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ワシントンDC発――米国防総省が開発を進めている都市監視システムは、都市を走る全車両の動きを追跡、分析する設計になっている。警察当局は米国内での限定的な導入は想定しながらも、システムの全面的活用が可能かどうかについては、疑問を呈している。
『戦闘地域監視』(CTS:Combat Zones That See)という名称のこのプロジェクトは、米軍が国外の都市で兵士を守ったり戦闘を行なう際の支援が目的だ。
科学者やプライバシー専門家たちによると、この技術は機密扱いではないので、米国民の監視にたやすく流用されてしまう危険性があるという。
この計画の中核として提唱されているのは、サイズ、色、形状、ナンバープレートから車両を割り出したり、運転手や乗員を顔で見分けたりといった作業を自動的に行なう画期的なコンピューター・ソフトウェアだ。
また、AP通信が何人かにインタビューし契約書類を確認したところによると、このソフトウェアは、監視リストに載っているナンバープレートを付けた車両を見つけると即座に警報を発し、さらに数ヵ月分の記録を調べて、テロ事件の現場近くにあった車両を捜したり車両の比較を行なえるものになるという。
国防総省の国防高等研究計画庁(DARPA)が、CTSプロジェクトの監督にあたっている。DARPAは、21世紀の戦闘用技術の開発に取り組む機関だ。
DARPAのこの新技術を、国防総省以外の民間あるいは政府機関が一般市民に適用した場合、どのような影響をもたらすだろうか? 『スーパーボウル』で使われた人相認識技術や、ロンドンの監視カメラを見てきた科学者やプライバシー専門家たちは懸念を寄せている。
軍事問題に関して批判的検証を行なっているサイト『 http://www.Globalsecurity.org/ グローバルセキュリティー』の防衛アナリスト、ジョン・パイク氏は、「政府はほとんどいつでも、誰がどこにいるかをかなり把握できるようになる」と語った。
DARPAはこのような懸念を否定している。DARPAによると、CTS技術は自国のセキュリティーや取締りが目的ではなく、「大幅な修正を加えない限り、他の用途に」使用することはあり得ないという。
しかし科学者たちは、軍事以外の用途を想定している。米国科学者連盟のスティーブン・アフターグッド氏は、「米国の都市で犯罪が多発する地域やスーパーボウルなど、大勢の人が集まるどんな場所にでも、同様の技術を導入する圧力がかかることは想像に難くない」と述べている。
ニューヨーク市警察のジェイムズ・ファイフ副本部長は、警察がCTS技術を利用する可能性はかなり高いと考えている。
「警察の上層部はいつも、『役に立つ可能性がある新技術なら買わない手はない』と言う。これが2001年9月11日の同時多発テロ以降の心理状態だ」とファイフ副本部長。
シアトル警察のジル・カーリコースキ署長によると、警察が「限られた」場面でDARPAの監視プロジェクトを利用することは考えられるという。ただし、街全体の監視には人手がかかり過ぎると、カーリコースキ署長は言う。「警戒すべき情報が得られたとして、いったい誰がすべての裏づけを取るというのだ?」
ファイフ副本部長は、ブルックリン橋のように犯罪率の高い場所で監視カメラを使用することには賛成している。しかし、全車両を追跡することに価値があるかどうかには、疑問を抱いている。「悪人たちは、ナンバープレートで車両が追跡されるとわかれば、盗んだ車は犯罪現場に放置して、地下鉄で逃げるようになるだろう」
DARPAは9月1日(米国時間)までに、3年契約のプロジェクトに対して、最大で1200万ドルの資金提供を予定している。
プロジェクトの第1段階では、カメラを少なくとも30台導入して特定の場所で兵士を守るために役立てる。ここでは400ドル程度の簡単に着脱できる小型カメラを主に使用し、1000ドルのパソコン1台とつなぐ。第2段階では、「都市内の軍事行動」を支援するため、100台以上のカメラを導入する。どちらの段階でも試作システムは、「数千台のカメラに……対応できる」拡張性が必要条件となっている。
契約書類によると、第2段階のソフトウェアは、ビデオ映像を分析して「正常な(行動)とそうでないもの」を区別し、「行動が起こった場所、主体、時間を関連づけて」見いだせなければならないという。
また同書類は、次のように謳っている。CTSは車両の動きをはじめとする「非常に広大な対象地域で起こった重要な出来事」を調査するために、「生中継の映像を自動分析する……世界初の複数カメラを使った監視システム」だという。
第1段階、第2段階ともワシントンDCの南、バージニア州フォートベルボアでのテストを経た後、外国の都市でテストを行なう。DARPAは、アフガニスタンのカブールかイラクのバグダッドが選ばれる可能性についてはコメントを控えたが、テストの現場になる国の許可を得るつもりだと語った。
DARPAは3月、CTSプロジェクトの受注を希望する委託企業の100人を超える幹部に対して、全世界ですでに4000万台を超える監視カメラが利用されており、2005年までには3億台に達する見込みだと語った。米国内の警察は橋、トンネル、空港、国境をカメラで監視しており、捜査の手掛かりを得たい場合には通常、銀行、商店、駐車場に設置された防犯カメラの映像を見られる。
しかし多くの監視カメラは、とらえた映像を規則的にビデオテープに録画するだけだ。警官たちはCCTV(閉回路テレビ)の映像を見ながら、退屈や集中力の低下と闘わなければならない。
監視と分析を自動的に行なえるようにすることで、DARPAは「現時点では存在しない技術を作り出すつもり」だという。
CTSは国内の保安強化をねらうものではないと強く主張しているものの、3月に集まった受注希望業者の前で、DARPAは、CTSのシステムが軍だけでなく警察を支援できるケースを想定したシナリオを披露した。紹介されたシナリオでは、面積、人口ともにマイアミより若干規模の大きいボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボで、テロリストによるバス停での銃撃事件とディスコの爆破事件が1ヵ月の間隔を置いて発生したというシチュエーションが描かれていた。
CTSは、2つの事件が起こる1時間前から現場を通り過ぎた全車両の動きを追跡し、各車のルートを自動的に比較して、同一地点から出発した車を割り出す能力を備えていることになっている。
人権擁護団体『オープン・ソサエティー研究所』のジョセフ・オネク氏は、このような新技術がプライバシーに与える意味合いに取り組むためには、公共の場へのカメラ設置を許している現行法を改正する必要があるかもしれないと述べている。
「通りに出れば、つねに誰かの目に触れる可能性があるのは当然だ。しかしこれと、全生活が記録されて、ある人物が過去10年間にわたって公共の場所のどこにいたのかがわかるということとは、全く事情が違う」とオネク氏は語った。
[日本語版:米井香織/湯田賢司]日本語版関連記事
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[7月8日17時20分更新]
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