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憲法破壊の派兵許すな!   (かけはし2004.01.01号)
http://www.asyura2.com/0311/dispute15/msg/942.html
投稿者 小魚骨 日時 2003 年 12 月 22 日 19:13:37:5fM4yUMte5cr2
 

(回答先: なぜ我々は「悪役としてのフセイン」に違和感を抱くのか? 投稿者 書記長 日時 2003 年 12 月 22 日 17:42:33)

自衛隊イラク派兵阻止!

反戦・反グローバリゼーションの闘いを基礎に新たな左派政治潮流を形成しよう!


 二〇〇三年三月、米ブッシュ政権が開始したイラク侵略戦争は、アメリカ帝国主義の世界的覇権の没落を刻印するものとなった。巨大な反戦運動の波が全世界をかけめぐり、イラク占領支配はますます破綻している。小泉政権はついに自衛隊イラク派兵を決定し、アメリカの苦境を救済しようとしている。反戦・反グローバリゼーション運動の前進を基礎に新しい左派政治潮流を建設し、憲法改悪・戦争国家化を阻止しよう。

「もう一つのスーパーパワー」

 二〇〇三年の世界は、アメリカ帝国主義のブッシュ政権が発動したイラクに対する先制的侵略戦争と軍事占領、そしてそれに対決する巨大な反戦運動・反米闘争の発展によって特徴づけられている。すでにわれわれは本紙上で、「ブッシュドクトリン」にもとづく国際法や国連憲章をも無視した「帝国の戦争」とその破綻を具体的に分析してきた。そして世界社会フォーラム運動に体現されている新自由主義的グローバリゼーションに対するラディカルな批判の発展が反戦運動と結びつき、千五百万人を街頭に動員した空前の闘いを実現したことの世界情勢全体に及ぼす意味を繰り返し強調してきた。まさに草の根のグローバルな闘いの結合が、アメリカ帝国主義に対抗する「もう一つのスーパーパワー」として登場したのである。
 「テロリストとテロ支援国家に対する戦い」を名目に小型核兵器の先制的使用もふくめて世界的に遂行されるブッシュの「グローバル戦争」は、新自由主義的グローバリゼーションに対するラディカルな抵抗の高揚の中で登場した「もう一つの世界」をめざす闘いを、現代世界の軍事的・政治的・経済的支配構造総体に対するトータルな変革を導き出すものへと飛躍させることになった。二〇〇三年九月、メキシコ・カンクンでのWTO閣僚会議を破産させた闘いは、反戦運動の高揚と新自由主義に対決する反グローバリゼーション運動の発展が表裏一体のものであることを実証した「もう一つの勝利」であった。
 この中で、政治的・イデオロギー的に崩壊したスターリニズムや社会民主主義に代わる「反資本主義的オルタナティブ」の必要性への自覚が数万、数十万人の活動家の中に生み出されつつある。
 もちろんすでに始まったこうした大衆的意識の変動の過程は各国的にきわめて不均等であり、大衆の社会的動員のレベルに規定されている。日本では、二月から三月にかけた反戦運動の高揚にもかかわらず、その新しい可能性はきわめて不安定なものであり、小泉「構造改革」と「戦争国家」体制に抵抗する社会運動的基盤はいまだ脆弱である。総選挙での小泉政権与党の安定多数の獲得、民主党の躍進を通じたブルジョア「二大政党制」の形成にそれが端的な形で示されている。共産、社民の戦後的「革新」勢力は、衆議院の議席数で三%、得票率でも一三%という極小勢力に急落してしまった。
 民主主義や人権の一かけらもない北朝鮮・金正日官僚独裁体制の「拉致」犯罪と「核開発の脅威」というキャンペーンの中で、排外主義と国家主義に満ちあふれた意識が煽られ、それがとりわけ「護憲・革新」派にネガティブなイメージを与えたことは事実だろう。しかし敗北の原因をそこに帰すことは誤りである。
 われわれが総括しなければならないのは第一に、排外主義と国家主義に抗していく勢力が民衆に飢餓と無権利を強制する金正日体制に対して一貫した「民主主義と人権」の立場から批判していくことができなかったこと、第二に、「平和と護憲」の言論が、労働者・市民に「底辺への競争」を押しつけている資本の新自由主義的攻撃に対する集団的抵抗の復権と有機的に結びつけて組織されなかったことである。そしてこの二つの弱点を、決して切り離すことのできない一体のものとしてとらえなければならない。
 二〇〇四年の攻防の中でこうした主体的弱点の克服を見すえ、自衛隊のイラク派兵阻止を切り口に新自由主義的グローバリゼーションに対する抵抗と反戦・平和運動の結合、新しい運動潮流・政治勢力の創出に向けた着実な挑戦を進めていこう。

イラク戦争とブッシュ戦略の破綻


 二〇〇一年の「9・11」で解き放たれたブッシュの「対テロ・グローバル戦争」はアフガニスタンやイラクの無辜の民衆の生命を奪い、最低限の生活基盤をも破壊した「廃墟」の上に、その限界と危機を根本的に露呈することになった。
 アフガニスタンでは、タリバン政権の崩壊から二年以上を経た今日でも、腐敗を深めるカルザイ政権は米軍に支えられて首都カブール周辺を掌握しているだけであり、軍閥の地方割拠のはざまを縫って南部を中心にタリバン勢力が復活している。家父長制的な女性差別の暴力が依然として猛威をふるっている。「民主化」や「復興」どころか混乱と戦争が激化しているのである。十二月五日、米軍はアフガニスタン東南部バクティア州ガルデス近郊の戦闘で六人の子どもを爆撃によって殺害した。翌六日には、隣のガズニ州で機銃掃射によって九人の子どもの生命を奪った。しかし米軍司令部は、子どもの虐殺が「不可避」だと居直っている。それはアフガニスタン民衆の米軍支配への怒りをいっそう駆り立てることになった。
 イラクでの米英軍占領支配は、まさに泥沼の危機に陥っている。二〇〇三年の秋から冬にかけて旧サダム派などの反米武装勢力による占領者への攻勢は勢いを増し、連続した米軍機の撃墜などによって十一月だけで米兵の死者は八十人に達した。米英に協力する諸国の兵士、イラク人警察官への攻撃も拡大している。暫定占領当局(CPA)の一員として「復興支援」を名目とした自衛隊のイラク派兵の準備作業にあたっていた日本人外交官の射殺事件(11月29日)も、そうした攻勢の一環である。
 「イラク民主化=親米かいらい政権」樹立の構想の崩壊に直面したブッシュ政権は、しかし強硬姿勢を崩すことはできない。ブッシュは、一方でラムズフェルドやウォルフォヴィッツなどの政権内「ネオコングループ」の単独主義的突出を抑制し、国連を利用した諸国協調に依拠しようとする姿勢を見せつつ、イラク=中東支配の主導権をあくまで自己の手に掌握しようとしている。それがブッシュ政権にとっての「生命線」だからである。
 アメリカ帝国主義とイスラエル・シャロン政権合作の「ロードマップ」構想(シオニストのパレスチナ不法占領と植民地支配を固定化し、パレスチナ解放闘争を解体するプログラム)を具体化するためにも、イラク親米政権を樹立し、国連にそれを正当化させることが不可欠だからである。「イラク復興受注事業」を米英主導の「有志連合」に限定し、独・仏などの「対米非協力」諸国の利権を排除しようとする方針の中に、それは如実に示されている。そのためにもブッシュ政権は、イラクでの戦争から引くことはできず、ますます泥沼の中に引き込まれざるをえなくなっている。
 独裁者サダム・フセインの「発見・拘束」は、米軍のイラク占領支配の行き詰まりと危機を解消する転換点となるであろうか。「国連」による多国間協力の枠組みを主張し、ブッシュの「単独行動主義」に反発してきたフランス、ドイツなども、こぞって「サダム拘束」を歓迎し、「イラクの安定と平和」への希望を語っている。しかし、それは決して「国連を通じたイラクへの主権移譲」の枠組みを自動的に形成するものとはならないし、「治安の急速な改善」を引き寄せることにもならない。何よりも、イラク民衆の反占領闘争は、軍事支配が継続する限り押さえ込むことができないからである。
 国際的な反戦運動は、ブッシュのイラク戦争を阻止しようとする二〇〇三年二、三月の闘いを引き継いで、新しいサイクルに入っている。十一月のブッシュのイギリス訪問に際して平日としては最大の二十万人のデモ隊がロンドン市内を埋めつくし、トラファルガー広場で「ブッシュ像」が引き倒された。アメリカでも二〇〇四年十一月の大統領選挙を控えて、戦争の「正統性」そのものへの疑問が大きく広がっている。
 二〇〇三会計年度の米財政赤字は前年比で約二・四倍の三千七百四十二億ドルという過去最悪の数字を記録した。二〇〇四会計年度にはイラク戦費の追加支出八百七十億ドルが加わり、財政赤字は五千億ドルを大きく上回って六千億ドルに達するのではないかと見られている。貿易・財政の「双子の赤字」はいっそうのドル安を加速している。この異常な赤字をドル買い介入で支えているのは日本の資金であるが、アメリカの金利の急上昇と国債暴落は一挙にこの構造を破綻させ、グローバル資本主義の爆発的危機に直結していくことも予測される。「アメリカ経済の好調」はまさに断崖を背後にしたものであり、イラク占領支配のいっそうの泥沼化とブッシュドクトリンの軍事的・政治的敗北は経済的にもアメリカ帝国主義を直撃し、ブッシュ再選の願望を瓦解させる結果を招くのである。
 開戦一年目にあたる二〇〇四年三月二十日に、アメリカの反戦運動団体(ANSWER、ユナイテッド・フォー・ピース・アンド・ジャスティス)は共同して国際規模の反戦運動を呼びかけ、十一月に行われた欧州社会フォーラムでもそれに応えて三月二十日の統一行動へのアピールを発した。一月にインドのムンバイに場所を移して開催される第四回世界社会フォーラムでも、大規模な反戦集会と数百にのぼる平和のための企画を通じて、三月二十日の世界統一行動を訴えることになるだろう。しかもこの行動は全世界の米軍基地、とりわけ東アジアの米軍基地に対する闘いのネットワークを作りだす、より具体的な反戦運動の構想と結びついたものである。
 ワールドピースナウ実行委員会も三月二十日に国際統一行動の一環として日比谷野外音楽堂での集会とデモをすでに決めている。二〇〇三年の大衆的動員を引き継ぎ、ブッシュの戦争とイラク占領支配に止めを刺すグローバルな民衆連帯の奔流を!

自衛隊イラク派兵と戦争国家体制

 小泉政権は、国際的にも突出した形でブッシュ政権のイラク侵略を支持し、自衛隊派兵を強行することによって、米英軍のイラク占領支配の命運と自らの政権の命運を直結させる道に踏み込んだ。「復興支援」を名目にしたイラク占領支配への支出は総額で五十億ドルにのぼる。十一月二十九日、暫定占領当局の一員として自衛隊派兵準備のために奔走してきた日本人外交官二人が車で走行中に運転手ともども銃殺された事件は、「治安の悪化」に動揺の色を隠せなかった小泉首相が「テロに屈してはならない」という口実で自衛隊を占領軍に参加させる「基本計画」の閣議決定を決断する契機となった。
 小泉政権とマスメディアは、死亡した外交官をあたかも「復興人道支援」のために献身してきた人物のように描きだした。十二月六日、二人の外交官の両家と外務省の合同葬で、小泉は二人を「ご家族の誇りであると同時に、日本国、日本国民の誇り」であり、二人の「遺志を受け継ぐ」という「哀悼の意」を声をつまらせながら述べた。祭壇の正面に「天皇陛下」と書かれた供物が置かれたこの合同葬は、まさに「英霊」を称える「国葬」の体裁で執り行われたのである。
 しかし言うまでもなく、二人、とりわけ奥参事官(死後「二階級特進」で「大使」に昇進させられた)は、米国防総省が設置した占領統治機関としての「復興人道支援室」(ORHA)に派遣され、国際法の観点から言って一片の合法性もない米占領行政の中枢を担っていた人物であった。そして「ORHAはペンタゴンの一組織であるだけでなく、米軍需産業と戦後復興ビジネスとの関わりが深い人物が蝟集(いしゅう)した利害集団」なのであり、「フセイン政権の残党からすれば、日本外交官の奥克彦氏は米軍主体の占領統治に直接関与している人物と映ったのは、間違いない」(歳川隆雄「奥参事官の命運を決めた『ORHA』への『16日間の出向』、『SAPIO』03年12月24日号)と評されるのは当然である。
 十二月九日に閣議決定された自衛隊派兵の「基本計画」は、小泉首相がアメリカ帝国主義の「グローバル戦争」戦略を軍事的にも支えて「恒常的派兵国家」になるための後戻りできない道に踏み込んだことを意味する。バグダッド占領直後のブッシュ政権の「ブーツ・オン・ザ・グラウンド(地上軍を派遣せよ)」という強要と、五月二十二日、二十三日にテキサス州のブッシュの牧場で行われた日米首脳会談での「自衛隊派兵」の約束、そしてそれに基づく「イラク特措法」の成立以後も、ブッシュ政権の小泉に対する早期派兵の圧力は続いていた。八月十九日の国連バグダッド現地現地本部への爆弾攻撃の直後の八月二十二日にはアーミテージ国務副長官が「逃げるな、茶会じゃない」と恫喝した。
 こうした経過の中で、小泉はイラク特措法に規定された「非戦闘地域」での「人道復興支援活動」の前提条件が成り立たないことを承知の上で、七割に達する派兵反対世論を押し切り、イラク派兵「基本計画」の決定を強行した。
 「基本計画」は、対戦車弾や無反動砲、最新鋭の装輪装甲車、軽装甲機動車などを備えた重武装の陸上自衛隊六百人を中心に、海自の輸送艦と護衛艦、空自のC130輸送機なを「人道復興支援活動」や「安全確保支援活動」のためにイラク南東部を中心に派遣するとしている。十二月九日の記者会見で、小泉首相はもっぱら「日米同盟」が日本にとって絶対不変の原則であることを強調し、「憲法前文」を恣意的に引用した上で、「自衛隊は戦争のために行くのではない。戦闘行為はしない。人道復興支援のために行くのだ」と繰り返した。「武器・弾薬の輸送はしない」とも明言した。
 しかし小泉は記者会見で「基本計画」に書かれている「安全確保支援活動」については言及しなかった。「安全確保支援活動」とは「治安確保」という名の米英占領軍の軍事作戦を支援する「兵たん輸送」活動であり、純然たる「戦闘行為」にほかならない。この点をつかれた福田官房長官は小泉発言の訂正に乗り出し、小泉自身も十二月十五、十六日の衆参イラク復興支援特別委員会の「閉会中審査」の場で「武装した米兵の輸送は武器・弾薬の輸送にはあたらない」と強弁することになった。石破茂防衛庁長官は自衛隊が運ぶ他国軍の物資について「一々中身をあけて点検することはない」と事実上「武器・弾薬」の輸送を肯定し、小泉は「武器・弾薬の輸送はしないという立場への信頼関係に基づく」と例によってごまかした。さらに自衛隊が派兵される地域について「戦闘地域かどうか答えるのは適切でない」(石破)という答弁まで飛び出した。そして十二月十八日には「実施計画」が決定され、十二月二十五日にも先遣隊として空自のC130輸送機と兵員が前線基地のクウェートに向けて飛び立つ状況を迎えている。
 国連の枠組みをも超えて自衛隊が侵略戦争と占領に参加し、被占領地の民衆と「殺し、殺される関係」に入ることが目前の現実になろうとしている。一九九二年のPKO協力法、一九九九年の周辺事態法、二〇〇一年のテロ特措法、そして二〇〇三年の「武力攻撃事態対処法」をはじめとした有事3法とイラク特措法という、湾岸戦争以後十年以上にわたる積み重ねの上に、日本帝国主義は「戦争のできる国家」「海外派兵を常態化する国家」へと決定的な様変わりを遂げようとしているのである。
 それはアメリカ帝国主義のグローバル戦争戦略の最も能動的な同盟国としての日本帝国主義国家の登場を意味している。すなわち二〇〇〇年のアーミテージ報告が述べるような、「集団的自衛権」の発動をテコにした「日米同盟」の「日英同盟」的再編・確立にほかならない。
 マスメディアは、派兵に向けた小泉内閣の方針を支持する日経、読売、産経などと、派兵の「決断」を批判する朝日、毎日、東京などとの間で一見したところ大きく分かれているように見える。しかし十二月十四日のTBS系「サンデーモーニング」で毎日新聞の岸井編集委員が述べたように、「毎日」は自衛隊のイラク派兵容認に大きく舵を切った。朝日新聞の十二月十日付社説は「日本の道を誤らせるな」と十二月九日の「基本計画」閣議決定を批判した。しかし、そこでは「米英の開戦の大義は問うまい」と書かれている。十二月十一日の同紙社説も「米軍の駐留は必要だが……」と述べる。
 われわれは何よりも、ブッシュ、ブレアのイラク先制攻撃が国際法も国連憲章をも踏みにじった違法な侵略戦争そのものであり、したがって軍事占領もまた違法な現実であるということを出発点にしなければならない。この違法な現実の除去、すなわち占領軍の撤退が「復興」「人道支援」を実現していくために不断に立ち返らなければならない原則である。独裁者サダム・フセインの人道に対する犯罪がイラク人民の主権に基づく民主主義的で公正な意思を体現する法廷によって裁かれなければならないのと同様に、ブッシュとブレアの侵略戦争犯罪もまた国際的に裁かれなければならないのだ。
 欧州社会フォーラムで提出されたイラクの多様な勢力からなる「憲法制定国民会議準備委員会」のコミュニケが示唆するように、占領統治機構そのものである「統治評議会」に反対し、イラク民衆の自立した多元的な潮流を民主主義的に体現する主権を持った「憲法制定国民会議」を準備しようとする運動の基本的方向性をわれわれは支持し、反戦・反グローバリゼーション運動の国際的連携を基礎に、米英軍の即時撤退、侵略者による無条件の被害補償を要求していくだろう。
 小泉「改憲」内閣の下で、日本はグローバル資本主義の危機を通じて深まる世界的「無秩序」の海に引き込まれている。「危機への果断・迅速な対応」と「国際貢献の責任」という看板でアメリカに忠実な副官的警察機能を引き受ける国家への変質を自ら遂げている日本――自衛隊のイラク派兵を阻止し憲法改悪を阻止する闘いは、日本の「戦争国家」化を阻む闘いであるとともに、核兵器の使用をも現実的射程に入れたアメリカ帝国主義のグローバルな軍事支配を打ち砕く闘いでなければならないのである。

「二大政党制」形成と「革新」の危機


 二〇〇三年九月の総裁選で橋本派の分裂による参院青木グループの支持を受けて、小泉首相は勝利をもぎとった。十月十日に小泉首相は国会を解散した。十一月九日投票の総選挙は、「自民か民主か」の「政権選択」を問う選挙という大キャンペーンの中で、解散直前の十月五日に小沢・自由党と合流した菅・民主党は比例区総得票数で自民党の二千六十六万票を上回る二千二百十万票を獲得し、解散前の百三十七議席から百七十七議席に躍進した。自民・公明両党の与党ブロックは、選挙後に自民党に合流した保守新党を加えて二百七十五議席の「安定多数」を獲得した。解散前の議席を減らした自民党に対して、公明党は比例区総得票数でも議席でも前回の二〇〇〇年総選挙を上回り、与党ブロックの中での比重を高めることになった。
 他方、社民、共産両党は反民主主義的な選挙制度ともあいまって、大幅に議席を減らす結果となった。共産党は二十議席から九議席、社民党は十八議席から六議席への転落である。比例区の総得票でも共産党は前回比で三分の一減、社民党は約半減である。
 総選挙後の共産党10中委決議は「全党と後援会に総選挙へのたたかいの総決起を呼びかけながら、党中央がその推進のために必要不可欠な仕事を時期を失せずにおこなうという点で、自らの責任をはたしたとはいえない弱点があった。これは、とりわけ宣伝物の発行や選挙政策の発表の遅れにあらわれた」と「党中央」としての異例の自己批判を行った。社民党は名実ともに「党の顔」だった土井たか子党首が辞任し、一連のゴタゴタのすえ十二月十三日の党大会で前幹事長だった福島瑞穂参院議員を党首、自治労出身の又市征治参院議員を幹事長とする新役員体制が発足した。しかし、議員内部には横光克彦衆院議員(副党首)をはじめとして民主党への合流意見が強く、二〇〇四年七月参院選を前後して相当数の議員が離党する可能性が強い。すでに大脇雅子参院議員は離党を表明している。衆参合わせて十二名の極小勢力となった社民党はまさに「消滅」の危機に瀕している。
 注目すべきはマスメディアが「マニフェスト選挙」、「自民主軸か民主主軸かの政権選択選挙」と煽り、「投票に行こう」と以前にも増してキャンペーンを強めたにもかかわらず、投票率は戦後二番目に低い五九・八六%で、二十二の県では戦後最低を記録したことである。こうして総資本の利害を代表する日本経団連が構想した「政権交代可能」なブルジョア二大政党制の基本的構造が作りだされたのである。財界は今回の選挙結果にほぼ一様に満足を表明した。
 それは民主党の「マニフェスト」が示すように(本紙03年11月3日号、遠山裕樹「民主党マニフェスト批判」参照)、民主党の政策路線が小泉「構造改革」が指し示す民営化・規制緩和の新自由主義的市場原理主義や、憲法改悪・危機管理「戦争国家」路線とまったく同一の基礎の上に築き上げられているからである。むしろ民主党の政策は、民営化路線の徹底、消費税の大幅増税などにおいて自民党内の「小泉改革抵抗勢力」よりも総資本の路線を徹底させており、若手官僚や大手金融資本の上層サラリーマンからの支持を取り付ける中身になっている。

新自由主義的構造改革と国家主義


 共産、社民両党は、グローバル資本主義の攻勢に対する労働者・市民の抵抗の闘いと「護憲・平和」の主張を結び付け、小泉「構造改革」路線と民主党の新自由主義的「マニフェスト」総体を批判する政策的オルタナティブを提出しえなかった。両党、とりわけ社民党の「護憲」を前面に押し出した選挙を、人びとが「時代おくれ」と感じたことは当然であり、旧来の共産、社民支持層もふくめて無党派層は「政権交代の現実性」にかけて民主党に投票したのである。
 五五年体制の「政財官癒着」にもとづく利益分配構造は、グローバル資本主義の下での長期的不況と七百兆円の公的債務に表現される深刻な財政危機を通じて機能マヒをさらに強めている。一方、日銀が発表した二〇〇三年十二月の企業短期経済観測調査(短観)は、製造業・非製造業とも「景気回復基調」が鮮明になっているとしている。しかし、この「景気回復」基調は、現実の日本資本主義が抱えている危機の深刻さとはかけ離れたものである。ドル安・円高基調は外国市場に依拠した「景気回復」を直撃せざるをえない。すでに二〇〇四年度には円が一ドル百円の大台を突破して九十円台に突入することも予測されている。全体としての「デフレ不況」の基調は続いている。地域経済の不況は十一月二十九日の足利銀行の破綻処理と公的資金の投入によって改めて浮き彫りにされることとなった。「景気回復」の宣伝にも関わらず、『エコノミスト』誌が行った主要企業の社長に対するアンケートでは、日本経済の将来に対する楽観的予測は小泉内閣発足直後の二〇〇一年六月に比較して、むしろ減少している(同誌03年12月23日号)。
 小泉内閣が促進した新自由主義的グローバリゼーションに対応した「聖域なき構造改革」路線は、失業・倒産とリストラ、雇用破壊を促進し、労働者の権利をドラスティックに解体し、民営化・規制緩和による市場万能の「弱肉強食」の競争原理を普遍化させた。超長時間の「サービス残業」が横行し、労働者・市民の賃金・所得は低下し続けている。医療・福祉・教育・年金などの社会支出は大幅に切り捨てられた。消費税をふくむ大増税、勤労者の年金負担の増加、給付水準の切り下げ、給付期間の削減の攻撃が、日本だけでなく欧州をはじめとする資本主義諸国の労働者・市民に対して共通にかけられている。
 必要なことは、こうした高度成長に支えられた戦後的「利益配分的国民統合」の危機を、世界資本主義システムの歴史的生命力そのものの終焉としてとらえ、「社会自由主義」に転化した社会民主主義の限界そのものを乗り越えて進む階級闘争の課題として捉えることである。ヨーロッパ諸国における年金制度改悪反対の闘いは、労働者の巨大なストライキ闘争を背景に、そのための挑戦を意識化するところにまで入っている。問われていることは新自由主義的市場経済と民営化の論理に対する明確な政治的オルタナティブを労働者階級の集団的抵抗の復権のための運動的模索を背景に作りだそうとする意識的闘いである。
 こうした資本の新自由主義的攻勢は、それが作りだす生活不安、社会危機の中で、労働者・市民の保守的意識を拡大している。年間三万人に上る自殺者、重大犯罪の多発は高齢者から三十代、四十代、青少年にいたるまで年齢層を横断した形での絶望感が蓄積されていることの表現である。それは「強力なリーダー」を求め、治安対策の強化を促し、排外主義的・差別的煽動に呼応する大衆的気運に結びついている。新自由主義と強権的国家主義、ナショナリズム、「戦争国家」体制の確立は表裏一体の関係にあることは明白である。石原都知事の在日外国人や中国、韓国・朝鮮へのデマゴギッシュな差別煽動が一部の人びとからの拍手喝采を受け、天皇制日本帝国主義の朝鮮・アジア侵略と植民地支配を正当化する言説が後を断たず、金正日独裁体制の拉致犯罪と恐怖支配や「核開発」の瀬戸際外交と結び付けた「日本核武装」論があらためて「政治的選択肢」として公然と持ち出されていることは、その現れである。
 小泉政権は、このような大衆の政治的意識の保守的変容を背景に、二〇〇三年にはついに有事3法を成立させた。二〇〇四年の通常国会では戦争動員のための「国民保護法案」、「自由と人権」を敵視して国家主義教育を強化する教育基本法改悪案、さらに憲法改悪のための「国民投票」法案などを上程しようとしている。自衛隊イラク派兵阻止の闘いを中心にした反戦運動の大衆的広がりの上に、憲法改悪・「戦争国家体制」のための諸法案を共同の戦線を築き上げていくことは、われわれの差し迫った課題である。
 もちろん、新自由主義的「構造改革」に反対する労働者・市民の抵抗と、反戦・反改憲の闘いの運動的合流をただちに実現することは困難であろう。しかし反グローバリゼーション運動の担い手たちは、共産、社民をはじめとする旧来の「護憲・平和」勢力をふくんだ反戦・反改憲の共同戦線への意識的かつ主体的な関与を強め、同時にNGOの中での民主党への依存をねばり強く克服しようと努力するプロセスを通じて、具体的道筋を発見していくことになるだろう。

反資本主義的左翼潮流の形成めざして


 二〇〇三年十月総選挙の結果、自民・民主の「二大政党制」の枠組みが基本的に形成され、旧来の「護憲・革新」ブロックは衆院議席数でわずか三%の極小勢力に転落した。二〇〇四年参院選は、その構造を再確認するものとなる可能性が大きい。
 この現実は、反戦・平和の大衆運動や労働者・市民運動のみならず、既成革新の左側に位置することを自覚して、議会主義的革新勢力の限界を超えた左派政治潮流の形成を追求してきた、われわれを含むラディカル左派勢力にとっても深刻な問題を提起している。
 この中で、残った社民党、新社会党、「緑」の勢力、市民運動を軸に自民・民主の「二極」に対抗する「第三極」形成の主張が提起されている。当面する大衆運動の共同を背景に、こうした非「自民・民主」勢力が国政選挙の場において具体的なブロックを形成し、自民・民主に対する「もう一つの選択肢」を提起するための努力を、われわれは軽視しない。今日の日本の左翼勢力(社会民主主義からスターリニズムから独立した社会主義左翼にいたるまで)の周辺化と労働組合運動や社会運動の極度の低迷を考慮する時、そうしたさまざまな市民派的ブロック形成の試みは、今日の左派の政治的再編のための必要な一部を構成することも確かであろう。
 しかしここで色濃く主張されている「第三極」としての一種の「市民的・緑的」社会民主主義が、今日のグローバル資本主義と「反テロ戦争」の攻勢に対決する抵抗の積極的表現となりうるとは考えられない。そのことは、反グローバリゼーション運動や世界社会フォーラムの運動の中で端著的に生み出されている新たな国際主義や反資本主義的ラディカリズムの傾向を見るとき、明らかである。社会フォーラムの運動は、社会自由主義に転化した社会民主主義や一部の「緑」勢力をふくみながら、それとはっきり対立する形での政治的分岐をすでに表しているからである。
 こうした分岐は反グローバリゼーション運動や労働者の大規模なストライキ闘争に示される労働者・市民の大衆的動員の力学を基礎にしており、もちろんその主体的条件は日本とは大きくかけ離れている。こうした任務をそのまま今日のわれわれの置かれている情勢にあてはめることはできない。
 しかしたとえそうであったとしても、第四インターナショナル第十五回世界大会決議(二〇〇三年)が提起している、新しい国際主義や多元的でラディカルな反資本主義意識を左翼の政治的結集のための基軸に据える課題を、われわれは日本の現実の中で出発点として確認しなければならない。
 国際主義的な反資本主義左翼潮流の形成は、われわれがこの間繰り返し確認してきたように、戦争と新自由主義的グローバリゼーションに対決する労働者・市民の大衆的な集団的な抵抗の経験を出発点にしてのみ現実のものになりうる。大衆の運動的経験に基づかない左派形成の試みは必然的に破綻する。
 われわれはまず労働運動、大衆運動の草の根からの再建に向けた共同の努力を誠実に継続し、運動自体のラディカルな発展のために全力を上げる。それは同時に明確に今日の世界情勢が求める反資本主義的で民主主義的な左翼政治勢力の結集を自覚的に追求していくものでなければならない。この両者は同時に推進されなければならない。そしてそのような闘いにとって、共産、社民などの「護憲・平和」勢力をふくめた反戦・反改憲の共同戦線や、国政をはじめとした各種の選挙における多様なブロックの形成も、そこに向かう過程の多元的な一翼を構成するものとなるだろう。
 グローバル戦争と新自由主義的グローバリゼーションに反対する反資本主義左翼のための闘いは、何よりも東アジアレベルでの国際的な展望を持った主体形成を目指さなければならない。とりわけ韓国、中国、台湾、香港を通じた新自由主義的な資本のグローバリゼーションは、労働者・市民の側の抵抗闘争の一体化、共同の行動を必然的なものとする。民主労総を先頭にした韓国の階級的労働運動はすでに日韓自由貿易協定(FTA)に対する労働者の共同戦線を日本の労働者に呼びかけている。韓国・日本「本土」・沖縄・フィリピンを貫く反米軍基地闘争のネットワークは、すでに米軍基地に反対する共同行動への交流を積み重ねている。
 ここでは崩壊的危機に直面する北朝鮮の金正日独裁体制に対する日本の労働者・市民の態度が鋭く問われることになる。われわれは北朝鮮へのいわゆる「経済制裁」法案に反対し、東北アジアの軍事的緊張を解消する平和の枠組みを作り上げることを支持する。しかしその立場は同時に、圧政と飢餓にあえぐ二千二百万人民の金正日独裁体制に対する闘いを、韓国の労働者・市民とともに民衆的立場から支援するものでなければならない。ここにおいて「グローバルな平和・人権・公正・民主主義」をめざすわれわれの立場が明確につらぬかれなければならないのである。
 十二月十一日、十二日の両日、日ASEAN特別首脳会議が東京で開催された。この会議で小泉首相は東南アジア友好協力条約への加盟を表明した。首脳会談は「東アジア共同体」の構築へ向けた協力をうたいあげた「東京宣言」、ならびに経済だけではなく「テロ対策」をふくむ「安保面での協力」を重点課題にした日ASEAN行動計画を採択した。また日本とタイ、マレーシア、フィリピンとの間の自由貿易協定(FTA)をふくむ経済連携協定締結に向けた交渉開始が合意されている。
 こうした東南アジアをふくむ軍事的・経済的グローバル化の動きに対する日本とASEAN諸国の労働者・市民運動の共同した闘いもますます重要になっていくだろう。
 ムンバイでの世界社会フォーラムの成功、自衛隊のイラク派兵を阻止する闘いを皮切りに、二〇〇四年の闘いを大きく発展させよう。
(平井純一)             

http://www.jrcl.net/web/frame040101c.html


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