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(回答先: 「事実上の検閲」日本雑誌協会が文春問題で声明 [朝日新聞] 投稿者 あっしら 日時 2004 年 3 月 18 日 23:14:28)
前外相、田中真紀子衆院議員の長女らの私生活を取り上げた週刊文春の販売差し止めなどを命じた仮処分決定に対し、東京地裁は19日、発行元の文芸春秋(東京都千代田区)が申し立てた保全異議を却下し、差し止め命令を支持する決定を出した。決定は「長女は純然たる私人として生活しており、記事には公益性がない。公表により著しい損害を被る恐れがある」と指摘した。
そのうえで「表現の自由は民主主義国家の基礎と言うべき重要な権利だが、無制限に保障されるものではなく、差し止めを命じた仮処分決定は相当であり、認可する」と結論づけた。文芸春秋側は決定を不服として、東京高裁に保全抗告する。
決定は、(1)記事に公益性があるか(2)記事の内容が長女のプライバシー権を侵害するか(3)侵害の程度が損害賠償など事後的な法的措置では回復できないほど著しいか――などを中心に検討し、すべての点で長女ら側の主張を認めた。
問題となったのは、17日発売の週刊文春3月25日号に3ページにわたって掲載された長女ら側の私生活に関する記事。
出版禁止を求めた長女ら側の仮処分申し立てを受け、東京地裁の鬼澤友直裁判官は発売前日の16日、「切除または抹消しなければ、販売や無償配布したり、第三者に引き渡してはならない」と、出版物の事前差し止めを認める異例の決定を出した。文芸春秋側の異議申し立てを受けた地裁は、鬼澤裁判官を含まない3人の合議で審理を行い、17、18の両日、双方から事情を聴く審尋を開いたうえで結論を出した。
16日夜に決定文を受け取った文芸春秋側は、全約77万部のうち約3万部の出荷を取りやめた。出荷済みの約74万部が取次店に販売されたため、長女ら側は命令違反に当たるとして、同社に1日当たり3383万円の制裁金の支払いを求める間接強制も申し立てていた。
決定は「雑誌を販売したり、無償配布するなどした場合、1日につき137万円を支払え」と命じた。これは出荷しなかった約3万部に対する命令で、約74万部については「販売が完了している」として対象に含めなかった。【小林直】
◇解説
販売などの差し止め命令を支持した19日の東京地裁決定は、表現の自由よりプライバシー権を重視して文芸春秋側の主張を退けた。出版物の事前差し止めを例外的措置と位置づけた「北方ジャーナル事件」の最高裁判決(86年6月)も踏まえたうえでの判断で、週刊誌の記事としては特異とは言えない今回のケースで2度にわたって差し止めを「相当」と判断されたことは、雑誌報道の形態にも影響を与えかねず、業界に大きな衝撃を与えそうだ。
名誉棄損訴訟の判決では、従来、数十万〜数百万円だった賠償額が1000万円以上に引き上げられるケースも出始めている。特に週刊誌が敗訴する場合が多く、ベテラン裁判官は「本来は自助努力で是正してもらいたいが、編集方針に変化を感じない以上、ある程度『痛い』と思う程度の支払いを命じるしかない」と厳しい目を向ける。
差し止め命令は、こうした流れのなかで出された。ただ、損害賠償などの事後的な措置とは異なる事前差し止めだったため、「最高裁の基準に合致しているだろうか」と懸念を表明する裁判官もいた。しかし、決定は「名誉なら侵害されても賠償で回復を図れるが、プライバシーは侵害されると回復困難」と述べ、名誉棄損が争われた北方ジャーナル判決と比べ、長女のプライバシーが問題となった今回のケースを「一層、差し止めの必要性が高い」と判断した。表現の自由を大きく制約する決定であることは間違いなく、異論の噴出も予想される。
今回の仮処分決定を巡っては、単独審理だったことや、決定文に理由が付されていなかったことにも批判が集まった。権利の侵害行為に対しスピーディーに「待った」をかけることが必要な仮処分という性質上、やむを得ない面はあるが、結論が与える影響を考慮して万全な態勢をとったり、説明責任を果たそうとする姿勢が、裁判所に求められている。【小林直】
◇ことば 保全異議の申し立てと保全抗告
販売などを差し止めた東京地裁の仮処分決定は、民事保全法に基づく民事保全命令だった。同法26条は「命令を発した裁判所に保全異議を申し立てることができる」と規定しており、文芸春秋側は保全異議を申し立てた。申し立てを受けた裁判所は、口頭弁論または審尋を経て、異議を認めて命令を取り消したり、変更したり、異議を却下したりする決定を出す(同法32条)。19日の東京地裁決定はこれに基づくもの。地裁決定に不服なら、決定送達の翌日から2週間以内に高裁に保全抗告でき(同法41条)、高裁決定に憲法違反や判例違反などがある場合、送達の翌日から5日以内に最高裁に特別抗告や許可抗告(民事訴訟法336、337条)ができる。
文芸春秋の話 仮処分決定が事前の販売差し止めを例外中の例外とした最高裁の判例に明らかに反することを再三主張してきたが、またしても一方的な判断が下されたことに怒りを禁じえない。今回の決定が前例として定着し、事実上の検閲の常態化に道を開き、国民の知る権利を奪う結果に至ることを憂慮する。
[毎日新聞3月19日] ( 2004-03-19-22:04 )
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/20040320k0000m040052008c.html