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「殺戮率」を高めるハイテク兵器

投稿者 dembo 日時 2001 年 12 月 19 日 08:21:55:

「海亀日記」 宮内勝典 

12月18日

 待合室で「ニューズウイーク」を読んでいると、恐ろしい記事が出ていた。1998年のコソボ戦争のころに比べて、今回の戦争には格段に進んだ新型兵器が使われている。
 コソボ戦争のとき、ぼくはそのハイテク兵器に恐怖を覚え、このような文章を東京新聞に書いた。

「戦場の遙か上空に軍事衛星を打ち上げ、電子情報の傘のなかに戦場全体をとらえて、ミサイルを誘導していく。あるいは夜のコソボ上空を、戦闘ヘリコプターが飛んでいく。操縦士はゴーグルのようなものをつけて、その目線どおりに赤外線センサーが動き、夜の地上でうごめく敵兵をとらえていく。

 スクリーン映像が拡大され、敵兵の心臓の位置に、十字型の照準がくる。赤い発射ボタンが押される。兵士たちはどこから撃たれているかわからないまま、逃げまどい、次々に倒れていく。
 電子誘導による兵器の命中率は、なんと、九九・六パーセントだったという。そして攻撃する側の戦死者は、ゼロであった。

 恐ろしい戦争である。次はロボット兵士でも出動してくるのではないか、そんな妄想さえ湧いてしまうほどだ。おそらく敵以外、生身の人間はひとりもいないまま、遠く離れてコンピュータ操作するだけの戦争になっていくのだろう。

 ミロシェビッチの「民族浄化」は恐ろしい。そして、機能的に死を数量化していくハイテク戦争も恐ろしいと私は思う。

 コソボ空爆には、虐待されている人びとを救うための「正戦」という側面があったことは否定できない。だが湾岸戦争・コソボ戦争を通じて、危機の本質がはっきり見えてきたと思われる。
 電子情報にもとづくハイテク戦争では、映像をいくら拡大しても、大地にしみこんでいく血の温かみや、人が死ぬときの苦しい呼吸は見えてこない。他者を見ずに殺害していくのは『猥褻』である。」
                    (東京新聞 99年8月30日)

 その猥褻(obscene)という言葉は、ノーマン・メイラーからの引用だが、兵器のハイテク化は、わずか三年で凄まじいほど進んでいるようだ。「ニューズウイーク」を読むと、もはや「IT戦争」と呼ぶべきであることがわかる。

「今回の戦争は、これまでのものとはまったく違っていた。カライジャンギにいたタリバン兵は、投降するまでの数週間、姿の見えない敵と戦っていた。
 一方、見えない米軍のほうはタリバン側の動きを把握していたようだ。目標に向かって空から正確に爆弾を投下し、タリバンの命令系統や補給ルートを寸断した。
 多くのタリバン兵には、米軍が他の惑星から来た生き物にみえたにちがいない。自分たちの常識では思いもつかない大きな力をもった何かに」(ニューズウイーク 12月12日号)

 忘れないために、「ニューズウイーク」に記されている新型兵器のことを、ここに箇条書きしておこう。アフガニスタンは、技術革新の壮大な実験場に化しているそうだから。

 ★JDAM(統合直接攻撃弾)。これは通常の爆弾にコンピュータと翼をつけたもので、攻撃目標をプログラミングし、投下するとGPS(衛星利用測位システム)で位置を読み取り、ターゲットに向かっていく。

 ★無人偵察機プレデター。これは上空から撮影したビデオ映像を、地上基地へ送る。新型のプレデターには、GPS装置が搭載されている。おかげで、基地へ送る映像には、現場の位置を正確に示す緯度と経度が表示される。

 ★レーザー誘導爆撃。プレデターは、カブール郊外にあるアルカイダの基地をレーザー光線で照らし出した。その位置に向けて、FA18戦闘攻撃機がレーザー誘導弾を投下した。

 ★総合査察目標攻撃レーダー・システム(JSTARS))。一度で約五万平方キロを走査できる。高度上空からでも、三二〇キロ近く離れた場所を走る車をとらえることができる。

 こうした兵器がアフガンで使用されたという。爆弾も格段に進んでいる。たとえば、GBU28、バンカーバスター、劣化ウラン弾、燃料気化爆弾。この燃料気化爆弾の破壊力は凄まじく、タリバンの兵士たちは原爆が投下されたのではないかと腰を抜かしてしまったそうだ。

 コソボ戦争のとき恐れていたことが、今度の戦争で現実のものになってしまったようだ。プレデターは空を飛んでいるが、これはぼくが抱いていたロボット兵器のイメージに近い。これからさき、戦場には(敵以外)生身の人間など一人もいない、ITによる殺戮の場になっていくのではないか。

 芳川泰久氏が「殺戮率」について書いている。
 殺戮率(Kill Ratio)
 これは恐ろしい言葉だ。死体の数の率。米軍兵一人につき、何人の敵を殺しているかという比率のことだ。米軍はたえず、この殺戮率を計算しているそうだ。芳川氏は、こう書いている。

「人命を消費=消耗すべき一種の”商品”として敵といかに高利率で交換するか、という”人命市場”としての戦争が含意されていて、この”市場”においてもアメリカは常に、死者の数の有利な不等価交換による自国民の生命価値の高さを維持しようとしている」(「群像」一月号)

 そういう意味では、アメリカ側に一人の死者も出さなかった1998年のコソボ戦争は、まさに殺戮率において完璧だったわけだ。ここには、死さえ市場的に数値化する、アメリカ文明の本質がある。
 殺戮率をかぎりなく高めていこうとする戦争。
 2001年のいま、ぼくたちはそれを目撃しているのだ。

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