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『サンデー毎日』vol.83(No.25) GW合併号 2004/05/09-16 (毎日新聞社 \314+税 5%) 04/27 発売
[発明マニア essay/連載 25] 文 / 米原万里 [pp.50-51]
『国家機密の隠し方』
えげつないというか, おぞましいというか, イラクで人質となりそれだけでも傷ついた人たちと家族に対するバッシングがいまだに続いている. 匿名という自分が反撃されない絶対的に安全な位置から誹謗中傷のメールや手紙を送りつけるという, 自分の言動に対する「自己責任」をも放棄している人たちに「自己責任」を問う資格は論理的にも倫理的にも無いので, 被害者とご家族の皆さんは心安らかに無視するべきだと思う.
ところが始末の悪いことに小泉首相をはじめとする政府の高官がバッシングにお墨付きを与え, 一部メディアと文化人, 知識人と呼ばれる人たちが焚きつけ煽っている. それがあまりに執拗で嵩にかかっているので, 逆に疑問に思えてきた. なぜ彼らはかくも必死になるのだろうかと.
たとえば解放直後の高藤菜穂子さんが, これからもボランティア活動を続けるかと問うアルジャジーラのインタビューに答えて,
「続けます. 今はすごく疲れてショックなこともたくさんあるけど, イラク人のことを嫌いになれないんです」
と泣きじゃくりながら述べたことに, 小泉首相は一部スポーツ紙などが「小泉キレタ」と見出しをつけるほどに逆上した.
「これだけの目に遭ってこれだけ多くの人が救出に努力してくれたのに, なおそういうことを言うのか」
一国の指導者ならばここはまず鷹揚に構えて人質をねぎらう言葉が出てくるべきだろうに, 完全に平常心を失ったとしか思えない感情むき出しの反応である.
これに同調して人質とその家族イジメが再燃したのだが, 落ち着いて高藤さんの発言を反芻してみると, そして, あの映像と発言が中東地域に流れたことを思うと, むしろ極めて妥当なことを言っているのだ.
「続けるなんてとんでもない. もう懲り懲りです. 活動はやめます. こんな嫌な目, 怖い目に遭わされてイラク人が大嫌いになりましたから. やはり外務省の退避勧告に従うべきでした. イラクみたいな危険なところには, 自衛隊のように武装していないと来るのは無理です. それにこれ以上日本政府, 日本国民の皆さまにご迷惑おかけするわけにはいきませんし」
とでも高藤さんが言ったら小泉首相や政府に従順であることを至上価値とする一部日本人の世論は満足するのかもしれないが,
「ふん, その程度の覚悟で活動していたのか. しょせん金持ち日本のひまを持てあましたお嬢様のお遊びだったのね」
と世界中の人々にバカにされるのがオチではないか. 下手するとイラクの人々の反感を買って, 後から拘束された, 安田さん, 渡辺さんの身に危険が及んだかもしれない. あの放送を視聴したイラク人の身になって考えてみよう.
「酷い目に遭ったけど, イラク人を嫌いになれない」
と言った高藤さんに, イラクの人々も人間としての魅力を感じたことだろう. 彼女を通して日本人一般に対する高感度もアップしたに違いない. 民間外交の鑑として, 小泉首相も川口外相も高藤さんに感謝こそすれ筋違いな自己責任論を振りかざして憎々しげに貶すのはどう考えても異常なのだ.
それで, カメラアングルをもう少し引いてみた. すると, 小泉首相が我を忘れて逆上した理由が読めてきたのだ.
あの場面には, 人質解放に決定的役割を果たしたイラク・聖職者協会のクバイシ師が同席していて, 日本政府の対応について,
「われわれの方が日本政府よりも人質のことを考えていたみたいですね. 日本政府からは何の接触もありませんでした. そうそう, 解放が遅れた理由の一つに, 小泉首相が犯行グループをテロリスト呼ばわりしたことがあります. われわれが解放に全力を尽くしたのは日本政府のためではなく, 政府の自衛隊派兵に反対している日本国民のためです」
と身も蓋もないことを言ってしまったのだ.
日本政府の面子を完全に潰されたことに対して, 小泉首相は逆上したのではないだろうか. クバイシ師の言うことが, デタラメだったら, あそこまで青筋立てないだろう. 冷静に論理立てて反論すればいいことなのだから.
おそらく図星だったから反論しようにも反論できない. 自国民の解放に尽くしてくれた恩人を貶すわけにもいかない. 内心焦りまくったのではないか. それで, 高藤さんたちに八つ当たりしたのではないだろうか.
すでに犯行グループからの通知に記されていた三人を解放する理由も,
(1) 日本政府が拘束された三人の人質の命よりも戦争犯罪者ブッシュに仕えることを優先させているので, われわれが日本政府に代わって人質の命を助ける,
(2) イラクの抵抗運動は平和な文民の外国人を狙ったものではない,
(3) マスメディアを通じて呼び掛けを行ったイラク・イスラム聖職者協会の原則に従う,
(4) 自衛隊派兵に反対する日本人がデモをしていたので, 日本政府と日本国民を区別することにした,
(5) 人質の日本人三人は, イラクの人々を助けており, 占領国への従属に汚染されていないことを確認したから,
というものであった.
要するに, 日本政府は人質解放に何ひとつ寄与していないのである. 頼ったのは, 米軍とアメリカの諜報機関, それに占領当局のCPAと, いづれもこの際むしろ逆効果な相手ばかり.
そのことは続く二人の人質解放に際して同じくクバイシ師からあからさまにダメオシされてしまった.
「川口外相のテレビでの呼びかけを見ましたが, 人質を解放してほしくないのが見え見えでしたね. 日本政府は人質が解放されてもちっともうれしくないみたいですし」
人質だった安田さんと渡辺さんも言い切った.
「殺されなかったのは, われわれが武器を持っていなかったからです」「日本政府は何もしなかった」
五人が拘束された理由は, 退避勧告を守らないでイラクに行ったせいかもしれないが, 人質にされてしまったのは, 日本国のパスポートを持っていたせいだ. 日本が米国に追随して自衛隊を派遣しているため敵国と見られたためだ. そして, 無事解放されたのは, 家族のテレビを通しての訴え, NGOの人たちのデモやメールでの働きかけ, 五人それぞれがイラクの人々のために尽くしてきた今までの活動とイラク占領に反対する立場, その人脈と人徳のおかげだ.
つまり, 人質にされた原因は, 日本政府にあり, 解放された原因は, 人質たち自身にあること, イラク人に自衛隊は歓迎されておらず, イラクには武装せずに行った方が安全なことを満天下にさらされてしまったのだ.
巷には日本政府が膨大な釈放金を払ったという「国家機密」がまことしやかに流されているが, 今回に限って, それは嘘っぱちだ. 最大最高の国家機密は, 日本政府は何もできなかったし, 何もしなかった, ということ. 選挙を目前に控えたこの時期, 必死で「自己責任」なる詭弁を弄して人質たたきをやっているのは, この恥ずべき事実が暴かれるのを恐れてのことに他なるまい.
イラスト:新井八代 ARAIYAYO
[テレビに川口首相,その前に 銃を持ったふたりと目隠しされ座っている3人]
[川口外相] 日本は多額の資金と人員をもってイラクの復興に取り組んでいます. 我が国の自衛隊もこのために派遣されているのです ……
[銃を持った二人] 「なんだ, この血も涙もない女?」「しかし, お前らもかわいそうだなあ. お前らの政府はお前らの命を助ける気まったくないみたいだぜ」
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(pp.48-49) 千思万考 …… 江川紹子 連載1 近頃巷に流行る"病" [から抜書き]
[……] 昨今巷に流行る"病"は, 簡単に判断のつかない複雑な問題を, 個人の責任に単純化することで, 人の思考を止めてしまう. 政府がコトを個人責任に矮小化する以上に, 人々にこうした"病"が蔓延することが恐ろしい.
こんな時代だからこそ, 一人ひとりが自分自身であれこれ思い悩み自分の頭で考え抜くことが大事だと思う. その際, とりあえず「今は分からない」と答えを留保したり迷うことは恥ずかしいことではない. 自分で考えると結論を導くには時間がかかるのだ. [……]
http://www.freeml.com/message/truce@freeml.com/0016564
イラク人質事件:各メディアのアンケート結果の落差 [AML]【毎日・TBS要注意】
http://www.asyura2.com/0403/war51/msg/266.html
投稿者 なるほど 日時 2004 年 4 月 10 日
当夜に小泉首相と同席した新聞人:岩見隆夫氏(毎日)・橋本五郎氏(読売)・早野透氏(朝日)[週刊文春4・22]
http://www.asyura2.com/0403/war52/msg/755.html
御投稿者 あっしらさん 日時 2004 年 4 月 16 日