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(回答先: 肝再生治療の経過は順調 山口大病院(共同通信) −骨髄細胞が肝組織の再生を促したか、骨髄細胞そのものが肝細胞に分化 投稿者 シジミ 日時 2004 年 1 月 19 日 22:03:00)
http://www.med.niigata-u.ac.jp/in3/topic-box/liver.html#L24
(February 21, 2001)
肝細胞が肝障害による増殖刺激を受けて増殖しようとしても、その増殖が妨げられるような場合、oval cellが増殖をはじめる.そのoval cellなるものはHeringのcanal近傍に存在するか、胆管細胞の近くに存在するblastlike cellかと思われている.肝細胞の増殖を抑制する物質としては2-acetylaminofluorene(2-AAF)が知られており、一方、実験に用いられる肝障害刺激としては四塩化炭素や、肝部分切除などがある.oval cellの細胞マーカーはCD34, Thy-1, c-kit, flt-3 mRNAなどであり、これらすべてがhematopoietic stem cell(HSC)の細胞マーカーでもある.
Petersenら1)はoval cellや他の肝細胞が骨髄由来ではないかという仮説を検証するために、以下に述べる3つの方法を使った.
1)致死量の放射線照射をしたfemale ratへのmale ratの骨髄移植
この場合、donor由来の細胞マーカーとしてY染色体のsry領域を使用する.
2)dipeptidyl peptidase IV(DPPIV)陽性のmale ratから陰性のfemale ratへの骨髄移植
3)recipientとしてLewis rat(L21-6抗原陽性)、donorとしてBrown-Norway rat(L21-6抗原陰性)を用いた全肝移植(L21-6抗原陽性細胞が肝に広がれば、その肝細胞はrecipient由来であることがわかる).
上記3つの系に、肝細胞の増殖を抑制し、oval cellの増殖を刺激する系として2-AAFと四塩化炭素肝障害を使用した.in situ hybridization, PCR, 免疫組織化学を用いて、donor由来とrecipient由来の細胞を区別した.
まず第1の系である骨髄移植後、四塩化炭素肝障害を惹起させた場合、
非実質細胞のThy-1+とThy-1-の群の両者に肝障害後9日目と13日目にY染色体sryがPCRで陽性となった(donorの骨髄由来の細胞が肝に陽性となったことの証明).
Thy-1-のポピュレーションはdonor由来の非実質細胞からのシグナル(当然出るであろうシグナル)である.さらに9日目には出ないが13日目の肝細胞分画にY染色体sryが陽性であった.この時期はoval cellがちょうど肝細胞に分化する時期と重なる.もしすべてのoval cellが肝に由来する細胞であるのならば、Y染色体マーカーは出ないはずである.このことはY染色体陽性の肝細胞がdonorの骨髄細胞由来であることが考えられる.また9日目のThy-1+のポピュレーションにおけるY染色体陽性細胞はdonor由来のoval cellであり、13日目に肝細胞へと分化したと考えることもできる.このPCRの結果をconfirmするためにin situ hybridizationをさらに行った.その結果、
male ratの肝細胞内にはY染色体sryが陽性となる(ポジコン).
雄性ラットから雌性ラットへの骨髄移植9日目のrecipientの肝臓内ではoval cellにY染色体陽性所見あり.
同様に骨髄移植13日目の肝細胞に陽性所見あり.
female ratの肝細胞内には陰性.(ネガコン)
かかる検討ではおよそ0.14%の肝細胞がY染色体陽性であり、このことから肝障害の13日後には9.9 x 10の5乗個の肝細胞が移植された骨髄由来であることがわかる.さらにYマーカーを有するThy+のoval cellは0.1%に存在していた.
こんどはDPPIV+のF-344雄性ラットの骨髄細胞を致死量の放射線照射をしたDPPIV-のF-344雌性ラットに移植し、その後2-AAFと四塩化炭素プロトコールを用いた.このプロトコールのいいところはdonor由来の細胞をDPPIVの組織化学を用いて証明できることである.
この結果、recipientの肝細胞に移植後11日から13日の間に、部分的に陽性所見が得られる事がわかった. oval cellにも陽性所見が得られるが、骨髄移植後2-AAFと四塩化炭素を投与しなかったrecipient ratの肝臓にはDPPIVの陽性所見は認められなかった.
3番目の実験としてMHCクラスIIのL21-6陽性のLewisラットが同マーカー陰性のBrown-Norwayラットの肝臓のrecipientとなった場合を作成してみた.
肝外から由来するoval cellはL21-6陽性、移植された肝臓から由来するoval cellはL21-6陰性であることで両者を区別できるわけである.
Lewisラットに移植されたBrown-Norwayラット肝では2-AAFと四塩化炭素障害後、移植されたBrown-Norwayラットの肝内で広範なL21-6陽性細胞の存在を示す.これはLewisラット由来の免疫細胞がBrown-Norwayラット肝に反応していることを表している.活発に増殖しているoval cellによくみられるductal structuresにL21-6陽性所見が認められた.すなわち、oval cellのある部分は肝外に由来し、他のoval cellは移植された肝に由来するということがわかる.
以上のことから、次のことがいえる.
ある特殊なphysio-pathologicな条件下で、oval cellは2種の上皮細胞に分化する.すなわち肝細胞と胆管細胞である.oval cellは化学発ガンにも関与するが、急性肝不全の時にも活性化される.oval cellの前駆細胞はHeringのcanalか、胆管細胞近傍とされていた.胆管上皮がoval cellの増殖には必要とされ、それは何らかの支持作用、あるいは誘導作用を有しているからと考えられている.oval cellは骨髄の幹細胞と同様の表現型を有している.肝臓はたくさんの血液前駆細胞を含んでいるのだから、今回の実験結果も決して突飛なことをいっているのではないと著者らは述べている.
次にTheise2)らは、急性の肝障害を欠いた系でも、骨髄移植により骨髄細胞由来の成熟肝細胞が肝内に見つかるということを証明(最大で2.2%)した.彼らはB6D2F1ラットを用い、雄から雌への同様の骨髄移植を実施し、Y染色体は蛍光プローブを用いたFISHにて証明している.200個のCD34+細胞のみを移植した系でも検討し、その際、20,000個の雌由来の骨髄細胞も支持用として同時に移植し、同様の結果を得ている.
ヒトにおける最初の証明は同じくTheiseら3)によってなされた.この際、4例の男性から女性へのヒトの骨髄移植患者のautopsy標本と、2例の女性から男性への肝移植症例を対象として用いている.
サイトケラチン8,18,19を特異的に染色する抗体であるCAM5.2 monoclonal抗体を用いた免疫組織化学は肝細胞と胆管細胞のみを特異的に染色し、非実質細胞の除外に役立つ.これにXとY染色体のFISHを同時に施行した.この結果、肝移植レシピエント肝のC型fibrosing cholestatic hepatitis症例がもっとも多くのdonor由来の肝細胞の存在を示し、肝細胞40%、胆管細胞38%にY染色体陽性を認めた.レンジは肝細胞4−40%、胆管細胞4−38%であった.以上より、彼らは肝細胞が骨髄細胞由来であることをヒトにおいても証明できた.こういうtransdifferentiationが肝再生時にヒトでも重要であろうと結論している.
Lagasseら4)は骨髄細胞をtyrosinemia type 1の動物モデルであるFAH-/-マウスに静注すると、死ぬべきマウスが救命され、肝の生化学的機能が回復するということを報告している.さらに骨髄の中でも厳密に精製されたhematopoietic stem cellのみが血液系と肝臓のドナー由来の再生を起こすことをみた.これはhematopoietic stem cellがpluripotentな幹細胞であり、transdifferentiateし得るのか、あるいはより原始的な幹細胞であるという可能性を示している.彼らは以下に述べる3つの実験を通して、hematopoietic stem cell(HSC)のみが肝細胞へとtransdifferentiationする事をみた.
“骨髄細胞が代謝性肝疾患を治癒に導く”
彼らはfetal hereditary tyrosinemia type 1の動物モデルであるfumarylacetoacetate hydrolase (FAH)欠損マウスへの骨髄移植を実験モデルとして用いた.
このmutant mouseはNTBC{2-(2-nitro-4-trifluoro-methylbenzyol)-1,3-cyclohemanedione}を投与し続けなければ、進行性の肝不全を生じ、腎尿細管障害を来す.
第1の実験では雌のFAH mutantに致死量の放射線照射を行い、雄のFAH wild typeおよびlacZ遺伝子のトランスジェニックマウスの、あるいはROSA26/1295vマウスの精製されていない骨髄細胞を百万個移植した.移植3週目にNTBCの投与を中止し、肝に再配分される細胞のセレクションを行わせた.9匹中4匹が生存し、生存ラットは臨床的には病的ではなかった.7ヶ月後に屠殺して検討対象とした.4匹全部でβ-galactosidase染色を行うと、30-50%の肝細胞が陽性で、ドナー由来を示した.肝には50-200個の0.5-4mm径のdistinct noduleが観察された.臨床生化学的データ上、骨髄移植を受けたFAH mutantラットは受けていないラットに比べて有意に改善がみられている.組織学的にもFAH酵素陽性のドナー由来の大型肝細胞の存在が確認された.グルタミン合成酵素の分布は正常であることから、小葉構造は保存されていることがわかる.
“血液幹細胞が肝細胞へと分化する”
厳密に精製されたhematopoietic stem cell (HSC)が肝細胞に分化するかどうかを検討した.BAマウスにおいて、13個の細胞表面マーカーを用いて全骨髄細胞の0.01-0.05%に当たるHSCをFACSにて精製した.この細胞を致死量の放射線照射を行ったマウスに移植した.こうした細胞は結局数千倍に増えた.これらの細胞の性質は、
c-kit(high)Thy(low)Lin(-)Sca-1(+)(Lin+はCD2, CD3, CD4, CD5, CD8, NK1.1, B220, Ter119, GR-1, Mac-1のいずれかが陽性であることを示す)である.すべてのHSCはCD45陽性であった.この細胞10個、50個、100個、1,000個を、2 x 10の5乗個のFAH陰性の雌の骨髄細胞(支持細胞として用いる)と共に静注した.最初の2ヶ月だけ、NTBCを飲料水に入れて飲ませた.そうすると、入れたHSCの数に応じて有核血球細胞が存在していた.その後の4ヶ月間にNTBCを2回止めて、肝への移植された細胞の動員をはかった.MHCの少し異なるマウス間での移植も行って検討した.
肝臓の中におけるドナー由来の細胞はベータガラクトシダーゼ染色と、FAHの免疫組織化学を行って調べた.また、Y染色体のFISHも併用した.50-1,000個のHSCを移植した肝にベータガラクトシダーゼ活性陽性結節を認めた.結節の大きさは50個の肝細胞から成るものから、100万個の肝細胞からなるものまで様々であった.連続切片による検討では、ベータガラクトシダーゼ活性とFAH活性が同一の肝細胞に陽性であった。同時にこれらの肝細胞はY染色体も核内に陽性であった。これらの肝から初代培養肝細胞を樹立し、embryonic fibroblast feeder layer上で培養すると、ベータガラクトシダーゼとアルブミン両者陽性の肝細胞が確認できた. ベータガラクトシダーゼとDPPIV(CD26),それにアルブミンの同一肝細胞での発現を確認できたことから、ドナー由来の細胞は肝細胞であると証明された。E-カドヘリンと、hematopoietic lineage cocktail抗体による検討から、ドナー由来の細胞は成熟肝細胞であると確認された.すべてのドナー由来肝細胞がE-カドヘリン陽性でなかったのは、そのうちの一部がまだ増殖性の細胞であるからだと考えられた.病的な肝実質を置き換えるようにドナー由来の肝細胞がクラスターを作って一ヶ所に固まって存在することは、こうした細胞が機能を営んでいることを示しており、治療に応用できる可能性を示していると考えられる.
”HSCが肝細胞に分化できる唯一の骨髄細胞である”
このことを証明するために、骨髄細胞をFACSを用いて、c-kit陽性と陰性、Lin陽性と陰性、Sca-1陽性と陰性に分けた.もしhepatic progenytorが単一の表現系を有するのであれば、一方の移植ではドナー由来の肝細胞が少なく、一方の移植では多くなるはずである.その結果、c-kit(-),Lin(+),Sca-1(-)細胞(骨髄細胞の99.9%を占める)では肝細胞に分化しないことがわかった.
Discussionとして、肝にもともと存在するHSCはごくわずかであり、これは肝のホメオスタシスの維持に関係している.骨髄細胞中のHSCだけが肝細胞に分化する能力を有すると考えられる.骨髄細胞は筋細胞や、アストロサイト、原始間葉系細胞に分化することがすでに示されている.Rodentにおける研究では脳細胞が血液に、骨格筋が血液細胞に分化する細胞を含んでいることがすでに示されている.
胎生期には原腸から膵と肝の原基が出来るとされている.本当にそうなのだろうか。Mesoderm,endoderm,ectodermと単一に分けられるものなのだろうか.こうした構造はもっとheterogeneousな細胞集団からなっているのではないだろうか.germ layer 起源であると同時に、もっとtissue specificなstem cellが分けられるのではないだろうか、と著者らは問いを発している.本研究はHSCのみが肝細胞に分化する能力を有していることを示しており、ヒトの肝疾患の治療に応用する際に、このことは大変重要である.
また、骨髄(HSC)と肝の同時移植はrejectionの頻度や程度を減らし、免疫抑制剤の使用頻度を減らせるかもしれない.最近の骨髄移植の進歩であるminitransplantや、hematopoietic chimerism、donor specific tolerance without irradiationといった方法が他の臓器の治療にも生かせるかもしれないと著者らは結んでいる.
文献
Petersen BE, Bowen WC, Patrene KD, Mars WM, Sullivan AK, Murase N, Boggs SS, Greenberger JS, Goff JP. Bone marrow as a potential source of hepatic oval cells. Science 1999; 284: 1168-1170.
Theise ND, Badve S, Saxena R, Hnegariu O, Sell S, Crawford JM, Krause DS. Derivation of hepatocytes from bone marrow cells in mice after radiation-induced myeloablation. Hepatology 2000; 31: 235-240.
Theise ND, Nimmakayalu M, Gardner R, Illei PB, Morgan G, Tepperman L, Henegariu O, Krause DS. Liver from bone marrow in humans. Hepatology 2000; 32: 11-16.
Lagasse E, Connors H, Al-Dhalimy M, Reitsma M, Dohse M, Osborne L, Wang X, Finegold M, Weissman IL, Grompe M. Purified hematopoietic stem cells can differentiate into hepatocytes in vivo. Nature Medicine 2000; 6: 1229-1234.
(文責 新潟大学医学部第3内科 高橋 達)