海上自衛隊、米艦艇への洋上のガソリンスタンド公開
防衛庁・海上自衛隊は20日、アラビア海で、テ
ロ対策特別措置法に基づく米艦艇への燃料補給を報
道陣に公開した。「初の戦時派遣」のもとで自衛隊
と米軍の連携が続く一方で、現場の指揮官からは、
先の見えない米軍の作戦行動へのいら立ちも聞こえ
る。
●「糸電話」
補給艦「はまな」(乗組員約130人)の右後方
から、食料などを運搬する米軍の戦闘給糧艦が近づ
いてきた。「洋上給油準備」と艦内放送が流れる。
甲板では青やグレーの作業服姿の乗組員約40人が
持ち場に着く。強い日差しのもと、甲板上は気温30度に迫る。
魚雷員が、重りの付いた直径5ミリほどの細いロープを強力な空気銃で米艦に打ち込
む。身を潜めていた米艦の乗組員たちが飛び出し、甲板に落ちたロープをたぐり寄せ
る。約10分後、直径3センチ近いワイヤで両艦が結ばれた。
「Ready(準備できた)」「Start Pumping(補給を開始す
る)」。米艦との連絡は有線の無電池電話が頼りだ。停電しても通話できるように「糸
電話」の原理が採用されている。ハイテク化が進む軍事作戦とは裏腹に、洋上補給は手
作業に似た協力が不可欠だ。
停船すると揺れるので速度を13ノットに一定させつつ、近づきすぎないよう互いの
距離を35〜45メートルに保つ。作業時間は約1時間半。計約300キロリットルを
給油した。補給量が多ければ2〜3時間かかることもある。
洋上補給は日米交歓の場でもある。この日「はまな」は調理員がつくった「だんご」
を菓子折りに入れ給油管の先端にくくって米艦に贈った。米艦からは艦名の入った部隊
帽が贈り返された。
●はがゆい思い
「Thank you for free fuel(無料の燃料をありがとう)」
洋上補給後、相手艦からこんなメールが届くことがある。純粋な謝意であっても、現
場の海自幹部は「はがゆい思い」にとらわれる、と漏らす。自衛隊の補給艦はいわば
「洋上のガソリンスタンド」。「同等の仲間」に見られていないと感じるからだ。
アフガニスタン空爆は峠を越し、アラビア海に展開する米英軍などの艦艇は現在、密
輸船に紛れて逃れてくるアルカイダ幹部を捕そくするため、船舶の臨検などにあたって
いる、とされる。
ただ、米軍などの哨戒機が自衛隊艦艇の近くを飛んでも、作戦に使う特殊な暗号も知
らされておらず、呼びかけてもテロにつながる危険を回避するためか、応答もしてこな
いという。集団的自衛権の行使につながる恐れがあり、自衛隊が米軍の指揮下に入ら
ず、「主体的な」活動にとどめている現実の反映でもある。
ある現場幹部は「部隊どうしの情報交換で、ある程度、作戦の結果は知ることができ
るが、『これから何をどうする』といった情報は入ってこない」という。
いきおい、戦時派遣の印象も希薄だ。「空爆に向かう戦闘機の機影がレーダーの隅っ
こに映ったことはあった。でもそれだけだった。空母なんて見たことない」。「この任
務は国際貢献だ」とは思うが、アフガン空爆のすさまじさは想像の世界でしかない。
●引き際
政府内ではいま、洋上補給の「引き際」が関心事になり始めている。
ある防衛庁幹部は、米国がイラク攻撃する前に同時多発テロとの関係を示す「新証
拠」を出すはずだとみる。しかし、「泥沼化の可能性がある。引き際を失う」との意見
もある。「結局は各国の出方次第だ。テロ特措法の期限は2年ある」(外務省幹部)と
模様眺めの空気も強い。
ただ、現場の指揮官からは意外と慎重な声が漏れる。「厳密な法運用をすることで次
のステップにつながる。いまイラク攻撃に同調したら、なし崩しと批判される。続ける
べきではない」「残った場合、周辺諸国の見方は急激に変わり、冷たくなると肌で感じ
る。給油のための寄港もできなくなるかもしれない」
(23:08)
http://www.asahi.com/politics/update/0220/012.html