現在地 HOME > 掲示板 > 日本の事件6 > 996.html ★阿修羅♪ |
|
加害者の親になる不安
「今度の事件はいつもと違う……」。そんな空気が会場を包んだ。
東京都世田谷区で7月末、子どもの問題にかかわる市民グループの呼びかけで開かれた「長崎事件トークバトル」。長崎市で4歳の幼稚園児が殺害され、12歳の少年が補導された事件を約20人の大人たちが語り合った。多くの人が、「加害者の親になるかもしれない不安」を口にした。
「ひとごとではない、説明できない不安がある」と小学生の母。「遊び場も少なくゲームばかりしていて、育たないものがあるんじゃないか」
小学生の父親は「うちの子も、いつ被害者になるか加害者になるかわからない。加害者になってしまったら、親としてどうしたらいいのか」。
別の母親が、「きっと自分たちとそう違わない育て方をしたんだろうと思う。だから不安になる」と言うと、何人もがうなずいた。
□ ■ □
「わが子がもし、被害者になったらと思うと同時に、加害者になるかもしれない不安を親たちが感じていることが、今回の特徴だ」。元中学教諭で、教育研究所を開く尾木直樹さんは話す。
尾木さんによると、97年に神戸市で当時14歳の少年が逮捕された連続児童殺傷事件の時は、まだ「透明な存在であるボク」などのメッセージがあり、我が子との違いが見えたという。いま、そこがわかりにくい。
ある家裁のベテラン調査官は「子どもは良いことも悪いこともしながら成長する。事件の背景にはさまざまな要因があるが、親たちが不安になるのなら、そちらの方が手当てが必要ではないか」と指摘する。
警察庁によると、殺人・同未遂にあたるとして補導された14歳未満の触法少年は、02年までの10年間で22人。小学生が子守中に乳児を窒息死させた事件などがあった。しかし多くは、知り合いを被害者にしている。
58年に京都で家裁調査官になった原口幹雄・東京家政大学教授は「昔の凶悪事件の少年は、貧困、差別、親がいないといった背景が見えやすかった」と言う。
□ ■ □
少年院新収容者の家庭の生活程度は、法務省統計によると、69年は「普通」と「貧困」が半々だった。70年代に「普通」が7割近くまで増え、97年に約8割になった。昔と同じ「物差し」で見るとつかめない。
原口さんが座長となり、家裁調査研修所で行った「重大少年事件の実証的研究」(01年)では、単独で殺人事件などを起こした少年の背後に、子どもに過度の期待をかけ、期待に沿う姿しか見ない親がうかがわれた。
父親は影が薄いか暴力的。子どもはありのままの自分を受け止めてほしい。10人中7人の少年が自殺を考えるまで追いつめられていた。
特に、表面上は問題を感じさせなかったタイプの少年は、人との情緒の交流が希薄だった。親や教師にも不安を感知してもらえず、空想の世界を肥大させたりしていた。
経済力はあっても、親の愛情や配慮が足らなかったり、家族の葛藤(かっとう)に向き合わず、腹の底から笑うことができなかったりすれば、「貧しいという意味では、かつてと同じだ」と原口さんはみる。
「子育てに悩み、不安を感じる親たちには、それを話せる場を用意していけばいい。家族のなかでも喜怒哀楽のキャッチボールをしていくことが、人の心を知ることにつながる。うちの子は問題ないと、疑わない親の方が怖い」
◇ ◇
長崎市で12歳の中学1年生が補導されて、9日で1カ月。警察庁の今年上半期の統計では殺人事件で検挙された少年が増えている。そんな状況と社会は、どう向き合うのかを追う。
(朝日新聞2003年8月9日朝刊紙面)
http://www.asahi.com/special/nagasaki/030809.html