【ワシントン19日=前田徹】
米国防総省筋によると、イラクに対する軍事攻撃の可能性を探るため少数の米陸軍特殊部隊がイラク北部にあるクルド人保護地域(飛行禁止区域)に派遣されたもようだ。ブッシュ米政権はイラクのフセイン大統領打倒を公言しているが、具体的な動きはこれが初めてだ。軍事行動が必要になった場合、反フセイン勢力を米特殊部隊が支援するというアフガニスタンにおけるタリバン打倒と似たシナリオを描いているとみられる。
同筋によると、米陸軍特殊部隊で、ゲリラ戦などの軍事訓練を専門とするグリーンベレーが中心の少数の部隊がイラクの北緯三六度以北に設置された飛行禁止区域にあるクルド人拠点のザホなどに潜入し、反フセイン勢力と接触した。
この部隊の任務は、反フセイン勢力の実勢規模を探るとともに戦闘訓練を指導するほか、具体的な軍事支援の可能性を模索することとされている。
一方、南の飛行禁止区域(北緯三三度以南)のシーア派住民保護地域については北のクルド人保護地区と違ってフセイン政権の権限が根強いためクウェート国境付近に反フセインのシーア派部族を軍事訓練するためのキャンプが設置される予定といわれ、同筋によると、実際に軍事行動が始まる直前にはクウェート防衛を兼ねた二万五千人規模の米軍が新たに必要になるという。
いずれにせよ十一年前の湾岸戦争時のような大規模な米地上軍投入はありえず、特殊部隊の先導を受けた反フセイン軍が北と南からバグダッドを目指すという攻略方法が念頭に置かれているようだ。
実際、米軍はアフガニスタンでの軍事行動の成功で、イラク軍が反撃してきても特殊部隊の誘導によって米空軍がハイテク爆弾で戦車やミサイルを破壊できる自信を得たとしており、実際の地上戦はクルド人ら反フセイン軍が先頭に立つという、まさにタリバン政権攻略と同じ手法がとられるとみられる。
また、飛行禁止区域における大規模な米空軍のイラク攻撃は一九九六年九月、イラク軍によるクルド人居住区進攻のさいにクリントン政権によって決断され、そのさいクルド人やシーア派住民に対する人権抑圧停止を求めた九一年四月の国連決議を根拠にしていることから、今回も同様の説明が適用される可能性もでている。
ブッシュ大統領は一般教書演説で反テロ戦争の今後を大量破壊兵器開発を続けるテロ支援国家としてイラク、イラン、北朝鮮に的を絞りこんだ格好だが、とりわけイラクについては「(フセイン)政権交代が米政策の変わらぬ目標」(パウエル国務長官)として国連監視検証査察委員会の査察受け入れを強く求めている。今後、こうした外交圧力の一方で特殊部隊の派遣など軍事行動の具体的準備についても着実に積み重ねていくとみられる。