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鹿沼事件・第1部「理不尽・対行政暴力」開始(下野新聞) − 政・官・業・暴の連鎖は解明できるか? 
http://www.asyura.com/0306/nihon7/msg/379.html
投稿者 シジミ 日時 2003 年 8 月 25 日 22:40:41:1VmSkkGasXps6

http://www.asyura.com/0306/nihon7/msg/233.html(プロローグ)からの続き

▼第1部「理不尽・対行政暴力」

1.「予兆」(2003年8月21日付) 「首謀者」メモに残し… 
小佐々さん「受け取り拒否」を家族に厳命 重大さ事件後気付く
http://www.shimotsuke.co.jp/hensyu/kikaku03/kanuma/seigi/01bu/01bu-1.html

電話台の脇に張られた一枚のメモ−。

 家族には全く見覚えのない男の名前と二つの会社名が並んでいた。続けてこうあった。

 <受け取り拒否>

 小佐々守さん=当時(57)=は、メモを作った時、家族に厳命したという。

 「こうした名前で贈り物があっても、絶対受け取らないように」

 その後、事件が起きて家族はメモの重大さに気付いた。

 そこには、事件の「首謀者」の名前がはっきりと記されていた。

 <曽根正志>

 隣に並んでいたのは、曽根正志社長=当時(61)、自殺=が設立した廃棄物関連会社の名前だった。

 メモは事件後、県警に提出された。

 ●●●

  二〇〇一年秋、鹿沼市環境対策部参事だった小佐々さんは帰宅途中、見知らぬ男たちに車で連れ去られ、殺害された。仕事をめぐるトラブルから小佐々さんを逆恨みした曽根社長が、殺害を依頼したとされる。

 「業者に随分もうけさせてしまったな」

 その年が明けたころ、小佐々さんは厳しい表情で周囲にそう漏らした。 「もっと早く気付いていれば…」と悔やんでいたという。

 同じころ、しきりに長女(28)の安全を気に掛けるようになった。

 「おれの娘だということで、後をつけてくるやつがいるかもしれない。そうしたら、すぐに近くのコンビニに飛び込みなさい」「いつも背後に気を配るように」

 長女の帰宅がちょっとでも遅くなると、心配でたまらない。妻の洌子(きよこ)さん(55)は深夜、隣で寝入っていたはずの夫がつぶやくのを何度も耳にした。「…帰ってきたな」。帰宅したことが分かると、ようやく眠りについた。

 ●●●

 小佐々さんが初めて廃棄物行政を担当した一九九八年のことだ。

 洌子さんが昼間、自宅に一人でいた時に電話が鳴った。

 「市役所にお勤めの小佐々さんですよね」。聞き覚えのない男の声。名乗らない相手はしばらく普通の口調で話していたが、突然声を荒らげた。

 「いい気になるなよ」

 背筋が凍る思いだった。

 帰宅した夫に電話の件を話すと、「業者だろう」とだけ言って平然としていた。

 「それまで夫は市民と直接向き合う仕事だけを担当してきました。だから、当時の私には思いもよらなかった。市役所の仕事で恨まれることがあるなんて…」

 小佐々さんが行方不明になった直後、鹿沼市の幹部職員たちは同じ言葉を口にした。

 「トラブルの心当たりはない」

 だが…。

 当時、女性職員の一人がおびえきっていた。

 「これは見せしめ?」 職員は同僚に打ち明けていた。

 「次は私かもしれない…怖い」

 事件の「予兆」は確かにあった。

 ◇ ◇

 職務を全うしようとした小佐々さんを突如襲った理不尽な暴力。第一部は、事件の構図を振り返り「対行政暴力」の実態に迫る。

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2.職員が消えた(2003年8月22日付)自転車が“異変”告げる
「妙な落ち方」・・・バッグや書類の束散乱していた
http://www.shimotsuke.co.jp/hensyu/kikaku03/kanuma/seigi/01bu/01bu-2.html

よく晴れた晩秋の朝だった。

 二〇〇一年十一月一日午前六時すぎ。鹿沼市上殿町の細い市道を、市内の男性(53)が白い軽トラックで通りかかった。

 道路脇の田んぼに、自転車が前輪から逆立ちするように落ちていた。後輪の泥よけが、辛うじて路肩に引っ掛かっている。

 リサイクル店で自転車を扱っている男性は、その「妙な落ち方」が気に掛かった。十メートルほど進んでから引き返した。

 収穫を終えた田んぼには、バッグや分厚い書類の束、三本のワインが散乱していた。

 「いたずらされたんだろう。持ち主は困っているだろうな」

 バッグの中には、現金が入ったままの財布と免許証、名刺入れ。「小佐々守」の名前があった。

 貴重品を持ち帰り、すぐに小佐々さん宅を電話帳で調べて連絡した。

 「昨夜から帰らないんです…」。妻の洌子(きよこ)さん(55)の涙声が受話器から漏れた。

 「無断で家を空けたことなんてない人なんです。夜通し携帯電話にかけ続けたんですが、今朝六時ごろから呼び出しもしなくなってしまって…」

 ●●●

 午前六時半ごろ、洌子さんは鹿沼地区広域行政消防本部の川田武雄消防長(当時)の自宅に電話を入れた。

 「主人が救急搬送されていませんか」。管内に搬送の記録はなかった。

 前日の午後五時四十分すぎ、勤務先の市環境クリーンセンターを出た後、小佐々さんを見た人はいない。自転車の発見現場はセンターから約 三百メートルの至近距離だった。

 こつぜんと職員が消えた−。川田消防長からの連絡で、鹿沼市役所は徐々に騒然となっていく。

 午前八時半、鹿沼署に捜索願が出され、現場検証と捜索が始まった。「トラブルに巻き込まれたとしか思えない」。洌子さんは捜査員に訴えた。

 小佐々さんの顔写真や特徴の入ったチラシが作られ、職員百十三人が五十三班に分かれて大掛かりな捜索に乗り出した。範囲は、宇都宮市内の病院やコンビニエンスストアにも広がった。

 四輪駆動車で鹿沼市内の山間部を捜索した職員もいた。林道の橋の下、車が駐車した痕跡のある周辺の草むら…。「車にはねられた後で連れ去られ、遺棄されたのでは」。現場の状況を見て、そう思ったからだ。

 しかし、現場鑑識では血痕や車の衝突痕は見 つからない。警察犬は西へ約一キロ進み、国道293号付近で動きを止めた。

 ●●●

 午後七時すぎ。現場付近で、職員たちが帰宅する高校生や信号待ちのドライバーにチラシを配り、情報を求めていた。

 現場の路肩には、五センチほどコンクリートが削られた真新しい傷があった。自転車が転落した際にできた痕跡。

 それは、小佐々さんと家族の穏やかな日常を引き裂いたつめ跡だった。
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3.その日(2003年8月23日付)果たせなかった乾杯
出張土産にワイン 当たり前の一日になるはずだった
http://www.shimotsuke.co.jp/hensyu/kikaku03/kanuma/seigi/01bu/01bu-3.html

妻はその日、「行ってらっしゃい」と夫を送り出すことができなかった。

 夫はその夜、妻とワインで乾杯をすることができなかった。

 残された妻は悔やむ。

 「そのことが今、とてもつらい。残念です」

 ●●●

 当たり前の一日になるはずだった。

 二〇〇一年十月三十一日朝。鹿沼市環境対策部参事、小佐々守さん=当時(57)=は、妻の洌子(きよこ)さん(55)に声をかけた。

 「先に行っていいよ」

 洌子さんは、高校時代の友人と三人で奥日光へハイキングに行く準備をしていた。「早く行かないと車が渋滞するから」。この日を心待ちにしていた妻への配慮だった。

 小佐々さんは出勤前、愛犬・健太を連れて市役所裏の御殿山へ。洌子さんは午前七時すぎ、散歩から帰る夫を待たずに出発した。

 紅葉の奥日光で過ごした旧友との時間。たくさんの土産話ができた。

 「早く話がしたいな」。帰宅した洌子さんは、夫の帰りを待ち続けた。

 小佐々さんはこの日、市民団体「EM友の会」にバスで同行し、同僚三人と足利市内に出張した。

 住宅団地の生ごみ処理を見学。足利学校周辺で食事をした後、知的障害者のワイン造りで知られる「ココファーム・ワイナリー」を訪れた。

 欧州出張を四日後に控えていた。小佐々さんにとって、初めての海外だった。

 「ワインを飲んで今から備えておくか」。冗談を言いながら、土産にワインとチーズを買った。

 「普段と変わった様子はなかった。むしろ海外出張を前に気分が弾んでいるようだった」と、同僚は振り返る。

 「ヨーロッパの環境問題を直接学べるのはすごいことだよ」。出張が決まってから、小佐々さんはそう話していた。

 ●●●

 「きょうは疲れたから、もう帰ろうか」

 午後五時半すぎ。足利から勤務先の市環境クリーンセンターに戻った小佐々さんは、周囲の職員に帰宅を促した。事務所の階段を下りる時、はにかんだ笑顔で土産のワインを職員に見せた。

 「これで女房と一杯やるんだ」

 「いいですねえ」

 何げない話の中に、夫婦の幸せがにじんだ。

 事務所の出入り口。民間企業研修を終えて戻ってきた部下が、自動ドアが開かずに中に入れないでいた。両手でドアを開けた小佐々さんは、部下にねぎらいの言葉をかけた。

 「一生懸命やってくれたね。研修先が喜んでたよ」

 辺りは暗くなっていた。いつものように自転車にまたがった小佐々さんは、センター前の信号で止まり、道路を横断して細い市道へと入った。自宅への近道だった。

 その後ろ姿を見届けて、黒塗りの車がゆっくりと動き出した。
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4.殺人計画(2003年8月24日付)群がった“黒い男”たち
「1人300万円」 元組員の2人はすぐに乗ってきた
http://www.shimotsuke.co.jp/hensyu/kikaku03/kanuma/seigi/01bu/01bu-4.html

埼玉県の東北自動車道羽生インターチェンジから約五百メートルの距離に「羽生温泉」はある。曽根正志社長=当時(61)、自殺=が開発を進めていた施設だ。

 二年前の秋。そこに男たちが集まり、一つの計画を練った

 「殺人計画」だった。

 ●●●

  二〇〇一年十月十五日。佐々木京一被告(48)は羽生温泉に田村好被告(62)を呼び出し、こう切り出した。

 「曽根さんに頼まれたんだけど、役所の人間を始末できんの? 曽根さんが五百万円出すって言ってんだけど、どうなんでしょうかね」

 同じ場所で、佐々木被告が首謀者とされる曽根社長から「依頼話」を聞かされたのは数時間前だった。

 検察側の冒頭陳述によると、曽根社長は小佐々守さん=当時(57)=の厳しい指導にいら立ち、殺害を決意。佐々木被告に「殺人請負人」への依頼を持ちかけたとされる。

 当時、佐々木被告が経営していた廃棄物収集運搬会社「佐々木建材」は、曽根社長の「北関東クリーンサービス」からの受注が全受注の八−九割を占めていた。佐々木被告は北関東クリーンの役員に名を連ねていたが、実態は曽根社長の「下請け」。自社のトラックの多くを北関東クリーンに使われていた。

 佐々木被告の家族は「仕事を回してもらえないと、どうしようもない。曽根社長には逆らえなかった」とこぼす。曽根社長の指示で、高額なトラックを買わされたこともあったという。

 五年ほど前。佐々木被告は、暴力団組員だった田村被告と、知人の仕事上のトラブルを解決してもらったのをきっかけに知り合った。その後もトラブルの仲裁、債権回収などを引き受けてもらう間柄だった。

 田村被告は、佐々木被告の話に乗った。

 「分かった。何とかしてやるから大丈夫だ」

 「どうやって始末するの」と佐々木被告。

 「それはこっちで考えるから心配するな」

 ●●●

  田村被告が進めた「殺人計画」には黒い男たちが群がった。

 廃棄物業者の高木誠被告(53)と、不動産仲介業の吉田義雄被告(60)。ともに暴力団組員だった過去を持ち、田村被告と同様、金に困っていた。

 「人を連れてくるだけの仕事だ。一人三百万円になる」。田村被告が誘うと二人はすぐに乗ってきた。

 廃棄物業界と暴力団の密接な関係−。過去の廃棄物不法投棄事件などで暴力団が絡んでいたケースは数多い。

 鹿沼市内のある業者は「この業界の人間で暴力団と全く縁がないやつなんてほとんどいないんじゃないか」とまで言う。

 金のにおいにつられて羽生温泉に集まってきた男たち−。「計画」が動き始めた。
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5.拉致(2003年8月25日付)ある日突然 暴力で…
何に起因するか 小佐々さんは気付いていたのか
http://www.shimotsuke.co.jp/hensyu/kikaku03/kanuma/seigi/01bu/01bu-5.html

黒塗りの乗用車から、男が一人、姿を現した。日は既に暮れ、晩秋の薄い闇が辺りを包み始めている。

 車を降りたのは、吉田義雄被告(60)だった。運転席には高木誠被告(53)。田村好被告(62)は助手席に座っていた。

 吉田被告の脇を、今、追い抜いてきた小佐々守さん=当時(57)=の自転車が通り抜けようとした。その小佐々さんに吉田被告が道を尋ねるふりをして声を掛けた。

 二〇〇一年十月三十一日午後五時四十五分。事件の始まりだった。

 ●●●

 鹿沼市上殿町の現場は、幅約四メートルの市道だ。小佐々さんが勤務していた市環境クリーンセンターまでは三百メートルほどしか離れていない。

 交通量は決して多くないが、市街地も近い。大の男を拉致した犯行は、かなり大胆だ。

 事件の裁判で、吉田被告は、道を尋ねることを装うのは自分で考えた、と証言している。

 「手かぎ(荷物を運ぶ際に使う先端がとがった道具)があるから、突き付ければ車に乗るよ」。こう言う田村被告に、「おれに任せろ。道具はいらない」と言って車を降りた。

 車の前方に自転車を止めた小佐々さん。吉田被告は、ヘッドライトにかざすようにして地図のコピーを差し出した。

 「ここに行きたいんですけど」

 「どこ?」

 聞き返されて言葉に詰まった吉田被告が「寒いから車の中へ」と誘った。

 その途端、小佐々さんが怪訝(けげん)そうな表情を浮かべた。

 −感づかれた。 

 「いいから、乗れ」

 吉田被告が、地図をのぞき込むようにかがんでいた小佐々さんを、羽交い締めにする。後部ドアの近くまで力ずくで連れて行った。

 座席に乗せようとした時、小佐々さんが激しく抵抗した。「何をするんだ」

 運転席から降りてきた高木被告が、ドアに手を掛ける小佐々さんをひじ打ちした。

 「何やってんだ。早く引っ張ってくれよ」

 吉田被告の求めに応じて田村被告が、車の中から引きずり込んだ。

 長身の小佐々さんの足が不自然に曲がった。

 「痛い。足が痛い」

 吉田被告は車の前にあった自転車を田んぼに向かってけり倒した。

 車内では小佐々さんを後部座席にうつぶせに寝かせ、その上に田村被告と吉田被告が押さえ付けるように座った。

 高木被告が車を発進させた。

 「騒ぐと殺すぞ」

 田村被告が用意していた手かぎで殴った。

 ●●●

 ある日突然、目の前に現れた男たちが、暴力で自由を奪った。顔も名前も知らない。ただ、何に起因しているのかを、小佐々さんは気付いていたかもしれない。

|鹿沼市職員殺害事件特集Index|http://www.shimotsuke.co.jp/hensyu/kikaku03/kanuma/index.html

 

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