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(回答先: 生理用品とダイオキシン(簡略版) 投稿者 てんさい(い) 日時 2003 年 9 月 04 日 22:47:23)
生理用品にダイオキシン?
http://web.archive.org/web/20010806183854/ha5.seikyou.ne.jp/home/akahori/kankyou/sinnjitu.html
1 アメリカ下院で
2 10人に1人は子宮内膜症?
3 中毒ショック症
4 議会や市民の対応
5 塩素漂白が問題
6 美しい無漂白の代替品
7 おわりに
● アメリカ下院で
1992年6月10日、アメリカ下院の小委員会がダイオキシン問題のヒアリングを開いて
いた時、委員長のテッド・ウェイス議員はファイルの中に次のような一文があるのに
気付いた。 「タンポンからダイオキシンを取り込む危険性は極めて高い」
何だ、これは? 生理用品がダイオキシンを含んでいるのか。ウェイス委員長はF
DA(連邦食品医薬品局)の文字が印刷されたメモの続きを読んだ。 「危険を避
けるのにいちばん効果的なのは、タンポンや、できれば生理用ナプキンがダイオキシ
ンを含まないようにすることだろう」(89年3月27日)
彼は早速FDAの本部に駆けつけて、関連のありそうなファイルを調べ始めた。見
つかったのは次のような報告である。 「タンポン・生理ナプキン・おむつ・その
他の医療用具のダイオキシン濃度を測定することが、十分な危険性評価のために絶対
必要である。FDAには、 このレベルのものを測定する能力がある」(87年8月8日)
うーん。何でこんな問題が5年間もお蔵入りしていたんだ! ファイルの山をかき回
すうちに、さらに色々なメモが出てきた。 (生理用品の製造会社である)「プレ
イテックス社が、自社のパルプ工場で実際にダイオキシンを検出していた」(89年3月
31日)
また89年8月2日のメモには、プロクター・アンド・ギャンブル社の代表がFDAの
本部を訪れ、タンポン・ナプキン・(下着の内側に取りつける)パンティライナーの
3製品がダイオキシンを含んでいると報告した、とあった。ウェイス委員長は妻の顔
を思い浮かべた。
その後、彼のスタッフが詳しく調べたところ、ダイオキシンと医療用具に関する最
終報告書から次の一文をFDAが削除していたことも分かった。
「最大のリスクは、タンポン製品から生ずるものかもしれない」[1]
● 10人に1人は子宮内膜症?
アメリカなどの成人女性は10%〜20%が子宮内膜症だと推定されている。タンポン中
のダイオキシンがこの病気と関係しているのだろうと、 コロンビア大学のベス・フィ
リアーノがインターネット上の論文「ダイオキシンと女性の健康」 で指摘している。
[3] 「ヒトではダイオキシンと子宮内膜症の関係に間接的な証拠があるだけだが、
アカゲザルではダイオキシンのレベルと症状の重さの間に強い相関がある。[4] これ
を考えてみると、ヒトでも両者の間に結びつきがあると結論するのが妥当だろう。タ
ンポンを使ってダイオキシンを取り込むのは、不要なリスクであるばかりでなく回避
できることだ。ダイオキシンを生殖系に直接取り込むのは、たいへん愚かしい行為だ
と思う」
子宮内膜症にかかると、子宮内膜の細胞が子宮以外の場所、たとえば卵巣・膀胱・
腹膜などに転移して増殖する。原因はよく分かっていない。もともと子宮の細胞なの
で、子宮以外の場所でも卵胞ホルモンによって増殖し、定期的に出血する。 激しい生
理痛などが現れる。不妊症の主な原因の一つは子宮内膜症である。
● 中毒ショック症(TSS)
もう一つの問題がタンポンにはある。中毒ショック症(TSS)と呼ぶ急性症状を
を引き起こすことだ。 1980年にタンポンが原因と思われる症状で38人の女性が亡くな
った。 これに関してタンパックス社などを相手取って集団訴訟が提起された。TSS
患者の99%はタンポンを使っている。
タンポンの吸収効率をよくするため、メーカーは以前からレイヨン繊維を使ってき
た。水分を吸収すると繊維がほぐれて、細かい繊維が膣壁にささる。すると傷ついた
場所で、いつもはおとなしくしているブドウ状球菌(スタフィロコックス・アウレウ
ス菌)が増える。菌の毒で高熱が出て血圧が下がり、嘔吐・下痢・筋肉痛などが生じ
る。死亡することもある。アメリカで年間216人(93年)から244人(94年)が発症し
ている。 とくに生理中のティーンエージャーに多く見られる。ただ統計に現れるのは
患者の一割ほどで、大半の人はインフルエンザと思って気づかないらしい。
● 塩素漂白が問題
タンポンがダイオキシンを含むのは塩素漂白に原因があるだろう。材料の綿も、レー
ヨンの原料になるパルプも塩素で漂白しているからだ。いま世界各地で製紙業の塩素
漂白を見直す動きがある。日本の大手の製紙メーカーは大半が酸素漂白に早くから切
り替えているし、ドイツでも半数以上が切り替えている。スウェーデンは 2000年まで
に排出する有機塩素の量を削減することを決めた。カナダのオンタリオ州・ブリティ
ッシュコロンビア州でも同様の法律が成立している。
消化管と同じように膣の内部は吸収の働きが非常に強いから、そんなところにダイ
オキシンを含んだものを使うと、どうなるか。
ナプキンや紙おむつも安心できない。メーカーによって構造は違うが、ナプキンの
装着面はメッシュ状のもの。その下が紙や綿。さらにその下に吸収材。一番下は漏れ
ないようにビニール状のもので出来ている。原料パルプなどにダイオキシンを含む可
能性がある。
ただし皮膚からの場合は、ダイオキシンを吸収しても多くが角質の部分にとどまり、
取り込み率が低いとされている。しかし経口の取り込みが大きいから、 合計量を考え
る必要がある。また残留性が高いから、そのつどの濃度ではなく、積算量で効果が現
れることも考慮しなければならない。ナプキンからの量が小さくても安全とはいえな
い。またナプキンやおむつからどれだけの量を取り込んでいるのか、何のデータもな
い。マロニー議員の法案にあるように、ダイオキシンをどれだけふくむのか、危険性
はどの程度なのか、まず調べることが必要だ。赤ちゃんのおむつについては成人より
ずっと影響を受けやすいことも考慮しなければならない。母親から胎児の受けるリス
クも高い。
どんどん使い捨てるのも感心できない。ある計算では、ひとりの女性が一生に使う
生理用品は1万個以上になる。 下水処理場で生理用品を一つ一つ取り除いている人の
ことも考えてみたい。
● 議会や市民の対応
FDAはメーカーの出してきたデータをうのみにして、タンポン問題を公表しなか
った。現在の時点でもアメリカやカナダの政府は明確な方針を打ち出していない。 こ
れに対して女性たちはどう対応してきたか。
89年、経緯の詳細は不明ながらイギリスでは女性からの手紙が5万通も議会に殺到し
たため、六週間で塩素漂白から過酸化水素を使った酸素漂白に切り替えている。
92年、ウェイス議員が調べたことをウォールストリート・ジャーナルが報道してい
るが、記事が目立たず大きな問題にならなかった。しかし気づいた女性たちは 「テラ
フェム」などの団体を組織して活動を始めている。
95年のカリフォルニア州議会でリズ・フィゲロア議員が、生理用品にはダイオキシ
ンによる危険性があると表示を付けよ、という法案を出した。これは否決されている。
続いて昨年7月、キャロライン・マロニー下院議員が「女性の健康とダイオキシンに
関する法律」案を提出した。現行法を改正して、
「タンポン中のダイオキシンは女性の健康にどの程度の危険を及ぼしているのか、子
宮頸ガンの危険性を含めてその程度を確定するための調査を、 国立衛生研究所長は実
施するか、調査を助成しなければならない」
という条項を付け加えることを求めている。この法案は、いま継続審議となってい
る。またカナダでも同様の法案を準備中だ。
● 美しい無漂白の代替品
議会をめぐる動きだけでなく、市民も多くの運動を繰り広げている。大学生を中心
にタンポン不買(バイコット=コットンを買おう)運動をしているし、 女性団体が政
府機関や企業に働きかけたり、無漂白の代替製品を作って頒布したりしている。運動
体以外の女性たちからも多くの反応があって、自分はTSSではないんだろうか、私
は皮膚が弱く普通の生理用品はだめなので無漂白の製品に変えたなど、色々の発言が
ある。
カナダ・オーストラリアでも同様の運動が組織されているし、北欧でも無漂白のタ
ンポンやナプキンが頒布され成功している。 カナダ・アメリカ・イギリスには代替の
無漂白タンポンなどを作って頒布している団体がいくつもある。「ダイオキシンと女
性の健康」の論文を載せている 「テラフェム」(地球の女たち、という意味か)のほ
か、「ウーマンカインド」、「メニームーン」(何か月も使えるという意味)、「ナ
テュラケア」など。まだ他にもある。キューバでもこの問題に取り組んでいる女性た
ちがいる。
無漂白のタンポン以外に、布製パッドも作られた。下着に留めるタイプのほか、ひ
もで腰に留めるタイプのものもある。これは昔あったような実用本位のものではなく、
華麗さや楽しさを追求したものになっている。例えばメニームーンのパッドは、「ワ
イルド」は豹の模様が入った野性的なもの、「パステル」は花柄のもの、「オーガニ
ック」は無漂白の綿布を使った美しいものだ。水につけておくためのボトルや、パッ
ドを入れておくケースも開発されている。
使ったあとは二時間ほど水につけて普通に洗濯したらいい。
● おわりに
アメリカ・カナダのメーカーが危険性を知りながら、塩素漂白をやめようとしない
のはコストの問題が大きいはずだ。やめるとダイオキシンの危険性を認めたことにな
ってしまうということもある。代替法は酸素漂白だろうが、それで問題が解決するか
といえば未解明の点がある。たとえば水道の原水を処理するのにオゾン処理を使うと、
いろいろ正体の分からない酸化物が発生する。
日本の製品は安全なのだろうか。アメリカのメーカーがたくさんの製品を売ってい
るし、綿の漂白に塩素漂白を使っていないかどうか、タンポン中にレーヨンを使って
いないかどうかなど、問題は多い。また真っ白に漂白する必要はないし、使い捨てる
量にも問題がある。[5]
京都在住の方が調べられた結果では、日本製のタンポンもレーヨンを使っている。
綿は原綿メーカーが塩素漂白したものを使っているようだ。アメリカの問題がそのま
ま日本にも当てはまる。ナプキン・紙おむつの漂白についてはいまのところ(6月末
現在)分かっていない。6月12日付けで厚生省生活安全対策室に質問を出したが、 こ
れまで何の回答もない。ダイオキシンが問題化しているいま、回答しないこと自体が
何かを物語っていないだろうか。
昨年春アメリカで、テオ・コルボーンなど科学者三人の共著『奪われし未来』(ア
ウア・ストールン・フューチャー)が出版された。ゴア副大統領が序文を書いている
こともあって大きな話題になった。ダイオキシンや有機塩素系殺虫剤、PCBといっ
た物質がごく微量でホルモンと同等の働きをし、内分泌を攪乱して動物の繁殖力を弱
めているというのが、この本の論点だ。子宮内膜症の発生メカニズムも自然が描いた
「奪われし未来」のシナリオの一つだろう。[6]
[1] カナダのウェブサイト「テラフェム」中の記事などによって再構成。
[2] 資料の大部分はインターネットを通じて入手。
[3] この論文は原サイトの了解を求めて抄訳してある。
[4] 『朝日新聞』97年1月13日朝刊。
[5] 日本消費者連盟関西グループの調べでは、日本の消費量は九割がナプキン・一割がタンポンという割合。これに対して欧米では四割がナプキン・六割がタンポン。アメリカの統計は七割がタンポンである。国民性の違いだという。
[6] ダットン・ブック(ペンギン・ブックス)96年3月刊。翔泳社から97年9月翻訳出版刊行。