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2004年4月9日発行
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■ 『from 911/USAレポート』 第140回
「自衛隊は即時撤退しても日米同盟は壊れません」
■ 冷泉彰彦 :作家(米国ニュージャージー州在住)
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■ 『from 911/USAレポート』 第140回
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「自衛隊は即時撤退しても日米同盟は壊れません」
今週のイラクはいよいよ危機的な状況になってきました。一部のテロリストによる周到で悪質な分断工作の結果、シーア派の指導者ムクタダ・サドル師と暫定統治機構すなわち米軍との関係は最悪になりました。その結果として米軍によるファルージャでのモスク攻撃という最悪のリアクションが起き、シーア派住民の住む地域にも反米感情が蔓延しています。今週に入ってからの、米軍の犠牲者は32人という数字に跳ね上がる一方で、イラクの民間人犠牲の数も拡大を続けています。
そんな中、イラクに駐留している各国軍にも動揺が広がっています。4月7日晩のCNBCのニュースで、NBCのアンドレア・ミッチェルは「今回のイラク全土の緊張」の余波として(1)撤兵を言い出したカザフスタン軍、(2)米軍に警護を要請したブルガリア軍、(3)改めて兵員派遣を拒否してきたドイツ、と並んで(4)活動を停止して兵営に閉じこもった日本軍、を紹介していました。「このように今週の危機は、各国の軍の動静とも全てリンクしているのです」というミッチェルは言っていました。
狡猾なテロリストの罠は次々に仕掛けられています。週の前半には、韓国人の民間人が2名拉致されて、その後釈放、そして木曜日の8日には同じ韓国人の牧師8人が誘拐され、1名は直後に脱出、更に7名もその後解放されています。尚、この事件に関しては、アメリカのメディアは、最初の二名の事件は伝えましたが、その解放については伝えていません。また、2度目の事件については、ほとんど報道されていません。
アメリカ内部の動向としては、議会から「イラクがベトナム化しているのでは」という疑問が出る一方で、8日の木曜日は朝9時から議会での「911調査委員会」が始まると主要なネットワークは全て生中継に切り替わって、大騒ぎになりました。他でもありません、散々証言を渋っていた安全保障補佐官である、コンデリーサ・ライス女史が議会証言したのです。
内容的には、質問する側も「手加減」があり、上品なライス博士一流の弁明を聞く「儀式」というやや拍子抜けした内容でした。ライス女史は基本的にはブッシュ大統領を擁護して、クラーク前顧問の言う「ブッシュ政権はイラクに気を取られてアルカイダを深刻に考えていなかった」というコメントを否定するような証言に終始していました。
ですが、911の直前の2001年8月6日に「オサマ・ビンラディンが米国本土攻撃を計画している」というような「安全保障関連メモ」が大統領に提出されたという証言は波紋を呼んでいます。証言直後からは、安全保障上の機密になっているメモを公開するように議会は圧力を強めています。所詮は政争に過ぎないとはいえ、ブッシュ政権が「不必要なイラク敵視政策に気を取られていた」ことへの批判は、今回のライス証言では晴れませんでした。
ワシントンで、そのライス証言の行われている前後に3名の日本人がイラク国内で拘束され、犯人グループはその方々の生命を脅かしながら自衛隊の撤退を要求しているというニュースが飛び込んできました。とは言っても、アメリカ国内の扱いは大きくはありません。
完全に伏せられているわけではないのですが、911以来ケーブル・ニュース局が24時間流し続けているテロップに出る程度で、主要なニュースにはなっていませんし、大きなメディアのHPにもメインのニュース扱いとしては出ていません。夜に入って、人質の映像を含めて報道が始まりましたが、依然として「ライス証言」のニュースに隠れがちです。
いずれにしても、混乱を引き起こすために、そしてイラクという地域の全体を戦争状態に陥れるためのテロ活動として、そのどこにも正義はありません。イラク人による民族自決が正義で、米軍=占領軍が悪だという単純な立場に立つ人から見ても、こうした行為はイラク全域に不幸を拡散させるだけで、何の根拠もないことは自明です。
そして拘束されている三人は、いずれも米軍の占領を支持する立場というよりも、イラクの復興のために、個人として貢献ができないかと、活動している人とその支持者に他なりません。テロリストに正義はありません。そのことはハッキリ申し上げておくべきでしょう。
その一方で、結論から申し上げれば、今回の事件を契機に自衛隊を即時撤退させるべきだと思います。それが反戦的な意見に勝利をもたらすからではありません。「悪しき」派兵の幕引きがされるのが痛快だからでもありません。日本に国益なるものがあるとすれば、それが唯一最上の策だと思うからです。
まず、テロリスト集団の狙いは明らかです。イラク国内でテロを繰り返し、民間人犠牲を増やすのは彼等の狙いなのです。米軍へのテロよりも、イラク人を殺した方が効果的だからです。治安が悪化して民生が向上しない事態が続けば、人々の憎悪はアメリカへと向かうからです。直接アメリカ軍を攻撃するよりも、結果的に米軍の立場は悪くなると言うわけです。
今回のシーア派がらみの騒動も同じ理屈です。シーア派へのテロを強め、怒ったシーア派住民の感情がアメリカへの反感へと向かうよう周到な工作がされてきたのだと思います。その結果として、サドル師の言動が反米になり、それが過激になり、という延長で、米軍は罠にはまったようにモスクへの攻撃をしてしまいました。こうなると、イラクの中でシーア派住民が多数を占める地域では反米感情が増幅し、6月の暫定統治機構からイラク人への政権譲渡は難しくなります。実に巧妙な計算です。
私は元来が、自衛隊の派遣には反対してきました。ですが、一旦派兵がされ、とりあえずサマーラでの民心を得る努力がされ、その一方で国連の新たな決議や平和維持の枠組みが出てくれば、「国連やヨーロッパよりも先にイラクの人道支援を始めていた」ことは、歴史上非難されることにもならないし、当座の「国益」にもマイナスではないだろう、そう思って静観していました。
ですが、今週の情勢は違います。テロリストの行為は狡猾ですが、その結果としてアメリカ主導の占領行政の失敗、そしてシーア派とスンニー派の分断、その先にはイラク国内の内戦というような事態も想定されるのです。CNNで伝えられたように自衛隊は宿営地へ引かざるを得なくなりました。そのサマーラはシーア派住民が圧倒的な多数を占める地域です。このままズルズルと駐屯を続けて、内戦に近い状態になるとすれば選択肢は四つしかありません。
第一はシーア派支持に寝返ることです。そうすれば、地域の理解を得て給水などの事業が継続できるでしょう。ですが、これはアメリカ主導の「コアリション(同盟軍)」への敵対行為になる以上、日米政権が現在の枠組みであれば不可能です。
第二は、完全に引きこもることです。いつまでも駐屯地にこもって、テロリストの攻撃にも耐え、しかし人道支援はできず、という状況で何ヶ月も過ごす、その一方で国連の関与やアメリカの政権交代があったのなら、結局早期派兵はムダだったということになります。
第三は、サマーワに駐屯しているオランダ軍と共同で、暫定統治機構や同盟軍と協力しながら、サマーワ地区での治安維持に当たることです。ですが、内戦同様の事態ともなれば、この治安維持活動というのは戦争と同じことになります。もっと言えば、最悪の事態としては反米感情、反占領軍という情念を抱いたシーア派の武装勢力に囲まれることもあり得ます。
そこで、不明朗なきっかけでの激戦があり、イラク側に大量の犠牲が出れば、自衛隊は虐殺者の汚名を浴びることになります。戦後営々と培ってきた軽武装の平和国家という国是も、その国是に基づいた繁栄も全てが一瞬のうちに消え去ることでしょう。
第四の選択肢は撤兵です。今回の派兵はあくまで「戦後の破壊されたインフラを整備する人道支援」という目的のものです。その「戦後」が改めて「内戦」に事態が変わるのなら、そして今日付でイラク国内からの日本人民間人の退避勧告が出たように、人道支援などできる条件が失われたのなら、自衛隊は駐留を続ける理由すら失ったと言えるのです。
以上の結論は、サドル師と米軍が最終的に「切れて」、ファルージャでのモスク攻撃があった時点でのものです。私は、今回の誘拐事件がなくても、この撤兵案を述べようと思っていたところでした。
そこへ、3名の方々が拘束されたというニュースが入りました。3名の方には申し訳がないのですが、これは撤兵の口実として良いのだと思います。ファルージャの騒乱が南部の治安を激しく動揺させるとしたら、1週間ぐらいはあるのではないか、そう考えると確かに今、撤兵するのは余りに唐突です。ですが、今回の悪質な事件は、その口実になるのです。3名の方々の生命を救うために堂々と兵を引くべきです。
今回の犯人グループの言いぐさには恐ろしいものがあります。3人の人質を「焼く」というような言い方には嘔吐すら覚えます。ですが、私は犯人グループの要求を無視して、駐留を続けることこそ罠にはまることに他ならず、この機会を捉えて、自衛隊を引くことにこそ、戦略的な勝利があると思うのです。
それは臆病ではないか、という意見があるかもしれません。ですが、考えたくありませんが、撤兵がされず、3名の方々の身に危険が及んだ場合はどうなるでしょう。日本の世論は反米と親米に真っ二つに引き裂かれると思います。日本社会は激しい動揺に晒されると思います。悲劇が起きてしまった場合は、長い目で見れば日米同盟は不安定なものになる可能性が強いのです。
また、小泉政権がチェイニー副大統領あたりに「要請」している「米軍による救出協力」ですが、万が一この「救出協力」がされてしまった場合はどうなるでしょう。その「救出」が成功に終わっても、失敗に終わったとしても考えられるリスクは二つあります。まず、米軍に犠牲が出た場合です。この場合は、日本側は米軍に頭が上がらなくなります。
自国民の救命に対して他国民に犠牲を強いた、という「借り」は大変なものです。まして、それが他国民の正規軍だとすると、国全体としての「義理」が生じます。まして「義理」というような感情に良くも悪くも束縛されやすいのが「首相官邸」なる役所に詰めている人々ですから、これからどうなるか分かったものではありません。
つづく