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http://medwave2.nikkeibp.co.jp/wcs/med/leaf?CID=onair/medwave/tpic/262365
今年3月から4月にかけ、香港・九龍地区の大規模マンション群「アモイガーデン」で起こった重症急性呼吸器症候群(SARS)の集団感染において、クマネズミが感染の拡大に寄与した可能性がある−−。そんな大胆な仮説が、Lancet誌8月16日号に掲載された。香港政府の公式見解には反する仮説だが、一定の説得力もあり、今後議論を呼びそうだ。
この仮説を発表したのは、米国Columbia大学疫学部門のStephen K. C. Ng氏。アモイガーデンの集団感染では、たった一人のSARS患者を発端に267人が、二次感染も含めると321人が次々とSARSに感染した。感染者の居住ブロックには偏りがあり、縦方向、特に上方向への感染の広がりがみられることから、香港衛生省は「下水から浴室へのエア逆流が主因」との見解を発表している(関連トピックス参照http://medwave2.nikkeibp.co.jp/wcs/med/leaf?CID=onair/medwave/tpic/243013)。
この見解に対しNg氏は、発端者から直接感染、発病したとみられる267人の大半は最初の12日間に感染しているが、下水からのエア逆流だけではこれだけの数の集団感染が起こるとは考えにくいと強調。さらに、最も感染者が多いBブロックでは「発端者と下水槽を共有しないユニット」の方が感染者が多い(横方向への感染拡大)、他の香港地区の患者より重症例が多いなど、エア逆流説では説明が付かない点が多々あると指摘した。
その上でNg氏は、ビルの上層階を行き来する特性を持つクマネズミがSARS感染を媒介したと考えると、こうした矛盾点の多くは説明できると提言。下水管などに加え、同マンションの浴室の窓の外に設置された物干し綱が、横方向へのはしごのような役割を果たして異ユニット間のクマネズミの往来を可能にしたと考えられるとした。
この仮説の最大の弱点は、アモイガーデンで捕獲されたクマネズミからは、SARSウイルスや抗体が検出されなかったこと。また、現在までにSARSへの感染が確認された野生動物は食肉目のハクビシン(ジャコウネコ科)とタヌキ(イヌ科)だけで、クマネズミ(ネズミ科)などげっ歯目に対する感染例は報告されていない。
Ng氏はこの弱点を認めた上で、SARSはコロナウイルスであり、アモイガーデンの事例では、ネズミに感染する種類のコロナウイルスとネズミの体内で共存したことで、ネズミと人間の両者に感染する新種ウイルスへと変異したとの可能性を提示。こうしたことが起こり得ることを文献的に示した上で、アモイガーデンのSARS患者は他よりも重症である(SARSウイルスが変異していた可能性がある)ことに加え、アモイガーデンで捕獲・検査されたクマネズミはわずか数匹であり、クマネズミ説を完全に捨て去るには根拠が弱すぎると暗に示した。
これまでに報告されたSARS集団感染の大半は、院内などによるヒトからヒトへの飛沫感染。明確な接触を介さずに生じた環境媒介感染は、このアモイガーデンと香港のホテルで起こった集団感染事例だけだが、いずれも被害は甚大で、今後の同種集団感染を確実に防ぐ意味でも「接触を介さない感染」がなぜ生じたかを解明する意義は大きい。
感染様式の解明に向け、Ng氏は今回の感染者に対する詳細な疫学調査を行うことを提言している。仮にクマネズミが感染を一部でも媒介したとすれば、同一家庭内でも、より朝早く起きる人(クマネズミは夜行性で、ウイルスが分泌された糞や尿に接触する機会は朝早く起きる人の方が多くなる)や家に留まる時間が長い人、床に接触する機会が多い乳幼児などに感染者が多いとの傾向が見られるはずだからだ。さらに、今後同様の環境媒介感染が起こった場合は、駆除前にクマネズミなどを捕獲して、全数に検査を行うべきだとしている。
この論文のタイトルは、「Possible role of an animal vector in the SARS outbreak at Amoy Gardens」。現在、全文をこちらhttp://www.thelancet.com/journal/vol362/iss9383/full/llan.362.9383.editorial_and_review.26843.1で閲読できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。(内山郁子)
■ 関連トピックス ■ 2003.4.21 【SARS速報】香港のSARSマンション集団感染、下水から浴室へのエア逆流が主因か
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