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Re: 「自衛隊は即時撤退しても日米同盟は壊れません」  冷泉彰彦氏
http://www.asyura2.com/0403/bd34/msg/887.html
投稿者 swanslab 日時 2004 年 4 月 10 日 19:21:55:ph9uWkaVt5ofs
 

(回答先: 「自衛隊は即時撤退しても日米同盟は壊れません」  冷泉彰彦氏 投稿者 swanslab 日時 2004 年 4 月 10 日 19:18:49)


もう一つのリスクは、日本人の人質の「救命」を理由に、米軍が民間人を含む大量殺戮をしてしまった場合です。この場合は最悪で、同じような「義理」に束縛されるばかりか、濁った「共犯意識」も出てきますし、日本の国内の分裂は手がつけられないものになると思います。この場合も激しい反米感情が噴出するはずです。

ただ、ここ数日の同盟軍のサンチェス司令官の言動を見ていると、現場の士気低下、増派をするしないというペンタゴンとのやりとり、そして日々深刻になる現場の情勢を受けて、相当カッカ来ているようなムードがあります。「イラクはベトナムではない」ということを繰り返し言う辺りに苦渋がにじんでいます。そんな米軍に「救出」を依頼する、それは何重の意味でも危険です。

誘拐や脅迫に晒された時、その脅しに屈服することは、同じような事件を誘発する、だから多少の犠牲があっても強硬姿勢を貫くべきだ。そんな考え方があります。私は全否定はしません。確かに誘拐犯の言いなりになって、天文学的な身代金を払えば、その国の人の命の値段は上がります。その結果、かえってその国の人は誘拐のターゲットになるでしょう。人質が殺されても、馬鹿馬鹿しい金額は払わないという姿勢を見せれば、その後の犯罪が防げるかもしれません。

ですが、今回のケースは違います。第一に、誘拐事件があろうとなかろうと、今週の情勢では、サマーワにおける自衛隊の「人道支援活動」は不可能になっていたのです。
そして事態は恐らく来週には更に悪化していたと思われます。何もなくても、引くべきタイミングだったということです。

では、自衛隊が撤兵の判断をした場合に日米同盟はどうなるでしょう。私は全く問題はないと思います。まず、第一に、CNNのアンドレア・ミッチェルが報告している
ように、今回のファルージャの騒乱、更にはその動揺が南部にも波及しており、各国軍が引き始めているということは十分に伝えられています。その流れの中では、仮に自衛隊が引いても何ら不思議はありません。

第二に、アメリカ世論には自衛隊のサマーワ派遣のことは知られていません。日本の外交官や政治家は、ワシントンへ行けば「日本はもっと自覚を持って自主防衛を」とお説教されるので、それがアメリカ世論を代表していると思っているのでしょうが、完全な間違いです。

アメリカ世論の多数の日本観は次の二つです。年輩の保守的な人は、いまだに真珠湾の騙し討ちをした悪い国だが、その後はアメリカと仲良くしているから許す、ハイテクや自動車で頑張っているのもここまでやったのだから感服する、というような感覚です。彼等は、「日本軍の亡霊」が歴史の彼方から表れたら、むしろ不愉快に思う層だと思います。

今回のヤンキースの日本訪問に当たっては、球団の専門チャンネル「YESネットワーク」が「野球が結ぶ日米」という特番を何度も何度も流していました。先週お伝えした通り、ベーブ・ルースを含むオールスター軍団の1937年の訪日と、沢村栄治との伝説の名勝負に始まる「感動的な日米友好史」です。ですが、一点、その軍団と共に来日したメンバーが、その後日本に残って大戦直前の日本で「インテリジェンス」の活動をしていたという紹介がありました。

要するに日本との決戦に備えてスパイをしていたというのです。「そのスパイ行為が良いことだ」という文脈で紹介されていた内容からして、まだまだ戦争の記憶は消えていないのだと知らされます。ある年齢層、そしてある種の政治的な立場からすれば、日本はいつまでも「旧敵国」であって、その軍事的拡大は決して歓迎されるものではないのです。

もっと若い世代、それこそアニメやマンガ、日本語に日本食、と骨の髄まで日本大好き、というような層はどうでしょう。例えば『キルビル1』などという「チャンバラ映画」が絶賛されるのだから、日本の武道や血なまぐさい文化も歓迎され、自衛隊の活躍やら「勇気」がもてはやされるのでしょうか。『ラスト・サムライ』はどうでしょう。

こちらも逆なのです。『ラスト・サムライ』は「天皇に背いた」から正義だとされるのです。『キルビル』は完全なアート系の趣味的映画ですから、見る人は「パロディ」が分かる教養層です。この人達は、リベラルな感性を持っていて、日本文化がアメリカの西部劇的な文化とは違う、つまり「殺し合い、名誉の奪い合い」というような下品なことを「しない」日本文化が大好きなのです。

アメリカの映画ファンが黒澤明監督の『七人の侍』や、北野武監督の『ソナチネ』などを絶賛するのも、そこにある「正義」なり「破滅」が、荒っぽい強者の論理ではなく、繊細な弱者の矜持を訴えるものだから支持しているのです。アメリカ文化にはない立派さを、そこに見いだしているからなのです。

今回のファルージャでの市街戦という事態を受けて、ラムズフェルド国務長官は「同盟軍(コアリション)の意志(ウィル)が試されている」などという不敵な発言をしています。要するに、アメリカに反抗するものは叩くというのです。同盟軍の中で、兵を引くものは「意志の弱い」ものなのだ、そんな脅しとも言える発言です。

これに対しては、日本は堂々と自衛隊を引くべきです。胸を張って引き上げるべきです。アメリカの庶民は、誰も不思議に思わないでしょうし、大した悪感情も持たないでしょう。政治家のメンツは潰れます。ブッシュ=チェイニー=ラムズフェルドのメンツは潰れます。小泉=福田=石破のメンツは潰れるでしょう。ですが、それだけです、日米関係はビクともしないでしょう。

自衛隊が引いたからと、対日感情は悪化するでしょうか。一時的に悪口を言う人があるかもしれませんが、すぐに消えるでしょう。それよりも、自衛隊が米軍の「足手まとい」だという話になった場合も、世論の日本観は悪化すると思います。その点でも、今引いてしまうのが得策です。

トヨタや本田の、あるいは任天堂やソニーの不買運動はどうでしょう、撤兵ということではあり得ないと思います。多少軍のOBの人が騒ぐかもしれませんが、大したことにはならないでしょう。第一、イラク戦争を通じて一貫してアメリカの方針に反対していたドイツの車は、堂々と売られ人気を維持していました。ですが、自衛隊が「やりすぎ」ということになれば、それこそ日本車焼き討ちということにもなりかねません。

仮に「やりすぎ」や「足手まとい」という事態が防げても、他の同盟軍(コアリション)が逃げ出した後で、日本だけがアメリカに「道連れ」にされている構図は、何としても避けねばなりません。

本稿が配信された直後には、チェイニー副大統領が日本へ行きます。今回の事件を含めて、チェイニー副大統領が「日米交渉」の窓国になるのでしょう。軍需産業・石油産業との癒着が公然と囁かれ、一連の外交政策の責任者である同氏の訪日に際して、日本政府はどう出るのでしょう。頭を下げて「人質救出へのお願い」をするのでしょうか。それとも、「カネで解決したいので黙っていてくれ」とでも言うのでしょうか。

あるいは「動揺するな」というチェイニー氏の恫喝にひたすら恐縮するのでしょうか。
冗談ではありません。国を代表し、国益なるものを背負っているのなら、こうした危機にこそ胆力と知力を発揮すべきです。「こんなはずではなかった。イラクの復興は進むはずだった。自衛隊の人道支援は役に立つはずだった。一体イラクはどうなっているんですか。米国の見通しはどうなのですか」と机を叩き、メタルフレームの眼鏡の奥に覗く小心な瞳を見据えながら迫るべきです。

日本側の代表が英語が自由である必要はありません。優秀な通訳が正確に仕事をしていれば十分です。そして「今回の人質事件は、日本に取って心外です。これは脅しに屈するのではない。治安が悪化した、人道支援はできない、その時期ではない、最悪のケースは内戦に巻き込まれるか、立ち往生するかだ、日本に取って他に選択肢はない」そう毅然として、副大統領に宣言すべきです。

国民の生命財産というものがあるとすれば、それはそのようにして守られるのです。
国の安全保障というものがあるとすれば、そのようにして守られるのです。その簡単なことが言えないのならば、統治の責任は全うできないと言えるでしょう。

テロリズムの悪に屈するのではありません。悪の仕掛けた罠からは、堂々と距離を置くべきなのです。悪の敵になる道を選ぶのではなく、悪を憎むがゆえに悪を遠ざけることで間接的に悪の力を削ぐのです。この局面での撤兵は、紛争地全体の緊張と対立のレベルを上げるのではなく、下げるための積極的な行動なのです。

撤兵ではあっても消極策ではないのです。撤兵こそ戦略的な積極策なのです。動くべきです。決断の時です。手をこまねいて泥沼に入りつつあるブッシュ政権の外交政策とは一線を画すべきです。ここは兵を引くべきです。胸を張って引くべきです。今がそのタイミングです。

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冷泉彰彦:
著書に
『9・11(セプテンバー・イレブンス)―あの日からアメリカ人の心はどう変わったか』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093860920/jmm05-22

JMM [Japan Mail Media]                 No.265 Extra- Edition

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