現在地 HOME > 掲示板 > 国家破産33 > 542.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
経済コラムマガジン04/2/2(330号)
http://www.adpweb.com/eco/eco330.html
為替介入政策の限界
異常な為替介入
昨年の政府・日銀の円売り・米ドル買い介入は、実に20兆円超と異常な額に達した。今年に入ってからも、さらに介入額の増加ピッチが加速されている。1月半ばまでに6兆円もの米ドル買いを行なっている。そして1月28日までに介入額は、合計で7兆円を超えている。既に月間の過去最高額の介入を行なっているのだ。年間ベースでは84兆円と国家予算をオーバーする。
とうとう外為特別会計の予算も底が尽き、5兆円の米国の政府証券(国債)を日銀に売却し、介入資金を捻出している。異常な事態である。変動相場制の元では本来外貨準備は不要であるが(為替が変動して決済尻を調整)、その不要な外貨準備が70兆円を越えている。とほうもない額である。このまま米ドルの下落傾向が続くとしたなら、政府・日銀が米ドル買い介入がどこまで行くのか予想もつかない。筆者の予想では、日本が没落するまで、この外貨準備は国内では半永久的に使えない資産である。使おうとしたならたちまち円高が進行するのである。
外為特別会計には一応借入枠がある。たしか昨年度は79兆円であったはずである。補正予算で20兆円増額し、さらに来年度は60兆円増やすことになっている。むちゃくちゃである。米国国債の日銀への売却による資金調達は、補正予算がまだ成立していないため、繋ぎのための苦肉の策である。
しかしこのようなことが許されるなら、外為特別会計の予算枠を決めることに意味がない。米ドル買い介入によって取得した米ドルで米国債を購入する。この米国債を日銀に売却して円資金を調達する。そしてこの資金でまた米ドル買い介入し、米国債を購入する。つまり日銀が政府保有の米国債を買い続ける限り、政府は永遠に米ドル買い介入が可能になる。
日銀は日本の国債を購入しているが、一応限度額が設定されている。しかし米国債の購入額については、限度額なんて聞いたことがない。民主党も国会でこの日銀の米国債購入について質問していた。しかし政府は、日銀への米国債の売却が問題(何が問題点なのかもはっきりしないが)になれば、次は別の売却先を探すことになろう。郵貯や年金、あるいは財投が候補になる。
筆者は、政府・日銀による為替介入の全てを否定しているのではない。投機的な資金が大量に流入し、為替が異常な水準にある時には介入も考えて良い。しかし今日の1ドル106円という水準は、決して異常な水準とは言えない。特に巨額な米国の経常収支や財政赤字を考えると、米ドルが下落することはしょうがない。
一方、日本は04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」で述べたように、空前の経常黒字を記録している。また内外の物価上昇率の格差も年間3%くらいある。つまり毎年3%くらいは毎年円高になっても不思議はないのである。つまり今日の円高は、これまでの円安の反動という側面がある。
経常収支の黒字が急増した背景には、内需の縮小に加え、米国・中国の経済拡大に伴い日本からの輸出が増えていることが挙げられる(米国へは中国・アジア経由の輸出が増えている)。反対に経済の不調によって、日本の輸入は伸びていない。さらに海外の保有資産が年々増え、これからの配当収入や利息収入が着実に増えており、所得収支の黒字は大きくなっている。以前は、この所得収支の黒字と旅行収支の赤字がほぼ見合っていたが、同時多発テロ以降(イラク攻撃、SARS騒動などが次々に起った)、外国旅行者が減り、旅行収支の赤字額は縮小している。
また資本収支の形も変わっている。以前は生保などが米国の国債や債券を買うため、資本の流出が大きかった。これだけ見れば資本流出は円安要因であった。しかし最近では、生保でさえ米国へ投資する場合に、為替予約を行なって為替リスクをヘッジしている。つまり資本の流出があっても、単純にこれが円安要因にはならないのである。さらに最近では海外からの日本株への投資も活発になっている。
また日本からの資本の流出の方向も変わってきている。以前は海外債券投資と言えば米国一辺倒であったが、今日では日本からユーロに流れている資金が大きくなっている。一般の人々でも米国の債券ではなく、ユーロ建ての債券を買っている。もっとも筆者は、ユーロ高もそろそろ限界と考えている。今後しばらくは、円の独歩高もあり得ると考える。
ところで米ドルからユーロへの資金の流れは世界的である。ITバブル時、米国の経済は好調で欧州から米国への大きな資金の流れがあったが、今はこれがピタリと止まっている。さらにイラク攻撃に反発した一部のアラブマネーが米ドルからユーロに移っている。さらに中国なども外貨準備のユーロの割合を増やしている。このような世界的な資金の流れに逆らい、ドンキホーテのように独り孤独な戦いを挑んでいるのが政府・日銀の米ドル買い介入である。
為替介入の変質
前段で述べたように、筆者は為替介入の全てを否定しない。しかし是認できるのは円高や円安が異常な水準まで進んだ場合の介入である。今日のように、かなりの円安水準からの為替介入がおかしいのである。今回の円高局面において、政府・日銀は118円くらいでも相当額の介入を行なっていた。
実際、政府・日銀の為替介入の仕方は、以前と様変わりしている。以前なら、よほど為替水準が変動しないと介入を開始しなかった。つまり均衡点と思われる水準から著しく乖離した時点で介入を行なっていた。例えば95年の80円を超える超円高局面前後での円売り介入や、145円を超える円安局面での円買い介入である。
これまでは通常、為替介入は日本の政府・日銀の単独介入から始まる。しかし当初は介入の効果が限定的である。しかしこのような水準は、国際的に見てもおかしいということが認知され、各国の協力が得られ、最終的に介入が成功していた。調べてもらえばはっきりするが、スミソニアン体制に移行する直前の大量の米ドル買い以外(円を360円から308円に切上げ)、政府・日銀の為替介入は全て成功している。
しかし今日行なっている為替介入に関しては、納得している国はない。欧州も日本の為替介入をにがにがしく見ている。また中国の米ドルペッグのための為替介入も批難の的である。たしかにこれまでは、中国がまだ発展途上国と見られていたので、このような為替介入を大目に見られたかもしれない。しかし空前の経常収支の黒字を記録している先進国である日本が、中国と同じことを行なっているのだから同情されるわけがない。米国の民主党の大統領候補達も、日本と中国の為替介入に対して不快感を示している。
本誌では、為替取引で利益を得るなら政府・日銀と同じ行動を採れば良いとずっと述べてきた。つまり円高局面で政府・日銀が米ドルを買えばその時に米ドルを買い、円安局面で政府・日銀が米ドルを売り始めたら米ドルを売るといった具合である。これで100%利益を得ることができた。しかし今日、政府・日銀と同じ行動を行なえば、大損する可能性が高い。
実際、これまで為替取引で常に利益を計上してきた為替特別会計も、へたな為替介入によって最近では7.8兆円ほどの評価損を抱えている。円高がさらに進めば加速度的に評価損は膨らむ。ただし為替特別会計は時価評価しないという慣例があり、この損失は計上されないことになっている。
では何故このような稚拙な為替介入を開始したのか興味がある。ここからは筆者の憶測である。一つのポイントは塩川前財務大臣と見ている。塩川前財務大臣の地元は東大阪である。ここには中小の製造業者が集まっている。長引く不況と大企業のリストラで一番不況感の強い地域である。さらに近年、大手製造業の生産拠点の中国への移転に伴い、主にこれらの企業に部品を納入していた東大阪の中小企業は危機的状況にある。
東大阪の中小企業は、中国の安い人件費にはとても太刀打ちできない。さらに人民元は購買力平価よりずっと安く維持されており、技術力でカバーできる状態ではない。これに対抗するには、人民元の大幅な切上げか大幅な円安しかないと考えられていた。実際、さかんに塩川前財務大臣は「円は購買力に比べかなり高過ぎる」と発言していた。このような塩川前財務大臣の発言に合わせ、当局の為替介入が活発になった。
緊縮財政を標榜する小泉政権のもとでは、景気を支えるために財政出動を行なうわけには行かない。しかし放っておけば、デフレ経済はさらに深刻化する。当局としては、経済を支えるには為替介入によって円高を阻止し、輸出を促進する他はなかったと考える。つまり内需の拡大は無理であり、外需に依存するしか方法がなかった。つまり塩川前財務大臣と当局の考えが、為替介入という点でピタリと一致したのである。
実際、大規模介入を始めると、海外に米ドル買いで流出した円資金の一部は、日本の株式市場に還流し、うまく株価を押上げた。ちょうど米国も減税などのケインズ政策を行ない(軍事費の増大も含め)、景気も良くなり、輸入が増えた。日本も、中国・アジア経由の米国への輸出を増やすことができた。
本来、企業はリストラを進めており、国内の需要には期待ができない。しかし日本では、大手製造業の業績は好転した。これも外需が増えたことが一つの要因である。もし為替介入がなく、円が90円を超えるような円高になっていたならば、デフレはもっと進行していたと考えられる。
日本には、「構造改革」によって、財政出動がなくても景気が良くなったという話を聞く。しかしこれは「作り話」である。たしかに日本は財政支出を渋っているが、米国や中国が積極財政を行なっている(中国は昨年9月から財政政策をやや変更しているが)。そしてその果実を、とほうもなく巨額の為替介入政策によって一部かすめ取っているのが、今日の日本の経済運営である。