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見えてきたイラク復興の道筋 [田中宇の国際ニュース解説]
http://www.asyura2.com/0401/war47/msg/708.html
投稿者 なるほど 日時 2004 年 2 月 06 日 08:40:02:dfhdU2/i2Qkk2
 

田中宇の国際ニュース解説 2004年2月6日 http://tanakanews.com/mail/

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★見えてきたイラク復興の道筋
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 イラクの新政府作りが、アメリカ主導から国連主導に切り替わる動きが進ん
でいる。アメリカは昨年11月ごろから、イラクの新政府作りを国連に手伝っ
てもらおうとする動きを強めていたが、これまでは「アメリカの傘下で国連が
イラク新政府作りを手伝ってくれ」という要請だった。

 従来ブッシュ政権は国連に対し、アメリカのイラク占領軍政府(CPA)か
ら独立した権限を与えるつもりがなかった。そのため国連側は「権限がはっき
りしない以上、イラクに人を出せない」と言っていた。(国連は昨年8月にバ
グダッド事務所を自爆攻撃され、デメロ代表が殺された後、イラクから撤退した)
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A1495-2004Jan8.html

 ところが、2月3日に国連のアナン事務総長と会談したブッシュ大統領は、
イラク新政府を作るためにどのような選挙(もしくは代表者会議)を実施すべ
きかという決定を国連にゆだねることを表明した。国連は近くイラクに特使を
再派遣し、シーア派やスンニ派などのイラクの主要勢力と調整し、新政府を作
るやり方について決定することになっている。この件に関し、ブッシュは国連
がどんな結論を出しても支持することを表明した。
http://washingtontimes.com/national/20040203-103441-3577r.htm

 これは、イラクの新政府作りに関して、国連がアメリカの占領軍政府より強
い権限を持ったことを意味している。イラク情勢をめぐって鋭い分析を展開し
続けている米ミシガン大学のジュアン・コール教授は、自分のウェブログ
http://www.juancole.com/ )で驚きを表明し「チェイニーやパール(タカ
派とネオコン)は"1年前に国連は死んだと思っていたのに、何でこんなことに
なったんだ?"などと愚痴りながら、やけ酒を飲んでいることだろう」と書いて
いる。
http://www.juancole.com/2004_02_01_juancole_archive.html#107588148796403403

 また、昨年末にシーア派イスラム教の最高指導者であるシスターニ師が昨年
末「早期の選挙をやらないとシーア派は納得しない」と言い出したとき、すで
に「システーニは国連をイラクに呼び込み、アメリカはそれを支持せざるを得
なくなり、イラク復興は国連主導になる」と鋭く予測していた「Swopa」とい
う人のウェブログは、今回は「イラク駐留米軍は国連の管轄下に移行し、イラ
ク人が自分たちの治安維持ができるようになるまで、(現在の米軍撤収予定日
である)6月30日以後もイラクで治安維持を担当するだろう。さもないとイ
ラクは内戦に陥る」と予測している。
http://www.needlenose.com/pMachineFree2.2.1/comments.php?id=P844_0_1_0

 アナン自身、ブッシュと会談した後「必要なら、6月末という日程にこだわ
らない」と言い出している。またニューヨークタイムスによると、米政府の高
官からは、イラク人はアメリカから政権を委譲された後も、国連に頼って新国
家作りをするようになるかもしれない、という予測も出始めている。イラク復
興をテコに、国連が再び権威を取り戻す可能性が増している。
http://www.nytimes.com/2004/02/04/politics/04DIPL.html

 イラクが国連主導で復興する方向に動き出したことは、アメリカ中枢で「中
道派VSタカ派」の抗争が中道派(国連重視・国際協調派)の勝利で決着がつき
つつあることを意味している。ブッシュ大統領、チェイニー副大統領、ラムズ
フェルド国防長官というタカ派ラインは、イラクに侵攻する理由として「フセ
インが大量破壊兵器を使いそうだ」というウソを、ウソと知りながら主張した
として、しだいに窮地に追い込まれている。ブッシュ政権がイラク復興の主導
権を国連に渡さざるを得なくなったのは、この弱体化の結果だと思われる。
http://www.foxnews.com/story/0,2933,110493,00.html

 今後、このウソをめぐるスキャンダルの追求がどこまで激しくなるか、まだ
見通しはつかないが、ブッシュ大統領が11月の選挙で再選される可能性は下
がり出した。その分、対抗馬の民主党の陣営は勢いづいている。
http://www.thenation.com/thebeat/index.mhtml?bid=1&pid=1221

 中道派は、イラク戦争を防げなかった(防がなかった)代わりに、以前より
も国連を強化することができ、タカ派を駆逐し、念願の国際協調体制を実現し
始めている。イラクの復興が国連主導になるなら、自衛隊派兵に対する日本国
内の反発も弱まる(ウソをついたブッシュ政権をやみくもに支持し続けた小泉
首相に対する非難は出るかもしれない)。

▼3人になるイラクの大統領

 国連がイラク復興を主導する動きが明確になってきたのと平行して、これま
で可能性にすぎなかった「イラクの分割」が、しだいに現実のこととして姿を
現し始めている。新しい動きのひとつは、2月末に制定される予定のイラクの
基本法(暫定憲法)の中に、大統領を3人にする権力形態が盛り込まれそうな
ことだ。

(今の予定だと、イラクでは2月末に暫定憲法を決めた後、3月末に将来的な
米軍のイラク駐留形態がイラク人側との間で決定され、5月末に暫定憲法に定
めた方法で「国民会議」を開催し、そこで大統領など暫定的なイラク新政権の
人事を決定し、6月末に大統領らが就任してアメリカから政権を移譲されるこ
とになっている。その後、2005年にかけて選挙が行われて正式な国会が召
集され、正式な大統領が選出され、暫定政権から正式な政権に移行する予定に
なっている)

 イラクの主要な三つの勢力であるシーア派イスラム教徒アラブ人(人口の約
60%)、スンニ派イスラム教徒アラブ人(20%弱)、クルド人(約20%)
の中から1人ずつ大統領を選出し、3人が「大統領評議会」を作って、その中
の一人が輪番制で国家元首をつとめるという「三頭政治」のシステムが、基本
法の素案として1月末に出された。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A1764-2004Jan31.html

 素案はイラク暫定評議会が議論のたたき台として作ったもので、評議会の中
のスンニ派勢力が中心に提唱し、シーア派の評議会議員も素案に反対しないと
表明している。この流れから考えて、大統領評議会の制度は、フセイン政権下
の特権勢力から少数派に転落しつつあるスンニ派の不満を和らげるために、シ
ーア派が打ち出した方策ではないかと思われる。国連がこの素案をどう見てい
るか、まだ何も報じられていないが、国連にも事前の根回しは行われたはずだ。
http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_world/view/69456/1/.html

(イラク暫定評議会は、アメリカの指名によって作られた「傀儡」色の強い組
織なので、暫定政権を作るための、そのまた暫定の「政権以前の政権」と位置
づけられている)

▼大統領3人制のマイナス面

 大統領3人制は、シーア派とスンニ派を和合させることができるかもしれな
いが、良くない副作用がある。これまでイギリスの植民地として「イラク」と
いうかたまりが作られてから80年以上、何とか「スンニ・シーア・クルド」
という分裂を乗り越えて「イラク人」という統合された国民意識を作ろうとし
てきたのに、大統領3人制はそれを短期間で崩壊させかねない。

 欧米はすでに、大統領3人制を、旧ユーゴスラビアのボスニアの新政権で実
施している。ボスニア人、クロアチア人、セルビア人から1人ずつ大統領が選
出され、その中の一人が輪番で国家元首をしている。

 ところが、この制度にした結果、たとえばクロアチア人の政治家は、他の民
族からの得票が全く期待できないので、クロアチア人の有権者のことしか考え
なくなり、ボスニア国民である前にクロアチア人であるという意識がどんどん
強くなった。国家的に何か政策を決めようと思っても、3民族の間での利権調
整に時間がかかるようになり、抗争が増えて意志決定が難しくなっている。
http://www.latimes.com/news/nationworld/iraq/la-na-iraq31jan31,1,6414752.story

「国家」は国民の意識が統一されているほど団結力が増し、強い力を発揮でき
る。特にイラクには石油という巨大な収入源があるので、国民意識が統一され
ていれば、たとえ一時的に石油利権をアメリカなどに奪われても、いずれ利権
を取り戻して再び強くなることが可能だ。だが、大統領3人制は、逆にイラク
の国民的な統一を失わせる。このままいくと、イラクは二度とフセイン政権下
のような強い国に戻れなくなる。そして、民族間の対立が内戦に発展する危険
を抱えることになる。

▼独立傾向を強めるクルド人

 イラクが分割していきそうなもうひとつの兆候は、イラク北部のクルド人が、
新生イラクの建国議論の中で自派の要望が受け入れられないとみて、独立傾向
を強めていることだ。

 イラク北部のクルド地域は、キルクークとモスルの2大都市周辺と、その外
側の丘陵地帯という2つの種類の地域から成り立っている。もともとクルド人
はイラク北部全域にまんべんなく住んでいたが、2大都市の近辺は巨大な油田
地帯になっているため、フセイン政権は油田地帯を「クルド人地域」から「ア
ラブ人地域」に変えようとして、クルド人を2大都市近辺から追い出す強制移
住策を行い、代わりに南部などから北部2大都市へのアラブ人の移住を奨励し
た。クルド人は2大都市周辺の丘陵地帯で、ある程度の自治を行うことを許さ
れた。
http://tanakanews.com/d0520kirkuk.htm

 湾岸戦争後のフセイン政権弱体化の中、クルド人はアメリカの支援を受けて
自治を強化し、昨年の米軍のイラク侵攻でフセイン政権が崩壊したすきに2大
都市にも進出し、クルド人は北部全域を統治するに至った。その後、イラク暫
定評議会で展開されている新生イラクの建国議論の中では、クルド人は2大都
市の統治権を放棄すべきだという圧力をかけられている。

 だがクルド人は「サダムが石油利権を確保するためにやった強制移住政策は
正当化できない悪行だったのだから、クルド人は2大都市に戻る権利がある。
油田の権利も半分ぐらいはクルド人のものだ」と主張し「サダム時代の統治範
囲に戻れというなら、新生イラクから離脱せざるを得ない」と表明している。
http://news.independent.co.uk/world/middle_east/story.jsp?story=483202

(正確には、イラク北部の2大都市は歴史的に見て「クルド人の町」ではない。
昔から、アラブ人とクルド人という2大勢力のほか、トルコメン人、アッシリ
ア人なども混住する町だった)

 クルド人内部では従来、PUKとKDPという2つの軍事政治組織が対立し
てきたが、2つはこのところ関係を緊密化して連立政権となっており、クルド
人内部での団結が進んでいる。その一方、クルド人とアラブ人の衝突事件や、
クルド人組織の建物での爆破テロなどが起き、クルド人とアラブ人との対立感
情が高まっている。
http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A61702-2004Jan29?language=printer

 イラクの人口の60%はシーア派アラブ人なので、ふつうに選挙を行って政
権を作ると、シーア派の政権ができ、20%しかいないクルド人は万年野党に
なってしまう。新生イラクがその方向に進むと、その分だけクルド人は独立傾
向を強めていく。そうならないようにするには、あらかじめクルド人にもある
程度の権力が与えられる政治体制を作っておく必要がある。それが「大統領3
人制」を必要とする原因のひとつになっている。

 だが、大統領3人制は不安定なシステムだ。3人制がうまく機能しなくなれ
ば、クルド人は独立傾向を強めるかもしれない。国連がイラク復興を主導する
ようになる過程で、国連関係者がいろいろな発言をしたが、その中には「クル
ド」という言葉がほとんど見あたらない。「スンニ派とシーア派を和解させる」
「選挙方法をめぐるシーア派と米占領軍政府の対立を解消する」といった目標
しか報じられていない。このことから、すでにアメリカや国連は、クルド人の
ある程度の独立(イラクの連邦化)を容認しているのではないかと思われる。
http://www.ajc.com/news/content/news/0204a/04iraqbush.html

▼イラク分割とトルコ

 大統領3人制の元になった「イラク分割案」がアメリカ政界で出てきたのは、
イラク復興を国連に任せようとする動きが表面化した昨年11月のことだ。当
時の私の記事「世界大戦の予感」で、そのことを紹介した。
http://tanakanews.com/d1127iraq.htm

 フセイン政権の消滅後しばらくは米政権内でタカ派とネオコンが強かったの
で、ネオコンの息のかかった亡命イラク人であるアハメド・チャラビが、米軍
の力を背景に暫定評議会をまとめて独裁的な大統領になり、米政府はチャラビ
の強権発動を黙認し、米などのマスコミは「チャラビ大統領は民主主義をやっ
ています」とプロパガンダを流す展開になりそうだった。

 ところがその後、イラクではゲリラ戦がおさまらず、米国民からの支持が減
っていったブッシュ大統領は打開策を打つ必要に迫られた。米政権中枢では、
現実的な政策を採る中道派が強くなり、伝統的に中道派のシンクタンクである
「外交評議会」が11月に打ち出したのがイラク3分割案だった。

 この案は、イラク人にとっては自国の分割を容認する政策だが、イラクの周
辺国や国連、EUなどにとってはプラス面のある別の政策が抱き合わせにされ
ており、その意味でイラクの分割をテコに中東を安定させようとする中道派的
な戦略となっている。

 イラクの3分割(連邦化)と抱き合わせで行われている政策のひとつは
「トルコのEU加盟」と、その露払いとなる「キプロスのEU加盟」だ。
長くなってきたので、このことは次回に解説する。

【続く】


この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/e0206iraq.htm


●関連記事など

Trouble looms after coalition tells Kurds self-rule can stay
http://www.guardian.co.uk/international/story/0,3604,1116652,00.html

Kurds start to rock the boat
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/FA08Ak02.html

Bush's self-serving Iraqi timetable
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/FA16Ak03.html

Iraq's Kurds - Trying to get their own back
http://www.economist.com/World/africa/displayStory.cfm?story_id=2388699

Saddam's capture: was a deal brokered behind the scenes?
http://www.sundayherald.com/39096

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