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社説
07月26日付
■イラク特措法――将来に禍根を残さぬか
イラクに自衛隊を派遣するための特別措置法が、ついに成立の時を迎えた。
国会議員の9割が賛成した有事法制とは打って変わって、全野党が反対し、世論の多数も納得しないなかで、与党が押し切ってのことである。
小泉首相は、ほっとしていることだろう。蜜月関係を誇るブッシュ米大統領の期待に応える土台ができたのだから。
同時に、自衛隊員たちの心中を思う。
任務とあれば彼らはいとうまい。だが、国民世論が二分されたまま、疑問だらけの法律によって事実上の戦地での活動に従事することになるかもしれないのだ。
それは、冷戦後に海外での活動が増えたとはいえ、そこでも貫かれてきた「他国で戦闘行為をしない」という憲法の大原則を危うくしかねない。
●疑問は解消していない
法案につきまとった疑問や懸念は、国会審議でも何一つ解消されなかった。
まず、何のための派遣なのか。浮き彫りになったのは、主な目的が法律にうたわれたイラクの復興支援ではなく、むしろ米軍の占領を手助けすることにある、ということだった。
では、自衛隊はどこで何をするのか。首相ははじめの頃、「どういう地域に行くか、何を支援するか、もっと判断できる材料を準備させたい」と答弁していた。それから1カ月。結局、材料は何も示されないままの法案成立である。
イラクの現状を見れば、「非戦闘地域」に派遣するという政府の説明はいよいよ苦しい。だからだろう。民主党の菅代表に「どこが非戦闘地域か」と問われた首相は、「私に聞かれたって分かるわけがない」と開き直った。
イラク戦争の正当性の証しとなるはずだった大量破壊兵器も、いまだに発見されない。それでも、「あると思っている」で押し通した。とにかく戦争は正しかった、だから自衛隊を出す。現実との矛盾は見て見ぬふりで、首相はそうした態度を崩さなかった。
米英軍の武器弾薬や兵士の陸上輸送は、「武力行使と一体化する行為」になる恐れがある。国会は事後承認でなく事前の承認とすべきだ。そんな野党からの批判に対しても、政府与党は一向に耳を貸そうとしなかった。
●派遣を焦ってはならぬ
「9・11」同時多発テロを受けて成立したテロ対策特措法で、自衛隊はアラビア海に派遣された。今度は洋上ではなくイラクの町や村への展開となる。
「殺されるかもしれないし、殺すかもしれない」。この首相答弁も、記憶にとどめておかなければならない。
自衛隊は過去10年余り、国連の平和維持活動(PKO)で実績を重ねてきた。その活動は内外で評価され、定着しつつある。こうした実績は、大事に発展させていくべきものだ。
しかし、イラクでの米軍支援は、国連決議の下で紛争の終結後に行うPKOとは全く異なる。テロ特措法に基づく活動も戦時の米軍支援だが、それにも国連のお墨付きがあった。ところが、そもそもイラク戦争は国連の一致した承認を欠き、いまなおゲリラ戦が続く。
法律ができたからといって、こんな状態のイラクに自衛隊を送ってはならない。
肝心なのは、どうしたら米政府に喜んでもらえるかではなく、何をすればイラクの人々のために役立つかだ。
イラクを最近訪れた自民党の小池百合子氏は本紙への投稿で「千人規模の本隊を送る前に、防衛医大や自衛隊病院関係者による徹底した人道支援活動を行うべきだ」と提言した。イラク民衆の理解を得ることなしに自衛隊を出しても、摩擦や衝突を生むことになりかねない。
イラクの再建や統治のあり方をめぐって、国際社会は開戦時の亀裂をまだ引きずっている。自衛隊の派遣を検討するにしても、国連の下でイラク人の政権が誕生し、その要請を受けてからで遅くない。
●総選挙の争点に据えよ
時あたかも、戦争の主体となった米国と英国では、戦争の評価やイラクの現実をめぐって激しい議論が続いている。開戦前に両政府が唱えた「イラクの脅威」について誇張や情報操作の疑いが浮上した。一向に治安が改善されないことに、米政府も焦りを隠せなくなっている。
しかし、日本の国会ではそんな現実にはお構いなく、法案は微動だにしなかった。日本の行方を大きく左右する法案が、なんと軽い言葉で扱われたことか。
しかも、特措法成立に合わせるように、政府は、海外への自衛隊派遣に関する恒久的な基本法をつくろうと動き出した。だが、今度のような問題だらけの海外派遣を恒久化されてはたまらない。
「自衛隊は軍隊だ」「専守防衛は見直しの時ではないか」。首相や閣僚から、そんな主張が飛び出す。安全保障問題にとどまらず、政治はひどく弛緩(しかん)してしまったように見える。居酒屋談議のような政治家の放言は後を絶たず、その責任もまともに問われないまま、まかり通っていく。
そんな政治は変える必要がある。11月総選挙へと政局は動く。この特措法と自衛隊のイラク派遣問題を、選挙の争点に据えなければならない。与野党はこの問題から逃げることなく国民に問い、有権者もそれを正面から受け止めたい。
日米同盟や国際貢献のあり方は、もとより各党の政策公約の中心となってしかるべき課題だ。イラク特措法が成立したあとの選挙であればなおのことである。
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