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H16/01/22
先週このコラムで二〇〇三年に政府・日銀が二十一兆円という巨額の円売り・ドル買いを外国為替市場で行ったことを取り上げた。これは「外国為替資金特別会計」という一般会計とは異なる政府の別の財布があり、その資金を使って行われる。買ったドル札はそのまま政府の金庫に保管されるのではなく、昨年十二月末における外貨準備高六千七百三十五億二千九百万ドルのうち、五千二百五十九億六千七百万ドルを証券で保持しているという(財務省)。そしてそのほとんどを日本政府は米国債という形で保有している。さらに今月、ドル買い介入の借金予算七十九兆円枠を使い果たした政府は、保有する米国債のうち五兆円を日銀に売却してさらなる介入原資を調達した。
米の財政赤字を支援
アジア各国の外貨準備高がこの二年間で急増し世界全体の60%も占め、その大半は米国債で運用されている。その理由は輸出企業の競争力維持のためにドル買い介入を続けているためだというが、これはつまりアメリカの財政赤字をアジアの政府資金が支えているということになる。中でも日本が最大の支援国だ。ドル安傾向は止まりそうもないが、アメリカはアジア諸国と同様に輸出企業のためにそれを歓迎している。輸出企業のためとはいえ、日本では二〇〇〇年〜二〇〇二年には年間約三〜四兆円だった介入額がなぜ二〇〇三年に突然二十一兆円にも膨れ上がったのか。それにはもちろん理由がある。
二〇〇三年一月、ブッシュ大統領が行った一般教書演説にはすでにイラク攻撃を行うことがはっきり示されていた。“フセインは大量破壊兵器、炭疸菌、ボツリヌス菌を保有し、五百トンのサリン、マスタードガス、VXガスを作る材料を持っている。”“フセインはアルカイダも含めたテロリストを援助し保護している。”“フセインが武装解除しないなら、米国が武装解除に乗り出す”。
米に秘密の贈り物
そして三月、イラクへの先制攻撃に向けた最後通告をアメリカが行うと、小泉首相はすぐに「米国が武力行使に踏み切った場合は、これを支持するのが妥当」と武力行使を支持した。当然アメリカは、一月以前からイラク攻撃の準備を始め、同時にその戦費をどのように調達するかも考えていたであろう。なぜなら巨額の財政赤字を抱えるアメリカは自分で戦費を調達することはできないからだ。たとえ少数のアメリカ人がイラク攻撃を支持しても、もしそのために増税を行うといえば大多数は反対する。さらにその時点でドイツやフランスはイラク攻撃に反対していた。
日本でも政府は別として、一般国民は父ブッシュ大統領時代に湾岸戦争で日本が一兆三千億円もの戦費を負担したことをよく思っていなかった。そこで両国政府は、イラク攻撃の戦費を日本が「密かに」負担する手段を熟考したのであろう。
二〇〇三年に日本政府が二十一兆円ものドル買いをしたにもかかわらず、ドルは一一九円から一〇七円に下落した。一九九九年は一ドル=一〇二円(十二月末)と今よりも円高だったがそれでも政府の介入総額は年間七兆六千四百億円だった。
ドル下落で日本政府が保有するドルの価値の目減り額は単純計算で二〇〇三年一年間で一兆二千億円になる。この金額が父ブッシュ大統領時代に負担した一兆三千億円の戦費とほぼ等しいのは偶然だろうか。私はこれが小泉からブッシュへの、日本政府から米政府への秘密の贈り物だったと見ている。
さらにこのドル買い介入は政府が短期国債を発行して、つまり借金をして行っていることも忘れてはならない。政府はその借金予算枠七十九兆円をすべて使い果たした。もちろん借金をすれば利子をつけて返さなければならない。介入のために政府が発行する「政府短期証券」を買うのは金融機関である。つまり金融機関は政府の三カ月の短期国債を買って利子を手にしている。これはまさに宗主国アメリカと自民党の選挙資金のスポンサーともいえる金融機関、この二つを満足させる「一石二鳥」の政策ではないか。
政府が成立させようとしている二〇〇四年度税制改正では、法人税が減税される一方、年金課税強化や個人住民税の引き上げ等で個人の税負担は五千億円規模も増加するうえ、消費税増税も示唆されている。
国民が政治や国のあり方を考えたり語り合うことがないよう、企業は人々に玩具を与え、メディアは今日もスポーツやお笑い番組、ハリウッド映画や音楽をたれ流す。そして日本政府は国民を犠牲にして財界やアメリカに仕える政策をとり続けている。今年は申年だが、猿回しの猿のようにアメリカのいいなりになっている首相と、「見ザル・言わザル・聞かザル」の国民では、日本は今年も大変な一年になるだろう。(アシスト代表取締役)
http://www.nnn.co.jp/essay/tisin/tisin0401.html#22