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社説
07月11日付
戦争の大義――小泉氏の幸運の理由
小泉首相は「幸運な男だ」。英国のブレア首相が奥田日本経団連会長にそう述懐した。奥田氏が、株価の回復などで小泉内閣の支持率が上がるのではないか、という見通しを紹介した時のことだという。
ブレア氏は国内の反戦世論をおし、政権の命運をかけてイラク戦争への参戦を決断した。しかし、開戦の理由とされた大量破壊兵器はなお見つからない。戦争を正当化するために、首相府が脅威を誇張したのではないかという疑惑も持ちあがり、連日、批判の矢面に立たされている。
疑惑を調べた下院外交委員会は「政府が議会を誘導した事実はない」と結論づけはしたが、「イラクは生物化学兵器を45分以内に実戦配備できる」とした政府報告書の記述の仕方には行きすぎを認めた。
「過ちはあったが、深刻ではない」。ブレア氏はそう反論するが、支持率は急落した。政権発足からの6年間で初めて、野党保守党の支持率が与党労働党をしのいだとする世論調査結果もある。
米国でも、イラクの脅威を裏付けるための一部の情報が偽だったことをホワイトハウスが認め、ラムズフェルド国防長官は、もともと「劇的で新たな証拠」はなかったと議会で証言した。だが、米国に追随する形で兵士を送った英国では、政府に対する国民の目は米国よりもはるかに厳しい。
戦争は彼我の多くの命を犠牲にし、人々の生活とインフラを破壊する。戦後の秩序づくりも容易ではない。だから開戦の決断は重く、指導者は国民に対して戦争の大義を偽ってはならない。これは民主主義国の指導者にとって鉄則である。
ブレア氏が受けている逆風は、英国民主主義の伝統のなかで培われたそうした価値観が健在であることの証しなのだ。
ひるがえって、日本はどうだろうか。
イラクに自衛隊を送るための法案審議のなかで大量破壊兵器の問題を突かれた小泉首相は「フセイン大統領が見つかっていないからと言って、存在しなかったということはない」と切り返した。
実在した大統領の行方がわからないことと、存在が疑われた兵器を発見できないことの意味が全く違うことは、子どもでもわかる。独裁政権の消滅を民衆が歓迎したことや、日米同盟の重要性をいくら強調しても、戦争の正当性の証明にはならない。
論点をはぐらかすような答弁の繰り返しは、筋の通った説明ができないからだと勘ぐられても仕方あるまい。
それでも、小泉内閣の支持率に目立った低下は見られない。日本は戦闘に加わったわけではないから、正当性をめぐる論議は、国民の目にはやはり対岸の火事なのか。それとも、どうせ米国について行くしかないという思いゆえなのか。
ブレア首相が来週、日本を訪れる。小泉首相の「幸運」を再び語るかも知れないが、喜んではいられない。
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