【カイロ19日=村上大介】
パレスチナ過激派による対イスラエル攻撃が激化する中、退役将校や元治安機関高官らが組織する「平和と安全保障委員会」がヨルダン川西岸、ガザ地区からの一方的撤退を呼びかける運動を開始するなど、イスラエル国内でシャロン首相の軍事強硬策への批判が噴出してきた。首相は、泥沼化したパレスチナとの戦闘で強硬論に振れた世論を背景にパレスチナへの軍事的圧力をエスカレートさせてきたが、「首相の戦略の破綻(はたん)」を指摘する新聞論評も出始めた。
「平和と安全保障委員会」は、軍の退役将校だけでなく対外情報機関モサドや国内治安情報機関シンベトの元高官ら約千人が会員となっている組織で、十八日付地元紙によると、イスラエル軍にとって防衛上の負担となっているヨルダン川西岸、ガザ地区のユダヤ人入植地約五十カ所の撤去と、占領地の相当部分からの一方的撤退、パレスチナとの即時和平交渉再開などを求めている。
同委員会によると、会員のうち八割が呼びかけに賛同しており、「安全保障」が重要なキーワードとなっているイスラエル社会で、軍や治安情報機関の元高官たちがシャロン首相批判に声を上げたことは今後、大きな影響を及ぼすことになりそうだ。
イスラエルでは先月下旬、占領地での勤務を拒否する予備役将校ら約四十人が新聞紙上で「勤務拒否」を公表し、この運動の賛同者もすでに二百五十人に拡大。首相の懐刀とされる強硬派のモファズ参謀総長ら軍上層部も対応に苦慮している。
また、これまで露骨な首相批判を控えてきたイスラエル各紙でも「首相は(軍事強硬策以外の)他の選択肢を取ろうとせず、イスラエル、パレスチナ双方の一般人の命を犠牲にしている」(マーリブ紙)、「軍事的解決はない」(ハアレツ紙)といった辛辣(しんらつ)な論評が目立ってきた。
シャロン首相は、「この戦争には必ず勝たなくてはならない」と強気の姿勢を崩していないが、地元紙によると、ブッシュ米政権からはアラファト自治政府議長の追放など“最後の一線”は越えないよう強くクギをさされており、自治区侵攻やパレスチナ人暗殺作戦を繰り返すしかない手詰まり状態に陥っている。これに対し、与党リクードからは、自治区の公式な再占領などを求める強硬派閣僚の突き上げも強まっており、首相にとっては政権を脅かしかねないジレンマとなっている。