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(回答先: 「上昇要因なく沈滞続ける株価」住友生命総合研究所 上席主任研究員 霧島和孝 投稿者 Ddog 日時 2003 年 3 月 21 日 10:52:51)
債券クオンツ「クーポンあるなら有り難や」
パリバ証券会社 チーフストラテジスト 島本幸治氏03/03/20
【トピックス 】構造改革の出遅れ組でなく、世界デフレの先進国であった日本
【マーケット動向 】デフレ下で構造改革願望が強い以上、然したる押し目は期待薄
【イールドカーブ分析】ITバブル崩壊の余波が、世界的なフラットニング圧力を招来
【スプレッド分析 】あらゆるスプレッドのタイト化が、金利決定メカニズムを象徴
1. トピックス:「デフレ先進国としての日本」
日本だけが世界から取り残されているという構図は錯覚だったのか。確かに米国経済は、80年代に「レーガノミックス」という種を蒔いて構造改革に取り掛かり、90年代に見事な花を咲かせて「ニューエコノミー」を謳歌した。
他方、冷戦構造が崩壊してから、新興国の多くはその後を駆け足で追いかけた。90年代半ばから後半にかけ、アジアや中南米諸国は相次いで通貨危機に見舞われた。アルゼンチンなど一部の国は失敗したが、韓国など一部の国は構造改革を経て市場経済化に成功していった。
また、欧州諸国も99年の通貨統合に向けて、財政赤字削減などの苦しみを乗り越えて、ついにユーロと言う一大通貨圏を築いた。
こうしたなか、日本だけがバブル崩壊の処理に遅れ、市場経済への移行に手間取った。唯一、過去の高度成長期の蓄積が大きかったことから、深刻な経済危機に至ることはなかったが、反面、構造改革を推進する危機感もないまま、時間だけを浪費しているように見えた。
しかしながら、最近の1年間で絵柄はガラリと変わった。ITバブル崩壊の余波を受け、世界規模でデフレが深刻化している。株価下落、地価下落、バランスシート悪化、金融システム問題、企業スキャンダル発生、というお決りのコースを、米国のみならず欧州や韓国までもが辿り始めたのである。
既に、米国や英国の中央銀行では、利下げ余地がなくなった時の金融緩和手段として、国債や株式の買入れが議論されている。日本と同様に、「流動性のトラップ」が意識されてきたからだ。つまり、日本は立ち遅れていたわけではなかったのだ。文字どおり先進国として、デフレに立ち向かってきたのであった。こうした日本の金融市場では、未踏の領域に相応しい投資戦略が必要になる。
2. マーケット動向:「押し目買いに押し目なし」
債券市場を取り巻く環境は、一見すると複雑であるが、概観すると極めて単純である。材料には事欠かない。日銀首脳陣は刷新され、いよいよ「海図なき航海」へと乗り出す。もはや国債引受すらタブーではない。
また、財政政策についても、株価と内閣支持率の低下に歯止めがかからず、4月の地方選挙や補欠選挙、9月の総裁選挙を睨んで、補正予算の編成は不可避であろう。更に、国際情勢に関しては、イラクの後に北朝鮮が控えており、日本が「地政学的リスク」に直面する事になる。当面の債券相場は、撹乱要因が盛り沢山あるのである。
しかしながら、これら要因は本質的な相場環境を何も変えない。日銀が踏み込んだ金融緩和を実施しても、小泉内閣が財政政策のスタンスを修正しても、期待インフレ率には影響が及ぶまい。何故なら、デフレ下でも尚、国民が構造改革路線を支持しているからだ。
そして、緩慢な改革路線のサスティナビリティーを担保するのが、長期金利の低位安定に他ならず、その番人として武藤・元財務次官が副総裁に就任するのである。国際情勢も世界的なデフレ環境に影響を及ぼすまい。
過去30年の経済学はインフレとの戦いという歴史のなかにあり、グローバル化や小さな政府が重視されてきた。インフレ防圧という行き過ぎた時代の潮流を、ITバブル崩壊に伴う資産デフレが後押しする状況にある。国民の意識は急には変わり得ず、金融緩和を軸とするデフレ対策が中期的に継続するであろう。
また、日本に至っては、構造改革すらままならない状況にある。表面的には撹乱要因が多くても、内外の経済環境を見ると、債券相場には強い買い安心感がある。だからこそ、幾ら悪材料が表面化しても、その度に押し目待ち圧力の買いの強さを確認する展開になるのだ。期末や期初という特殊な時期を以ってしても、こうした環境に変わりはない。
3. イールドカーブ分析:「世界的な実質資本収益率の下方屈折」
一般に、国際資本移動が自由化され、内外資産価格の裁定関係が充分に働くことを仮定すると、各国の名目長期金利差は通貨変動率に一致する。また、自由貿易下で世界的に「一物一価」が成立することを仮定すれば、インフレ率格差も通貨変動率に一致する。従って、各国の名目長期金利から物価上昇率を引いた実質長期金利は、同水準に収斂する計算になる。
実質金利の目安となるのが、インフレ連動債の利回りである。比較的市場流動性の高い、米国、フランス、カナダのインフレ連動債を見ると、確かに、昨年半ばまでは3%台半ばの概ね同水準で安定していた。これが昨年後半は、ITバブルの崩壊に伴い軒並み低下し、現在では2%台半ばで推移している。このことは、世界的に期待成長率(=実質資本収益率)が低下しており、世界のイールドカーブのフラットニング圧力となっていることを示唆している。
現在のイールドカーブからフォワードレート・カーブを算出すると、台形の左半分のような形状が得られる。足許のゼロ金利から右上がりのスロープを描き、7〜9年後から以降が1%台半ばで一定となっている。一般に、フォワードレートは期待リターンと一致することが知られている。従って、リスクリターンのバランスという観点で見ると、台形の角に位置する先物回りから10年セクターが最も効率的なのである。
従って、ここは常に保有し続ける必要がある。更に、超過リターンを狙う上では、超長期セクターへのコミットメントが必要になる。その際に、上記の通り内外のデフレ圧力に基本的に変化は無いと見るならば、ゼロ金利下にある日本では長期金利水準は低位レンジワークが続くことになり、超過リターンの追求は逆張り戦略が基本になる。
つまり、悪材料に立ち向かって押し目買いを進める必要がある。例えば、日銀による国債引受やテポドンミサイルは、超長期セクターの買い場を提供するのである。
4. スプレッド分析:「クーポンあるなら有り難や」
あらゆるスプレッドはタイト化している。株価の下落や金融システム不安の台頭にも拘わらず、クレジットマーケットは底堅い推移が続いており、その影響は低格付け債にまで及びつつある。金融市場は、急激な新陳代謝を回避した緩慢な回復路線を見切っているのである。こうした判断はマクロ的には正しかろう。もっとも、今後はRCCの機能強化や産業再生機構の稼動により、ミクロのレベルで局所的に新陳代謝が促されるであろう点に留意が必要になる。
当面は、世界的にスワップスプレッドが注目される。現物債市場とは異なり、スワップ市場はプロのマーケットである。ドルスプレッドはモーゲージ・アカウントの、ユーロスプレッドは起債ヘッジの、円スワップは邦銀ALMの影響が、それぞれ強く反映されるからである。円スワップ市場に関しては、銀行のマクロヘッジ会計という資産と負債の曖昧な関係は許容されなくなったが、キャッシュフローヘッジの捉え方には様々な解釈が有り得よう。要すれば、スワップレシーブがキャリーメリットを確保する重要なツールであることに変わりはあるまい。既に、足許のスワップ金利に強い低下圧力が発生している点に注目する必要があろう。まさに「クーポンあるなら有り難や」という日本の金利決定メカニズムを象徴している。
<島本幸治氏略歴>
1990年東京大学教養学部基礎科学科(理論物理専攻)卒、日本興業銀行入行。同年、興銀投資顧問運用部に配属。年金・特金のトレーダー兼アナリスト業務を担当。1991年、同行証券投資室調査班に配属。イールドカーブを中心とする国内金融市場分析を担当。1996年、同行調査部経済調査班に配属。シニアエコノミストとして日本のマクロ経済調査を担当(GDP総括、企業部門、金融・財政政策、他)。2000年3月より現職。日本アナリスト協会検定会員。日経公社債情報2002年(2002年3月11日号)債券アナリスト・エコノミストランキング債券アナリストの部第5位。主な著作・論文「日本経済はこう変わる」(日本興業銀行調査部編、NHK出版)等。
くいっくより