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2004.2.24
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2004年2月27日に起こること
2004年2月27日に何が起こるか、この私でも「予言」できることが一つだけある。オウム真理教の教祖に対する判決公判について、マインドコントロール理論の擁護者がテレビにコメンテーターとして登場して何か喋ることだ。
実際、西田公昭氏(静岡県立大学助教授)は、自分のサイト「現代社会を社会心理学で考察するサイト」[1]に自分の番組出演スケジュールを書いている。それによると、前日から当日にかけ、テレビ朝日「ニュースステーション」、テレビ東京「ニュースアイ」に出ることになっている。この「科学者」について言及しておくことは、彼を登場させるマスメディアと社会の特徴を考える一つの手だてとなろう。
その西田氏が書いた「マインド・コントロール論再考」[2]は、事情を知らない人には、誰のための、何のための文章か明確ではないかもしれない。しかしその内容は驚くべきことに、著書が全く和訳されていない英国の研究者、アイリーン・バーカー氏(英ロンドン大学教授)に対する日本語の批判文となっているのである。
バーカー氏の主張を掲載した、一般向けのおそらく唯一の日本語の文献が、「創」2000年5月における室生忠氏(宗教ジャーナリスト)のインタビュー記事ではないか。私は当時、旧オウム真理教信者の人権、とりわけ居住権を剥奪する動きと闘っていた。マインドコントロール理論は、オウム信者に対するステレオタイプに「科学的」根拠を与えようとしていた。一方で私は、これとは全く異なる見地から、科学方法論と呼ばれる哲学の一分野、とりわけ「批判的合理主義」とよばれるものに関心があった。「創」に載ったバーカー氏のマインドコントロール理論に対する批判は、一見無関係と思われる私の二つの関心分野、「カルト」と蔑称される新宗教と、科学方法論とを結びつけているという点で印象的だった。
また「創」の記事とほとんど同時に、国際的な新宗教・文化ジャーナル「SYZYGY」特別号「オウム真理教と人権」が発刊され、日本語版も刊行された。その雑誌には、ジェームズ・R・ルイス氏(米ウィスコンシン大学教員)の「マインドコントロールの終焉」が寄稿された。
そこで私は、ルイス氏による米国における「カルト」「マインドコントロール」に関する議論の説明も参考にしながら、バーカー氏の主張を紹介するページを書いた。
ところでルイス氏の論文は、APA(アメリカ心理学会)がマインドコントロール理論を批判する法廷文書を提出した件に言及している。西田氏が『アメリカでの法廷において、APA法廷助言書が提出され、それによってシンガーらのマインド・コントロール論を非科学的な主張として退けたと統一協会は説明している』と書いているのはそのことである。そして西田氏はこの一件を『実際には、その助言書は会員の有志たちの意見に過ぎない』と一蹴している。しかし、その後マーガレット・シンガー氏の専門家としての証言に制約がつけられたことや、マインドコントロール理論が法廷で負けていった事実については西田氏は言及しないことを好むようだ。
マインドコントロール理論の「科学的妥当性」再説
西田氏のこの論文の主な目的は、マインドコントロール理論が非科学的であるという主張に反論することである。
西田氏は、統一教会の修練会に参加した人のうち、せいぜい10%しか入信しなかったというバーカー氏の調査結果について、『数パーセントの入信率が低いとする科学的根拠はない』と書いた後で、『たとえば、失業率4%がなぜ高いと憂慮されるのか』と書いている。しかしどうして、「科学的根拠」としての入信率と、一般的な社会指標としての失業率とを、同じ尺度で比較できるのか。
西田氏が社会的に好ましくないとの観点から入信率と失業率を同じ尺度で考えたい気持ちは分からないでもない。しかし、マインドコントロール理論における入信率は、高ければ高いほどその理論にとって有利な方向に働くのに対し、失業率の政治的ないし社会的目標はあくまでもゼロである。もし数%の入信率が低いとする科学的根拠がないのならば、数%の就業率が低いとする政治的社会的根拠もないという結論にもなりかねない。
バーカー氏は、マインドコントロール理論が科学的というからにはそれに普遍性を要求する。
『「統一教会の修練会ではマインドコントロールを行っているので、どんな人間でも信者になる」という仮説であれば、反証は可能です。実際、私の実地調査によって、修練会に参加した人の90%が入信を拒んでいる事実が確認されましたから、この仮説は反証されたわけです』(「創」00年5月号)
バーカー氏が挙げた仮説の例、すなわち「すべての〜は〜である」というかたちの言明(普遍言明)は、物理法則にも劣らない厳密に普遍的ものといえるだろう。この基準に従えば、入信率が10%どころか90%でも仮説は反証される。しかし心理学や医学、工学、社会科学などでは統計的仮説を理論として扱うことも科学の方法として認められている。簡単な例を挙げれば、「正しく作られた硬貨を投げたら表が出る確率が2分の1になる」という仮説に基づき、硬貨を10回投げて1回しか表が出なかったらおかしいと結論づけることができる。宗教の入信率も統計的仮説として扱うことができるはずだが、西田氏の「マインド・コントロール論再考」には、仮説としての入信率の値が全く示されていない。
西田氏はバーカー氏による反証を紹介した後で、入信率の「理論」についてくどくどと説明し始める。統一教会が霊感商法をしてきたことを知った上で入信する確率などを基準とすべきだ、日本は英米と違う、などなど。こうして西田氏は、「理論」を維持するために普遍性をどんどん削減していく。(だいたい日本でしか成り立たない「理論」がどうして科学的といえるのだろうか?) こうして口当たりのよいマインドコントロール理論は、つまらないドグマの羅列に陥る。
最後に、西田氏による数字のトリックを暴いておこう。
『批判者が高く評価するバーカー,E.の例でも、修練会が進むにつれてその残存確率はだんだんと高くなることに注目して欲しい。つまり、最初の修練会の段階では、宗教的関心も期待もない人が多く含まれている。だから、そこで心理的に脆弱でない状況にある人や、カルトに知識のある人は、その影響力から逃れるやすい〔ママ〕。よって、残った人はたまたまマインド・コントロールされやすい状態にあった人と〔ママ〕なのかも知れない。彼女の研究では、2回目の修練会である7デイ参加の段階まで行くとその43%が信者になる』
ここで重要なのは、西田氏が多数の自然脱会者を無視しようとしていることだ。修練会に参加した全体の人数のうち2回目の修練会の参加者が10%で、最終的に信者になるのが全体の4.3%とすれば、2回目の修練会の参加者のうち信者になる率は確かに43%になるが、このような単純な算数も西田助教授の手にかかると反証に耐えうる科学理論の一部になるのか。
以上が、麻原裁判の判決公判でコメンテーターとしてテレビに登場する「科学者」の実態である。
西田氏が「世界的にずっと名声ある学者」とほめるフィリップ・ジンバルド氏(米スタンフォード大学教授)とその一派は、最近、マインドコントロールをジョージ・オーウェル(英国の小説家)の小説「1984年」としきりに結びつけたがっている[3]。ところで、アメリカのジョージ・W・ブッシュ政権も「1984年」の「ビッグ・ブラザー」にたとえられることがあるのだが[4]、ジンバルド氏や西田氏らマインドコントロール論者がブッシュ政権のアメリカ合衆国を「カルト」と認定することはあり得るのだろうか。
注
[1] http://nursing.u-shizuoka-ken.ac.jp/~nishidak/
[2] 西田助教授のページの中にある(http://nursing.u-shizuoka-ken.ac.jp/~nishidak/MCrevise.htm)。
[3] Ditmann, M. "Lessons from Jonestown" APA Monitor of Phychology, Volume 34, No. 10
[4] ゴア前米副大統領は、しばしばブッシュ政権の政策を「1984年」にたとえている。(例1:03年8月7日のニューヨーク大学での講演。例2:03年9月9日のCNN)。
http://www.aurora.dti.ne.jp/~osumi/fujuri/mctrl2.html