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(回答先: Re: 「2050年前後にはアメリカ帝国は存在しない」(『株式日記と経済展望』より) 投稿者 ゴル 日時 2003 年 12 月 16 日 12:10:07)
エマニュエル=トッドはフランス人であり、フランスの国益を第一に追求しています。彼の目的はドイツとの事実上の国家連合形成により、欧州の地理的・経済的・政治的・文化的・軍事的中心を独占することです。それは政治的にはワロン人国家とフラマン人国家の連合体であるベルギー王国に似た形態のものになるでしょうし、地理的には三カ国に分裂する前のフランク王国にもなぞらえることができます。また、独仏連合が中心となって辺境地区を統合した国家は、そのモザイク状の多民族多言語性と民主主義、パリとベルリンという二つの首都を持つ点から、19世紀後半のオーストリア=ハンガリー二重帝国と類似したものになるでしょう。
独仏の統合により、独仏連合と険しい山脈や海峡トンネルで境されたスペイン・イタリア・英国の三半島国は欧州の辺境に転落します。それは、欧州大陸を一国が支配する事を最も好まなかった英国にとっては何としても覆したいがしかしもはやどうにもならない、苦難の運命であるとも言えます。著明な英国の歴史家であるノーマン=デービスも、著書"The Isles"の中で、大帝国の歴史が過去のものとなり、欧州の辺境の一地方として統合に組み込まれていくであろうと祖国の未来を予測しています。
現在英国・スペイン・イタリア・ポーランドがイラクに派兵しているのは、独仏連合を中心とする欧州統一国家の辺境地区として自国が吸収されていく事への反発と恐怖が主であると思われます。それに加えて英国の場合は、今や金融業以外の競争力のある産業をほとんど失い、英語という言語で米国と繋がっていることで何とか大国の面目を保っている状況であり、もはや米国と対立する政策を選択することが不可能になっているという状況にあります。このあたりは新進気鋭の英国外交史研究者である細谷雄一氏が雑誌「アステイオン」59号でかつてのスエズ戦争のエピソードを交えて述べられています。
さて、目をユーラシア大陸の東岸に向けると、勃興する統一中国に対抗するために、また米国への依存の大きさ故に事実上米国と対立する政策を採ることが出来なくなっている日本という国がみつかります。
軍事面や経済面などでは日本と異なる面も多いですが、日本と類似した地理的条件に置かれた英国は、日本の外交方針を決定するためのよい判断材料となると思われます。英国のブレア首相がブッシュ政権にどのように対応し、どのように扱われているかを見れば、自ずとより低位の衛星国である日本への米国の対応も予想がつくというものです。