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[QUICK]「このままでは大変なことになる」伊藤元重・東大教授
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投稿者 Ddog 日時 2003 年 5 月 15 日 23:02:17:gb2b4T9TetGkU

(回答先: [QUICK]「高まる景気見殺しのリスク」UFJ総研・嶋中雄二氏 投稿者 Ddog 日時 2003 年 5 月 15 日 22:56:14)

「このままでは大変なことになる」伊藤元重・東大教授
2003/04/10木曜日11:50

低迷を続け、デフレの出口が見出せない日本経済。問題と対処法は何か。複数の有識者に現状と展望を伺った。今回は、伊藤元重・東京大学大学院経済学研究科教授です。

「このままでは大変なことになる」伊藤元重・東京大学大学院経済学研究科教授

戦後、目覚しい経済成長を遂げた日本経済は、あらゆる面で右肩上がりを前提とした経済構造を作り上げた。公共投資や地方自治体への補助金など支出重点のバラマキ財政、終身雇用や年功賃金制度、過剰融資・過剰債務を生み出している間接金融偏重の金融システムなどは、経済が急成長して企業や国民の所得が増え続けている時代に上手く機能する仕組みだ。それが、低成長で不確実な時代に入って通用しなくなっている。日本経済はまさに歴史的転換期にある。

日本経済の長期低迷がこうした構造問題から来ているのは明らかだ。金融について言えば、銀行の国内向け融資額は、対GDP比で80%を超える水準にある。過去の債務比率や海外の状況を考えると、これは明らかに過剰債務だ。その結果として、過剰企業、過剰供給の状態が継続し、デフレを深刻化させる結果となっている。企業は過剰債務を抱えたままでは積極的な投資に踏み切れない。構造問題にメスを入れなければ日本経済はいつまでたっても低迷から脱却出来ない。ただ、長い歳月を経て構築された社会システムは簡単には変わるものではないから、構造問題には5年、10年という長期戦で取り組んでいくしかない。革新的なリーダーが現れて、魔法の杖で短期間に社会システムを変えてしまうことを期待するには無理がある。

とは言え、悠長に構えていられないのが日本経済の現状だ。デフレをこのまま放置しておくと本当に大変なことになる。デフレには麻薬的なところがあるから、一見するとモノの値段が下がることは良いことのように思えるが、モノの値段だけでなく賃金も企業収益も下がっていく。そうなると、多くの企業が破綻し、失業が増大する。さらに、政府の巨額債務と企業セクターの過剰債務という日本の抱える2つの大きな債務が破裂寸前の状態に来ている。ラスパイレス指数の抱える歪みなどの結果、物価指数は現実の物価変動よりも1%程度高めに出る傾向があるから、マイナス1%程度のマイルドなデフレと言われる日本の物価は、実際には2%を超える勢いで下がっていることになる。

2%の物価下落で、先ず、およそ700兆円と言われる国と地方政府の債務は、新たな国債発行を除いて考えても、1年で14兆円相当の実質額の増加となる。デフレで消費税の全税収が消える計算だ。デフレ下では、通常の増税や支出削減によって政府債務を減らすことは難しく、財政再建は不可能に近いと言えるだろう。次に、1兆円規模の債務を抱える企業にとって、2%のデフレは200億円相当の債務の実質増となる。これは企業の利益に匹敵するほどの大きさだ。企業の過剰債務は必ずしも不良債権ではないが、デフレが続けば次々と不良債権化していくだろう。今の日本経済にマイルドなデフレと共存する余裕はない。

政府債務に付言すれば、政府債務GDP比率は140%と現在も高水準だが、このままデフレが続けばさらに比率は高まり、財政破綻のシナリオが現実味を帯びてくる。財政破綻とは国債が暴落するような事態である。「不況下で民間資金需要が旺盛ではないので、国内余剰資金は今後も国債市場に流入する。その結果、低金利状態が続き、国債価格は下がらない」との見方もある。しかし、これは50年、100年前の議論だ。今の経済学の世界では、「金利はフローの資金の需給で決まるのではなく、ストックのポートフォリオで決まる」というのが通説だ。これだけの低金利となっているのは、デフレを見越したまさにマーケットの思惑によるものだ。民間の資金需要が弱いから余った資金が国債に流入しているということではない。グローバルの時代に余剰資金が日本の国債にすべて吸収されるという理屈は成り立たない。むしろ、歴史的にもこれ程低い長期金利というのは、非常に危険な兆候と考えるべきだ。今後長期にわたって超低金利が続くということはあり得ないだろう。

病的な形で物価が下がっているのは先進国では日本だけだ。その意味で、デフレの問題というのは、基本的には構造調整の中で起こってくるマクロ経済の病理と言える。デフレを阻止しないと大変なことになる。厳しい経営環境の中でも増益企業は増えており、こうした企業は日本経済が本格回復軌道に乗る屋台骨となる可能性がある。デフレは断固阻止しないといけない。

デフレを阻止するには大胆なマクロ政策が必要だ。具体的には、金融緩和と財政拡張を組み合わせたヘリコプターマネー的な政策を実行する。日銀は国債の買い切りオペを積極的に実施し、毎月ベースマネーを確実に増やす。政府は国債買い切りオペに見合った規模の財政出動を行なう。2兆5千億円程度の先行減税と公共投資の増加などが考えられよう。それでも効果がなければ、日銀による株やETF購入などの別チャネルを考慮する余地はあるだろう。

さらに、デフレを断固阻止し、1〜2%程度の緩やかなインフレを起こすという政策的意思を市場に伝えるために、インフレ・ターゲティングを導入する。物価が緩やかに2%程度上昇していかないことには日本経済は元気にならない。第一、財政バランスをこれ以上悪化させずに財政支出を促進して景気を浮揚させる方法は、インフレ政策しか残されていない。ハイパーインフレを危惧する向きもあるが、むしろ、物価変動に上限と下限を設けずにどんどん貨幣を増やし続けている現状の方が危ない。インフレ・ターゲッティングには上限も設定してある。インフレ加熱の恐れが出てきたら、逆に、上限堅持のスタンスで金融引き締めに誘導すればよい。

2003年の日本経済は、このような国内要因に加えて、イラク問題や、韓国、北朝鮮など地政学的リスクなどにより、全般的に厳しい下方リスクに晒されるだろう。中でも、6月から9月の間は、かなり危機対応的なマクロ政策が必要とされるだろう。そこで、政府に求められるのは次の2つ。一つ目は、金融、財政、インフレ・ターゲティングなどを一つの政策パッケージとして打ち出す。二つ目は、基本的なことだが、大きな問題が生じてしまった時には傷口を広げず、パニックを防ぐ。パニックの引き金には国債や株の暴落、金融破綻が考えられるが、可能性が高いのは金融破綻だろう。

デフレを放置し続ければ、2、3年の間に危機的な状況が起きるだろう。それを回避可能な方向の政策を打ち出して、実行出来るかどうかが、この1年の最大の課題だ。失敗したら、本当に大変なことになる。(談)
(聞き手・QUICK情報本部 岡村健一)

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