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IRAQ
Grand Ayatollah Ali al-Sistani
Updated: January 12, 2004
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イラクにおけるシーア派の政治的役割は。
シーア派はイラクの人口の六〇%を占める多数派だが、第一次世界大戦後にイギリスがイラクを建国して以降、イラク政治を支配してきたのは少数派のスンニ派だった。サダム・フセイン期には、スンニ派、特にサダムの生地であるティクリート出身のスンニ派がイラク政治を牛耳っていた。シーア派はこの間、残忍な抑圧の対象とされてきた。
だが、これまで虐げられてきたシーア派もイラク戦争を経て新たに勢いを得ている。イラク統治評議会の評議員二十四人のうちの十二人はシーア派で占められている。ブランダイス大学のイラク専門家であるイツハク・ナカシュは、「ワシントンがシーア派にとっての信頼できる仲介者の役割を担えるかどうか」がイラクの未来を左右する大きな鍵の一つだと指摘している。
イラクでシーア派が多い地域は。
バグダッドの人口の半分もシーア派だが、主にイラク南部がシーア派地域と考えられている。
シーア派とスンニ派の違いは。
ナカシュは次のように指摘している。「スンニ派の場合、抗争を回避し、イスラム社会の一体性を保つためなら、支配者に服従し、暴君をも受け入れることが教理として求められている。一方、イスラムにより忠実であろうとするシーア派は、イマーム(イスラム教指導者)以外、地球上のいかなる権威も認めていない」
シーア派の大アヤトラ(最高位聖職者)であるアリ・シスタニとは何者か。
イラクの最も重要なシーア派聖職者だ。イラク国民のおよそ六〇%がシーア派であるため、この隠遁した、イラン生まれの七十三歳のシスタニがこの国の将来に莫大な影響力を持っていると考えられる。シスタニは、複雑な選出プロセスをつうじてイラク暫定国民会議の代議員を選ぶというアメリカの新計画に反対し、そのかわりに直接選挙の実施を求めている。彼はまた、イラク人への主権移譲が予定されている二〇〇四年六月三十日以降もアメリカおよび連合国軍がイラクに駐留するのかどうかについて、イラク暫定政府が決定することを望んでいる。
戦後イラクに関するシスタニの見解は。
シスタニはアメリカの占領を容認し、シーア派の人々に基本的には連合国と協力するよう呼びかけている。「シスタニはイラクにおけるアメリカの駐留に関しては、非常に協力的だ。彼のおかげで、シーア派地域では暴動が広まっていない」とブランダイス大学教授であり『イラクのシーア派』の著者のイツハク・ナカシュは指摘している。その一方で、シスタニはイラクがイスラム国家になることを望んでおり、イラクが世俗的国家になることを望むアメリカの政策担当者たちはこの点を懸念している。「すべてがシスタニの願いどおりになれば、新生イラクは最初からイスラム国家になる」と米議会調査局の中東専門家ケニース・カッズマンは語っている。
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シスタニはアメリカのイラク占領についてどのような発言をしているのか。
シスタニは、サダム・フセインの追放を目的とする米主導型の戦争と占領を事実上支持するような声明を発表している。シスタニはシーア派教徒たちに「いつイラクから出ていくのかと占領者に常に問いかける限り、占領当局と協力してよい」と語っている。ナカシュによれば、「イラクにおけるアメリカのプレゼンスにとって、シスタニが示した立場は非常に有益だった。彼のおかげで、反乱はシーア派地域には及んでいない」。
その一方で、シスタニは、イラク人への主権移譲に向けたアメリカの計画のいくつかの点を批判している。二〇〇三年六月に発表したファトワ(宗教見解)で、シスタニはイラクの新憲法の起草者たちは選挙によって選ばれるべきであり、イラク統治評議会やアメリカの官僚が起草者を任命すべきではないと主張した。さらに十一月には「暫定政府を組織する適切な方法は選挙である」というファトワを発表している。シスタニに考えを変えるよう促すイラク統治評議会メンバーの努力にもかかわらず、彼はこの立場を固持し、二〇〇四年一月十一日にもそれを繰り返し述べている。
占領開始以来、シスタニは公の場に出ているのか。
出ていない。安全上の配慮により、彼は訪問者と個人的に会い、声明はシーア派の聖地の一つであるナジャフにある彼の事務所から発している。アメリカに任命された統治評議会のメンバーたちはシスタニと面会したことがある。前国連特別代表セルジオ・ヴィエラ・デメロも同様だ(デメロは二〇〇三年八月十九日のバグダッドの国連現地本部爆弾テロ事件で亡くなった)。だが、シスタニは暫定占領当局(CPA)のポール・ブレマー代表との会見は拒み続けている。彼がアメリカ人とあまり親密だとみなされないようにするためだと思われる。
連合国はシスタニのファトワにどう反応しているのか。
シスタニの支持を失えば、連合国の行動の正統性が損なわれ、シスタニを信奉するシーア派教徒たちが占領軍に抵抗するようになるかもしれないため、連合国もシスタニのファトワを深刻に受け止めていると専門家は指摘している。シスタニの二〇〇三年六月のファトワは、いかに憲法が起草されるべきかに関するアメリカの計画に変更を強く促した。また、直接選挙に関する同年十一月の声明は、暫定政権を発足させるためのブッシュ政権の現在の計画に疑問を投げかけた。統治評議会と連合国は、臨時選挙を求めるシスタニの呼びかけをどの程度深刻に受け止めるべきかの決断を迫られている。
ファトワに即した路線変更を行えば、シーア派の宗教指導者が政治に関する最終決定権を下すことについての先例をつくることになるのでは、と懸念する者もいる。その一方で、ファトワを無視しても、「占領軍が撤退すれば、そのようなイラク政府は早晩崩壊することになる」と語るナカシュは、「世俗的で民主的なイラクという考えを無理やり押しつけることはできない。現実的にならなければならない。樹立される政府は、イラク民衆の多数派の意向を反映するものでなければならない」と提言している。
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シーア派の指導者はどのように選ばれるのか。
イスラム教の指導的説教者からアヤトラにいたる上層部の合意によって選ばれる。イスラム法学の研鑽を積んで学問的業績を残し、多くの信奉者を率いる指導者には称号が与えられる。最高位のシーア派指導者には、マジャルタクリードという称号が与えられる。シスタニはこの称号を得ている。
マジャルタクリードの役割は何か。
マジャルタクリードはイスラム法を解釈し、日々の問題に関してシーア派を指導する権威だ。比較的宗教的でないシーア派の人であっても、すべての信徒はマジャルタクリードの指導下にある。マジャルタクリードの指導はしばしば、いわゆるプライベートな問題に関係したものだ。たとえば、イスラム教徒は香水をつけてよいのか(よい、とシスタニは言う)、あるいは宝くじの札を売ってよいのか(いけない。賭け事の一種だ、とシスタニは言う)などの問題だ。現在、シーア派の世界は、複数のマジャルタクリードに率いられているが、シスタニがおそらくもっとも影響力があるとコールは指摘している。
マジャルタクリードは神の名において話しているのか。
違う、とイスラム教の専門家は指摘する。マジャルタクリードはイジュティハードを行っている。イジュティハードは独自の判断によってコーランやその他のイスラム教の聖句を解読することだ。最高位の聖職者たちだけが、イジュティハードを行うことを認められている。マジャルタクリードによる解釈は、彼らの最善を尽くした判断であり、時には間違うこともある。しかし、シーア派の伝統では、マジャルタクリードが解釈に最善の努力を惜しまない限り、アラーはどんな間違いも許すだろうと考えられているとコールは述べている。
シスタニがイラン出身であることは重要か。
マジャルタクリードの地位は、ローマ・キリスト教における教皇の地位に似ている。マジャルタクリードは国境を超えた徳性と宗教的権威を有している。シスタニの反対者たちは、「シスタニはイランに対して忠誠を維持している」と主張しようと、彼がイラン出身であることを時々引き合いに出している。しかし、シスタニの見解から判断すると、彼がイランの聖職者と関係を持っているとは考えられないと専門家は指摘している。「私には、シスタニがイランと密接なかかわりを持っているとは思えない」と『イラク現代史』の著者であるフィービー・マールは指摘している。イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)やムクタダ・サドルのような、イラクにおける他のシーア派のグループや指導者たちのほうが、シスタニよりもはるかにイランとの積極的なつながりを維持している、とマールは述べている。
――by Sharon Otterman(www.cfr.orgのスタッフライター)。
*シスタニに関するその他のQ&Aは、「論座」2004年2月号(朝日新聞社)及び「フォーリン・アフェアーズ日本語版・日本語インターネット版2004年1月号に掲載されています。
http://www.foreignaffairsj.co.jp/source/Iraq/sistani.htm