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(回答先: 【医療の官支配】若き開業医の死は 何を意味するのか? 投稿者 町医者 日時 2004 年 7 月 07 日 22:09:51)
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2004dir/n2592dir/n2592_04.htm#00
第2592号 2004年7月12日
短期集中連載〔全5回〕
「医療費抑制の時代」を超えて
イギリスの医療・福祉改革
最終回 日本の医療改革への示唆
近藤克則(日本福祉大教授/医療サービス研究)
(2591号よりつづく)
医療費抑制政策のために荒廃したNHSの危機的状況と,日本にも同じような荒廃の兆しが見られることを述べてきた。そして,ブレア首相のもとで進められているNHS改革の全体像や医療費を1.5倍に拡大しても,すぐには改善しない状況も紹介した。最終回では,日本が学ぶべき教訓を考えたい。
医療費抑制が過ぎれば現場は荒廃する
日本で医療改革と言えば,「医療費の抑制」「競争強化」などによる「効率化」が課題としてあげられる。
しかし,「医療費の抑制」を続ければ,いくら「競争を導入」してみても,やがて医療従事者の士気は低下し,医療現場が荒廃することをイギリスの経験は示している。日本の医療費水準は,その経済力に比べ高くない。長年イギリスをわずかに上回るレベルであったそれも,近いうちに先進7か国中最下位になるレベルである。
すでに病院を中心に医師不足が明らかとなっている。都市部でも小児科医・麻酔科医・産婦人科医などの定員割れが報じられている。当直を挟んだ32時間勤務が当たり前の過密労働による疲弊は,医療事故の多発と無縁とは言い難い。このような状態から,一律に医療費を抑制して,さらに効率化を図れば,医療現場が荒廃する危険は高い。
効率化の余地
日本の医療に,効率化の余地は大きいのか。少し分析的に考える必要がある。
効率とは,投入される資源・費用とそれにより生み出される産出・効果の比率,費用対効果のことである。効率を上げるためには,費用を抑えるか,効果を高めるか,あるいはそれらを同時に実現することである。したがって効率化が容易なのは,費用が膨らみ非効率が目立つ場合である。日本の医療はこれに当てはまらない。費用は低く,WHOも日本の医療効率は優れていると認めている。
効率がよい所からさらに効率を上げるには慎重さが必要である。下手に費用を抑えると,効果(質)が落ちる。逆に高額の電子カルテシステムを導入して,効率を高めようとしても,膨らんだ費用に見合うほどには効率が高まらない可能性は高い。
3つのE
「効率」は,医療制度改革の唯一の基準ではない。医療サービス研究の分野では,医療を評価する基準として,3つのE−Effectiveness(効果),Efficiency(効率),Equity(公平・公正)を用いることがコンセンサスとなっている。そして,これら3Eを同時に満たすことはできないことも常識である。質がよい医療をすべての人に提供するにはお金がかかり,安くすれば(すべての人に医療を提供する)公平・公正か質か,どちらかが犠牲になる。つまり,これらをバランスさせることが重要である。
サッチャーら保守党が追求していた「効率偏重」の「第二の道」に決別したブレアらの「第三の道」は,「効率」とともに「質(効果)」「公正」も追求する「3Eのバランス」を追求する道と言える。
わが国の医療改革の課題は,今でも低くはない「効率」を一層高めることだけではない。効果や安全性を含む「医療の質」や「医療のかかりやすさ」も視野に入れた「3Eのバランス」がとれたものであるべきだ。
「第3次医療革命」と医療サービス研究
New England Journal of Medicineの編集長であったRelmanは,「第3次医療革命」が進行中であり「医療費抑制の時代」を超えて「評価と説明責任の時代」へと,時代は向かっていると述べた。
医療費の一律抑制の弊害に多くの人が気づきはじめている。効率化を追求するには,ニーズとサービスの間にある3つのミスマッチ−「ムダ」「ムラ」「ムリ」が,どこにあるのか見極める必要がある。個々の医療技術の効果や効率を評価して,効果のevidenceがない医療や非効率な医療だけを選択的に抑制すべきである。
病院や医師の間に見られるパフォーマンスの格差は予想以上であることもわかってきている。医療経済学や政策科学の手法を取り入れた医療サービス研究で,それらを評価することも必要である。医療の質・効率・公正をきちんと評価して,それを国民に説明する時代に突入している。
イギリスに学ぶ日本医療の課題
イギリスに学ぶべき点の第一は,いったん医療が荒廃すれば,その立て直しには膨大な費用と10年単位の時間が必要となることだ。将来に禍根を残すような事態を招く前に,日本も現在のような厳しい医療費抑制策を見直すべきである。
第二に,日本の医療改革の課題は,追加投入されるお金を効率的に効果的に使う仕組みを整備することである。日本では,これが大きく遅れている。
第三に,その仕組み作りに向け実証的な根拠を提供する医療サービス研究を推進することである。それにより,医療の効果や質,効率,公正の現状を評価し,どうすればそれらを改善できるのかを明らかにし,その結果を国民にも公表することである。そのことなしに,医療水準の維持に必要な適度な医療費拡大にも国民の理解は得られまい。
これらが,「医療費抑制の時代」を超えて「評価と説明責任の時代」に向かう「第3次医療革命」の必要条件である。
***
拙著「『医療費抑制の時代』を超えて−イギリスの医療・福祉改革」(医学書院刊)では,医療費は,公的な財源で拡大すべき理由も述べた。現在の医療費抑制・効率化に偏重した改革論議に疑問を感じている多くの方に手に取ってほしい。そして「適度な医療費拡大に裏打ちされた」「質が高く公正で効率的でもある医療の実現」こそが,日本医療の改革課題であると,多くの医療関係者・国民に確信していただけることを願っている。
(連載おわり)
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近藤克則氏
1983年千葉大卒。船橋二和病院リハビリテーション科長などを経て、1997年日本福祉大助教授。2000年8月より1年間University of Kent at Centerbury のSchool of Social Policy, Sociology and Social Research の客員研究員。2003年より現職。専門分野はリハビリテーション医学、医療経済学、政策科学、社会疫学。
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