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マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン
シニア・エクスパート
川本 裕子 氏
聞き手 編集局長 島田 一
――りそなに対する予防的公的資金注入には、賛否両論ある…。
川本 そもそも102条1項の適用が正しかったのか、疑問がある。自己資本比率が4%割れをしたのであれば、金融行政としてはまず早期是正措置を取るべきだったのではないか。早期是正措置後に金融危機の兆候が出たのであれば、102条の発動は適切と考えられるが、りそなの例をみていると、102条の発動にジャンプインしてしまった印象がある。当該銀行の業務地域において信用不安が生じるおそれがあるときという102条の適用要件に、りそなは該当していたのか。特に海外に大きく展開している銀行でもなく、預金は全額保護され、これだけ日銀が潤沢に資金を供給している状況で、本当にシステミック・リスクというものが現実的であり得たのか、検証が必要なのではないか。
――長銀や日債銀にしても、行政がぐしゃぐしゃとやってよく分からなかった。そういう対応が目立つ。
川本 行政については、コンティンジェンシー・プラン(危機対応策)がきちんと練られていない印象を受ける。平常時であれ、危機対応であれ、Aという事象に対してはBという事象が起こるだろう、とごく自然に導き出される事象の帰結に対して、いろいろなケースを想定して準備をしておくことは必要なことだ。過去の行政の検証がないために、物事が科学的に判断されない。そこに行政への信頼が阻まれる要因があるのではないか。また、なぜ株主責任を問わないのか、資産の再査定をしないのか、合併の認可からたった二カ月後にどうしてこのような事態を引き起こしたのかなどについて行政は説明責任を負う。今後、より国民負担を少なくするために、過去の検証をし、学ぶことは大切だ。
――プロセスが不透明ななか、こういう結論を下して、本当にいい銀行に変貌できるのか心配だ…。
川本 細谷新会長がおっしゃっているように資産の再査定をして現実を見極めたうえで、体制作りにみんなで知恵を絞ることが重要だ。ベースがきちんとしていないと意味を成さない。まず、秋にかけて資産の再査定をし、今の状況や組織についてのファクトを見極めて、それをもとに来年度に向けて新たなプランを作るというのが実務的には現実的な路線だろう。事業設計の見直しにおいて、奇策はないのではないか。多くの人が「新たなビジネスモデル」という言葉に踊らされているが、これをやれば解決する、というような万能な策はないと思う。これまで怠ってきたことを直すというような地道なことから始めれば、コスト側の効果は早いうちに表れるだろう。
――今の金融行政は、公的資金を注入すると同時に中小企業に貸せとか注文をつけ、がんじがらめにしてしまう。むしろ自由にやらせば、企業のダイナミズムももっと出てくると思うが…。
川本 経営手法に自由度を与えることが必要だ。これまでの健全化計画は細かく規定しすぎて、かつそれぞれの目標が整合的でなかった。「金融社会主義」とよく言われてきたが、行政の力を過信しすぎているところもあると思う。金融に限らず、日本では市場規律とか、市場原理というものがあまり理解されていないと思う。資本主義はある一部の、競争の激しい規制がない産業においてはよく浸透しているが、多くの分野では理解されていると言い難い。市場原理主義といっても、聞いてみると内容は自分のコストを自分の収入で賄うとか、貸したお金は返してもらうとか、ごくごく普通の話を市場原理主義だと呼んでいたりで、必ずしも成熟していない議論も多いように思う。
――デフレにも問題はある。
川本 全般として易しい状況でないのは確かだが、デフレであっても、インプットよりもアウトプットのほうが多ければ、ビジネスは成り立つ。デフレだからすべての金融業が成り立たないということはない。ただゼロ金利は厳しい。全般的なマージンが小さくなるので、融資してもサヤが出にくいし、預金をおいてもらってもコストをさしひくと赤字になってしまいがちだ。
――デフレを解消するためには何をすべきか…。
川本 デフレという状況に金融政策面での対応は限られており、日本の産業の生産性、企業の生産性を上げない限り、経済の成長はない。もっと規制改革を進める、産業側の生産性を高める、労働市場を自由化する、といったことが必要になってくる。奇策を講じても、今の日本政府の問題は実行力に対しての信用がないということ。だから、奇策をとるとそれを逆に止められなくなるのではないか、という国民の不安感のほうが強いと思う。構造改革は小泉政権による大きな転換だった。計画や工程表は作ったものの、道路公団の問題をみても、公団の財務諸表ひとつの問題であれだけの時間を費やし、答申を出した段階からほとんど何も進んでいない。にもかかわらず、もう構造改革路線を転換すべきだという議論が出てくるのは理解し難い。
――非伝統的な金融手段でデフレが直ってしまうと、その瞬間に構造改革が止まってしまうという懸念もある…。
川本 わたしにはそれでデフレが解決するとは思えない。今の状況は、将来に対する不安感があって、将来が買えないという状況だ。例えば株式市場をみると、最近は若干持ち直しているが、みんなが不信感を持っている。それは、このままでいくと、将来この国の景気が良くなるという見通しが立てられないからだ。だから、その構造を直さない限りは、多少の対処療法では、決して長期的な景気の伸びにはならないのではないか。
――少しくらい物価が上がるかもしれないけれども、本当の正常な姿ではないと。長期的な伸びをもたらすものは…。
川本 一人ひとりがすべきことをなしている、といえるだろうか。例えば金融行政は金融庁の仕事、マクロの金融政策は日銀の仕事、などそれぞれが着実に責務を果たすことが必要だ。今はまだ個人資産などに余裕があるため、問題を解決しなくても、10年程度はやり過ごせる危険性があるが、それでは子どもたちの世代にツケを回すだけだ。これから徐々に経済が悪くなると見込まれるなかで、一番心配なのは若年層の失業率が挙げられる。14〜25歳で10%を超えており、高校を卒業した1割、大学を卒業した2割の人に仕事がない。日本は資源がなく、人材は欠かせない。教育が大切なのはもちろんだが、学校を卒業した若い人たちを社会に受け入れて、OJTで鍛えるというのがまず一歩。45〜55歳のホワイトカラーの男性の失業率は4%に満たないのに、中高年の雇用を守るという構造により、若年層において人的な資源の蓄積ができずにいる。しかも、財政赤字はじきにGDPの150%を超えると見込まれ、現在の状況が維持可能だとは思われない。みんなが自分の問題として、解決策を考えるということが最も大切だと思う。答えはまだどこにもない。 (了)
【川本氏略歴】
東京都生まれ。東京大学文学部社会心理学科卒業、オックスフォード大学大学院経済学修士課程修了。昭和57年旧東京銀行入行、同63年マッキンゼー東京支社入社。金融庁顧問、金融庁金融審議会委員、道路関係四公団民営化推進委員会委員などを務める。主な著書は、「銀行収益革命」、「日本金融 再生への提言(共著)」(いずれも東洋経済新報社)。