジネス・カウンシルメンバー、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)客員研究員、ジョンズ・ホプキンス大学役員

(略)


最新アメリカの政治地図 講談社現代新書
園田 義明 (著)

価格: ¥756 (税込)

新書 - 254p (2004/04/21)

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目次

第1章 再選目指すブッシュ陣営と選挙参謀カール・ローブ
第2章 ネオコンとキリスト教右派
第3章 共和党エスタブリッシュメントと軍産インナー・サークル
第4章 イラク戦争の真相(1)米国を揺さぶるユーラシア勢力
第5章 イラク戦争の真相(2)米・欧衝突か?協調か?
第6章 翻弄される日本
第7章 トヨタに見る21世紀の歩き方
終章 米国時代の終わりの始まり

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/tg/detail/-/books/4061497146/contents/ref=ed_toc_dp_1_1/249-9788297-1398703



第3章 共和党エスタブリッシュメントと軍産インナー・サークル

● ビジネス・リアリストとエリート・クラブ

ビジネス・リアリストを語るときに欠かせないのは、紳士たちが集まる特権的なエリート・クラブの存在である。「はじめに」でも紹介したマイケル・ユシームの『インナー・サークル 世界を動かす陰のエリート群像』でもインナー・サークルとクラブの関係が分析されているが、「上級経営幹部が席を連ねる取締役会の数が多くなるほどクラブに加入するように誘われる機会が多くなり、クラブを通じて上流階級との緊密な関係を築き、企業の枠を超えた個人的な親交を深める上で極めて重要な役割を果たしている」と書かれている。

米国の場合、英国のホワイツ(1696年設立)、ブルックス(1774年設立)、カールトン(1831年設立)などの英国の紳士クラブに大きな影響を受けて、1800年代から相次いで設立された。米国の特権的なクラブとして著名なのは、リンクス(ニューヨーク)、パシフィック・ユニオン(サンフランシスコ)、シカゴ、ボヘミアン(サンフランシスコ)、ブルックス(ニューヨーク)、メトロポリタン(ワシントン)、カリフォルニア(ロサンゼルス)、センチュリー(ニューヨーク)、デトロイト、デューケーン(ピッツバーグ)、ミネアポリス、ローリング・ロック(ピッツバーグ)、サマセット(ボストン)、ユニオン(クリーブランド)、ユニオン・リーグ(フィラデルフィア)、ニッカーボッカー(ニューヨーク)などである。

当然、名門一族、大企業トップ、大物政治家などは複数のクラブのメンバーとなっており、例えばロックフェラー家のデビッド・ロックフェラー元チェース・マンハッタン銀行会長はリンクス、センチュリー、ニッカーボッカーのメンバーである。

佐藤正明の『自動車 合従連衡の世界』によれば、1982年3月1日、トヨタ自動車の豊田英二社長(当時)がゼネラル・モーターズ(GM)のロジャー・スミス会長(当時)と合併交渉を行った場所はGMニューヨークビル近くにある会員制クラブ、「リンクス」のダイニングルームであった。この場所を選んだのは、リンクスのメンバーであるスミス会長本人であろう。それから3年後の85年4月、カリフォルニア州フリーモントで政財界人ら2000人を集めて合弁会社、ニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング(NUMMI)の工場開所式が行われた。

一握りのビジネス・エリートはクラブに集いながら、企業提携やM&A&D(企業合併・買収・事業分割)から政治分野にいたる厳選された生きた情報を入手してきたのである。

● 学生によるエリート・クラブと「歴史的なボーンズ対決」

ここで学生によるエリート・クラブの存在も紹介しておきたい。卒業後も特権的なエリート・クラブとして機能しており、その代表格として1820年に創立された英ケンブリッジ大学の「使徒会」がある。哲学者バートランド・ラッセル、経済学者ジョン・メイナード・ケインズ卿、ロスチャイルド財閥のN・M・ヴィクター・ロスチャイルド卿などがメンバーであった。

そして、米国で現在話題になっている学生によるエリート・クラブは、コネティカット州ニューヘブンのイエール大学の東部エスタブリッシュメントが集うスカル・アンド・ボーンズ(1832年設立)である。プレスコット・ブッシュ(祖父)、ブッシュ(父)元大統領、現在のブッシュ大統領、そしてジョン・ケリー民主党大統領候補もこのスカル・アンド・ボーンズのメンバーであることから、ワシントン・ポスト紙、さらには英フィナンシャル・タイムズ紙までもがスカル・アンド・ボーンズを取り上げ、04年2月1日付ニューヨーク・タイムズ紙では、ブッシュとケリーによる大統領選を「歴史的なボーンズマン対決」と評している。

WASPは米国の事実上の支配階級として君臨してきたが、いまや米国総人口の2割となり、数の上ではマイノリティーに脅かされつつある。イエール大学も創立以来このWASP中心主義をとってきた。しかし、1950年頃からユダヤ系や黒人などの学生へも門戸を開いていく。祖父がオーストリアから米国に移住する際にユダヤ教からカトリックに改宗したユダヤ系カトリックであるケリーは、こうしたイエール大学の変化の中で62年に入学、一方それまでのWASPを代表するブッシュ現大統領はケリーの2年後に入学した。

2人が共に毎年4年生から15名に限って選ばれるスカル・アンド・ボーンズに招かれたのは名門一族の出身であるからだ。名門投資銀行ブラウン・ブラザーズ・ハリマンにつながりながら、テキサスに基盤を構えたブッシュ家に対して、ジョン・フォーブス・ケリーは東部エスタブリッシュメントにつながる特権階級である。ケリーの母親であるローズマリー・フォーブス・ケリーは雑誌『フォーブス』のオーナー一族であり、北東部の名門中の名門であるウィンスロップ家につながっている。またケリーの現在の妻であるテレイザ・ハインツ・ケリーは、ケチャップで知られる世界的な食品メーカーであるハインツのオーナー一族ジョン・ハインツ三世と結婚していた。このハインツ三世が91年に飛行機事故で死亡したため、約5億ドルと推定される巨額資産を相続し、この遺産がケリーの選挙資金の原資にもなっている。

ブッシュ(父)元大統領はスカル・アンド・ボーンズを通じた東部エスタブリッシュメント人脈を積極的に活用してきたが、ブッシュ現大統領はベトナム戦争の影響による反体制のうねりがイエールでも主流となる中、こうした新たなエリート主義が肌に合わず、現在も微妙に距離を置いている。ぁたやケリーはシティグループやモルガン・スタンレー・ディーン・ウィッターやゴールドマン・サックス、そしてAOL・タイム・ワーナーなどから多額の献金を受けていることから、いまなお新たなエリート集団としてのスカル・アンド・ボーンズ人脈と関係していると思われる。

つまり、生粋のWASPでありながら米国南部・中西部を率いるブッシュ大統領に対して、WASPではないジョン・ケリーが東部エスタブリッシュメントやユダヤ系を味方につけて挑む奇妙な構図となっている。

なおブッシュ(父)元大統領はスカル・アンド・ボーンズとは別に極めて保守的なクラブのメンバーとなっている。

このクラブは、特権的なクラブの中でもその秘密主義と排他性、そしてクローニー性から話題を集めている。メンバーの特徴は、政財界メンバーのほとんどが純白人であり、ユダヤ系や黒人などはキッシンジャー元国務長官など一部の例外を除いてほとんど存在しないと言われている。また、大半が共和党員か共和党支持者である。従って、共和党エスタブリッシュメントや共和党伝統主義者が集う極めて保守的なクラブとなっている。その名は、ボヘミアン・クラブである。



ここでちょっと「ベクテルの秘密ファイル」の第一章「秘密の社交クラブ」に飛んでみます。(エンセン)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/tg/detail/-/books/4478310483/contents/ref=ed_toc_dp_1_1/249-9788297-1398703


● 秘密主義

1982年7月の最後の週末、サンフランシスコ・ノッブヒルの高級住宅街に、お抱え運転手つきのキャデラックがひとりの男を迎えにきた。この男こそステファン・デイヴィソン・ベクテルJr.だった。同名一世の父と区別するため、このJr.をスティーブと呼ぶことにしよう。

晴れた夏の朝である。グレース・カテドラルの真向かいにある豪華マンションから現われ、足早に迎えの車に乗り込むベクテルの姿は、これから週末旅行に出かける平凡な実業家にしか見えなかった。頭髪がうすくなり、やせて何の変哲もない容貌をしていた。50代後半で、気軽な服装をしている。どう見ても、金と権力という点で世界のトップ・クラスにランクされる企業の指導者とは見えなかった。

実はこれこそ、スティーブ・ベクテルが望むところだった。ベクテル・グループの会長でありながら、誰にも知られずに生きることを望んだ。そのための手段を選ばない。この男の私生活は、用心深く秘密が保たれていた。このマンションだけでなく、ほかの住宅にも、強盗や誘拐に備えてさまざまな最新式の警備装置が取りつけられ、名義には一切自分の名前を使わず、この日もそうだが、かつてアメリカ陸軍でテロ対策の専門家として働いていた男が道順を決め、経路を毎回変更するという用心深さだった。

(略)

かつてある記者に、こう語ったことがある。

「世間がわが社のことを知らなければならない理由はどこにもない。大衆にものを売っているのではないのだ」

実際、ベクテル社の商談は企業や政府が相手で、世間の目に触れないところで秘かにおこなわれてきた。重役室、ゴルフ・コース、王宮、首相官邸、あるいはたった今、運転手が彼を運んでいこうとしている人里はなれた場所、などである。そこは“ボヘミアの森”と呼ばれ、サンフランシスコの来た120キロの地点にある1000ヘクタールにも及ぶアカスギの木立ちのなかだ。


● ボヘミアン・クラブ

サンフランシスコのボヘミアン・クラブが経営しているこの森は、ベクテルのような大プロジェクトの業者たちにとって、恰好の大人用サマーキャンプである。つまり毎年7月の週末3日間は、この国の政財界や軍部のエリートたちが、鳴りつづける電話から解放されて、息抜きをする、そのための避難場所である。キャンプ生活の初めには必ず、呪いの人形を焼く儀式がおこなわれ、世俗のことを忘れることにしている。電話は、非常用が1本あるだけだ。

金網のフェンスが張りめぐらされ、カリフォルニア州のハイウェイ・パトロールが警備につく。こうしてレーガン大統領のブレーンをつとめた故ジャスティン・W・ダート、テレビ・新聞界の大御所ウィリアム・バックレー、ブッシュ副大統領、カイザー・スチールのエドガー・カイザーJr.、IBMのトマス・ワトソンのような人間でさえ、森を散策したり、ロシア川で水浴を楽しみ、焚火しながらマシュマロを作り、あるいはボロ服を着て馬鹿騒ぎをすることができた。ほんの2.3日だが、「ここではクモも巣をかけてはならない」という森のモットーを守らせるのだ。こうして毎年7月に開かれるボヘミアン・クラブのキャンプには、この国の政財界の大物が1600人も集まるのである。

この森の生活は、遊びや楽しみばかりではない。随筆家のアンブローズ・ビアスをはじめとするサンフランシスコの記者や芸術家が1872年にキャンプを創始して以来、重要な側面も持っていた。かつてアイゼンハワー陸軍大将が、やがて朝鮮で戦争が起こるだろうと警告したのも、この森でのスピーチだった。アイゼンハワーが大統領に就任してからは、CIA長官のアレン・ダレスが、共産主義の脅威について会員たちに警告した。4半世紀後には、“水爆の父”エドワード・テラーがやはりこの森で、ペルシャ湾情勢にからんで同じ警告を発した。

多くの知事や議員、3人の元大統領、過去・現在の閣僚のほぼ全員がメンバーになっているこのクラブは、長年にわたって重要な政治活動の場として機能してきたのだ。特に注目すべきは、1967年、会員のリチャード・ニクソンがやはり会員のロナルド・レーガンから、「1968年の大統領選挙には共和党候補として出馬しない」という約束を取りつけたことである。

しかし、このクラブの本当の目的は、何といってもビジネスである。ひまさえあれば、企業間の取引きや新しい会員の役職などが話題にのぼる。ただしこの森では、契約や取引きが禁じられている。ともに時間を過ごしながら知り合い、好意を寄せ合うという純粋な交友関係によるビジネスである。かつてニクソン大統領の主席補佐官としてこのキャンプに参加したジョン・アーリックマンは、次のように語った。

「誰でも、非公式な形で3日間を過ごせば、ある関係が生まれるものだ。訪問し合ったり、気楽に電話がかけられるようになるだろう」

スティーブ・ベクテルは、誰よりもその意味をよく理解していた。父親に倣って、成人してから毎年欠かさず、この森にやって来た。いかなる事情があっても、この男は年に一度のキャンプ生活を最優先させたのである。ベクテル・グループが建設業のトップに立つことができたのは、この森に集まる高位高官がいたからだ。次から次へと面識が広がって契約が結ばれ、さらに交際が広まると、作業がスムーズに運ぶようになる。ここで助言や保証を与えてくれたのが彼らなら、時には法の裏道へ導いてくれたのも彼らだった。

この人間たちを手厚くもてなしたベクテルの経営陣は、その力を借りてあらゆることを成功させてきた。つまり支配力と20億ドル近い一族の資産を握り、ホワイトハウスに入り込んだり、外国政府と接触することができたのだ。1982年時点での数字を調べてみても、父ステファン・ベクテルの財産は10億ドル、息子スティーブの財産は6〜7億ドルに達していた。


● ベクテルの友人たち

こうした友人のおかげで、“無名”のスティーブ・ベクテルはこの森のなかで堂々たる存在として君臨し、歩いているだけで畏敬と賞賛のささやきが湧き起こるほどだった。この男は丘の中腹のマンダレー・ロッジに泊まっていたが、そこは、森にある127のキャンプ場で最高の敬意が払われている。このロッジの会員名簿と来客リストには、スティーブ・ベクテルのほかに次のような顔ぶれが見られる。父ステファン・ベクテル、ヘンリー・キッシンジャー、元ベクテル・グループ社長で国務長官のジョージ・シュルツ(この年には、西ドイツのシュミット首相を個人的な客として同伴した)、元IBM会長でソ連駐在アメリカ大使のトマス・ワトソンJr.、元CIA長官ジョン・マコーン、法務長官ウィリアム・スミス、実業家エドガー・カイザーJr.、ニクソンのブレーンだったピーター・フラニガン、パン・アメリカン航空の元社長ナジーブ・ハラビー、ウェルズ・ファーゴ銀行頭取リチャード・クーリー、ゼネラル・エレクトリックの元会長フィリップ・リード、南カリフォルニア・エジソン会長ジャック・ホートン、ユタ・インターナショナル会長エドムンド・リトルフィールド、ディロン・リードの元社長ニコラス・ブレーディー、ファイアストーン・タイヤ&ゴムの後継者レナード・ファイアストーン、元大統領ジェラルド・フォード……。

また、この年のキャンプには次のような大物が参加する予定だった。元国務長官アレグザンダー・ヘイグ、FBI長官ウィリアム・ウェブスター、コンピューター業界の巨頭(元国防次官)デヴィッド・パッカード、海軍作戦部長トマス・ヘイワード、イースタン航空社長フランク・ボーマン、連邦準備制度理事会議長ポール・ヴォルカー、世界銀行総裁アルデン・クローセン、ユニオン石油会長フレッド・ハートレー、アトランティック・リッチフィールド会長ロバート・アンダーソン、出版王ウィリアム・ランドルフ・ハーストJr.、サザン・パシフィック鉄道社長アラン・ファース、ハリウッド・スターのチャールトン・へストン、アート・リンクレター、デニス・ディなどである。そのほか多くのお偉方にまじって、ディーン・ウィッター・レイノルズ社長、バンカメリカ頭取、ユナイテッド航空社長の名もあった。

スティーブ・ベクテルは、このような人間に囲まれても、気楽にくつろぐことができた。ほとんどすべてが友人で、仕事仲間だったからだ。たとえばジョン・マコーンは父のパートナーだった。エドガー・カイザーの祖父で、伝説的人物ヘンリー・カイザーは、フーヴァー・ダム建設のときベクテル社に協力したという関係がある。ニコラス・ブレーディーは、上院議員の任期満了後、ベクテル社が大株主となっているウォール街の証券会社ディロン・リードの会長に戻るはずだった。ディロン・リードのもうひとりの古参重役ピーター・フラニガンは、ニクソンのホワイトハウスに勤務していた時代に、ベクテルが30億ドルの液化石炭輸送用パイプラインを建設するよう仕組んだ男だ。

フィリップ・リードが会長をつとめていたゼネラル・エレクトリック(GE)社は、ベクテルが全世界に原子力プラントを建設したとき、共同事業をおこなってきた。アラン・ファースが社長をつとめるサザン・パシフィック鉄道は、そもそもベクテル社の創成期に鉄道工事を依頼した注文主である。一方パン・アメリカン航空は、創設者ジュアン・トリップの時代に、インターコンチネンタル・ホテル建設の大半をベクテル社に依頼した仲だった。

ベクテルは、カナダではアトランティック・リッチフィールド社とユニオン石油のパイプラインを敷設し、アメリカ国内では、パシフィック・ガス電気やジャック・ホートンが会長をつとめる南カリフォルニア・エジソンの発電所建設をほとんど請負った。IBMはベクテル・グループの注文主だが、実はスティーブ・ベクテル本人がIBMの重役なのである。そしてこの秘密クラブのメンバーであるニクソン、フォード、レーガンの各大統領は、国家最大の秘密である原子力技術において、ベクテルに便宜を図ってきた。ベクテル・グループはその好意に報いるため、海外で国務長官の外交使節の役割を果たし、CIAに“隠れ家”や極秘情報を提供してきたのである。


● 窮地に立つベクテル

お分りだろう。スティーブ・ベクテルが毎年サンフランシスコから遠路を車で駆けつけたのは、充分な理由があったからだ。特にこの1982年には、その理由が重大だった。スティーブはどうしても仲間に会う必要があった。ベクテル・グループが窮地に立っていたからだ。

それは、少なくともその時点では、帳簿に出てくるような問題ではなかった。足元の地面が揺れるような、得体の知れない不安感と言うべきか。それまでベクテル社は有利に事を運んできたが、その世界が、気づかないほどわずかずつ変わりつつあった。ベクテル社が推進の先頭に立ち、そこから巨万の富を得てきた原子力産業が、急騰する建設費と環境問題が深刻化するなかで、終りを告げようとしていた。石油産業も打撃を受け、そのため、長いあいだベクテル社が金を儲けてきた精油所やパイプラインの注文が減ってきた。

(略)

ベクテル社は、もはや無名企業ではなく、内部事情も暴露されはじめていた。

ベクテル社の法律顧問をつとめていたキャスパー・ワインバーガーが2年前にレーガン政権の国防長官に指名されてから、秘密のベールが少しずつ剥ぎ取られてきた。ワインバーガーの就任がベクテル社のビジネスに不審の念を抱かせ、さらにもうひとりの幹部シュルツが閣僚となるに及んで、この疑問がますます強まった。ただの個人企業が、それを規制する側の政府とあれほど親密な関係にあるのはなぜか、と世間は問うていた。

また、一方ではCIAの命令に従っているベクテルが、他方ではカダフィー大佐の気に入るようなことができるのは、一体どういうわけなのか。そもそもベクテル・グループとは何者なのか。どのような方法で、またどのようにして、あれほどの力を持つことができたのか。

今や、こうした疑惑がかつてない烈しさで湧き起こっていた。レーガン大統領がベクテル・グループの社長ジョージ・シュルツを新国務長官に指名し、スティーブ・ベクテル自身を驚かせたのは3週間前のことだった。会社はすでに議会で槍玉に上げられ、非難の的になっていた。報道機関も調査を急ぎ、利害関係者は必死で書類を準備し、商売敵が牙を研ぎはじめた。突如としてベクテルがニュース種になったが、この事態は会長にとって迷惑千万なことであった。

ともかくシュルツが待っている森へ行けば、スティーブ・ベクテルはこうした事態への対策を練ることができるのだ。昔ながらの仲間に囲まれて平穏な心を取りもどし、過去の体験を思い起こしながら、予測のつかない未来に備えることができるはずだった。



以下、再び「最新アメリカの政治地図」の第3章 共和党エスタブリッシュメントと軍産インナー・サークルに戻ります。


● ボヘミアン・グローブと夏の夜の夢

ボヘミアン・クラブのメンバーは毎年7月になるとサンフランシスコから北へ70マイル(110キロ)程の距離にあるモンテ・リオの山村近くに集まる。世界的な巨木として知られるレッドウッドに囲まれた森林の中で、2週間にわたって行われるサマーキャンプに参加するためだ。このキャンプに参加した数少ない日本人のひとりは、300フィート(90メートル)を越えてそびえ立つレッドウッドに囲まれたこの場所を日本の神聖な神社にたとえている。メンバーの多くも聖なる特別な場所と信じているようだ。約700エーカー(11平方キロ)の広さを有するこの場所は「ボヘミアン・グローブ」と呼ばれており、ボヘミアン・クラブの私有地である。

1878年から行われてきたこのサマーキャンプには約2700名のクラブ会員と特別ゲスト以外は参加できない決まりとなっており、全米各地から大統領経験者を含めた大物政治家やフォーチュン500企業や大手金融機関のトップ、著名大学教授、芸術家、文化人などが一堂に集まる。そして、クラブのマスコット人形を焼く儀式によってこの2週間のキャンプがはじまる。

「巣を張る蜘蛛よ、近づくな」

シェイクスピアの『夏の夜の夢』の第二幕第二場の妖精の歌に出てくるこの言葉はボヘミアン・クラブもモットーとなっている。クラブ機能としてビジネスを行ったり、請い求めたりすることの不適切性を説いているのである。確かにこのクラブのメンバーの多くはこのモットーに忠実である。しかし、スパイダーマンのように網の目の巣を張りめぐらせている人達がいるのも事実である。

ボヘミアン・クラブのサマーキャンプに出席が許された日本人は、知られている限りでふたりいる。ひとりが外交評論家の高橋正武、そしてもうひとりがユニデンの設立者である藤本英朗である。高橋はカリフォルニア州政府の州知事補佐官を務めたことから特別会員の権利を与えられており、その著作から少なくとも過去に2度は参加していることが知れる。この2名以外にも存在する可能性もあるが、その徹底した秘密主義により明らかにされていない。

高橋によれば、ボヘミアン・グローブには、約120のユニット・キャンプがあり、レーガン元大統領は「ふくろうの巣」、ニクソン元大統領は「ケープ・マン(洞穴男)」、そして高橋は「ドラゴン」と呼ばれる政財界人25名で構成される名門キャンプで時を過ごした。このユニット・キャンプの中で特に注目を集めるロッジは「マンダレー」である。

03年6月18日付のSF・ウィークリーに2001年のマンダレー・ロッジの宿泊名簿が掲載されたが、その顔ぶれは91、92ページのリストの通りである。なお、ブッシュ(父)元大統領は、ラムズフェルド国防長官とともに「ヒルビリーズ」に宿泊していた。このメンバーに、マンダレー・ロッジやヒルビリーズにおける4名のホスト役の名前を加えると、同時多発テロの直前である2001年の夏の時点で何かがすでに動き始めていた可能性も無視できない。その4名は上のリストの通りである。



★ 2001年マンダレー・ロッジ宿泊名簿

● コリン・L・パウエル(クラブメンバーかどうかは不明)
現国務長官、元統合参謀本部議長、元国家安全保障問題担当補佐官(レーガン政権)。
アメリカ・オンライン(AOL─現在はAOL・タイム・ワーナー)元取締役、ベクテル・グループ元顧問。

● ヘンリー・A・キッシンジャー
元国務長官(ニクソン、フォード政権)、元国家安全保障問題担当大統領補佐官(ニクソン政権)。
キッシンジャー・アソシエイツ会長、ホリンガー・インターナショナル取締役、フリーポート・マクモラン・カッパー・ゴールド取締役、JPモルガン・チェース国際委員会メンバー、アメリカン・エクスプレス諮問委員会メンバー、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)国際諮問委員会会長、アメリカン・エクスプレス元取締役、レブロン元取締役、TWCグループ元取締役、ガルフストリーム・エアロスペース元取締役、戦略国際問題研究所(CSIS)理事、アスペン研究所理事、トライラテラル・コミッション(三極委員会)メンバー、ビルダーバーグ会議メンバー。
メトロポリタン、センチュリー、ブルックス各メンバー。

● マイケル・H・アーマコスト
元国務省内国政担当次官、元駐比米国大使、元駐日米国大使。
アメリカンファミリー生命保険(AFLAC)取締役、アプライド・マテリアルズ取締役、カーギル取締役、TRW取締役、米国ウラン濃縮会社(USEC)取締役、スタンフォード大学・アジア太平洋研究センター・ウォルター・ショーレンステイン特別評議員。
ブルッキングズ研究所元所長、三極委員会メンバー、ビルダーバーグ会議メンバー。

● フレデリック・N・ブレイディ
元財務長官(レーガン、ブッシュ父政権)。
ダービー・オーバーシーズ・インベストメンツ会長、H・J・ハインツ取締役、アメラダ・へス取締役、C2取締役、フランクリン・テンプルトン・インベストメンツ取締役、ディロン・リード元会長。
ビルダーバーグ会議メンバー。
リンクスメンバー。

● ピーター・M・フラニガン
元大統領補佐官(ニクソン政権)。
ウォーバーグ・ディロン・リード上級顧問、ディロン・リード元取締役。
マンハッタン研究所理事。
リンクスメンバー。

● アンドリュー・ルイス
元運輸長官(レーガン政権)。
ユニオン・パシフィック元会長、ガネット元取締役、ルーセント・テクノロジー元取締役、イージス・コミュニケーションズ・グループ元取締役、アメリカン・エクスプレス元取締役、FPL・グループ元取締役、ガルフストリーム・エアロスペース元取締役、ミレニアム・バンク元取締役。
ビルダーバーグ会議メンバー。

● カール・E・ライチャート
フォード副会長、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(PG&E)取締役、コナグラ・フード取締役、マッケソン取締役、ニューホール・マネイジメント取締役、コロンビア─HCA・ヘルスケア取締役、ウェルズ・ファーゴ元会長、HSBCホールディングス元取締役。

● ジョージ・P・シュルツ
元労働長官(ニクソン政権)、元予算管理局長(ニクソン政権)、元財務長官(ニクソン政権)、元国務長官(レーガン政権)。
ベクテル・グループ取締役、フリーモント・グループ取締役、ギリアド・サイエンス取締役、ユーネクスト・ドット・コム取締役、チャールズ・シュワブ取締役、JPモルガン・チェース国際委員会委員長、GM諮問委員会メンバー、ベクテル・グループ元社長、J・P・モルガン元取締役、スタンフォード大学フーバー研究所トーマス・W・アンド・スーザン・B・フォード特別評議員。
ビジネス・ラウンドテーブル政策委員会元メンバー、国際経済研究所(IIE)名誉役員。


★ 4名のリスト (ベクテル関係者)

● ステファン・D・ベクテル・ジュニア
ベクテル・グループ名誉会長、フリーモント・グループ名誉会長、ベクテル・グループ元会長兼CEO。
パシフィック・ユニオンメンバー。

● ライリー・P・ベクテル
ブッシュ大統領・輸出諮問委員会メンバー(2003年2月任命)。
ベクテル・グループ会長兼CEO、フリーモント・グループ会長兼CEO、セクオイア・ベンチャーズ取締役、JPモルガン・チェース取締役。
スタンフォード・ロー・スクール理事、ジェイソン財団理事。
ビジネス・カウンシル、ビジネス・ラウンドテーブル、トライラテラル・コミッション各メンバー。

● ゲイリー・H・ベクテル
ベクテル・シビル副社長。

● アラン・ダックス(ライリー・P・ベクテルの義兄弟)
フリーモント・グループ社長兼CEO、セクオイア・ベンチャーズ社長兼CEO、ベクテル・グループ取締役、ベクテル・エンタープライズ取締役。
ブルッキング研究所、カンファレンス・ボード各理事。



● ベクテルの宴

このマンダレー・ロッジは、まさしくサンフランシスコに拠点を置くベクテル・グループのためのベクテル・ロッジであり、イラクの初期復興事業で最大の総額6億8000万ドル(約755億円)を受注したことから、イラク占領における連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)と呼ぶこともできるかもしれない。

共和党および財界に対して絶大な影響力を持つジョージ・シュルツ元国務長官は、2002年9月6日付ワシントン・ポスト紙に「アクト・ナウ」と題して寄稿し「危機は差し迫っている。時間をかけることはフセインを利するだけだ」とフセイン政権の即時打倒を訴えていた。同年8月15日に掲載されたスコウクロフト元大統領補佐官の「サダムを攻撃するな」に対抗したものと思われる。

ジョージ・シュルツは2000年大統領選の選挙準備委員会のメンバーであり、ブッシュ大統領の生みの親でもある。ブッシュ大統領にとってスコウクロフト元大統領補佐官の警告より効果があったとしても不思議ではない。

ジョージ・シュルツは、ベクテル家のステファン、ライリー、アラン・ダックスの3名が取締役会に名を連ねるベクテル所有のプライベート・インベストメント・ファーム、フリーモント・グループの取締役にも就任しており、ベクテル・グループの陰の総裁である。また古くからベクテル・グループと関係の深いJ・P・モルガンの取締役、そして現在のJPモルガン・チェース国際委員会会長として、メンバーであるキッシンジャー元国務長官やデビッド・ロックフェラー元チェース・マンハッタン銀行会長を率いる立場にある。

世界的な建設業界の不況が続く中で、ベクテル・グループも業績が安定しているとは言えない。ベクテル社副社長であったキャスパー・ワインバーガー元国防長官が会長を務める『フォーブス』誌の非公開企業の売上高ランキングでは、1999年の売上151億ドル(全米5位)をピークに2001年には134億ドル(全米6位)と低迷している。ここにイラク戦争を利用せざるを得なかった要因のひとつがある。

世界的な論調として、ベクテル・グループやチェイニー副大統領が会長を務めたハリバートンのイラク利権に関わる記事が溢れているが、2社が手にする利益は氷山の一角に過ぎず、マンダレー・ロッジやマンダレー・ロッジ以外のボヘミアン・クラブ・メンバーの経歴に記された企業名と戦後復興事業との関わりを調べていけば興味深いことがわかる。

日本でも知人の多いマイケル・H・アーマコスト元駐日米国大使は穀物メジャーであるカーギルの取締役である。またカール・E・ライチャート現フォード副会長は、82年からサンフランシスコを本拠地とする全米10位の名門銀行持株会社ウェルズ・ファーゴの若き元会長兼CEOであったが、このウェルズ・ファーゴは98年に11位のノーウエストと合併し、新生ウェルズ・ファーゴとなる。現在のウェルズ・ファーゴの取締役会では、コバセビッチ会長兼CEOがカーギルの社外取締役であり、世界食品卸業売上高ランキング第1位のスーパーバリューのマイケル・ライト会長兼CEOが、ウェルズ・ファーゴとカーギルの社外取締役になっており、2件の取締役兼任で両社は結合しているのである。ベクテル・グループと同様にカーギルも非公開企業のため詳しい業績は入手できないが、『フォーブス』誌の非公開企業売上高ランキングでは20年近く首位の座を守っており、2001年の売上高は508億ドルでベクテルとの差は歴然としている。そして、このカーギルと関係の深い企業に、成長神話に陰りの見えてきたマクドナルドがある。現在のマクドナルドはイラク進出に向けて本格的に動き始めており、海外メディアでは04年中にもバクダッドに1号店がオープンするとの報道もある。日本同様にイラクにマクドナルドの店舗を象徴する「M」の看板が立ち並ぶ日が来るのだろうか。

なお、フレデリック・N・ブレイディ元財務長官とピーター・M・フラニガン元大統領補佐官の関係するディロン・リードは、名門投資銀行として多くの政府高官を輩出し、古くはアイゼンハワー政権(共和党)で国務次官、ケネディ、ジョンソン政権(民主党)で財務長官を務めたダグラス・ディロンも会長を務めていた。しかし、1980年代に入って、トラベラーズに買収され、81年にはベクテル・グループの投資子会社セクオイア・ベンチャーズ傘下となり、91年にはベアリングの資本参加を受け入れる。97年6月にはスイス銀行の投資部門であるSBCウォーバーグに買収され、社名をSBCウォーバーグ・ディロン・リードに変更するが、同年12月には親会社であるスイス銀行がスイス・ユニオン銀行(USB)と対等合併し、ユナイテッド・バンク・オブ・スイス(新UBS)となり、UBSの投資子会社としてウォーバーグ・ディロン・リードに再び社名変更される。

つまり、かつての名門投資銀行ディロン・リードは、度重なる買収の標的にされ、社名変更を繰り返しながら、現在はスイス最大の銀行UBSの傘下にある。これは、ビジネス・リアリストがグローバル・ビジネス・リアリストに吸収された象徴的な事例である。


● 情報伝達ネットワークとしてのクラブ

スタンフォード大学国際問題研究所の評議員を長年務めている日本人がいる。小林陽太郎富士ゼロックス会長(前経済同友会代表幹事)である。小林会長は、NTT、ソニーの社外取締役を務め、国外ではジョージ・シュルツが会長を務めるJPモルガン・チェース国際委員会のメンバーであり、トライラテラル・コミッション(三極委員会)のアジア太平洋委員会委員長でもある。

イラク戦争開戦前後の小林の発言には、「割り切れない感触」「どうもスッキリしない」「残念の一語に尽きる」など、個人的な無念さが読みとれる。この言葉は米国財界の声をも代弁しているのかもしれない。

しかし、彼らの属するサークルでは21世紀の米国株式会社の復活に向けた緻密なシナリオが描かれているようだ。

小林会長は1993年1月20日付日経産業新聞の「変革担う『クリントン政権』富士ゼロックス会長小林陽太郎氏」で貴重なコメントを残しているので紹介したい。

【社内の調査部のリポートや米国の新聞、雑誌に広く目を通しているが、様々な人を通じての情報が大部分を占めている。私は大学関係ではペンシルベニア大のウォートンスクールやスタンフォード大国際問題研究所、ハーバード大アジア関係問題研究所などの評議員を務めている。これらの評議員会にはシュルツ元国務長官、ボルカー前FRB議長、ハーバード大のボーゲル教授といった人々が名を連ねていて、会合に参加した際に様々な情報が入ってくる。
ビジネス関係でも年7回のゼロックス取締役会のほか、JPモルガンの国際諮問委員会に出席している。これらの会議でも出席者からいろいろな話が聞ける。昨年(注・92年)12月、クリントン政権の政権移行委員会のバーノン・ジョーダン委員長にお会いして、話を聞くことができたが、彼はゼロックスの社外重役でもある。
大学の評議員会や取締役会はリゾートホテルなどに泊まり込んで聞くことも多く、長く続けていれば個人的な関係も生まれてくる。雑誌や新聞などを読んでいて、疑問や気になった点を直接電話で聞いてみるといったこともできるようになる。】


つまり、大企業や主要金融機関の取締役会・国際諮問委員会、政府の諮問委員会、ビジネス・ラウンドテーブルやビジネス・カウンシルなどに代表される有力経済政策団体、大学の理事会・評議委員会、シンクタンクや財団の役員会、そして紳士やエリートが集うボヘミアン・クラブに代表されるクラブなどが情報伝達ネットワークのコアとして機能しているのである。また、個人的な関係を象徴する一例として読売新聞が「シュルツ・ベクテル・グループ取締役のサンフランシスコの自宅には小林夫婦専用の客室がある」と報じている。

(略)


● マネーセンター・バンク

(略)

2003年8月29日、イラクを占領統治する米英の暫定占領当局(CPA)は、7月に新設したイラク貿易銀行の運営についてJPモルガン・チェースを中心とする13行からなる国際銀行団に委託することを発表した。イラク貿易銀行は戦後のイラク復興を支える基盤組織のひとつと位置付けられており、資本金は最大1億ドルを予定し、500万ドルはCPAが拠出、残りの9500万ドルについては、石油輸出収入を裏付けとした国連の復興基金で手当てされる予定である。参加する銀行団は、石油関連施設や発電、水道などのインフラの復旧に必要な物資をイラクへ輸出する企業斡旋を行うことができる。

JPモルガン・チェース以外の12行は、オーストラリア・ニュージーランド銀行グループ(豪)、スタンダード・チャータード(英)、クウェート国営銀行、ミレニアム銀行(ポーランド)、東京三菱銀行(日)、サンパウロ銀行(イタリア)、ロイヤル・バンク・オブ・カナダ、クレディ・リヨネ(仏)、アクバンク(トルコ)、バルセロナ貯蓄年金銀行(スペイン)、スタンダード・バンク・グループ(南アフリカ)、ポルトガル商業銀行となっており、ドイツ勢が入っていない。

最終選考に残ったのは、JPモルガン・チェース以外にバンク・オブ・アメリカ(米)、バンク・ワン(米)、シティグループ(米、ドイツ銀行、三井住友フィナンシャルグループ参加)、ワコビア(米)、HSBCホールディングス(英)の各行が率いる企業連合であったが、サダム一族のメインバンクであったラフィダイン銀行と結びついていた2行のうち、HSBCホールディングスが敗れ、JPモルガン・チェースと組んだフランスのクレディ・リヨネがしっかり残っている点は興味深い。

このあたりの裏事情はジョージ・シュルツ、デビッド・ロックフェラー、ヘンリー・キッシンジャー、ライリー・ベクテル、コンドリーザ・ライス、小林陽太郎等のJPモルガン・チェース・サークルのメンバーのみが知る。


● 新たな大規模宇宙開発計画が意味すること

2004年1月14日、ブッシュ大統領はワシントンの米航空宇宙局(NASA)本部で演説し、月面への宇宙基地建設や火星への有人宇宙飛行などを盛り込んだ新たな大規模宇宙開発計画の概要を明らかにした。1961年のケネディ大統領の月への有人飛行計画発表以来となる大規模宇宙開発計画となり、「われわれは月面に新しい足跡を印し宇宙旅行を準備するため新しい宇宙船を建造する」と語った。

ブッシュ大統領が示した新宇宙開発計画の財源は05年度から09年度の5年分だけとなっており、NASAの今後5年間の予算860億ドル(約10兆円)のうち110億ドルを新計画に割り当てるほか、米議会に同期間中の予算の10億ドル増額を求めるとしている。04年1月21日にはNASAのシャーン・オキーフ長官が05会計年度の予算教書の中で、宇宙開発予算は増額分も含め前年度比5.6パーセント増となる162億ドルに達することを明らかにしている。

オキーフ長官は、01年11月にブッシュ大統領によって国際宇宙ステーションのコスト削減を訴える「コストカッター」としてNASA長官に任命されたが、その手腕には相当偏りがみられるようだ。ブッシュ(父)大統領時代に海軍長官を務め、チェイニー副大統領が国防長官だった時の国防予算管理を担当しており、ブッシュ政権発足に伴い01年3月1日付で行政管理予算局(OMB)次長を務めていた。このオキーフは国防企業との結びつきが強くノースロップ・グラマンやレイセオンのコンサルタントや諮問委員会のメンバーとなっていた。

安全保障政策センター(CSP)は、95年1月4日、国防費削減を進めるクリントン大統領に対してB2ステルス爆撃機の重要性を訴え、追加購入を求める書簡を送っている。この書簡にはメルビン・レアード、ジェイムズ・シュレジンジャー、ドナルド・ラムズフェルド、ハロルド・ブラウン、キャスパー・ワインバーガー、フランク・カールーチ、ディック・チェイニーの7名からなる民主・共和にまたがる歴代国防長官の署名が記載されているが、この書簡を取りまとめたのはポール・ウルフォウィッツ、そしてシャーン・オキーフらであった。

対イラク戦争の大規模な空爆「衝撃と畏怖」作戦にも参加したB2ステルス爆撃機の主契約社は国防費削減の影響を最も強く受けたノースロップ・グラマンであり、軍産インナー・サークルのクリントン時代への「怨念」が、ブッシュ政権誕生によってゾンビのように彼らを復活させ、同時多発テロを利用し、アフガニスタン空爆、そしてイラク戦争へと突き進み、レーガン政権が打ち出したスターウォーズ計画(SDI)を思い出させる大規模宇宙開発計画とミサイル防衛システム(MD)へと向かわせているのである。そしてこのオキーフもまた、ボヘミアン・クラブのメンバーであり、共和党とNASAを結びつける軍産インナー・サークルの予算管理担当となっている。


● ブッシュ政権の軍産インナー・サークル

この新たな大規模宇宙開発計画には、チェイニー副大統領や国家安全保障会議(NSC)のメンバーが深く関わったと言われており、軍産インナー・サークルの存在があらためて脚光を浴びることになる。ブッシュ大統領は、新設される宇宙開発計画の諮問委員会の委員長にピート・オルドリッジ前国防次官を任命しているが、オルドリッジは地下核実験再開の必要性を主張したタカ派で、2003年5月に国防次官を退官、翌月にはロッキード・マーティンの取締役に就任していた。またダグラス・ファイス国防次官らと共に安全保障政策センターの軍事委員会のメンバーになっていた。

ブッシュ政権は、ロッキード・マーティンやノースロップ・グラマン、レイセオン、ボーイングなどの国防企業と、ランド研究所、戦略国際問題研究所(CSIS)、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)、前章でも詳述したネオコン系の「新しいアメリカの世紀のためのプロジェクト」(PNAC)、CSP、国家公共政策研究所(NIPP)、そしてネオコンとイスラエルをつなぐ軍事系の国家安全保障問題ユダヤ研究所(JINSA)などのシンクタンクと回転ドアで繋がる強固な軍産インナー・サークルを構成している。この中では国防企業につながる攻撃的なビジネス・リアリストとネオコンが主導権を握っているのである。特にチェイニー副大統領夫妻とパール元国防政策委員会委員長、そしてウールジー元CIA長官の3名がそのネットワークの中心にいることがわかる。

特に米国防産業の最大手であるロッキード・マーティンとブッシュ政権との関わりは密接である。01年から02年にかけてのロッキード・マーティンの政治献金は236万9000ドルにのぼり、その6割が共和党に向けられている。チェイニー副大統領夫人であるリン・チェイニーは1994年からロッキードの取締役となり、マーティン・マリエッタとの合併後も取締役に再任され、01年1月まで取締役会に留まっていた。

そしてラムズフェルド国防長官、ライス国家安全保障問題担当大統領補佐官は、ロッキード・マーティンに代表される国防企業と関係の深いシンクタンクであるランド研究所と関わってきた。またPNACのブルース・ジャクソン所長はロッキード・マーティンの元副社長である。さらに水曜会に参加するCSPのフランク・ギャフニー所長もPNACの設立メンバーのひとりとなっているが、このCSPとNIPP双方の理事会メンバーとなっているチャールズ・クッパーマンは、ロッキード・マーティンの宇宙・戦略ミサイル計画部門の副社長である。なお、CSPはロッキード・マーティンやボーイングなどから300万ドル以上の寄付を受けており、軍産インナー・サークル系のシンクタンクを資金面で支えているのは国防企業であることがわかる。

かつてロッキードはカリフォルニアの諸銀行と取締役兼任を通じて西部財界の中核に位置し、ニクソン元大統領とも強いつながりを持っていた。しかしウォーターゲート事件、ロッキード事件によってこのネットワークは崩壊し、東部エスタブリッシュメントの中心であるニューヨークのマネーセンター・バンクに組み込まれた。この時に西海岸を追われたのがカール・ローブらの共和党右派勢力である。ロッキード・マーティンと攻撃的なビジネス・リアリストはその後一時的にネオコンを利用することで西部奪回を目指し、それが03年のシュワルツェネッガー・カリフォルニア州知事の誕生につながった。

ブッシュ政権の軍産インナー・サークルが一体となって推し進めてきたのがミサイル防衛システムであり、特にCSISやCSP、NIPPが中心的な役割を担ってきた。ブッシュ大統領は、新宇宙開発計画が通信やエネルギー、新素材などの技術革新を推進し、米産業界に新需要をもたらすとの期待を表明、税金の無駄遣いではないことを強調し、有権者の理解を求めた。確かに戦争がもたらした技術革新が20世紀の米国の覇権を形作ったことは事実である。しかし、この戦争の恩恵も偶然の産物に過ぎず、これを宇宙開発に適用する発想自体も過去に何度も繰り返されてきたことである。このため、国内外から大統領選を目前に控えた古くさい戦略との批判が高まる。国際的な環境保護団体である地球の友は、「火星探査に使う巨額の資金は、地球温暖化対策など、地球のために使うべきだ」とする声明を発表し、米国市民の間からは人類の将来のために「ブッシュ・チームを月か火星に送っちゃえ」と呼びかけるコメントも登場している。

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