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その昔、僧侶は医者であり学者であり教育者でありマスコミ(情報発信
者)であった。大戦中、陸軍軍人より海軍軍人のほうが開明だったと聞く。
外の世界の情報に接する機会が多いからである。今、情報に多く接する者
と言えばインターネットをやる人々だろう。
阿修羅の場合他の板からIT板にたどり着く人の方が、IT板→他の板
のパターンよりも圧倒的に多いとは思う。しかし、技術馬鹿になりたくな
い人は、下記のような記事を読むことはとても有益だろう。今現在、自分
たちがどういう世界に生きているかを意識することは、セキュリティにつ
いて考える時などとても大事なことだと思うからである。どういう世界に
生き、さらに外の世界への問題意識を持つかどうかで、同じセキュリティ
情報に接するにしても、気づきも理解の深さも全然違ってくるはずである。
これは、小生自信の体験と実感である。
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帰ってきたブードゥー経済学【田中 宇の国際ニュース解説】
http://www.tanakanews.com/d1227voodoo.htm
2003年12月27日 田中 宇
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1980年のアメリカ大統領選挙で大統領になったレーガンと副大統領になったブッシュ(父の方。パパブッシュ)の2人は、選挙戦の初期段階では、共和党内の予備選挙で大統領候補の座を争ったライバルどうしだった。党内でレーガンはタカ派、ブッシュは中道派の勢力から支持されていた。
予備選でレーガン候補は「裕福層に対する減税によって税収入を増やす」という政策論を展開した。裕福層は減税によって増えた実収入を株式などの投資に回し、その金は企業の資金になって経済活動を盛んし、法人税やキャピタルゲイン税(株などの売買益への課税)の収入が増えるので、結局は政府の税収増につながる、という経済理論だった。
減税は、中産階級に対して行われた場合は、消費が増えて経済活性化につながる可能性があるが、レーガンが想定していたのは、もっと年収の多いいわゆる「お金持ち」に対する減税だった。減税すればその分が投資に回るという理論は根拠がなく、そのため対抗馬のブッシュ候補はレーガンの経済政策を「ブードゥー経済学」(voodoo economics)と呼んで批判した。(関連記事)
「ブードゥー」とは、カリブ海の島国ハイチなどで信仰されている「ブードゥー教」のことだ。キリスト教と西アフリカの宗教が合体してできたこの宗教では、呪術を使って人を苦しめたり殺したりできると考えられており、パパブッシュは「減税すれば税収が増えるという主張は、呪いをかければ人は死ぬと言っているのと同じで、根拠がないまやかしだ」という意味で、レーガンの経済政策を「ブードゥー的だ」と非難した。
(「ブードゥー経済学」という言い方は、ブードゥー教徒に失礼な差別的な表現である。そもそも、呪術がすべて嘲笑すべき迷信であるという「現代人」の考え方も正しくない可能性がある。だがアメリカでは、その後も「ブードゥー」という言葉が「まやかし」の意味を込めて使われ続けている)
結局、パパブッシュはレーガンにかなわないことがはっきりしたため、共和党内では中道派とタカ派が談合し、ブッシュがレーガンの副大統領候補になることで「連立」が図られ、最終的な選挙で民主党候補を破り、レーガン政権が誕生した。パパブッシュがレーガンの減税政策を「まやかし」と指摘することは二度となかった。
▼レーガノミックスは詭弁だった
だが実は、レーガンの減税を「まやかし」と呼んだパパブッシュは正しかった。レーガンの減税は、結局のところ税収増にはつながらなかった。レーガン政権は「税収が増えるので軍事費を拡大しても大丈夫だ」と主張し、ソ連の脅威を煽るタカ派の理論をもとに、国防予算の大幅増額を行った。このため、軍事費が増えた分だけアメリカの財政赤字が急拡大する結果になった。(関連記事)
国の借金である財政赤字の増加は、国債発行で補わねばならないが、国債はなかなか売れなかった。レーガン政権は必要な量の国債を何とか売ろうとしたため金利が上昇し、1981年には国債金利は14%近くになった(高金利だと、それだけ買いたい人が増える)。
米国債などアメリカに投資すると高利回りが見込めるということで世界からアメリカに資金が集まり、ドル高になった。ドル高は米企業の輸出競争力を弱め、輸出入のバランスが崩れて貿易赤字が急拡大した。財政赤字と貿易赤字という「双子の赤字」が経済の足を引っ張り、アメリカは不況に陥った。
レーガンの経済政策は減税案のほか、規制緩和、政府支出の縮小(財政赤字の削減)など、企業と投資家(サプライサイド)を優遇して経済を活性化させようとするもので、総称して「サプライサイド経済学」「レーガノミックス」などと呼ばれた。規制緩和(民営化)の推進はその後、冷戦終結を機にIMFなどによって世界中に広げられたが、減税政策は失敗し、財政赤字も減るどころか軍事費増加で拡大した。
レーガン政権は当初「減税の結果、財政赤字が増えることは、いずれ財政赤字を減らすことにつながる」と主張していた。これは「財政赤字は一定以上増やせず、やがて政府は支出を自然に切りつめるので、その後経済が上向けば赤字が解消される」という理論で、財政赤字を獣に見立てて「獣に(餌をやらずに)飢えさせる方式」(starve the beast)と呼ばれた。(関連記事)
だが、これも「減税すれば税収が増える」という理論と同様、実証に耐えないまやかしの理論であることが明らかになった。「レーガノミックス」は詭弁の経済理論とされて「失敗」のレッテルが貼られた。
▼金持ちと貧乏人が同じ税率に
ここまでは、もう20年近く前の昔話である。その後のアメリカの政権は、共和党中道派のパパブッシュ、民主党のクリントンと続き、財政収支は約20年後の1998年にようやく黒字化した。だが、話はここで終わらなかった。
息子のブッシュは、2000年の選挙期間中から減税を主張していたが、それはクリントン政権が8年間で貯め込んだ財政の黒字を国民に還元すべきだ、という考え方だった。ところが大統領に就任した後に子ブッシュが行った経済政策は、経済が不況になる中で赤字拡大策を行い、レーガンよりもタカ派になった。
子ブッシュはレーガン同様、裕福層に対する減税を実施した。減税の理論は、減税分が投資に回るというレーガン時代の減税推進理論と同じだったが、レーガン時代は裕福層の所得税を減らす代わりにキャピタルゲイン税が増える仕掛けだったのに対し、昨今はキャピタルゲイン税の税率も下げられているので、税収が増えないことが最初から分かっていた。
ブッシュの減税策は、米国民の上から1%にあたる年収100万ドル(1億円)以上の最裕福層にとって増収幅が大きい半面、中産階級以下の人々にはほとんど恩恵がない。減税によって最裕福層は4・4%の増収となるのに対し、全国民の平均年収(約2万5千ドル)の人には1%の増収にしかならない。(関連記事)
株の配当金に対する課税をゼロにする計画もある。米企業の株式配当総額の42%は最裕福層が受け取っている。アメリカでは、お金持ちほど株式からの収入が多く、全米で最も収入の多い400人の場合、収入の7割が株の配当や売買益から出ている。最裕福層に対する所得税率は減税によって33%になるが、株の収入への課税の低さを勘案すると、実際の税率は20%前後になる。
一方、国民の2割を占める低所得層は税率が低いが、社会保険料や間接税は払わねばならず、これらの合計も20%程度になっている。つまりアメリカでは、すでに金持ちも貧民も、同じ負担率になっている。高所得者ほど税率が高くなる「累進性」は、日本では不動の基本理念だが、アメリカでは以前から共和党のタカ派が累進課税を嫌い、均一の税率を主張していた。ブッシュはそれを実現したことになる。(関連記事)
▼広がる貧富の格差
アメリカでは貧富の格差が拡大する傾向が続いている。経済そのものは毎年数%ずつ成長しているが、中産階級以下の人々の収入は、1973年以来毎年0・2%ずつしか伸びていない。貧困層(4人家族で年収1万8400ドル以下の世帯)は2年連続で増え、今では米国民の12・1%を占めるに至っている。米国民の15・5%が健康保険料を払えない状態で、この比率は2001年の1年間で6%近く増えた。(関連記事)
これまでアメリカの活力は中産階級が支えていた。中産階級出身の子供たちが勉強して身につけた才能と努力が、新技術やビジネスモデルを次々と生んできた。だが、昨今のアメリカは中産階級の収入が伸びず、大金持ちと貧困層に二分化される傾向にある。この傾向はアメリカを弱体化させている。
タカ派の中には、過去の統計を使って「貧富の格差があった方が経済が成長する」と主張する人もいるが、おそらくこれもブードゥー経済学的な詭弁だろう。世界的に見ると、日本や韓国のように貧富格差が少ない国の方が経済成長し、中南米のように貧富格差が大きい国の経済は不安定になっている。
ブッシュの減税政策は「雇用・経済成長法」(Jobs and Growth Act)と名づけられているが、名前が意味するところとは正反対の効果を挙げていると批判されている。(関連記事)
▼公共事業のばらまき行政
ブッシュ政権は911事件後に軍事費やテロ対策費を急増させただけでなく、農業補助金やその他の「ばらまき」的な政府支出も増やした。1995年に廃止されたヤギ(モヘア)の牧畜業者に対する補助金(年間2000万ドル)が復活したことがその象徴だ。モヘア補助金は、60年以上前の第二次大戦中に兵士が着用するモヘアの毛織物の軍服(当時の服地の中では保温性が良かった)を米国内で調達するための支援金で、時代遅れになったため95年に廃止されたものだった。(関連記事)
農業分野のほか鉄鋼、材木、半導体、漁業など、ブッシュ大統領に政治献金をしてくれる業界に対する補助金の増額も行われている。
一方、911事件後の米マスコミではタカ派のプロパガンダが強く、かつてレーガノミックスを喧伝したウォールストリートジャーナルなどタカ派・ネオコン系のメディアでは「減税すれば税収が増える」「財政赤字の増加は財政赤字の減少につながる」といった、レーガン時代と似た主張を再び載せるようになった。
また、連邦議会の議員たちが自分の選挙区で適当な公共事業を考えつき、それに対する補助金を連邦政府予算に盛り込んでくれと提案すると、ホワイトハウスは反対もせず、何でも通すようになっている。その象徴が、12月中旬に下院を通過した8200億ドルの一括予算案(omnibus spending bill)である。
この予算を使って、アイオワ州では巨大な温室内に熱帯雨林を出現させるテーマパーク、フロリダ州では州民全員がゴルフを楽しめるようにする施設、ネバダ州では大規模なプールの補修・建設が予定されている。いずれも、数年前に日本各地の地方自治体が建設し、多くが経営破綻したテーマパークの類に似ている。賢い予算の使い方ではない。(関連記事)
クリントン時代に8年かけて黒字化されたアメリカ政府の財政は、ブッシュになってからの3年間で一気に大赤字になった。その原因は「911事件をきっかけにしたテロ戦争で軍事費が増大したためだ」と一般には説明されているが、すでに見たように、軍事費以外の支出も必要以上に拡大されている。
▼実はマイナス成長?
政府支出の急増は、アメリカに経済成長をもたらした。アメリカ経済は年率換算で、2003年の第2四半期に2・4%、第3四半期には4%成長した。日本やEUより、はるかに高い成長率だが、実はアメリカでは政府支出の拡大が経済成長につながっているだけで、民間経済は実質マイナス成長になっている。
年率換算で2・4%成長した2003年第2四半期の場合、アメリカのGDPは561億ドル拡大したが、そのうち317億ドルは政府支出の拡大によるものだ。民間だけの成長率は1・6%だった。アメリカは人口が増加しているため、その分の生産力増加分を引き、一人当たりのGDPで考えると、アメリカの民間部門はマイナス0・9%だった。(一人当たりの政府支出は9・9%伸びた)(関連記事)
政府支出の増大が長期的に続けられるなら、このような状態でも問題ないかもしれない。しかし、アメリカの財政赤字はすでに金融当局(FRB)が危険水準だと指摘したGDPの5%を超え、6%に達しようとしている。
財政赤字の増加と減税を同時にやると、財政はますます悪化することは目に見えている。ブッシュ政権の中でも前任のオニール財務長官はこのことを警告したが、その直後の2002年末に辞任させられた。その後のアメリカは、赤字拡大と減税の道を突き進んでいる。(関連記事)
▼経常赤字とドル安
今のアメリカは財政赤字と並んで経常赤字(貿易赤字)も5%を超え、危険水域に達している。レーガン時代にアメリカ経済を危機に陥れた財政赤字と経常赤字という「双子の赤字」が復活している。
経常収支とは、輸出入のバランスである貿易収支と、自国企業の外国投資の損益と外国企業の自国への投資への損益との収支などを合計したもので、レーガン政権の1980−85年に赤字が増加した。その後1985年の「プラザ合意」(先進5カ国蔵相会議)でドル安(円高・マルク高)への転換を政治的に決定して為替をドル安に動かしたため、アメリカ製品の国際競争力が高まって輸出が増え、赤字が解消された。
クリントン政権後半の1997年ごろから、アメリカは貿易を自由化して世界からの輸入を増やし、経常赤字が再び拡大したが、同時に世界各国がアメリカに輸出して儲けた資金がアメリカの株式や債券市場に還流され、資本収支が黒字になったので、全体としてのアメリカの国際収支はバランスしていた。
だが、クリントン政権の末期からアメリカの株価下落が始まり、ブッシュ政権になってアメリカの財政収支が大赤字に転落したため、これらが世界の投資家たちから危険視され、アメリカへの資金流入が減ってしまった。今では、世界でアメリカの株や債券を買っているのは「円高を嫌って為替市場に介入し、米国債を買い続けざるを得ない日銀ぐらいのものだ。民間では誰も買っていない」と言われている。(関連記事)
ドルを買う人がいないため、ドル安(ユーロ高)に歯止めがかからない状態になっている。米政府は「ドル安になると米企業の輸出が増えるので、経常収支の改善と経済成長につながる」と言ってドル安を歓迎しているふしがあるが、これは必ずしも正しくない。ドル安になっても輸出は増えず、その一方で輸入品の価格が上がって輸入額が増え、経常赤字がさらに拡大するのではないかと指摘されている。(関連記事)
日本の企業(メーカー)はプラザ合意以降、円高の中でコスト削減の努力を続け、利幅を減らしても何とか利益を出し続けてきた。日本企業はこの25年間、毎年5%ずつ製造コスト削減を達成し続けており、円高によって鍛えられている。だが、アメリカの企業はプラザ合意以後の政治的なドル安の中、為替に頼って利益を増加させて復活しただけで、努力して効率を高めてきたわけではない。米企業は、日本との競争には勝てるかもしれないが、最近成長が激しい中国などの企業との競争には勝てないだろう。(関連記事)
ドル安は逆に、これまでアメリカ人が謳歌してきた輸入品の消費を難しくする。従来のアメリカではドルが強かった分、他の国の人々に安く「下請け」させていたわけで、米国民は豊かな生活をエンジョイしながら、世界の好きな場所で戦争を行う余力があった。ドルが大きく下がると、そうした「超大国」としての振る舞いができなくなる。アメリカが超大国であり続けるには、強いドルが不可欠であるはずだ。
▼クリントンの尻ぬぐいをさせられているブッシュ
アメリカが「超大国」としての自認を強く打ち出したのは1998年ごろからだが、経済面ではちょうどこのころから、今につながるアメリカの危険性が始まった。当時は経済重視のクリントン政権で、株価の上昇を維持して世界から資金を集めることがアメリカの強さになっていた。だが1997年に世界的な通貨危機が起き、その後ITブームも終わり、株価が緩やかな下落に転じた。
クリントンは株価を維持するため、1997年に株の売買益(キャピタルゲイン)への課税率を28%から20%に下げた。企業経営者たちには、収入を役員報酬としてもらうか、ストックオプションなど自社株でもらうかという選択肢があったが、減税によって、役員報酬としてもらって所得税(26%)を払うより、株で受け取ってキャピタルゲイン税を払った方が安くなった。(関連記事)
この減税によって企業経営者らの自社株保有が増え、株価が維持されたが、その効果もちょうどクリントンの任期が終わるころに尽きた。2000年後半から、企業経営者による自社株売りが増えた。経済情勢を最も敏感に察知できる立場にある経営者たちが、もう自分の会社の株が上がることはないと考える傾向が強まったのである。今年11月には、企業経営者による自社株の売買高は、売りが買いの43倍という過去最高になった。(関連記事)
アメリカの株価(ダウ平均)は今年2月から反発上昇しているが、911前に横ばい状態だった1万ドルの水準に戻ったところで自社株の売りがふくらんでいるということは、アメリカの企業経営者の多くは、この先これ以上株が上がり続けることはないと思っているということになる。
今後のアメリカは、株が下落し、ドルも下がり、双子の赤字が拡大するという最悪の状態になるかもしれない。クリントン時代にふくらんだ経済バブルの尻ぬぐいをブッシュがさせられていると考えることもできる。だが、状況を悪化させている要因はそれだけではないはずだ。レーガンがやって失敗した、減税政策と財政を積極的に赤字に陥らせる政策を復活させたことが、状況をますます悪くしていることは間違いない。
▼巨大な背任行為
ブッシュ政権は、なぜレーガンの経済政策を復活させたのだろうか。一つの可能性は「2度目はうまくいくと思っていた」ということだが、だとしたら、すでにうまくいかないことは明白なのだから、すぐに財政赤字を減らす方向に政策転換すべきだ。だが、現実はそうなっていない。
二つ目の可能性は、ブッシュはとにかく再選を果たすため、先のことを考えず、政治献金をくれる金持ちと業界に対する減税と補助金増額、目先の経済成長を達成するための政府支出の増加などをやっているということだが、再選された後に経済が崩壊する可能性が大きく、これも愚かなやり方である。
ブッシュ批判のコラムを毎週書いている経済学者ポール・クルーグマンは「米財務省は、もはや政策を作る役所ではない。ホワイトハウスが政治的に決定した政策が経済的に妥当なものであると主張するための各種の詭弁をでっち上げる役所になっている」と批判している。ほかの役所も同様だ。現政権になってから、国防総省はアメリカを守る役所ではなく、アメリカを危険にさらす役所になっている。司法省は公正な裁判と法の遵守をつかさどる役所ではなく、高官らが行った不正を隠すのに手を貸す役所になっている。(関連記事)
財政赤字を増やして経済をいっそう冷え込ませる減税政策には「経済成長法」、無実の国民をテロ容疑者扱いして令状なしに逮捕したり盗聴したりできる法律には「愛国法」という名前をつける今のアメリカ政府は、ウソをつく技術を駆使して、自国に対して巨大な背任行為を続けているように見える。単にブッシュを再選させるためのウソではない。もっと巨大な破壊の意図が感じられる。
私を反米論者と呼ぶ人もいるが、それは間違いだ。アメリカのことをまじめに調べていけば、誰でも「ブッシュ(と側近たち)がとんでもないことをやっている」と言いたくなるだろう。
▼アメリカをわざと弱体化させて世界をバランスさせる?
ブッシュがレーガンの経済政策を復活させた理由をめぐる三つ目の可能性は、共和党のタカ派が以前から考えていた「社会保障制度のない社会」「小さな政府」を実現するために、わざと財政赤字を増やして大きな政府にしているということだ。
タカ派のシンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」は最近、アメリカの老人医療保険(メディケア)と貧困層向け医療費補助(メディケイド)、それから社会保障制度(Social Security)が、近い将来合計で44兆ドルの大赤字を抱えるという予測を発表した。間もなく団塊世代が定年に達することと、減税による税収減が原因だ。この予測が現実になった時点で、アメリカの社会保障制度は破綻し「小さな政府」が実現することになる。(関連記事)
とはいえ、米国内ではもともと「小さな政府」に対する国民の支持が大きい。ブッシュが小さな政府を実現したければ、いったん財政を大赤字にする必要などない。単に減税した分以上に支出を減らしていけば、小さな政府になる。
四つ目の可能性は、わざと経済を破綻させる政策に感じられるブッシュの経済政策が、わざと大規模テロの発生を防がなかったり、わざとイラク戦争を泥沼化させたり、わざとEUと仲違いして自分たちを窮地に追い込んだりした現政権の軍事外交政策と似ている、ということから、全体としてアメリカをわざと弱体化させる裏の政策があるのではないか、ということだ。
1997年の世界通貨危機以降、アメリカでは、軍事面で世界最強なのを活用して世界支配体制を作ろうとするタカ派の世界戦略と、ユーロ圏や中国の勃興など世界を多極的にバランスさせようとする中道派の世界戦略が対立してきたが、中道派はタカ派の「強がり」を「浪費」に転化させ、わざとアメリカを弱くして、世界の他の地域とバランスさせる方向に持っていこうとしているのではないかと感じられる。
イラク戦争に対しても、中道派は、当初は自国の単独侵攻に反対していたが、開戦直前には「単独侵攻させて戦況が泥沼化し、アメリカが弱ってEUやロシアなどに助けを請わねばならない状態にすることがバランス戦略にとってむしろ好都合だ」と考えるようになったふしがある。
その後、イラクへの単独侵攻は失敗だったことが判明したのに、それを推進した政権中枢のネオコンがまだ一人も引責辞任させられていないことや、ブッシュが台湾の民主主義を抑圧してまで中国に寛容な政策を採りだしたこと、中道派が静かにEUやリビア、イランなどと和解交渉していることなどから、それがうかがえる。
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