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http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040210/mng_____tokuho__000.shtml
ニッポン外交大丈夫?
専門家はかやの外、まずイラク派遣ありき
「政府からは事前に何の打診もなかった」−。陸自本隊の第一陣が八日、サマワ入りした。だが、その決定過程でアラブ、中東、イスラム各分野で活躍する大半の日本人研究者らはこう口をそろえた。政府の現地調査報告書で調査前の「下書き」疑惑が浮上する中、派遣に反対の高校生を「勉強不足」とばかりに批判した小泉首相だが、当の政府に「学習意欲」は最初からみられない。 (田原拓治)
■優れた情報聞く耳持たず
「この間の自衛隊派遣をめぐる論議で、中東研究者の声がまるで聞かれなかった。日中戦争に日本が突入した一九三〇年代、日本では戦争が始まった後に“中国を知ろう”という本末転倒の動きが起きた。いまの事態はそれを想起させる」
先月下旬、都内。司会の臼杵陽・国立民族学博物館教授はこう切り出した。この日、日本の中東研究の草分け的存在である板垣雄三・東大名誉教授を囲む会合が催された。会合には、国内で第一線の研究者たち約五十人が出席した。
「歴史的に侵略の汚点がない日本の中東研究だったが、数十年続けた揚げ句、自衛隊を送り出すことになってしまった。何が不十分だったのだろうか」
「コメントをメディアに求められ話す。しかし、それが国策に反映されないどころか、“一応は聞きました”というアリバイ作りに利用されてはいないか」
無念さと無力感が入り交じった発言が相次いだ。「政府は実際には中東情報を求めていない。国内、対米関係ですべてが決められている」。そんな声も上がった。会合の主役である板垣氏はこう語った。
■対米関係を優先アリバイ作りに
「中東研究はグローバルな研究だ。対米も国内も含まれる。肝心な点はわれわれのしていることが社会に対し、どういう意味があるのかを問うこと。現状は非常に嘆かわしい状況だ」
国会の論戦でも「テロ」という用語は頻繁に使われるが、いわゆる「イスラム過激派」研究の第一人者、同志社大の中田考教授は「(派遣関係で)各省庁から意見を求められたことはなかった」という。数少ないイラク研究の専門家であるアジア経済研究所の酒井啓子研究員も「事前に政府から派遣の是非を問われたことはなかった」と話す。
■『御用学者』を重用
イスラム問題を専攻する別の大学教授は「アフガニスタンのときもそうだったが、復興支援の内容について、という形で文部科学省から意見を求められたことはある。だが、自衛隊派遣など核心の話題では蚊帳の外」と自ちょう気味だ。
官邸主導で外務省のアラブ担当者ですら、政策決定には手が届かないとされる中、唯一、官邸に重用されている「研究者」もいる。日本財団(曽野綾子会長)が出資する東京財団(日下公人会長)研究員の佐々木良昭・元拓大教授だ。
■都合良い人だけ『御用学者』を重用
佐々木氏はイスラム教徒だが二〇〇一年、酒に酔って学生を日本刀で刺し、同大学を懲戒免職になった人物。だが、今回の自衛隊派遣を機に「復活」した。
昨年十一月十二日、軍事アナリスト小川和久氏とともに首相に情勢を解説。十二月三日には、首相にパリ在住のイラク人政治家アブドルアミール・アルリカービー氏を紹介し、この一月には陸自先遣隊に加わってサマワを訪れた。
佐々木氏は「取材には複雑な立場なのでお応えし難い」と話す。リビアの大学に留学した苦労人との評もあるが、東京財団のホームページでは「イラクへ派遣される自衛隊の心得」と題して、こう説いている。
「イラク人の青少年に柔道、空手、技術訓練を休日返上で行うことで(これらを通じ)武士道とは、日本精神とは何かを伝える」
「(自らの提言を日本政府が受け容れれば)日本国民と世界は自衛隊が軍隊に変容し、防衛庁が国防省に格上げされることについても大いなる賛同をもって受け容れるであろう」
アルリカービー氏の件では、同氏が提言したイラク南部の湿原回復に政府が賛成すれば「(同氏は首相に)自衛隊員の安全も保証されようと語った」(佐々木氏)とホームページ上で明らかにしているが、アルリカービー氏は「事実無根」と関係者に反論している。
ともあれ、関係者の間では「問題は佐々木氏より、都合の良い人物だけを祭り上げる官邸サイドにある」(最首公司・日本アラブ協会理事)といった批判が渦巻いている。
■中東研究機関も不況で財政難に
一方、国内には十指に余る中東関連の研究機関(シンクタンク)があるが、自衛隊派遣をめぐる論議とはやはり縁遠かったのが実情だ。それどころか、多くの機関がバブル崩壊以降、企業の寄付金削減などで財政難にさらされている。
内閣府と経済産業省を主務官庁とする財団法人・中東経済研究所の立花亨主任研究員は「うちも財政の九割が企業からの会費で九八年以降、財政規模は半減してしまった」と嘆く。
「中東情勢が動いていても企業が出資するとは限らない。むしろ、八〇年代初頭をピークに企業の中東からの撤退は進んでいる。委託研究も研究機関から割安な個人へと移っているし、厳しさは増すばかりだ」
■話の利用価値英仏は見抜く
それでは、基本となるべき在外公館の情報収集能力はどうなのか。
外務省からの委嘱で、研究活動に当たる専門調査員を中東のある国で二年間経験した大学教員は「大使から当時、“そんなに頑張らなくていい。どうせ深い情報は使い道がない”と言われた」と苦笑する。
「結局、報告も本省の専門職員が面白いね、とめくって終わり。例えば、英国やフランスはその情報の利用価値を見抜くけど、日本はそのレベルにない」
かつて湾岸諸国に派遣された出向職員は「数年前、やっと歩き回れるようになったころ、外務省から常に連絡が取れるように、と外出自粛令が出された。さらに驚いたのは現地語ができる大使館員が一、二割しかいなかったこと。結局、地元紙の要約が情報収集の中身だった」と漏らした。
外務省に優秀な職員がいないわけではない。だが、ある分析担当職員は自衛隊のイラク派遣で「テロ情報が少ない」とぼやきつつ、イスラム現代運動に詳しい先の中田教授の名を挙げてみると「京都は遠いですから」と屈託がなかった。
シーア派に詳しい日大の松永泰行助教授も「私の知る限り、政府は研究者の実力よりも、政治家や官僚の都合で彼らが望むことを言ってくれる御用学者を起用している」と指摘する。
政策決定に情報は欠かせない。だが、官邸主導で外務省の意思が伝わらない。その外務省の情報収集能力もお寒い限りで、シンクタンクは先細り。専門の研究者たちの声も届かない。こうした惨状が、外交の現場でどのような結果をもたらすのか。
■「外交ゲームで日本は能なし」
松永助教授は「中東のある国の外交官に『日本に外交ゲームは期待しない。その能力がないから』と言われた」と話す。その外交官氏はこう続けたという。
「困るのはストレートに言っても、その内容すら理解してくれないことだ」