核兵器大国・米国とロシアの間では近い将来、米露戦略核が大幅削減される一方、米本土を守るミサイル防衛(MD)計画が進展する――という新状況が到来する見通しだ。米シンクタンク「防衛情報センター」(CDI)の研究員で、軍縮問題の論客として著名なユージーン・キャロル退役海軍少将に分析を聞いた。(主な発言は以下の通り)
■米政権の軍縮姿勢
ブッシュ大統領は削減対象の核弾頭を廃棄せず「保管」する方針を表明した。数年後に必要となれば再び(核弾頭を)装着出来る。米国は引き続き核戦争に備えているというシグナルをロシアを含む世界に送ることになる。核拡散防止条約(NPT)に含まれる完全核軍縮の誓約に対する違反ではないか。(戦略核大幅削減の米露)軍縮合意には、その順守に関する相互不信が生まれるため、明確な検証手続きが不可欠だ。
■MDの軍縮への影響
ブッシュ大統領と共和党はMD配備を全面的に支持しているが、(敵核ミサイルを封じようとする)MDは、世界に核ミサイルを増強した方が良いと促すようなものだ。
金がないロシアは当面、核ミサイルを減らすだろうが、中国は異なる対応を取るかもしれない。米国に到達する中国の大陸間弾道弾(ICBM)は約20発しかないが、MDを脅威と見なせば、さらに200発を容易に配備することができる。MDは軍縮にマイナスだ。
■核削減とMDの相互作用
偶発的な核戦争は明日にでも起こり得る。1995年にノルウェーが研究用ロケットを発射した際、事前通告が完全に伝わらず、ロシア軍は米国の攻撃と見なし、報復核攻撃の直前までいった。ブッシュ大統領がMDは防衛的と訴えても、ロシアや中国は、米MDは先制核攻撃後に相手の報復から身を守るためのものだと考える。
危機発生時に、中露は米国から先制攻撃される前に、先制攻撃しなければならないと考えるだろう。こうした不安定な状況が核戦争の危険を生む。ロシアは米国がMDの限定配備にとどまらず増強を進め、やがて、減少を続けるロシア核戦力を完全に封じ込めてしまうのではないか、と恐れている。(聞き手 国際部 加藤賢治)(読売新聞)
[2月11日22時14分更新]