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(回答先: キムヘギョンちゃんの親権者は? 投稿者 クエスチョン 日時 2003 年 8 月 03 日 00:26:18)
http://www.bund.org/opinion/1118-5.htm
吉田康彦さんに聞く感情的な強硬策は北朝鮮の反発まねくだけ
2003-8-5
南北で繰り広げていた情報戦
アメリカの情報に踊らされる日本
朝鮮戦争を繰り返すつもりはない
人道援助まで止めるのは行き過ぎ
戦争になれば拉致家族戻らない
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南北で繰り広げていた情報戦
――日本では対北朝鮮強硬論が高まっています。日本よりも拉致された人が圧倒的に多い
韓国では、拉致は問題になっていなかったのですか。
★問題になっていなかったと言うよりも問題にしてなかった。拉致された人は大半が漁民
です。漁船が拿捕されて、乗組員がそのまま拘留されたというケースが多い。南北は陸続
きで一つの民族です。公海上でお互いの漁船が操業していると、領海に入って拿捕される
ことはあるでしょう。それに南北双方とも工作船を相手の領海に進入させて敵の情勢をさ
ぐるということをしています。韓国も北朝鮮に対してはかなり激しく情報戦を行ってきま
した。冷戦のさなかでは、お互いさまです。そうしたこともあって韓国では拉致事件をあ
まり問題にしてないのです。
第二次世界大戦で日本が敗退して、朝鮮が独立と統一を取り戻せる目前に米ソ両国が侵
攻、占領して分断してしまった。北朝鮮は朝鮮半島をなんとか統一したいという思いで南
北統一の武力解放に乗り出した。それが朝鮮戦争でした。その後韓国側に米軍が大軍を送
り、北朝鮮側には中国義勇軍が参戦してきます。米中戦争になる一歩手前で休戦協定が結
ばれ、それから半世紀、50年間も休戦状態のまま南北分断が続いている。
北朝鮮はなんとか民族統一を実現したい。しかしアメリカが在韓米軍をそのまま置いて
いるので、まともに戦争をしかけても勝ち目がない。それでゲリラ・テロで南の人民の蜂
起に期待した。特に70〜80年代は北朝鮮によるテロ、拉致、工作員の侵入、情報収集、攪
乱という戦術が激しく展開された時期です。その時、南北がお互いに相手国に対して拉致
を行っています。
北朝鮮は拉致による工作活動、人民を蜂起させるためのシンパの養成、攪乱工作、大統
領暗殺などを考えた。韓国も北に共産主義政権転覆のために工作員を派遣した。北朝鮮は
逮捕した韓国の漁船員を、単に漁業に従事していた漁船員ではなく工作員だと見ているわ
けです。こうして拘留された人が現在なお486人にのぼっているとされています。拉致
問題に関しては南北の場合、お互いさまだからそれほど騒がないのです。特に太陽政策を
打ち出してからの金大中政権にとっては拉致問題を問題にしたら南北の対話は進まないと
いうことで抑えてきたということです。盧武鉉政権になってもそれは変わっていない。
日本は南北朝鮮の情報合戦に一方的に巻きこまれたのです。北朝鮮は朝鮮半島で社会主
義革命を実現するための足場として日本を利用した。あわよくば日本でも社会主義革命を
起こそうと考えていた。「よど号」のハイジャック犯もこのために利用され、日本人拉致
に加担しています。そういう狙いがあって日本人拉致は行われた。
日本は北朝鮮の政権転覆とか、そうでなくとも情報収集のために日本人工作員を潜入さ
せたということはない。日本は在日朝鮮人などから情報をそれなりに集めていたが、どち
らかと言えば消極的で韓国ほどの情報収集の必要はなかった。韓国と日本の拉致問題に対
する違いはそこにあります。
アメリカの情報に踊らされる日本
――現実に北朝鮮が日本を攻撃する可能性はあるのでしょうか。
★北朝鮮は日本を攻撃する気はありません。日本人全体が北朝鮮脅威論に乗せられて、北
朝鮮の脅威を信じ込んでいるのです。工作員を上陸させ原発にテロをしかける、ノドン・
テポドンに核弾頭を積んで日本を攻撃するんじゃないかと思っている。しかし北朝鮮の外
交戦略や政治理念、政策を理解していれば荒唐無稽な北朝鮮脅威論には乗らないものです。
北朝鮮は核もミサイルも、あくまで金正日体制維持・存続のためのかけひきに使ってい
るのです。北朝鮮は核保有もしていると言っているのですが、アメリカが交渉に応じてく
れないので内心焦りを感じています。早くアメリカと朝米交渉に持ち込みたいので核開発
を急いでいる。交渉のとりひきの材料として核兵器を開発し保有しようとしているのです。
昨年10月の米朝協議で、米のケリー国務次官補に北朝鮮の外交官が「わが国は核兵器よ
りももっと強力な兵器を持つ用意がある、資格があるのだ」と言った。それは別に北朝鮮
がウラン濃縮を認めたのではなくて、原則論を強く打ち出したのです。お前らブッシュ政
権につべこべ言われて振り回されるようなことはないぞ、われわれは対抗できるんだぞと
いうことです。「核戦争なんてやって見なけりゃわからない」と金正日総書記が豪語した
と伝えられていますが、それは開き直りのハッタリです。核実験をせずに核保有は不可能
です。
仮に北朝鮮がノドンミサイルに大量破壊兵器を搭載して日本を攻撃すればどうなるか。
日米安保条約上の義務でアメリカは反撃し、北朝鮮の体制は滅亡するわけです。アメリカ
はクラスター爆弾とかバンカーバスターを、大量に雨あられのごとく北朝鮮に落として報
復爆撃するのは間違いない。平壌も絨毯爆撃される。そうなれば金正日体制自体がたちま
ちのうちに崩壊します。北朝鮮の政権はそんなことは百も承知です。核開発をもって威嚇
はするが、実際に核ミサイルの発射ボタンに手をかけるということはまかり間違ってもあ
り得ない。北朝鮮の武力攻撃に脅えたり、北朝鮮に対する報復行動を考えるのは間違った
選択肢です。
朝鮮戦争を繰り返すつもりはない
――仮に北朝鮮との戦争が勃発した場合、ソウルが真っ先に攻撃され、韓国が最も被害を
受けることになります。
★韓国が太陽政策をとるのも、朝鮮戦争の二の舞は繰り返したくない、繰り返してはなら
ないという過去の悲痛な経験から来ています。離散家族が今でも1千万人いて、朝鮮戦争
では同族どうしが殺し合って300万の死傷者が出た。それを絶対避けるならば南北の平
和統一しかない。どんなに困難であろうと一歩一歩対話を続けて、共通項を探りながら平
和統一に向けて和解と協力を進めていくのが唯一の選択肢です。それこそが盧武鉉政権が
継承し、これからも取りうる唯一の選択肢なのは間違いありません。
一方のアメリカのブッシュ政権は、対話と圧力を掲げて軍事的解決の選択肢にも軸足を
置いています。特にアメリカには「圧力」が抑止力として不可欠、少なくとも相手を説得
する材料として抑止力は有益だという考えがある。しかしアメリカにしてもベトナム戦争
の後遺症として、「カジュアリティ・ゼロ」つまり犠牲者ゼロを目指す軍事行動以外の選
択肢は持っていません。確かに今回のイラク戦争では米兵が130人以上死んでいるし、
戦争が終わってからも30人以上が犠牲になっている。しかしアメリカが多少の犠牲が出て
もイラクに軍事介入したのは、石油利権とかイスラエルの存在といった死活の利害がかか
っているからです。朝鮮半島には石油もないし、死活の利害もそれほどない。
アメリカにとっては在韓米軍に犠牲者を出さずに北朝鮮問題を処理することが目標です。
そのために今、在韓米軍基地を南に移動しようとしています。北朝鮮は38度線の非武装地
帯沿いに百万近くの兵隊を張りつけ、彼らは塹壕に籠もって、1万門の長距離火砲で韓国
を攻撃できる態勢になっています。アメリカは北朝鮮の砲撃の射程距離から外に在韓米軍
を出したいわけです。韓国としては米軍の軍事介入は絶対に回避したい。アメリカの軍事
行動を自粛させるため、韓国政府は在韓米軍の前線からの後退に同意したのです。
――アメリカのネオコン一派は北朝鮮問題をどう解決しようと考えているのでしょうか。
★ネオコン一派の人々はアメリカの民主主義こそ理想の政治形態であり、これを世界に広
めるのが自分たちの使命だと心得ているのです。だからイラク戦争をきっかけに中東全体
にアメリカ流の民主主義を広めようとしているわけです。ところが彼らは北朝鮮について
はグロテスクな独裁体制だということぐらいしか理解度がない。金正日体制のような「悪」
を退治するためには軍事行動も辞さずという論理です。
しかし多少とも朝鮮戦争の歴史や経緯、その後の韓国人の気持を熟知している国務省は
ネオコンの主張には同調していません。その両方のバランスの上にブッシュ大統領が坐っ
ているのが現状です。国務省にはボルトン国務次官のような強硬派もいますが、朝鮮半島
情勢をずっとフォローしてきた専門家がかなりいて、彼らは軍事的な解決が望ましいとは
思っていません。
国務省にはケネス・キノネスという朝鮮語に堪能なエキスパートもいました。彼はクリ
ントン政権時代の米朝交渉を担当した専門家です。キノネスは引退しましたが、今はジョ
ン・メリルという朝鮮語が堪能な専門家がいます。ブッシュ政権の中にも朝鮮半島の事情
を理解している専門家はいるので、すぐに北朝鮮を武力攻撃してしまえということにはな
らないでしょう。武力行使によって金正日体制を崩壊させるという選択肢は皆無ではあり
ませんが、軍事的解決の前に最後まで外交的な解決を探るという方針です。
安保理決議なしにアメリカが単独行動で北朝鮮を攻撃するということもあり得なくはな
い。しかしまず中国が大反対するでしょう。現実的には、米中関係の悪化を覚悟で中国の
反対を押してまで強行突破とはならない。ロシアも反対するでしょう。イラクの場合と違
って、アメリカはそこまで強硬な行動はとれないと思います。結局、近い将来多国間協議
が再開されて、アメリカも北朝鮮の体制存続を保証するという形になるものと思われます。
人道援助まで止めるのは行き過ぎ
――日本では万景峰号の入港をさせないという処置がとられています。北朝鮮側にとって
はどんな影響があるのでしょうか。
★日朝間の貿易は北朝鮮にとっては死活を制するほどの意味がある。以前は工作員の密入
国やミサイル開発部品の輸出が行われたかもしれない。しかし在日朝鮮人にとっては親兄
弟や親戚縁者が向こうに住んでいて、いろんな生活必需物資、医療品などを船で北朝鮮に
運んでいる。日本政府が援助しなくとも在日朝鮮人たちが一生懸命自分たちの同胞を助け
ているのです。私はこうした人道的な援助や人的交流まで止めてしまうことに反対です。
今後、船舶航行の安全に対し監視の目を光らせるのはいいとしても、万景峰号の寄港そ
のものを不可能にするような措置をとるべきではない。船の安全設備に関しても、例えば
1年以内に改善しろといった緩やかな行政指導的なものにとどめるべきだと思います。
日本が急に船舶の検査を強化した背景には、アメリカの圧力があります。アメリカ議会
で、北朝鮮の元工作員が万景峰号がミサイル部品を積んでいたと証言しました。しかしこ
れはかなりいい加減な証言です。万景峰号が工作機械、ミサイルの部品を積んで北朝鮮の
西海岸の南浦港に入ったと証言していましたが、実際は東海岸にある元山港と新潟港を結
んでいる船です。全く信憑性のない証言で、やらせ的な感じが強いものです。また、こう
した対北朝鮮圧力の背後には、拉致議連と現代コリアの影響もあります。
拉致議連事務局長の平沢勝栄氏と私はテレビで何回も対論していますが、平沢さんが去
年の秋から一貫して主張していることは「日本が強気に出れば向こうは必ず折れてくる」
というものでしたが、あれから半年経ったが少しも折れてくる気配はない。
私は強気に出れば出るほど北朝鮮も強気に出ると思っています。北朝鮮の人達は非常に
プライドが高い。日韓併合以来植民地にされ36年間屈辱を味わってきた、その恨みを晴ら
したいという気持ちが強い。非常に強烈な民族意識、ナショナリズムを持っている。強気
に出れば、向こうは特に独裁体制ですから金正日総書記や党の指導者たちが一斉に反発す
るでしょう。もっと日本を揺さぶって脅かしてやろうということになる。これは日本にと
っても決して得策にはならない。拉致家族の子供はますます帰ってこないし、結果的には
マイナスです。
戦争になれば拉致家族戻らない
――実際に戦争になれば北朝鮮に拉致された家族が生還できる望みもなくなります。
★金正日体制を倒したら拉致家族は生きて帰ってこない。たとえ相手が強盗であり泥棒で
あっても、国連に加盟している主権国家なのです。過去においてたとえテロ行為や拉致と
いう非人道的な行為、国家犯罪を犯したにせよ、交渉で解決しなければならない。武力で
解決しようとしても平和憲法をもつ日本にはできないのです。
日本では拉致問題が表面化して以降、まるで集団ヒステリーのごとく北朝鮮バッシング
を始めた。そういう流れの中で小泉さんはタカ派の安倍官房副長官に丸投げ≠オて、彼
のペースで対北朝鮮政策を進めている。日本の国益という点では、こういう情緒的対応で
はマイナスです。
国内的には長引く不況で経済が停滞し、外交的にはアメリカの言いなりになっているの
が今の日本です。内外ともに日本国民の欲求不満がたまっているわけです。その格好のは
け口が北朝鮮脅威論です。しかしそれさえもアメリカによってうまく煽られているのです。
アメリカは本土に北朝鮮のミサイルが届くことはないし、実際に核弾頭はまだ保有してい
ないというのも分かっている。ところが日本には、北朝鮮が核保有していて、核ミサイル
がいつ飛んでくるか分からないといった情報を流している。日本人の北朝鮮に対する恐怖
と脅威感を煽り、その底にある蔑視・敵視感情を巧みに刺激しているのがアメリカです。
アメリカの情報と軍事力に依存し、ますます対米追随にならざるを得ないような状況に日
本を追い込んでいる。だから日本はいつまで経っても一人前の外交が出来ない。
いくら金正日が独裁者で喜び組を見て鼻の下を長くしていようとも、そんな私生活に関
係なく盧武鉉政権は南北対話を進めようとしている。ロシアも平和的解決を望んでいる。
中国も軍事的解決には反対で、金正日体制との対話を通じて国際社会のパートナーに迎え
入れようとしている。核ミサイルの廃棄に応じてもらう代わりに北朝鮮の体制の存続は保
証するという方向に周辺国が動いているのです。ブッシュ政権は核ミサイルの廃棄が先だ
と言い、北朝鮮は体制の保証を先にやってくれと言っているが、どちらも外交交渉で解決
しようとしている。そういう中で日本だけが拉致にこだわって、感情論で突出し怒りと憎
しみで動いている。北朝鮮を取りまく全体の流れの中で日本だけが異様なのです。
もちろん韓国でも金正日体制というのは独裁政権で共産主義者だ、相容れない体制なん
だと思っている人も少なくない。古い世代の人達にとっては朝鮮戦争の時の恨みもある。
韓国にも軍部・ハンナラ党のタカ派強硬論者がいます。他方では太陽政策の継続を望む勢
力もいる。その両極の真ん中、大体6〜7割の国民はどっちでもないが、戦争だけはゴメ
ンだという気持を抱いている。韓国人の感情も複雑ですが、少なくとも盧武鉉政権を支え
た20代30代の若手は朝鮮戦争を経験していないし、北朝鮮に対する敵対心もない。あわて
て平和統一する必要はないが、ゆっくり時間をかけてやればいいじゃないかというのが今
の韓国全体の世論だと思います。
日本のように北朝鮮に対する憎しみと怒りをぶつけているだけでは問題は全く解決しな
い。仲の悪い隣同士は引っ越せるが、民族は引っ越しては行けない。お互いいがみ合いつ
づけてそれが何のためになるのか。絶えず不安と緊張の中で暮らしていかなきゃならない
のはお互いに損です。北朝鮮の脅威に脅え、対抗措置をとろうとするよりも、日朝国交正
常化を実現し、北東アジアの平和と安全の確保を積極的に実現すべきです。それが国益に
資する唯一の選択肢であることに一刻も早く気づくべきです。
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よしだ・やすひこ 大阪経済法科大学教授。1936年生まれ。東京大学卒業後、NHKに
就職し国際局報道部次長などを歴任。1982年国連職員。1986年から3年間はIAEA(国
際原子力機関)広報部長。帰国後北朝鮮への民間レベルでの食糧支援に尽力。『人類サバ
イバルの条件』『病める国連』『現代アジア最新事情』(編著)など。