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「選択」2003年6月号
【注目記事】「りそな再生」の大ペテン
http://www.sentaku.co.jp/keisai/zenbun.htm
■官民共謀の「究極の粉飾」
2002年3月期以降は「粉飾の確信犯」?
実質国有化が決まった五月十七日、勝田泰久りそなホールディングス(HD)社長は記者会見に臨み、無念やるかたない表情で捨て台詞を吐いた。
「監査法人の背信行為だ」
よくぞ言った。「背信」という言葉に本音が滲んでいる。だが、敗者勝田の呻き声は、りそなと金融庁の間に横たわる闇を白日のもとに晒し、他行も巻き添えに日本の金融システムという虚構の家を崩す号砲になりかねない。
勝田の一言が示すのは、まさに「イービゲ・ゲステルン(永遠の昨日)」。すべては元のまま、りそなHDとりそな銀行の自己資本水増しは、二〇〇三年三月期も例年と同じく金融庁がお目こぼししてくれるはずだった。
ゴールデンウイーク前、「なんとかなりそうです」と勝田に報告をしたのは岩田幸夫りそなHD財務部長だという。昭和四十六年、富山大経済学部卒の岩田は下積みの苦労人。同僚によれば、「勝田の言うがままに仕事をさせられてきた典型的サラリーマン」という。
一九九五年九月に発覚した大和銀行ニューヨーク支店の債券取引絡みの巨額不正損失事件以来、旧大和銀行の決算はすべて岩田任せだった。「決算、財務関係は『岩田マター』になっており、旧あさひ銀行関係者はもとより、旧大和の企画部門でさえ、岩田さん抜きでは実態がつかめなかった」そうだ。
もとより、岩田に個人的な野心があったわけではない。むしろ部下からは慕われている。デスクは大阪の本店の大部屋にあり、役員年次がとうに過ぎても役員になっていない。「勝田から、この数字は何とかならんか、と言われると、何とかするのが岩田の役目だった」と同行関係者も言う。勝田の命を忠実に守っただけの岩田は、実質国有化が決まった今はむしろ観念したようにサバサバした表情をみせている。
「究極のバッドバンク」の倒錯
個人商店ならともかく、これが国内第六位の規模を誇る大手銀行の実情というから驚く。個人商店並みの粉飾経営を続けてきた勝田こそ、預金者、株主、そして納税者を欺く「背信」の経営者だったのではないか。旧大和の財務のひどさを知った旧あさひ銀行幹部からは昨年末以降、統合反対の声が高まり、竹中平蔵経財・金融相も三月統合の白紙撤回を一時、真剣に考えた。
「融資の担保掛け目を八割に落とせ」「不透明な大口融資先を何とかしろ」。昨年末の大和に対する通常検査では、金融庁の検査官も勝田大和の問題点をぎりぎり指摘した。ところが年明け後、スジ論は立ち消えになり、三月には優先出資証券さえ発行させている。
「勝田が森昭治前金融庁長官(現顧問)に働きかけ、延命を図った」と関係者は口をそろえる。森が動いたのはほかでもない。前回、九九年三月の旧大和に対する公的資金(優先株)の注入に際して、反対論を押し切ってゴーサインを出したのが当時、金融再生委員会事務局長だった森本人だからだ。
「日本長期信用銀行との合併を蹴った住友信託銀行に対して極めて厳しいハードルを課す一方、旧大和には高い下駄を履かせて公的資金を入れたんです」と、金融再生委の事務方だったひとりは、当時の森事務局長の匙加減についてそう語る。
旧大和は信託分離で旧大蔵省の命に従わず、冷や飯を食わされてから、政治や行政に上目づかいする根性がしみついた。安部川澄夫元頭取と三重野康元日銀総裁のパイプが代表で、住友や三和が東京に傾斜していく中で「関西に基盤を残す都銀」を売りに生き延びてきた。九五年のニューヨーク支店事件以降、行政や政治との折衝を一手に担った勝田の下で、霞が関、永田町頼みのDNAは一層強まったようだ。
金融当局が大和をつぶせなかった理由の一つは、大和の信託兼営だ。ファンドトラスト問題に象徴される信託は何が飛び出すかわからないびっくり箱。大蔵省が一時演出した住友銀行との合併話でも、旧大和が存続会社とされていたことは象徴的だ。
つぶせないなら、いっそ「問題銀行のゴミ溜め」にしてしまえ。森ら金融当局者はそう決意し、勝田もその道を選んだ。債権分類でもたつく不良債権処理を加速させるため、金融機関ごとに「グッドバンク」(健全行)と「バッドバンク」(不健全行)に分けて,後者を塩漬けまたは清算する手法を下敷きにしたものだが、それを逆手に取って、ゴミ溜めが存在理由という「究極のバッドバンク」の倒錯ビジネスモデルが生まれたらしい。
メガバンクの陰画とも言えるこの延命術に、中央信託銀行(現三井トラスト)も乗った。中央信託は旧北海道拓殖銀行というゴミを拾い、三井信託銀行と統合したのだ。片や大和は近畿大阪銀行、奈良銀行などのゾンビを呑みこみ、あさひとの統合の道を走る。「メガバンクは何で評判の悪い増資にあくせくするのかね」。あさひとの統合直後の勝田は自信満々の表情で語っていた。
監査法人「ハチの一刺し」で瓦解
だが、ゴミを溜めるばかりで利益を生まない「究極のバッドバンク」という粉飾の虚構は、監査法人によるハチの一刺しで消し飛んだ。新日本監査法人が連休明けの五月六日に、税効果会計による自己資本のかさ上げを将来の納税見込み額三年分についてしか認めないと通知したからだ。新日本の重松孝司代表社員がりそなの大谷昭義常務執行役員に宛てた通知状には、こう記されている。「(実際の収益が)計画を下回るリスク、及び四、五年目の不確実性を考慮して(納税見込み額の)三年分を合理的期間として判断する」
新日本は旧大和の監査を担当していただけに、旧大和関係者はハチの巣をつついたような騒ぎになった。税効果資本を三年分に圧縮されては、自己資本比率が四%を割ってしまうためだ。だが、実際には三年分でさえ甘い。りそなの収益計画は絵にかいた餅であり、そんな収益計画に基づく自己資本など意味をなさないからである。
二〇〇三年三月の優先出資証券の発行に際して、りそなHDは信じられない業績見通しを示している(冊子「安定的な財務基盤の構築に向けて」)。〇二年度末(見込み)では持ち株会社と傘下銀行の合計で六百六十九億円の剰余金が、〇五年度には約九千三百億円にまで増加する――というのだ。
旧あさひ銀行を担当していた朝日監査法人は旧大和の財務内容の悪さに青ざめ、身を引いた。四月二十二日の本部審査会でりそなの繰り延べ税金資産の全額否認を決め、同日にりそなと新日本に通知したのだ。朝日は四月三十日の段階で監査依頼の辞退を正式に伝えた(岩本繁理事長名の五月二十日付「りそな銀行関係報道について」による)。
朝日の監査辞退と絡んで、朝日の第一事業部の平田聡シニアマネジャー(三十八歳)が四月二十四日に自宅マンションの十二階から転落死を遂げている。平田シニアマネジャーは旧あさひ監査チームのひとり。
今回のりそなからの監査依頼を受けた朝日側のチームのキーパーソンだった。
りそなの債務超過の実態を明らかにする資料を作成し、自らりそな破綻の引き金を引くのを苦にした自殺――。こんな報道が多いが、腑に落ちない点がある。彼は金融監督庁と金融庁に二年半ほど出向し、検査官も務めていたからだ。平田シニアマネジャーのかつての上司は現在、りそな担当の上條崇統括検査官だという。勝田に向かって彼は「何としても決算を乗り越えてください。運命共同体ですから」と語ったとも伝えられる。
「少なくとも二〇〇二年三月期以降、大和首脳部は粉飾の確信犯」とみるりそな関係者の感触が正しいとすれば、平田シニアマネジャーは通常の監査業務を超えた深い闇に吸い込まれた可能性が否定できない。
朝日監査法人は提携先のアンダーセンが米エンロン破綻のあおりで解体を余儀なくされ、信頼が傷ついた。それを取り戻すためにも、岩本理事長は実態をきちんと検証すべきではないか。
りそなに話を戻そう。新日本から税効果資本の圧縮を求められた勝田は、得意の裏工作をフル稼働させた。勝田本人が旧知の新日本の竹山健二理事長にトップ交渉を持ちかけたのだ。竹山はニューヨーク支店事件以降、監査を担当し、勝田と親しい。金融庁の事務方も呼応し、「自己資本比率四%割れ阻止」に動く。この結果、新日本が出し直した数字は四%割れをぎりぎり免れる「四・一%」に変わっていた(東京新聞五月二十日付)。
語るに落ちた「電話メモ」の共犯者
が、その間の闇を暴く「電話メモ」(五月十日付)が出回っている。りそなの大谷常務執行役員と金融庁の鈴木正規銀行第一課長とのやり取りをりそな側が記したものだ。記された鈴木の言葉は「いかにも主計畑」を思わせる横柄さだが、関係者が各方面に内部告発した資料の一つで、怪文書ではない。
大谷 「監査法人が(税効果資本を)三年分にすると言い張り譲らない」
鈴木 「そんなたわ言に耳を貸す必要はない。どうして三年と言っているのか」
大谷 「朝日は裸の自己資本が二%以上(にとどまる)場合に一年という原則論に固執している。税効果を算入しなければゼロと主張している――と(新日本に)開き直られた」
こうしたやり取りの後で、自己資本比率四%割れを防ぐ、税効果資本の四年分は次のようにはじき出された。
大谷 「朝日は共同監査を降りることになると思う。五年は無理でも四年認めてもらえば、金融庁に迷惑を掛けなくて済むのだが」
鈴木 「四年あれば大丈夫なのか」
大谷 「ギリギリの結果を作れる」
鈴木 「それなら四年にすればいい」
大谷にとって金融庁のお墨付きを得ることが死活問題だった。「金融庁の判断ということでよいか」という念押しに対して、「結構だ。上の方にはうまく説明しておくから、監査法人を至急説得するように」という回答を得てホッとしたか、「いつもご配慮いただき、感謝の言葉もない。勝田になりかわってお礼申し上げる」とも述べている。
語るに落ちた。勝田体制と金融庁事務方との二人三脚――共謀ここに極まれり。監査への干渉を強く戒めた竹中金融相の指示に鈴木課長は反している。彼の独自判断ではなく「上の方」の意向を体現しているのだろうから、高木祥吉金融庁長官と森前長官こそきっちり責任をとってもらわねばなるまい。
りそなの崩壊と実質国有化で、粉飾を制度化した「究極のバッドバンク」の命脈は絶たれた。預金保険法一〇二条適用への道筋は、旧あさひによる勝田打倒クーデターとの見方もある。「背信」という勝田発言が、長年の運命共同体を形成していた金融庁事務方に向けられているとすれば、森「名誉」長官も天下りによる敵前逃亡など許されるべくもない。
が、この期に及んでも勝田は悪あがきをやめない。即日辞任を求められると「代表権はいらない」「破綻ではないのだから、退職金ゼロは呑めない」などとゴネたという。金融庁には、問題地銀のゴミ捨て場に甘んじてやった貸しがある、という開き直りだ。
勝田に真相を洗いざらい喋られては困ると、金融庁事務方も考えたのだろう。「優先出資をお願いした顧客にお詫びをしたい」などという理屈を容れて、勝田を六月十日まで取締役に残した。勝田はいま政官界人脈をフル稼働させ、りそなに影響力を残そうと必死だ。実態がそのまま表に出れば、粉飾の責任を問われかねず、優先出資先から民事訴訟も起こされかねないのだから。
勝田は懐刀で、本来なら引責辞任をまぬがれない中島喜勝りそな銀行取締役企画部長を、りそなHD副社長に送り込むのに成功した。
魚心あれば水心あり。高木長官が「公的資金の導入にあたってりそなの資産の再査定をする必要はない」と繰り返すのも、バッドバンクの実態が表面化するのを恐れてのことだろう。業務純益十数年分に相当する二兆円もの公的資金を注入するからには、「勝田―森」体制の旧悪に目をつぶることは、とても問屋が卸すまい。
竹中金融相が税効果会計に仕込んだ「時限爆弾」が爆発したといわれるが、敵の多い竹中氏がここで中途半端な妥協に応じれば、りそな問題は確実に政局化する。勝田は連立与党幹部とも親しい。民主党はすでにたっぷり資料を用意して、手ぐすねを引いている。この点では、自民党内の抵抗勢力も民主党と利害が一致する。実質国有化決定後に、りそな経営陣が外資系証券を財務アドバイザーに選び、反竹中派の攘夷論に火をつける公算もある。
三井トラストもあわやの火花
木村剛KPMGフィナンシャル代表ら竹中チームも、銀行を追い詰めることはできても、再生させるビジネスモデルを持たない弱みがある。銀行過剰(オーバーバンキング)と超低金利のもとでは、不要な銀行を間引く「清算」しか手がない。それを抜きに公的資金を注入してりそなを生き延びさせても、永遠に収益があがらず、今回の公的資金が新たな不良債権と化すリスクも無視できない。そればかりではない。りそなが税効果会計による自己資本水増し問題に改めて火をつけたことで、他の大手銀行の財務内容にも再び大きな疑問符が付けられる結果となった。りそな並みに税効果資本を三年分までとして試算すると、四大金融グループのうち、みずほ、UFJ、三井住友の「三弱」の自己資本比率は八%を下回るとの見方が金融アナリストの間では一般的だ。
大村敬一早稲田大学教授(前内閣府官房審議官)の試算によれば、大手銀行の貸倒引当金の引き当て不足額は八兆円。この試算では、三井住友には二兆円もの引き当て不足が生じている勘定になる。株式市場ではみずほが次の標的になるとの見方が強いが、「三弱」はどこが狙われてもおかしくない。
足元では、もう一つの爆弾、三井トラストが破裂しかけていた。三井トラストの監査法人が二〇〇三年三月期決算の承認をしたのは、決算発表の五月二十六日の直前。繰り延べ税金資産を四百四十億円圧縮したが、中核自己資本に対する割合は一〇〇%と目いっぱいで、「第二のりそな」回避にぎりぎりの攻防があったようだ。
そして生保。竹中金融相がりそなを債務超過に認定できなかった最大の要因の一つは、りそなに劣後ローンを拠出し、りそな株を保有する朝日生命の存在。「銀行の最も弱い環」が切れた今、銀行と生保の持ち合い構造は「生保の最も弱い環」を直撃しかねない。西川善文・三井住友フィナンシャルグループ社長が三月決算発表の席上、三井生命を傘下に収めることに「ノー」を表明するなど、ほころびは修復不可能なところにきている。
竹中チームが開けたパンドラの箱はもう閉じない。「破綻」を「再生」と言いくるめ、個別行へ公的資金を逐次投入するだけでは、日本の金融は対症療法の泥沼から脱せない。小泉首相は金融危機対応会議を再度開催し、金融全体が危機だと宣言するべきではないのか。忍び寄るメルトダウンまで、もはや時間は残されていない。
(敬称略)