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「イラクのなぞ」 JMM[JapanMailMedia] 
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投稿者 エンセン 日時 2003 年 12 月 28 日 18:55:46:ieVyGVASbNhvI
 

 
                             2003年12月26日発行
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JMM[JapanMailMedia]                  No.250 Friday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■ 『オランダ・ハーグより』 春 具 第79回
  「イラクのなぞ」

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■ 『オランダ・ハーグより』 春 具                第79回
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「イラクのなぞ」

前回のJMM「オランダ・ハーグより」が今年の最後だと思っていたら、じつはもう
一回分ありました。気の抜けた話だが、これがほんとうの「年の終わり」版です。

今月の13日にサダム・フセイン氏が拘束され、イラクで明けた2003年はイラク
で終るかのようです。だが、これでめでたしめでたしというわけでは、もちろんない。
いろいろな問題が、不可思議にも未整理の状態で残ったままであります。なぞのイラ
クというわけだ。

まず、サダム氏の拘束は法律的にどういうことなのでありましょう。拘束されたフセ
イン氏の法的立場はなんであるのか。つまり、フセイン氏はなんのために追いかけ回
されたのでしたっけ。

そもそもブッシュ政権がサダム氏を追いまわしたのは、サダム政権が911を起こし
たアルカイダ・グループと提携しており、つまりテロリストの保護をした悪の枢軸で
あり、そしてそのイラクは大量破壊兵器を持っていてイギリスをも標的にしており、
ブレア首相の説明では「サダム氏はそれを45分以内に使用する」から、その前に先
手を打つのだということであった。

その兵器が見つからないまま、そしてアルカイダとの関係も証明されないまま、そし
てイラク大量破壊兵器は(あったとしても)45分ではイギリスを狙えないらしいと
いうことになったときサダム氏は捕まってしまい、つまり英米の侵攻の正当性が証明
されない前にサダム氏は拘束されてしまったわけで、われわれはサダム・フセインが
捕まったと喜んではいるが、じゃあ、彼は何の罪状で拘束を受けているのだろうか、
と話は逆になってしまった。

もちろん、フセイン氏はイラク国民を弾圧してきた経緯があるし、化学兵器を使って
自国民を殺戮した事実はあるから「ジェノサイド」とか「人道上の犯罪」とかで責め
てみる事もできようが、拘束されたフセイン氏を POW Prisoner of War すなわち
戦時捕虜として報道していたニュースがあったが、はたして彼は戦時捕虜なのでしょ
うか。わたくしは戦時国際法には詳しいわけではないが、たしかに戦闘行為はあった
ものの、この戦役は英米が国際社会の合意のないまま一方的に宣言して始められたも
ので、その行為自体がいまでも議論されているわけですから、厳密な意味での「戦争」
であったか……それゆえにフセイン氏を捕虜と定義してしまうのは検証の余地があり
ましょう。

だが議論のためにこれを国家間の戦争だとし、彼の捕捉は戦闘行為の末だと考えてみ
ようか。

捕虜を規定する国際法規に、ジュネーブ条約というのがあります。この条約の13条
は「捕虜は常に保護しなければならず、特に暴行又は脅迫並びに侮辱及び公衆の好奇
心から保護されなければならない」と規定するのですが、これはメディアの報道姿勢
とも絡まって興味ある問題であります。フセイン氏が髭ぼうぼうでみすぼらしいまま
捕らえられた報道を英米軍の勝利の映像と理解することもできるが、反対に、パリ在
住の大中博士が引用されたように「アラブの英雄とされた人物が実は乞食同然に落ち
ぶれ、鼠のように捕らえられた卑怯者とするアメリカの演出」として嫌悪する意見も
あるのである。

この条文の前半は「捕虜は常に人道的に待遇しなければならない。抑留国の不法の作
為または不作為で、抑留している捕虜を死に至らしめ、またはその健康に重大な危険
を及ぼすものは、禁止し、且つ、この条約の重大な違反と認める」とも規定していま
す。

すなわちフセイン氏が捕虜だとするならば、この文言がきちんと適用されるべきであっ
て、キューバのグアンタナモ基地に収容されているアフガンのタリバン戦士たちがア
メリカによる拷問とか非人道的な処遇を受けているという話が漏れ聞こえてくるが、
拷問とか報復を意図するような虐待は、フセイン氏がやってきたことだからと、やり
返してはいけないということである。捕虜と定義することで、フセイン氏をジュネー
ブ条約による人権条項の保護下におくことができるという人道上の効果もあるわけで
あります。

フセイン氏は「公正な」裁判にかけられ、正義が行われるとブッシュ氏はいうが、ど
のような裁判が考えられているのでありましょう。

まず、イラクは主権国家だから、イラクの制度でイラクの法曹によって裁かれるべき
だという意見があります。それはその通りでありますが、いまの、すなわち何十年に
もわたるフセイン政権の独裁で、イラクの司法制度は壊滅状態であるといえるのでは
ないか。制度としての司法はたしかに存在するかもしれないが、そもそも純粋な意味
でサダム氏を「公正に」裁ける法律家が、こういっては失礼にあたるかもしれません
が、いまのイラクにいるであろうか。

Nemo judex in re suaというラテン語の法格言があります。ひとくちで言うと、だれ
しも自分にかかわりのある事件の裁判官にはなれないというほどの意味であるが、い
まのイラクで前政権に何らかのかかわりをもったことのない法律家はいるであろうか。
極言するならばイラクの法律家はサダム氏に優遇されたか弾圧されたか、つまり特権
を甘受したか、冷遇されたかのいずれかではないか。優遇された法律家がフセイン氏
を裁くのはおかしいし、弾圧されてきた判事が裁判を受け持てば、復讐にもなりかね
ない(そういえば、「目には目を」というタリオの掟はあのメソポタミアの地域の掟
であったなと思い出す)。

アメリカの裁判官の主導で、イラクの裁判官を充てるという話も聞く。これだと敵討
ち的な面は薄まるが、これでも「戦勝国」が「戦犯」を裁くという図柄がみえてしまっ
て「公正な」という必要条件が満足させられるとは言い難い。

結局のところ、旧ユーゴ犯罪法廷とかルアンダ犯罪法廷みたいな国連主導による国際
法廷が、公正の確保にとって望ましいということになりましょう。できあいの裁判所
では、最近ハーグにできた国際刑事裁判所があるが、アメリカもイラクもこの裁判所
の管轄は受諾しておりません。だから、テーラーメイドの裁判機構を作ることになろ
うか。そのためには、旧ユーゴ犯罪法廷やルアンダ犯罪法廷のような国際法廷がモデ
ルとして妥当な落しどころであるかとわたくしは思う。そして事後法でなく、すでに
ある各種の国際法を適用するのが穏当なところでありましょう。

いずれにしても、裁判は時間がかかるであろう。元首の犯罪を裁くというセルビアの
ミロシェビッチ元大統領の裁判もすでに4年目にして、まだ続いております。

そして次は国家再建の実務であるが、こちらも難問だらけである。

イラク攻撃が始まる前から一部のブローカーが「イラク戦後」を狙って動いていたこ
とはJMMでもお話したことがありましたが、国家再建は開発問題と並んで、ビジネ
ス・チャンスであります。それも大きなチャンスである。わが国も潤った「朝鮮戦争
特需」「ベトナム特需」や第二次世界大戦終了時にヨーロッパの再建を目的とした
「マーシャル・プラン」などは、いずれも大きな商機会でありました。

ブッシュ氏は「英米とともに戦った国々は血を流して戦ったのだから、われわれにま
ずビジネスの特権があるのだ」などと言い、外されたフランス、ドイツ、ロシアが口々
に非難したが、このあたりになるとアメリカ(というよりアメリカの共和党政権)は
じつに露骨であります。

そして、こういう大きな事業の話が出ると必ず顔を出す企業に、ベクテル、ハリバー
トン、それからカーライル・グループというのがありますが、今回もリストを眺めて
みると、やっぱり彼らが並んでいる。

ベクテルというのは土木関連の重工業を扱う業者であるが、株は公開されておりませ
ん。もと国務長官をしていたジョージ・シュルツ氏が社長をしたり、国防長官をして
いたキャスパー・ワインバーガー氏が役員をしたり、共和党への献金の規模とかが知
られているが、リパブリカンとの結びつきは古く、強い。

この会社とイラクとの縁も古く、すでに最初の湾岸戦争がはじまるずーと前、つまり
アメリカがホメイニ政権下のイランと拮抗させるためにイラクの軍事化(すなわちサ
ダムの軍備)を援助していた頃からイラクのパイプライン建設とかを請け負っていた
企業であります。それが湾岸戦争後の国連主導の制裁に関して復興の受注を受け、こ
んどはフセインなき後のイラクでの復興にまた受注を受ける。いうなれば同じモノを
つくっては壊し、壊してはつくっているわけで、ビジネスとしてこんなおいしい話は
あまりありません。

ハリバートンも同様で、副大統領になる前のディック・チェイニー氏が、これまた社
長をしていた。エネルギー関連の企業であるが、ガソリンの水増し請求をしていたら
しいという疑惑が取りざたされてもおります。

カーライル・グループというのは、もともとは旅客機の食事の仕出屋さんであった。
防衛産業の契約を取りつけたあたりから、ペンタゴンとの付き合いが始まり、レーガ
ン時代に国防長官をしたフランク・カルーチ氏を会長に迎えて以後は、そのコンタク
トを使って国防省から軍事事業関連の契約を取ってきていた。

カルーチ氏は国防省の調達手続きを改革し、合理化したことで知られております。ど
ういう改革かといいますと、面倒で煩雑な入札手続を簡素化するために、一度入札を
受けた業者は基本的に契約を更新させるというものである。これでペーパーワークの
重複を避けられて、たしかにプロセスは合理化される。

だが、カルーチ氏が野に下りた時、彼を迎えたカーライルは一度取った契約がほとん
ど自動的に更新されていくという特権を手に入れたのであります。

その後、カーライルはブッシュ(シニア)をビジネス・アドバイザーとして招聘し、
その人脈からジョン・メージャー元英国首相を欧州のアドバイザーに、そしていまブッ
シュ大統領(ジュニア)の特使として世界を回ってイラクの債務削減を説いてまわっ
ているジェームス・ベーカー元国務長官もアドバイサーとして招聘しています。

その事業内容もかつてのお弁当屋さんから投資家グループへと変身し、投資家ジョー
ジ・ソロス氏をもファンド・アドバイザーとして招くまでになった。カルーチ氏は現
在は名誉会長となり、いまの会長は元IBM会長で『巨象も踊る』という本を出して
日本のビジネスマンにも人気のルイス・ガースナー氏であります。

つまり、ここであぶりでてくるのは、イラクをビジネスと見る Bush Inc.という事業
体である。

アメリカの本音がそのあたりだとするならば、じゃあ日本だってこの線でいってみる
のもいいじゃあないですか。

すなわち、前回の湾岸戦争ではあんなにオカネを拠出したのにまったく感謝されなかっ
たという慙愧の念がありますね。それを踏まえて、じゃあ今度は自衛隊を出そうとい
うのであろうが、自衛隊ではビジネスに結びつきませんよね。すなわち日本の景気回
復には結びつかない、結びつきにくい。そのうえに派遣した自衛隊員の誰かが死んで
でもしたら大騒ぎになりましょう。フセイン氏がいなくなったといったって自爆はま
だ続いているのですからね。

それよりもだ。まず、前回みたいに日本は金銭的に貢献してですね、その貢献を日本
企業に落とすということではどうだろうか。これでかつて朝鮮戦争特需で敗戦直後の
日本の経済が浮上したように、いまの不景気が上向けば、一石二鳥というものではな
いか。世界からは後ろ指を差されるかもしれないが、どこの国もホンネは、イラクが
どれだけビジネスになるかというあたりにあるのではないかな。

もっとも、このアメリカの強引な権益確保のやり方に対して、「主権国家の権益を、
アメリカの暫定統治委員会が勝手に売り飛ばすのは国際法違反だ」という意見もあり
ます。11月にロンドンで行われた国際弁護士たちの会議での見解であるが、しかし
そこには戦役に参加しなかったからと投資やビジネスの権益を「売り飛ばしてもらえ
ない」フランスやドイツのような国、企業の不平が垣間見え、実務における法解釈に
ビジネスの恨みがあぶりでており、話は政治性を帯びて複雑であります。

最後に、最新のそしておそらく今年最後の大ニュースは、リビアの大量破壊兵器放棄
の決断でありましょう。

いまのリビアは、わたくしの勤める化学兵器禁止機関のメンバーではありません。い
まの中東は、軍縮に関する限りどの国もフリーズして身動きが取れなくなっており、
つまりエジプトもサウジアラビアもリビアもシリアも、イスラエルが化学兵器禁止条
約を批准しないことを理由に、0PCWに参加してこないのであります(そしてイス
ラエルにすれば、他の中東諸国が化学兵器を破棄しないのになんでオレだけが破棄し
なければならないのだという論理でもある)。

リビアが大量破壊兵器放棄を宣言したからといって、それが(1)リビアの0PCW
加盟に結びつく:(2)イスラエルの同条約批准に結びつく、ということは(自動的
には)ありえないので、これから辛抱強い「対話」が必要とされるのであるが、少な
くとも悪循環のクサリのひとつはとれた。リビアの宣言はこの硬直状態を変えるかも
しれない、少なくともそのきっかけになるかもしれない。そういうふうに認識しても
いいのではないかと思います。
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春(はる) 具(えれ)
1948年東京生まれ。国際基督教大学院、ニューヨーク大学ロースクール出身。行
政学修士、法学修士。1978年より国際連合事務局(ニューヨーク、ジュネーブ)
勤務。2000年1月より化学兵器禁止機関(OPCW)にて人事部長。現在オラン
ダのハーグに在住。
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