エコノミスト「上昇要因なく沈滞続ける株価」
住友生命総合研究所 上席主任研究員 霧島和孝氏03/03/19【景況判断】現状(3ヵ月前比):やや悪い
先行き(3ヵ月後):悪くなっているGDP予測:
02年度1.5%(1.2%) 03年度▲0.5%(0.1%)
【金 利】短期:横這い TIBOR3ヵ月 0.08% 長期:やや上昇10年物新発国債0.80%
【円 相 場】ややドル安方向115円/1ドル
【株 価】上昇要因なく 日経平均8,000円
GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%。カッコ内は直近10回分の平均値
長短金利、円相場、株価は3ヵ月後(03年6月末)の予測値
1. 景気見通し:「踊り場ではなくピークアウト」景気の短期的な見方は最近大きく二つに分かれている。
一つは政府・日銀等が支持している現状"躍り場"説である。イラク攻撃の短期終結と米国経済の持ち直しを前提とすれば、日本経済も年後半再び輸出依存の回復軌道に乗ると主張する。
そして、その対極にあるのがピーク・アウト説である。踊り場説が想定している二つの前提に疑問を呈している。なぜなら、ここにきてブッシュのイラク攻撃に対する読み違いがかなりはっきりしてきたからだ。
盟友ブレアを窮地に追い込むほど激しい戦争回避の国際世論。米国に中東でのイニシアティブを取られたくないフランス政府の頑強な抵抗。結局は、米国の当初予定から大幅にずれ込んで、しかも、国連支持のないままの開戦となりそうだ。
攻撃が実際に始まっても、ブッシュの思惑通りに事が運ぶだろうか。
今回は途中でやめた前回の湾岸戦争と違って、フセインの捕捉という最終決着が求められている。民間人や米兵の犠牲を極力小さくして、バグダッドでの市街戦を制し、その目的を達成するのは至難の技だろう。
さらに、戦争に完勝したとしても、国内シーア派、クルド人、トルコ等さまざまな勢力が入り乱れる中で、戦後統治を推進しなければならない。実に困難を極める作業となろう。同時に、イランやサウディ等の民主化も推進しなければならないし、北朝鮮の核問題、加えてテロの絶えざる恐怖とも米国は向き合わざるを得ない。こうして見てくると米国経済に重くのしかかっている不安が解消するのは当面考えづらい。
米国経済の体力が低下している点にも注意が必要だ。特に、巨額の双子の赤字の復活は象徴的である。2002年の米国の経常赤字は5千億ドルを突破した。財政赤字も2003会計年度(2002年10月〜2003年9月)で3000億ドルを超えると見込まれている。さらに、2003会計年度はイラク攻撃の動向にもよるが、4000億ドルに達すると考えられている。巨額の経常赤字はドル安要因であって、ドルとの関係では円には常に上昇圧力がかかり、ひいては日本の輸出の抑制要因となろう。
一方、巨額の財政赤字は米国政府の手をしばる。もはや、財政による景気てこ入れは限界にきたことを意味する。FFレートも1.25%とほぼ下限で、金融政策の発動余地もかなり限られてきた。米国経済の停滞で日本の輸出はそろそろ減少に転じよう。輸出と設備投資の相関が強いことを考えると、最近動意が見え始めて来た設備投資も失速する可能性がある。
2.金融環境:「8千円前後の低迷続く」株価が急落している。
日経平均は3月14日には8002.69円と終値ベースで8千円台を4日ぶりにかろうじて超えたものの、依然20年ぶりの低水準に沈んでいる。
原因は主に三つに整理できる。一つは日興ソロモン・スミス・バーニー証券のETF(株価指数連動型上場投信)不正取引問題である。この事件で株式市場に対する不信感が一段と強まったのは言うまでもない。実際、日興ソロモンへの行政処分が決まった3月初めから株価の大幅下落は始まっている。
もう一つはイラク情勢の緊迫化である。まず、米国株価が崩れ、同時にドル安も進み、その影響で日本株も下がる傾向が続いている。
さらに昨年秋以降、大手行の株価が暴落しているのにも注意が必要だ。第1段は竹中金融相の登場よって大手行の国有化懸念が台頭し、株価が急落した。
そして、次は大手行がそれを回避するために増資に走ったことが株価下落に拍車をかけた。
増資は一株利益の希薄化を生む上、配当負担の増加等副作用も大きい。転換時の価格決定をめぐって株価を引き下げようという動きも一部で見られるようだ。株式市場に対する不信、イラク攻撃による世界経済の先行き不安、不良債権問題に起因する金融危機、いづれもそう簡単に解消できる問題ではない。
政府の対策も一時的な効果しかない。上昇要因なく株価は8千円前後の低迷続く。
3.注目点:「在庫水準は今でも十分高い」
景気は後退しない、あるいは後退があっても軽微に終わると指摘する声もある。その理由として生産者の在庫水準の低さが挙げられる。確かに2003年2月の生産者在庫指数(季節調整値)は87.8と低い。前回の景気の山である2000年10月の95.8と比べてもかなりの低水準である。
しかし、そう簡単に結論付けてもいいだろうか。生産の規模が縮小しているとしたら今の水準でも低いとは言えないはずだ。そこで、2000年10月とデータ上の最新時点である2003年2月の生産指数を比較すると、106.2から97.7まで大幅に低下していることが分かる。さらに、注意しなければならないのは、生産指数(および出荷指数)と在庫指数では採用品目が大きく違う点である。生産指数が536品目であるのに対し、在庫指数は388品目と少ない。
しかも、在庫指数に採用されていない品目は電気機器等、生産量が近年増加しているものが多い。試しに在庫指数に採用されている品目だけでの生産指数を作成すると、生産規模の縮小はさらにはっきりする。
つまり、在庫の水準そのものはあまり意味はなく、むしろ、生産や出荷の規模で調整した在庫率で判断するのが正しいのである。それを見ると、現在の在庫の水準が決して楽観できないことが理解できる。他にも、中国などアジアの在庫まで含めると高いという主張もある。
<霧島和孝氏略歴>
1955年生。79年東京大学経済学部卒。80年サントリー入社。その間、日本経済研究センター、大阪大学社会経済研究所へ出向。91年住友生命総合研究所入社、2001年から現職。主な著書「規制緩和の経済効果」、「財政の持続可能性」(共著)、など。NHK経済討論、TV朝日ニュースステーションなどに経済コメンテータとして随時出演。日経ビジネス「時流超流トレンド」、東洋経済「統計月報『エコノミスト・コンセンサス』」、などのコメンテ―タ。
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