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米軍の圧倒的な空軍力を活かしたアフガニスタンでの軍事作戦は、「トラボラの戦い」で終結したとみることができる。
残されたビンラディン氏及びオマル氏の捕捉作戦は、刑事が刑事犯を追いつめるような地道なものにならざるをえない。
一区切りがついたと判断できるこの段階で、ブッシュ政権が今後どんな作戦をアフガニスタンで展開しようとしているのかを考えてみたい。
■ 「トラボラの戦い」をどう総括するか
「トラボラの戦い」は、つい数日前まで、“ビンラディンを捕捉するための最後の戦い”として大々的に報じられてきたが、昨日(12・16)の軍事行動でほぼ終結し、ビンラディン氏は行方知らずとなっている。(ビンラディン氏の居所については、パキスタン説・アフガニスタン国内説・イラン説などが報じられている)
ラムズフェルド国防長官は、昨日のバグダム空軍基地での記者会見でトラボラ戦について、「2,000人ほどのアルカイダ兵士がトラボラ地域から逃亡した」と発言している。トラボラ戦に参加した反タリバン勢力の司令官は、50人ほどのアルカイダメンバーが投降し、200人ほどのアルカイダメンバーを殺害したと主張している。
アルカイダも、軍事的に言えば、10%ほどの損失でトラボラの戦いを乗り切ったことになる。アルカイダメンバーのパキスタンへの逃走については、パキスタンの地元勢力が協力した(「NHKニュース」12・16深夜放送)そうである。
トラボラ戦の初期段階で、ビンラディン氏がトラボラ地域にいないことを主張(「ビンラディン氏はトラボラ地域に絶対にいない [ニューズウィーク 日本版 12・12]」参照1)し、それ以前には、「ブッシュ政権はまだウサマに決着を付けない!」参照2と主張してきた。
フランク中央軍司令官はともかく、ブッシュ政権も、トラボラ地域にビンラディン氏がいないことくらい知っていただろう。知らなかったとしたら、アメリカの情報収集能力と情報判断力は驚くほど低いことになる。
ブッシュ政権が、「トラボラの戦い」でアルカイダメンバーをできるだけ多く虐殺したかったことは間違いないだろう。
しかし、タリバン部隊が、マザリシャリフ、クンドゥズ、カブール、カンダハルと次々に大きな戦闘を交えることなく撤退もしくは投降したように、アルカイダも、ムスリム同士の戦いを避けるため逃走の道を選んだ。反タリバン勢力とりわけ東部勢力も、同じような気持ちで戦闘に臨んでいたと思われる。アルカイダの200人という犠牲者は、デイジーカッターなどの大空爆作戦によるものがほとんどだったと推測する。
タリバン中核部隊が兵力を温存したように、アルカイダも兵力を温存して戦いを終えた。ブッシュ政権が、「トラボラの戦い」でアルカイダメンバーをできるだけ多く虐殺したかったのなら、米軍地上部隊を前面に押し立てた戦闘を展開するしかなかったのである。
ブッシュ政権は、ビンラディン氏を捕捉できず、アルカイダの戦力も壊滅できないまま、「トラボラの戦い」を終えることになった。
■ 旧カンダハル空港恒久基地化の意味
ブッシュ政権は、トラボラでの戦いを進めながら、カンダハル近郊にある旧カンダハル空港を“恒久的”(ブッシュ政権はそれを否定はしている)な基地に仕立て上げようとしてきた。(その過程で兵士1名が地雷を踏み重傷を負っている)
この基地は、ビンラディン氏とオマル氏を拘束しない限り、しばらくはこれまでと同じ“名目”で使用できるだろう。
しかし、ブッシュ政権が、ビンラディン氏を捕捉もしくは殺害したり、オマル氏も同様の結果になった事態を想定したらどうであろうか。
旧タリバン勢力は当然のこととして、外国軍事部隊を嫌う「暫定政権」主力の北部同盟も、そのような状況下で米軍がアフガニスタンに居残ることを認めないだろう。
米軍のアフガニスタン駐留を嫌悪する勢力が公式に米軍へ攻撃を仕掛けることは出来ないとしても、ゲリラ的な攻撃を仕掛ける勢力が横行し、それを黙認するといった状況が生まれる可能性が大きい。ブッシュ政権の空爆で被害を受けた市民も、そのようなゲリラ活動を支持するだろう。(パキスタン領内のアフガニスタン難民が近づいてくる欧米ジャーナリストを襲撃している)
このような状況は、タリバン及びアルカイダ(一部に限られるだろうが)が“復権”できる状況だとも言えるだろう。
日米欧の大手メディアは、タリバンのあのような“敗走過程”をタリバンの弱さと捉えているが、タリバン中核部隊は無傷に近いかたちで温存されたままである。
タリバンは、政権奪取を絶対的な目的とするものではなく、自分たちが理想と考えるイスラム教信仰の社会を広げることを最大の目的とする運動体である。政権奪取は、そのための手段だと言っていい。
ブッシュ政権は、タリバンがカンダハルをあっけなく放棄したことにガッカリしただろう。後顧の憂いをできるだけ除去するため、露と消えた「カンダハルの戦い」でタリバン中核兵士を大虐殺したかったはずである。
このようなことから、ブッシュ政権の浅知恵に拠っても、米軍の存在を唯一正当化できるビンラディン氏とオマル氏を捕捉してしまうわけにはいかないのである。(一方だけであれば問題はないが)
ブッシュ政権は、12月22日以降に想定している人道援助のための治安維持を名目とした多国籍軍部隊に米軍が参加しないことを表明している。その一方で、カンダハル空港は恒久基地化しようとしているのは、アフガニスタン侵攻を長期のものと考えているからであろう。
それは、アフガニスタン侵攻の本音の目標であるアフガニスタン西部から南部を通ってパキスタンに抜けるパイプラインの敷設と維持を実現するためのものである。
(ブッシュ政権はすでにそのようなことが実現できる可能性を失っているが、愚かなブッシュ政権は、なんとかそれを追求しようとするだろう)
■ 今後進めなければならない地上戦は「ベトナム戦争」の再現になる
「トラボラの戦い」終結により、これまでのような大空爆作戦を展開する目標がなくなり、地上戦(ビンラディン氏及びオマル氏の捕捉が建前の目的)を展開していかなければならなくなる。もちろん、アフガニスタン武装勢力をできるだけ多くお金で雇って前面に立てようとするだろうが、空爆援護もなく、目標範囲(両名の居所)も定かではない状況で有効な現地勢力の活用ができるのか疑問である。
ブッシュ政権は、ビンラディン氏には2,500万ドル、オマル氏には1,000万ドルという懸賞金をかけている。しかし、金ですべてが解決できると考えていたら大きな命取りとなるだろう。目標も定かではないのだから、金だけむしられ続けてダラダラと意味のない作戦を遂行していくハメに陥るだろう。オマル氏の居所を知っている者さえが、あらぬ方角を探して、金だけはいただくという事態だ。
ブッシュ政権は、このような地上作戦を通じて、アメリカ企業がパイプラインを敷設できる“環境”を創出していかなければならないのだ。
それは、対抗してくるであろうタリバン兵力をじわじわと削り取っていくという気が遠くなるような軍事作戦である。タリバンの対抗がなければ、それこそダラダラと作戦を続けていくしかない。
“捕捉作戦”と同時に、アフガニスタン南部に築いた2つの基地を防御しなければならない。
政権を持たないタリバンは、ふだんは一般市民のように生活し、時に応じてゲリラ戦を展開するという戦法を採ることができる。まるで、“ベトコン”である。
このような状況は、どう見ても、「ベトナム戦争」の再現である。
好意的に見てあげて、ブッシュ政権の軍事目標がビンラディン氏及びオマル氏の捕捉だけだとしても、これからの軍事作戦は「ベトナム戦争」の再現になりかねないものである。
これまでオマル氏が米軍に差し出されていないことから見ても、アフガニスタン勢力に任せていたら、ブッシュ政権が本当に捕捉したくなっても、ビンラディン氏もオマル氏も捕捉できないという状況が続くであろう。
■ 多国籍軍部隊と米軍部隊との関係
12月22日のアフガニスタン「暫定政権」発足後には、治安維持と人道援助支援を名目としたイギリス軍部隊中軸の多国籍軍部隊の展開が予定されている。
この多国籍軍部隊派遣の本音は、亡命勢力(議長となるカルザイ氏など亡命勢力は貧弱な武装勢力しか保持していない)の肩代わり武装勢力であり、北部同盟の動きを牽制するためのものである。(「暫定政権」に対する不満が北部同盟内で渦巻いているし、北部同盟間の軍事衝突も既に発生している)
多国籍軍に参加しないブッシュ政権は、ラバニ派・ドスタム派・ハザラ人勢力そして亡命勢力などは、タリバンよりは制御しやすい対象と考えているのだろう。
端的に言えば、民族的に北部同盟支配にふさわしい地域は多国籍軍が抑え、激しい抵抗が予想されるパシュトゥン人地域はアメリカ軍がなんとかするという構図である。
北部同盟は、多国籍軍の派遣を渋々認めているが、それは“権益”とのバーターであり、小規模かつ短期のものであることを主張している。
日本のような中央集権的な国家と違い、地域司令官が自分の兵力を養っている群雄割拠の国アフガニスタンでは、“権益”の配分が大きな問題となる。現在は、それが近々もらえるということでしかないが、実際に“権益”が届けられたら、その配分をめぐる争いは熾烈なものになるであろう。それは、閣僚ポストの配分で見えている争い以上の激しさになる。
英国軍指揮下の多国籍軍が、亡命勢力を除く主力勢力が多国籍軍部隊の長期駐留を容認せず、“権益”の配分についても熾烈な争いが発生する可能性が高い北部同盟地域をうまく制御できるかは疑問である。
多国籍軍指揮官はすぐにやりたい誘惑に駆られるだろうが、それを実行に移し、軍隊の中央集権化(国軍化)を画策し、北部同盟諸勢力の“武装解除”をめざしたら、とんでもない騒乱状況が発生するだろう。
北部同盟諸勢力は、力の源泉が武力であることを骨の髄まで理解しているのだ。
そうなれば、多国籍軍に対抗する勢力が、タリバン勢力と連合する可能性だって生まれてくる。
現在生まれている「アフガニスタンの均衡状態」は、一夜にして崩れ去るような脆い基盤に拠っている。
欲に目がくらんでいる多国籍軍指揮官(英国)が、このような理解のもとで慎重にことを運んでいけるのか疑問である。
人道援助は建前だけで、軍事力でアフガニスタンをなんとか支配したいという“文明諸国”の思惑は、南部でも北部でも砕け散るだろう。
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参照1:「ビンラディン氏はトラボラ地域に絶対にいない [ニューズウィーク 日本版 12・12]」
ブッシュ政権は、ウサマ・ビン・ラディン氏の隠れ家をトラボラ地域にある洞窟基地だと考え、地元武装兵力に札束をばらまいて追撃戦を演じている。
ブッシュ政権がトラボラ地域にこだわる理由の一端が、「ニューズウィーク 日本版 12・12」の記事に出ている。
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P.30
「<前略>母国サウジアラビアの国籍を剥奪されていたビンラディンは、もはや居場所をなくしたのも同然だった。だが、そこへアフガニスタンから三人の男がやって来た。八〇年代、ともに旧ソ連軍と戦った戦友たちだ。ビンラディンはジャララバードの南方にある四〇〇〇メートル級の山岳地帯に案内され、トラボラと呼ばれる自然の要塞に迎えられた。それから五年、米当局者とアフガン人の有力者は今、ビンラディンがトラボラに舞い戻ったのではないかとにらんでいる。
<中略>
この要塞はゲリラがソ連と戦っていた時代に、CIA(米中央情報局)の資金援助などによってつくられた。」
そうなんです。ビン・ラディン氏をはじめとするアルカイダが最後の場として選んでいると言われているトラボラ地域の洞窟基地は、CIA主導で造られたんです。
ビン・ラディンが金力で造ったという触れ込みなのに、TVで秘密基地の図解が流れているのも道理っていうもんです。
じゃあ、秘密基地の在処を教えてもらうために地元武装勢力を雇ったと言っているのはウソになる。ブッシュ政権&米軍&CIAは秘密基地を知っているのだから、在処を教えてもらうためではなく、「戦闘の前面に立ってもらう矢除けの役割」としてアフガン人を雇っているってことですね。
ビン・ラディン氏が、その置かれた条件で、5年間に新たに大規模な洞窟秘密基地を造ることができたとは思えない。
今度はビンラディン氏側から見れば、身を秘める場所として、CIAが造った秘密基地なんぞを選択するわけがない。
ではなぜ、トラボラにアルカイダが多数?いて戦闘を繰り返しているのかというと、「当然やって来ると考えていた米軍に対し、自然の要塞という地の利を得ながら最後の決戦を行う」ためであろう。しかし、米軍は、空爆とケツ押しだけやって、直接の戦闘をお金の力に頼っている。
そこにビンラディン氏がいないのは、戦闘からただ逃げているわけではなく、形式的であってもブッシュ政権に勝利を与えたくないからであろう。それは、アルカイダグループの総意でもあるはずだ。
この間虐殺されたアルカイダ戦士たちの無念さを推し量ると辛いものがある。
結論的に言えば、ビンラディン氏はトラボラにはいないってことですね。
ブッシュ政権にもアメリカ国民にも、どんなに名ばかりの勝利であっても“手柄”なんか与えたくないから、とことん逃げ切って欲しい。
余談:CIAって、本当はまったく情報収集能力なんかないんじゃないかと思う。
敵にするのはどれもこれも“昔の仲間”だし、この例でも自分たちが造った場所しか目星がつけられない。そして、アホな尋問を行って大虐殺の引き金を引く。
ただ単に、スパイごっこ好き、ゴルゴ13好き、お金好き、女好きの無能殺し屋集団じゃないの。
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参照2:「ブッシュ政権はまだウサマに決着を付けない!」
様々なメディアでウサマ・ビン・ラディン包囲網が狭まり、拘束もしくは殺害が近づいていると報道しているようだが、ブッシュ政権はそんなに早く9.11事件の結末を付けるつもりなのだろうか。
今回のアフガニスタン攻撃が“純粋に”9.11事件の“報復”であれば、できるだけ早く、自らが首謀者と断定したウサマ・ビン・ラディンを拘束・殺害するのがベストである。
もう一つの“邪悪な”存在であるタリバンは、未だ大きな武装勢力として残っているが、支配力を急速に失っており、タリバンが本拠地であるカンダハルを明け渡す事態になる可能性も高い。
アフガニスタン全体の情勢も混沌としており、今後の展開が読めない。
ブッシュ政権のアフガニスタン現状に対する認識も、パウエル国務長官とライス大統領補佐官(安全保障担当)の発言に見られるように政権内で統一がとれていないようだ。
ブッシュ政権の狙いがウサマやタリバンとは別のより“大きなもの”であるとすれば、アフガニスタンでの軍事行動の継続当否がアメリカ国内で論議される契機となるウサマ(アルカイダ)とタリバンの“消滅”は必ずしも得策だと言えるのかという問題がある。
あれやこれやの理屈を付けて軍事行動を継続するにしても、「ウサマ・ビン・ラディン捕獲作戦」という大義名分とは違ったアメリカ国民の目が向けられるようになる。
さらに言えば、9.11事件が軍事的に“解決”されれば、アメリカ国内では、9.11事件に対するブッシュ政権の“対応問題”が論議の的になってくるだろう。外に向けられていた意識が、今度は内に向くようになるのである。
大統領を始め国防総省のあのブザマな対応ぶりが世論及び議会によって俎上に乗せられることになる。
ブッシュ大統領に対する支持率の高さは、ブッシュ個人の大統領としての能力に対するものではなく、戦争を展開している状態での最高司令官=大統領に対する愛国的な気持ちの現れでしかない。現在の大統領への支持率の高さは、大統領が誰であっても同じである。
戦争目的が完了し、9.11事件そのものが論議され始めると、ブッシュ大統領の支持率は急降下で落ちていくだろう。
産経新聞で報じられた『空爆作戦に詳しい空軍幹部は同紙(引用者注:ワシントンポスト)に「われわれは何人かの大物を手中にしていたのに、攻撃許可が出るのが遅すぎた」と話している。ある空軍大将はラムズフェルド国防長官とその側近らが作戦の細部にかかわり過ぎると非難した。』の記事は、ブッシュ政権がウサマなどの攻撃をコントロールしていることがよくわかる。
ウサマやオマルを泳がせるとともにアフガニスタンを混沌状況にしているほうが、ブッシュ政権は行動の選択肢を幅広く持てる。
このような意味で、ブッシュ政権がバカでなければ、現在の状況においてウサマ・ビン・ラディンに決着を付けるようなことはしないだろう。
ただ、ブッシュ政権の言動にはバカなものが目立つので、自分の墓穴を掘る行動をしないとは言えないが...(笑)