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【モスクワ4日=伊熊幹雄】
ソ連時代から徴兵制度を続けるロシアで、徴兵忌避者が続出している。離婚の増加や雇用機会多様化など、社会の急速な変化が原因で、露下院は今春、軍務に代わる代替勤労奉仕の法制化を審議することになった。露軍当局は「このままでは、軍が崩壊」と危機感を強めている。
モスクワの新興住宅地リュブリノ地区に住む会社員ウラジーミル・クリモフさん(25)は、昨年末のある夜、警察官の訪問を受けた。連行されたのは、地元徴兵司令部。「なぜ徴兵に応じないのか」と責められたクリモフさんは、そのままモスクワ郊外の軍バラックに強制的に配属された。
母親のタチアナさん(45)は、知らせを受けがく然とした。クリモフさんは6年前に離婚、タチアナさんの助けで長男セルゲイ君(7)を育ててきた。
「この子をみなしごにする気ですか」と、タチアナさんは、その日から孫のセルゲイ君を連れて連日抗議に押し掛けたが、軍側は「養護施設に預けなさい」と突き放す。「スターリン時代と全く同じ」と憤慨するタチアナさんは、徴兵忌避者の支援団体「兵士の母親の会」に駆け込み、訴訟手続きを申請中だ。
性転換で、「軍務に不適格」との訴えを認められたのは、モスクワのアレクセイさん(19)だ。16歳で性転換を決意し、現在はホルモン治療で転換を進め、女性名の「アリョーナ」を名乗っている。
だが昨秋、招集を命じられて以後、軍当局との間で泥仕合が始まった。アレクセイさんは、性転換治療中の医師の証明書を見せたが、軍担当官は認めない。
しかし集団の身体検査場に連れて行かれたところで、既に胸が膨らむなど体形変化しているアレクセイさんは、「私がここで服を脱いだら、他の招集者が動揺するでしょう」と切り札を出した。当惑した担当官は、結局、アレクセイさんの主張を受け入れ、「兵役猶予」になった。
徴兵忌避をめぐる悲劇は、軍務以外の代替勤労奉仕が1993年の憲法で認められながら、現在まで法制化されていない点に原因がある。またロシア社会の自由化が進む中で、離婚、海外移住、性転換などソ連時代には想定すらしなかった問題が続出している。雇用機会が多様化した今では、技能のある若者は、月給1500ルーブル(約6000円)の軍務を毛嫌いする。
ロシア下院は今春、病院、介護施設、清掃などの代替勤労奉仕法制化に乗り出すことになった。だが軍側は、「最新の徴兵では、徴兵者数20万人、達成率12%まで下がった。3年後には、軍の欠員は50%に達する」(統合参謀本部)と危機感を強め、代替勤労奉仕に反対するなど一歩も譲らぬ構えだ。
徴兵制度は、ソ連時代から現在まで、軍の社会的、政治的影響力の主要な源だった。全国に張り巡らされた徴兵司令官事務所網は、政府・軍の支配の道具でもあった。それだけに徴兵制度の行方は、ロシア社会の民主化の指標と言える。
●ロシアの徴兵制度
現行法では、18歳から27歳の男子市民が2年間、兵役義務を負う。勤務は全土の兵舎・基地のほか、海外派兵もある上、軍内の新兵いじめも問題化している。兵役猶予対象は、健康不良者、家族扶養の必要があると認められた者、特定の大学で学ぶ者など。
(2月4日22:10)