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「一本の鎖」:地球の運命を握る者たち 広瀬隆著
ダイヤモンド社 ISBN4-478-17054-1
序 章 読者へのあついメッセージ
第一章 富を独占する上流階層
第二章 露骨な私欲とスキャンダル
第三章 強大な兵器への野望
第四章 ロシアを揺るがす財閥投獄事件
第五章 女スパイ身元発覚事件
第六章 鏡の中のサダム・フセイン
第七章 戦塵のパレスチナ
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序 章 読者へのあついメッセージ
ニュースへの陰の真実を追跡する
誰しも愉快な地球を望んでいるはずだが、ここ二年以上、多くの人は何もかも忘れる程愉快な気分になれなくなった。口には出さないが、誰もが「早く解決してくれ」と願う大きな問題が目の前に立ちはだかっているからだ。険阻な崖道をふさぐその大きな岩を取り除かないと前に進めないなら、少しの時間を割いて、われわれも真剣に取り組まなければならない。ところが地球の事情は、岩がどちらに転がるか予測することが極めて困難になっている。
アメリカの軍事政権のため、毎日のように重大事件が、いっときも休まることなく発生し、平穏な生活を望む多くの人の願いは、ほとんど成り立ちそうにない。本書は、その混乱の震源地である中東とアメリカ、それに関連するアジア・ヨーロッパ・ロシアの現状を、日本のメディアとまったく別の視点から急いで報告するために書かれたものである。
2003年12月に「独裁者サダム.フセインが捕まった」というニュースが流れた。アメリカ全土がメディアの祝砲に沸き返り、それが日本にどっと流れ込んだ。しかしこの地球上で、われわれ日本人は、充分に事実や真実を知ることができているだろうか。一体、捕まったサダムが」どうなったかさえ分からない。こんなことがあっていいものか。
サダム拘束ニュースの受け止め方はみな違う。イスラム世界でも、イラン.イラク戦争に巻き込まれたイラン人の怒り、毒ガスで大量虐殺を受けたクルド人の怒りは、「サダムに死刑は軽すぎる。拷問にかけろ」という激しいものである。一方で、イラクから侵攻を受けたクエートを除けば、アラブ世界ではサダム拘束という出来事が歓迎されていない。「サダムを支援した米軍とラムズフェルドの犯罪こそ裁くべきだ」、「本当に捕まえなければならない戦争犯罪者はイスラエルのシャロン首相だ」、「ブッシュこそ裁判にかけられるべきだ」という声が、中東のそちこちで上がった。
現在の中東の過半数の民衆は、アメリカの国家そのものを和平への大量破壊兵器とみなしている。その人たちの願いは、感情的には「アメリカの撤退と敗北」に向かっている。日本では知られないが、「ブッシュ大統領に天罰が下る」よう願う人間は驚く程多く、その天罰の範囲は、「大統領選での敗北」や、「アメリカ経済の失墜」といった穏やかなものから、「ワシントン大爆破」といった激しい憎悪にまで広がっている。
しかしその根底には、世界に静穏な日々が来ることを願う感情が流れている。他人に不幸あるごとに、「アメリカの勝利」と叫ぶ心の貧しいワシントンの政策が、世界の至る所に人種差別の嵐を巻き起こし、これまでの平穏な生活や平和を壊しているという反感が、ブッシュへの天罰願望に向かっているのだ。
サダム・フセインが拘束されてもイラク情勢が何一つ好転しなかった事実が示す通り、次にウサマ・ビンラディンが抹殺されても、中東における反米の怒りは鎮まらないのである。ウサマ.ビンラディンと同じ考えの人間が世界中で、軽く億を超えるまでに増えてしまったからである。米軍の活動は、ウサマ哲学を大量生産するようになっている。2004年3月には、その火薬庫めがけて火が投げ込まれた。イスラエル軍がパレスチナ人の精神指導者ヤシン師を殺害して、燃え盛る火が中東からヨーロッパに拡大する末期的事態を迎えた。シャロン首相率いるイスラエル軍の狙いは、全面的な中東戦争を起こすことにあり、大統領選で追い詰められたブッシュ集団がその陰にいることは明白だ。
中東全域の戦乱は、今や日本を巻き込んで地球全体の混乱を意味する。米軍の死者は2004年5月の大規模戦闘集結宣言以来400人を超えたこと、死者が出るたびに正確な数字が出されるが、通常の殺人事件であれば、人はまず被害者の訴えに耳を傾ける。イラク側の死者は一万人を優に超えながら、その正確な人数は報道もされない。被害者は、米軍とイスラエル軍に大量に殺されているイスラム教徒である。この中東の民衆の怒りが火種となって事件が続発しているのに、日本では、イスラム民衆の怒りを「過激は」「テロリスト」扱いして、切り捨てる風潮が主流となっている。まず最初に理解しなければならない感情と心理をかたわらに置き、歴史を忘却し、報道に引かれるまま、みなの知識がアメリカ一辺倒の方向に走らされてよいのだろうか。
わが国の報道界は、大部分の国際ニュースを外国に頼らなければならない。外国の記者や論者が発表したニュースや解説文を見聞きして、あらゆる事件を急いで翻訳して日本人向けに解説しなければならない。その“外国”とは、事実上は、大半がワシントン発かニューヨーク発のメード・イン・USAである。あらゆる国で、軍隊の護衛付きで危険な現場に突入する多民族国家アメリカン・メディアの行動力が、内向的な日本人よりもはるかに高いので、それは致し方のないことだ。しかしそこに拾い集められた膨大な事実だけでも、冷静に事態を見つめれば、アメリカ人の見解とはまったく異なる結論が導かれるものだ。日本人の記者の中でも、鋭い感覚を持つ人は、的確に真相を捕らえるが、往々にしてそれらは小さなコラムに「反論」「ゴシップ」「内幕」「世相」のような形で切り刻まれ、重大事の緊迫感が日本に伝わらない。
2003年3月20日にアメリカがイラク攻撃を開始した時、世界中のテレビ・新聞・雑誌メディの舞台は、アメリカ国防総省(ペンタゴン)と軍事評論家が語る説明にすっかり占領され、開戦と同時にすでに「米軍勝利」という観念を多くの人に植え付けることに成功した。反論の大半はメディア上で黙殺された。そして米軍勝利のタイムスケジュールが、あたかも確定的な事実であるかのように、どっと家庭に流れ込んだ。この論調は、4月9日にピークに達した。その日、イラクの首都バクダッドでサダム.フセインの立像が引き倒され、米軍がバグダッドを制圧すると、一層真実味を帯びて語られるようになったのだ。
ところが私は、米軍によるイラク攻撃が火蓋を切った瞬間、ニュースの論調とは逆に、米軍の大敗北を確信した。予測の根拠を明かせば、それは簡単なことである。アメリカが短期戦を想定し、まるでチェスのようにイラク人を征服する作戦を立てていたからである。
イラク攻撃は政治的な外交ではなく、武力攻撃である。兵器を使って殺戮攻撃を仕掛ける相手は、“敵”か“味方”か識別できる二種類の駒でなければならない。ところが、イラク内部とその周辺には、反米感情高まるイランのスンニー派、イラクのシーア派、クルド人、トルクメン人、隣国トルコの民衆、イランのシーア派、チェチェン人たちがいた。しかもそれぞれが対立している。
さらに世界を広げれば、ウサマ.ビンラディン率いる全イスラム武装勢力が取り巻いていた。ウサマ.ビンラディンは、サダム.フセインと違って、広大な範囲で貧困に苦しむイスラム民衆から敬愛を受けていた。
イスラエルと対峙するパレスチナ人は、イスラエルのシャロン首相を支援するアメリカに強い反感と憎しみを抱いていた。
同じ感情を共有するヨルダン人もいれば、レバノン人シリア人もいる。遠くからは、最大のアラブ民族国家エジプトで、知識階級が立ち上がり、アメリカに向かって拳を振り上げていた。
サウジアラビアのワハビと呼ばれるベドウイン古来の戦闘的イスラム宗派は、虎視眈々と状況を見つめながら、国境を超えて義勇軍に参加しようとしていた。
従ってこれは短期戦ではなく、明らかに国境線のない長期戦になる。しかもアメリカが大量の巡航ミサイルを撃ち込めば決着する近代戦ではなく、地の利を得た者が自在に動き回るゲリラ戦の幕開けであった。イスラム民衆の心理を理解できれば、これだけの敵を相手にして、アメリカが勝てる道理はなかった。結果は今日まで、その混乱をたどってきたにすぎない。
報道界と、そのニュースの受け手である日本人がこの読み違いをしないためには、瞬間的な“政治家の外交”だけに目を集中せず、第一に、歴史の中で培われた“民衆の感情”を中心に考える必要だと痛感する。本書で太い柱としている視点は大衆にある。2003年におけるイラク占領政策の失敗について、イギリスのBBC放送は、「1920年に我が国が犯した失敗から、アメリカは学んでいない」と、誰が聞いても古臭く聞こえる論評をした。だが、80年以上前の歴史を引っ張り出したのは、さすがに世界最大の植民地を誇った大英帝国のジャーナリストである。私が待っていたのは、この言葉だった。当時のイギリス人のメソポタミア高等弁務官が、やはり今日の米軍と同じ強圧的な態度で民衆をコントロールしようとして失敗し、最後には今日をしのぐバグダッド大暴動が発生する事態を招いた。そしてイギリスは委任統治をあきらめ、翌1921年、“アラビアのロレンス”とともに戦ったファイサルを急遽国王に即位させ、イラクという新国家を砂漠に創り出し、それを背後から操ったのである。
イラク攻撃開始前に、アメリカの国防長官ドナルド・ラムズフェルドは、攻撃に反対するヨーロッパに対して「あれは古臭いヨーロッパだ」と小馬鹿にする発言をした。ところがイラク制圧後、彼は自らそのヨーロッパの同盟国イギリスのBBCから「古臭いヨーロッパの教訓」を諭されるほどの失敗を犯したのだ。
この教訓をここに引くのは、“事後の祭”にすぎないのではない。イラク占領本道の失敗は、メディアの読み違いの一例にすぎない。2001年9月11日の世界貿易センタービル崩壊事件後、今日まで、二年以上、大量のミステークと怪し気な憶測が国際ニュースのなかに氾濫し続けているのである。メディア(通信媒体)と言っても、新聞・雑誌の活字文化と、テレビを中心とする視覚文化は、目的と性格をまったく異にする。
テレビや写真の画像は、それと同じ内容を文章で表現しようとしても不可能なほど、大量の情景描写や人間の表情を、わずか一コマで、観る者に教え、感じさせることができる。テレビでは、一時間の大番組でも、その要点となる資料を活字にまとめると原稿用紙1〜2枚で済む程度の内容にしかならないのがほとんどである。音響効果で演出し、一点クローズアップの映像で惹き付けようとするメディアには、そこに大きな弱点がある。
それに対して新聞・雑誌は、特集によって、大量の資料を読者に提供できる。日本の新聞は、テレビやインターネットの速度に勝てるはずがないのだから、独特の取材に基づく資料性の高い大きな「特集記事」と、最近めっきり少なくなった「特ダネ記事」にもっと大きな力を集中するべきである。事件後に真相の追跡をするのだから、伝えるのが多少遅れてもよい。ミステークを日々修正できるジャーナリズムの役割がそこにある。配達される新聞の国際欄を見ると、スポーツ欄の充実度に比べて嘆かわしいほど内容が乏しく、高い購読料を払っている買い物客として不満が大きく、この不満は私の周囲で異口同音に聞かれるものである。特に外国から帰国した人の,多くは、メディアによる自画自賛と、「我々は一生懸命にやっているんだ」という自己弁護に聞き飽きたと言う。
そのため私は、雑誌的なスピードで“ドキュメント”として世界事情を伝える必要性を痛感してきた。歴史的に充分な説明をしながら、そのスピードをこなさなければならない。人間が思索するための事実は、いくら多くてもよい。一冊の書物は、映像の数百倍の資料を提供できる。私が本書を執筆する最大の動機はそこにある。
なによりも、2004年現在の地球は、中東イスラム圏とアメリカの感情的対立が日ごとに烈しさを増してゆき、報道されているよりはるかに危険な状態になっているのである。「独裁者サダム・フセインは拘束された」とアメリカが喧伝しながら、イラクは安定するどころかますます深まる混乱状態に突入している。爆破事件が周辺に拡大しただけではない。日本の良識の大半が反対する自衛隊のイラク派遣という重大な政策の実行を、日本の小泉純一郎首相は、“日米同盟”などという説明にもならない説明でかたくなに固持し、日本を中東イスラム諸国全体の敵にしようと骨折る。すでに小泉首相は巷で、“駐日アメリカ大使”と呼ばれている。
日本人外交官二人がイラクで死亡する事件が発生し、日本国内では、「派遣されるイラク現地は危険だ」という認識、あるいは「日本国憲法に違反する」という反戦意識で、議論が進められてきた。だが現在は、それよりはるかに危険な世界情勢を、誰もが正確な知識から読み取らなければならない状態に突入しているのである。
実はこの混乱の中で、きわめて不自然なミステリーというものを数々見聞きしながら、それに対する明解な説明を、まだジャーナリズムの世界から聞くことはできない。
最大の謎は、そもそも砂漠に忽然と消えた男サダム・フセインが、なぜ9ヶ月近くも安全に暮らしてきたのかという不思議さである。ベトナムのジャングルと違って、一望のもとに見渡せる砂漠の国イラクで、どうしてアメリカのハイテク軍事技術が、2メートルもある巨漢の男を発見できなかったのか。緒戦のバグダッド攻撃中にテレビに姿を現わしたサダムを、どうして米軍は取り逃がしたのか。
サダムには二人の息子ウダイとクサイがいた。ところが米軍は、この兄弟の隠れ家を完全に包囲したあと、あっさりと打ち殺したのではなかったか。「絶対にサダムを捕まえる」と豪語してきた米軍にとって、独裁者サダムの居所について知っているはずの、これほど貴重な証言者を、逮捕せずに殺してしまうとは、到底理解できない。よく考えれば、二人の口を封じようとする意図がなければ、考えられない軍事行動である。しかもサダムは最後に、ライフル銃を持ちながら抵抗もせずに米軍に捕らえられ、殉教の道を選ばなかった。サダムの背後に、何か別のものが存在しないのだろうか、という疑問を持っても不思議ではない。
またイラク国内では、米軍に対する攻撃がますますエスカレートしているが、それは、理由もなく占領されているイラク人の怒りから推し量って、当然の結末である。ところが米軍ではない人間も、モスクも、国連も、赤十字も、次々と爆破攻撃に遭ってきた。聖戦(ジハード)を公言してきた武装勢力は、イスラム教に対する強い忠誠心をもとに、爆弾攻撃のなかに身を投げ捨てる自殺行為を取る行動原理がある。どこからか命令を受けた、ただの軍事戦略であのようなゲリラ活動ができるはずはない。それほどアッラーの神に忠実な、宗教心に厚い人間が、モスクという最も神聖な場所を攻撃することは絶対にない、という声がイスラム教徒の間でしばしば聞かれる。また、彼等は攻撃した行為に誇りを持ち、犯行声明を出すことを原則としているが、声明も出されない。では、誰がイラクのモスクを爆破したのか。この謎に対して、米軍も、国際メディアも、まだ答を出せないままである。
これらは代表的な事例だが、実は、イラクに起こっている出来事は、分かったように解説されてきたひとつずつを正確に考えると、どこを見ても謎に満ちているのだ。
一方、寒い国ロシアでは、いよいよ経済の立て直しが2003年10月から順調に軌道に乗りはじめたように思われた。その矢先、国内最大の石油会社にのしあがったユコスの経営者ミハエル・ホドルコフスキーが逮捕されて、狭い雑居房に投獄されるという驚愕すべき事件が発生した。ニュース報道は、一様に次のように解説した。すなわち、「12月の選挙前に邪魔な政敵を抹殺するため、プーチン大統領が、旧KGBの人脈に命じて逮捕させたのだ。これでロシアの民営化プロセスは逆行する恐れがある」と。
しかし、ソ連時代に共産党幹部によって経営されていた国営会社ユコスが、どのようにして民営化され、資産がどのように分配され、誰の力を得てロシア最大企業にのしあがったかについて、ほとんど説明がない。日本はこのロシアの東シベリアから長距離のパイプラインを施設して、石油を輸入しようと骨折ってきた。また北海道の北にあるサハリンから石油と天然ガスを輸送するプロジェクトも具体化しはじめた。このロシア石油産業が、すべての日本人にとって、家庭と工場のガスや電気を使い続けるために、どれほど重大な問題であるかは歴然としている。これからは石油より天然ガスの時代に移行する。つまり世界最大の天然ガス王国ロシアの実情を正しく知らずして、産業は生きてゆけない。
ところが、若くしてロシア最大の富豪に成りあがったホドルコフスキーの背後にある、巨大な利権集団について、これまで充分な説明がなされていない。民営化に関する多くの解説は「泥棒国家ロシア」、あるいは「新興財閥オリガーク」という漠然とした概念で、数々の謎を説明したつもりになってきただけではないだろうか。プーチンは確かにKGB出身だが、共産主義体制のもとで民衆を弾圧した悪名高い諜報工作機関を動かす幹部だったのではなく、ソ連時代にはスパイの一兵卒にすぎなかった。彼がKGBの後継組織・連邦保安局の長官に台頭したのは、自由国家ロシアが誕生後、ようやく1998年にエリツインが抜擢してからである。むしろ逆にプーチンは、アメリカのイラク攻撃に真正面から反対し、国連で示したブッシュに対する冷淡な態度が国際世論とも一致して、世界中で高く評価されてきた。チェチェン人に対する強硬派という最大の失政を除けば、経済戦略的にも、彼がかなり聡明な思考力を持っていることは間違いない。巨大な国際金融マフィアと手を組む新興財閥に対するプーチンの挑戦は、よほど自信がなければできなかったはずである。彼の計算はどこから沸き出してきたのか。
プーチンが統治するロシアの内部では、巨大な埋蔵量を誇る石油・天然ガス・さらに金属を支配する産業がどのような力関係でバランスが保たれ、外国の金融勢力がどこまで食い込んでいるのか、それを知ることが必要になってくる。こうした天然資源の世界を調べると、不思議なことが起こっていることに気付く。一世を風靡したショーン・コネリーの主演映画“007”シリーズの原作者として有名なイアン・フレミングには、甥ロデリック・フレミングという大富豪がいる。2003年にイギリスで19位にランクされたその富豪が、現在はフレミング一族の経営する大手投資銀行の経営者として、ロシアの金鉱ビジネスに参入し始めた。ゴールドを狙う文字通り“007ゴールドフィンガー”となって、ホドルコフスキーの石油業者とも因縁浅からぬ関係を結んできたのである。
この興味深い金投資は、2003年12月に入って1オンス400ドルという異常な高値を超えたロンドン金価格やニューヨーク先物金価格の激増と無関係であるはずがない。ブッシュが新大統領に就任する前日の金価格に比べて、三年間で実に1.5倍の値上がりである。金の購入に熱心な国民は、世界で群を抜く経済成長を続ける中国人だが、この金価格上昇と並行して、中国の通過(人民元)を変動相場制にするよう、アメリカ財務省が大きな圧力をかけはじめた。日々変動する為替レートの荒波に人民元がもまれるようになれば、金を購入している中国人だけではなく、貿易で食べる日本の産業も無関係でない。時あたかも、アメリカでは財政赤字が深刻化し、貿易収支などの経常収支も最悪の記録を更新している状態にある。アメリカの意図は、こうした赤字の解消にあるはずだが、貧富の差が広がり、下層階級の不満が鬱積した状況で、いよいよ大統領選挙の年に突入したのである。
アフガン攻撃とイラク攻撃開始まで、高い支持率を保っていたブッシュ大統領に対するアメリカの国民の信頼は、イラクの混乱および経済問題の壁にぶちあたって、国民に大きな疑問を抱かせた。そこへ追い打ちをかけるように、為替相場と金相場で大きな利鞘を稼ぐマネー・マネージャーの金融王ジョージ・ソロスが、ブッシュをホワイトハウスから追放するための政治活動に大きな資金を注ぎはじめた。ソロスの動機は、明確だった。ユダヤ人に対する襲撃をはじめとして、世界中でとどまることのない危機の氾濫に対する、大統領の責任追求にある。
ところが一方で、この危機を生み出した最大の原因は、イスラム教徒の怒れる火に油を注ぐパレスチナの悲劇の深刻さに水源がある。イスラエルのシャロン首相たちが進めるパレスチナ人弾圧政策は、巨大な城壁で人間を牢獄の中に囲い込むアパルトヘイトの実現だからである。来る日も来る日も大量のパレスチナ人がイスラエル兵に惨殺され、それがイスラム圏に竜巻のような憤激を巻き起こしている。無謀なその軍事政策を支持する勢力が、ホワイトハウスでネオコン(新保守主義者)を名乗って、ブッシュ大統領にイラク攻撃を焚き付けたわけである。
このまま進めば、やがて核兵器がどこかで炸裂する時代が来ることは、言を待たない。大衆の感情が喫水線を超え、地球を丸ごと沈める日である。イスラエルが保有する核弾頭は200発と推定され、イスラム諸国の民衆はそれを容認できないほど危険な心理状態にまで達している。イスラエル軍部がそれに対抗して、“原子炉稼動計画を進めるイラン”に先制攻撃をかけるという戦略が、図面を出して具体的に語られているのだ。ところがイスラム民衆の危機感をよそに、アラブ諸国の統治者達はアメリカとつかず離れずの優柔不断な態度を取り続けている。そのため民衆心理は、ますます統治者たちから離反しつつある。それは、クーデターの発生を予感させる事態でもある。
日本での報道は、そこまで緊迫した中東の状況と、イスラム教徒の危機感や、ユダヤ人としてのソロスの危機感を伝えていない。結果、イラクから中東全域で続発する爆破事件が、「テロリズム」という言葉で済まされているのは、あまりに単純な表現であり、事態を完全に見誤っている。
多くの日本人が心を痛めるこれら一連の動きと事件とは、よくも悪くも国際社会に生きなければならない日本人に対して、一刻も早い、一層の深い理解を求めている。日本人の海外旅行者は、2000年に人口の一割をはるかに超える1780万人を数えた。バブル経済崩壊後の失われた10年と言われながら、その8年前より600万人も増えているのだ。またこうした中東の事実を追跡しているジャーナリストも多くを数え、とりわけ海外で仕事をしなければならないビジネスマン達にとって、グローバリズムの掛声のもとで渾然一体となって動く地球のゆくえは他人事ではない。日本の政策を決定するにあたっても、重大な局面にある。
私自身、こうした謎と不可解さに満ちた地球の真相を、自分の理解のために何とか知りたいと調査を続けてきた。良識・知識を求める人たちのために、これまでの調査で分かった限りで、日本の報道で充分に伝えられない深い事実を提供することは可能だと思われる。また、たとえ充分に謎を解き明かすことができないとしても、急いで多くの事実を伝える必要があると感じる。
地球上には200の国家があり、そのほとんどの国にこれらの影響が及んでいるため、本書では、まず2004年初頭の緊急事態として、次の7つの主題に絞って報告したい。形式にとらわれず、必要な事実だけを解説するのが目的である。
(1)アメリカ大統領選挙と経済事情
ジョージ・ソロスが始めたブッシュ追放作戦
(2)金融マフィア---ウオール街の戦略
金価格の急上昇---為替レートという化け物
(3)イスラエルとイランの核兵器問題
世界中に拡大する核兵器開発への野望
(4)ロシア全土を揺るがすホドルコフスキー逮捕事件
ユーラシア大陸とアメリカ・イギリスの分裂
(5)女スパイ、ジェーン・ボンドの身元発覚事件
世界に展開するスパイとアメリカン・メディアのプロパガンダ
(6)サダム・フセインとは何者か
イラクをめぐる数々のミステリー
(7)イスラエル・パレスチナ問題と中東諸国の展望
アメリカとイスラエルが世界的に嫌悪される震源
一見するとバラバラに進行しているかに見えるこれらの現象が、一本の鎖のように繋がって、地球を回している。その関連性を、透徹した目で読み取ることができるのは、読者ご自身の鋭い感性に他ならない。