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中日新聞(2003年5月28日付)
連載コラム「ヨーロッパ展望台」第364回
ネオ永久革命
熊田 亭
サダム征伐の成功は、アメリカ権力の中枢に「ネオコン」と呼ばれる、一種不気味なグループが存在することを世に知らしめた。
ネオコンはネオコンサーバティブ(新保守主義)の通称で、これまで共和党右派とかタカ派とかいわれてきたが、れっきとした革命党である。
ネオコンはサダム退治の発案者であり、設計者であり、実行者であった。ネオコンの本拠であるシンクタンク、アメリカン・エンタプライズ研究所では、戦争の始まった日、やったやったと戦勝の前祝いの宴がひらかれた。
◆国防総省掌握のネオコン
戦争に先立って、ブッシュ二世が、戦争の目的はサダム退治にとどまらない、イラクにうえつける民主化モデルを周辺の国々にもひろげて、体制転換の中東再編成をめざしているのだと、初めて宣言したのも、この研究所の記念パーティの席である。
奇妙なことに、今やネオコンに掌握された国防総省が、アメリカ外交の方向をつくりだしている。外交と戦闘を担当する国務省と軍部制服組はネオコンの「越境」に不快を抱いているが、大統領がネオコンの描きだす中東新秩序の「永久革命」になびいているから、どうにもならない。
永久革命はトロツキーの理論である。
レーニンの死後、ソ連の将来をめぐってスターリンとトロツキーの対決がおこった。
スターリンは一国社会主義を唱えて、ロシアのなかに共産主義を建設することを唱えた。トロツキーは革命を永続的に輸出して、古い世界秩序を破壊しなければ、ロシア革命の前途は危ういと反論した。
◆「アメリカ天下」を統一
革命の永久運動だから永久革命論となづけられた。トロツキーはスターリンの刺客に殺された。
ネオコン潮流の開祖でエンタプライズ研究所の長老アービング・クリストル(八二)は、往時、ニューヨーク極左のトロツキー主義者であった。トロツキーの思考回路を踏まえて、左から右への転向である。
今日のネオコンが中東の永久革命をこころざすのも、トロツキーの血筋をひいている。
トロツキーとクリストルがそうであるように、ネオコン潮流の知識人のおおくはユダヤ系で、イスラエル右翼の代弁者であることをかくさない政治人もいる。
首相シャロン将軍が代表するイスラエル右翼は、パレスチナのなかにユダヤ人とアラブ人の二つの独立国家をつくって平和共存をもとめるさまざまなこころみを脱線させてきたし、これからも脱線させようと覚悟している。
ネオ永久革命は、右の政権であれ極右であれ、イスラエルを不動の恒星にすえつける。その周辺を回転(レボリューション)するアラブ遊星群の軌道はアメリカの軍事威力で修正して、中東における「アメリカ天下」を統一することにある。
◆「古いヨーロッパ」反発
中東を制するものは世界を制する。
かかる革命の夢は「九・一一」の悲劇以後、アメリカ一般にうけいれられやすい通念になってしまった。
「古いヨーロッパ」が反発し、抵抗するのは、トロツキー以来の逆さまの永久革命の夢想である。
(欧州駐在本社客員)