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Silent Tearsさんの『Re: 「石油なんかいらない。だから、自衛隊をイラクへ送るのは止めよう」』( http://www.asyura2.com/0311/war43/msg/1540.html )への反論である。
そこでは、「「石油なんかいらない。だから、自衛隊をイラクへ送るのは止めよう」と、言える人がどれくらいいるでしょうか」という問い掛けから始まり、「反対に自衛隊の派遣を中止し、アメリカ主導の復興計画に反対すればどうなるか。これもまた一つの現実です。やる気があるのなら、やっても良い。もう一度、正面きってアメリカと喧嘩する覚悟があるのなら」と提起している。
原油をあきらめるのか原油のために自衛隊を派兵するのかという選択を迫られているかのような状況説明は危険極まりないものである。
日本の原油輸入のほとんどが米英蘭のいわゆる石油メジャーに依存していることは確かであり、彼らが日本を“油断”したいのならそうで条件にあることは確かである。
そこまで踏み切るのなら、日本が海外で自主開発した原油資源の輸送も軍事力で断つことをやることになるはずだから、米英の軍事力に対抗できる非メジャー系産油国からの輸入に頼るしかない状況になる。
さらにいうなら、原油どころではなく、食糧そのものの供給が断たれることになる。
(日本の食糧自給率と米国及び米国同盟国への食料輸入依存率を考えれば、原油どころではない悲劇が日本を襲うことになる)
日本は、軍事的にも生存条件的にも米国と敵対関係に陥ることができないのである。
だからこそ、イラク侵攻が始まる前に、
● 米国の攻撃にあたって、「米国の行動は理解できる。早期の戦争終結を願っている」と首相が表明する。
(米国政権には日本も努力した武力行使容認決議が採択されなかったことを“理解”の理由として説明する)
● 資金協力については、戦費は当然のこととして、復興費名目でも米国に直接拠出することはないと説明する。
(国際機関を通じた支援は、本来破壊した米国の責任で行われるべきものだが、同盟関係を重視して積極的に拠出することにする)
● 米国に対しては、従来通り米国債の購入を継続することを伝える。
(積み増しは裏で勝手にやればいい)
という内容の書き込みをした。
(『【補足】日本政府がイラク攻撃問題でとるべき道』( http://www.asyura.com/2003/dispute8/msg/1104.html ))
Silent Tearsさんには、自衛隊のイラク派兵と原油確保がなぜそのように結びつくのか問いたい。
私は、自衛隊をイラク派兵しないからといって、米国が経済制裁を行うとはとうてい考えられない。
なぜなら、日本に対する経済制裁は米英支配層にとっても大きな痛手であり、自衛隊の派兵中止レベルで踏み切れる政策ではないからである。
まず、日本は、原油消費量レベルで米国・中国に次ぎ世界第3位で、原油輸入量レベルでは米国に次ぐ世界第2位の地位にある。
世界経済の成長が鈍化しているので、原油の需給バランスは緩んでいる。
日本に石油を売らないからといって、買い手が他にいるという需給状況ではないのである。
日本の消費量は、1日当たり530万バレルほどで、7,570万バレルという世界全体の消費量の7%を占めている。
日本の輸入量は世界全体の輸入量の10.2%を占め、世界第2位の原油輸出大国であるロシアの輸出量に匹敵するほどの量である。
原油価格は、中東の混乱やOPECの生産調整で28ドル超の水準を維持しているが、対日輸出がなくなれば、日本への販売分が消えるだけではなく、価格水準が大きく下がることになる。(おそらく15ドルを切るだろう)
利益を確保するために生産調整を行おうとすれば、500万バレルという膨大な量の生産調整が必要になる。
一日で1億5千万ドル、年間で542億ドルの売上がなくなる。
「大東亜戦争」直前に行われた石油禁輸は、欧州大戦が既に開始されている状況で実施されたことがポイントである。
すなわち、戦争という石油製品の濫費状況が継続する需給状況だったのである。しかも、中東や北アフリカ地域も戦場となった戦争である。
日本に原油や石油製品を売らなくても、いくらでも他に販売できたのである。
(支配地がどう変動し戦争がどれほど続くか明確にはわからないのだから、備蓄や温存を考えれば、敵対国に売るほうがおかしいとも言える)
さらに、世界の貿易構造はいわゆる水平分業になっており、最高レベルの産業国家である日本との交易を断つことは、すぐに代替ができるわけではなく、米国も死活的な問題を抱えることになる。
米国の農産物(穀物メジャー)も、対日禁輸で大打撃を被ることになる。
米国政権にとって何より大きな打撃は、資金問題が急浮上することであろう。
巨額の財政赤字と経常収支赤字が常態になっている米国は、外国からドルが還流しなければ経済がガタガタになる。
しかも、巨額な軍事支出が免れない戦時である。
日本政府が行っている為替介入を通じての年間推定20兆円の資金供与がなければ、米国は、戦争が遂行できないか、経済が落ち込んでしまうのである。
ご存知のように欧州は、ドイツもフランスも財政赤字で喘いでおり、とうてい米国に多額の資金協力ができる状況ではない。
日本はもっとひどい財政赤字状況だが、巨額の経常収支黒字を稼ぎ出しており、通貨も日本円であることから、あのように裏からの資金供与ができるのである。
フランスやドイツは、ユーロを採用していることから日本のように為替介入を通じての資金供与はできない。(できるのは欧州中央銀行による為替介入とそれによる米国債購入のみである)
資金も出さず人も出さないからといって、当座はあれこれあったが、フランスやドイツも経済制裁を受けているわけではない。
別に日本が災厄を被ってまでそれを検証することはないが、米国が、日本がイラクに自衛隊を派兵しないことを理由に宣戦布告に等しい経済制裁を実施すれば、世界における米国の政治的立場は大きく揺らぐことになるだろう。
ここでは、米国の中東戦略に追随することが原油の確保につながるのかという問題は省略する。
一言、それは、米国が意図している目的を達成するということを前提にした論であり、米国が目的を達成できないことを考慮していないものだと言っておきたい。
現在の日本は大きな輸入シェアを持ち買い手としての力を持っているが、5年後もそうだとは限らない。
産業の発展が著しく人口も13億という中国と原油の確保をめぐって争う時代がやってくると予測している。
禁輸云々ではなく、売り手が買い手に軽重を付けられるようになったとき、きちんと必要量を確保できる見通しもつけなければならないと思っている。
米国の目的が達成されると決まっているわけではなく、米国の思惑が挫折する可能性も考えて物事を判断しなければならないのである。
だからこそ、イラク侵攻開始前に、「米国の歴代政権は、様々な国家や勢力を、利用できるときにはとことん利用し、不都合になったり邪魔になれば手のひらを返すように捨て去ることをやってきたのである。日本は例外だと信じるならそれもいいだろう。しかし、それは個人(私人)には許されても、首相や国会議員には許されない“信仰心”である。だからこそ、国際法や道義に反する侵略を支持するのなら、米国の勝利を祈るだけではなく、憲法に反することになっても総力を上げて参戦すべきだと挑発してきたのである」と書いたのである。
(『【小泉首相が考えるべきこと】 ブッシュ大統領が生け贄にされ日本に罪がなすり付けられる事態』( http://www.asyura.com/2003/dispute8/msg/1102.html )
「「反対」を主張するのは確かに大事なことです。しかし「反対の為の反対」に終らせてはならない。それに加えて解決策を提示することも大事ではないでしょうか。日本だからこそ出来る方法があるはずです。私も今、それを考えています」と書かれているSilent Tearsさんに大きく期待したい。
最後に、「姑息と言えば姑息ですが、今の小泉総理は国内世論とブッシュ政権の圧力を天秤にかけながら、北朝鮮顔負けに、綱渡りの時間稼ぎ戦術をとっているのではないか。だから、派遣反対の声が高くなればなるほど、小泉総理自身にとっては有利になる」というお考えに同意する。
実を言うと、「民主党・社民党・共産党そして民族派も、小泉首相のために自衛隊イラク派兵反対デモを!」といった書き込みをしようと思ってパソコンに向かっていた。
小泉首相が派兵を実施するのは無理だとブッシュ政権にも納得させるかたちで、派兵を中止するのがもっとも望ましいと思っている。
それは、倒閣につながるかもしれないと思わせるだけの反対運動しかないだろう。
『苦悩する小泉首相を救おう!イラクへの自衛隊派兵はしなくてもいいぞ!』という“誉め殺し”かもしれない大規模デモンストレーションを冗談半分に期待している。
(このデモには参加することを誓約する)