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こちらのサイトを拝見していますと、社会経済現象を、寄生者と宿主などに代表されるダイコトミーで片付けたり、何かというと世界金融資本という悪玉を持ち出したりと、安易に「答え」を出そうとされる方が多いようですね。確かに現在行われている経済現象の理由付けをあえて行おうとすれば、国家・宗教・結社・経済システムの歴史的史実を持ち出して、それらしい「説明」をつけ、納得したい向きには安易な「理由」を授けることができるでしょう。
しかしどうも小生考えるに、人間の営みの歴史的遷移というものの根底にあるのは、世界資本とか特定の宗教民族の陰謀とか策略といった、人間の前頭葉でこねくりまわせるレベルの理論ではないと思うのです。
たとえば、南方熊楠が研究した粘菌というものがあります。拙宅の松の切り株に付着していたものをしばらく眺めていた時期がありましたが、あれは本当に興味深い生物ですね。粘菌というのは、通常えさが豊富な間は、アメーバのような単細胞生物として、個々に独立して活動しています。しかしえさが少なくなると、独立して動いてた無数のアメーバが合体して、見事な子実体(フルーティングボディ)を形成し、ちょうど小型のきのこのようなかたちになって、胞子を出し、それが再び単細胞生物として動き出すといった具合に変化します。熊楠は、もっぱら、これはいったい植物なのか動物なのかということに興味を持ったようですが。
ここで重要なことは、個体の状態にある粘菌に、リーダー格が見当たらないことです。つまり、子実体の形成は、トップダウンで行われているのではなく、完全なるボトムアップ現象であるわけです。アリのコロニーなんかもこれと同じで、個々のアリは非常にローカルで単純な意思決定(アリで言えば隣のアリが何をしているかとか、1分間に出会うアリの数が多いか少ないかなど)を行っているに過ぎないのに、コロニー全体を見ると、実に複雑な社会を形成しているわけです。アリの場合、女王アリなるものがありますが、彼女には政治的権力は一切なく、コロニー全体で何が行われているかなど知る由もありません。
さて、粘菌や社会性昆虫に限らず、非常に複雑な現象でも、実は単純なロジックで動く無数のパーツによってもたらされている、このことをエマージェンスといいますが、これはコンピュータで簡単にシミュレーションできるわけです。数学ソフトのMathmaticaの開発者、ウルフラムが自費出版したNew Kind of Scienceという本で彼は、この宇宙全体はごく単純なロジックの無数の繰り返しによってもたらされた産物であり、原理的には、映画「マトリクス」のそのまま。最終的には0か1かというデジタル情報に還元できるとしています。
このようなデジタル物理学の立場で経済現象を考察すると、経済活動というのは、粘菌でいえば子実体のようなもので、人口密度がある一定以上の規模になったときに生じるエマージェンスであり、どのような形態の経済システムであれ、そのルーツは、宇宙そのものを規定している方程式というかコードに帰着するはずです。まあ、単純にいえば決定論というか自由意志の否定ということじゃないかと言われればそれまでですが、これからの社会経済理論の考察においては、安易な陰謀論ではなく、ボトムアップ現象として、エマージェンスとしての現象認識が求められていくと思います。
デジタル物理学については:
http://www.tranztec.co.jp/Science/GodistheMachineJP.htm