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テロリストの軌跡 アタを追う13【朝日新聞12月12日付】
ユダヤ陰謀説 「国民の求める記事提供」
「アラブ人とイスラム教徒が無実であることの証拠」
こんな大見出しを掲げた記事が9月24日発行のエジプトの週刊紙「アルオスボウア」に載った。中見出しも刺激的だ。
「貿易センタービルで働く4千人のユダヤ人があの日出勤しなかつた理由は?」
「事件直後、現場で写真を撮影していた5人のユダヤ人は?」
「ユダヤ人101人がハイジャック機への搭乗予定を直前にキャンセルした理由は?」
イスラエル犯行説を強くにじませている。記事は、米国の捜査の内幕にも言及していた。
−−米中央情報局(CIA)と米連邦捜査局(FBI)が捜査方針をめぐって対立した。FBIが集めた証拠でオサマ・ビンラデインの犯行でないことが明らかになったが、CIAが異議をとなえ、結局CIAが押し切った。米国の捜査は一方的で、いっさい信用できない−−。
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アルオスボウアは、政府系や野党系の新聞が多い中で、数少ない独立系の新聞である。カイロ中心街の編集局を訪ね、記事を書いたマフムード・バクリー(42)に会った。副編集長兼務の記者だ。記事の真偽について尋ねた。
「これは特ダネなんだ。このおかげで信用が高まり、部数が増えた」
しかし世界的には、モハメド・アタらが実行犯だとする見方が支配的だが。
「米国は証拠を出さないまま決めつけている。あんたは自分で確かめてそう思っているのか。意図的な米国の発表を私たちは受け入れない」
では、アタらが犯人でないとする根拠は何か。
「記事に書いた事実がそれを証明している」
あのテロで実際には100人以上のイスラエル人が死んでいる。4千人のユダヤ人が当日出勤しなかったと書かれているが、それも意図的で根拠のないうわさ話のたぐいではないのか。
「そんなことはない。記事については絶対の自信を持っている」
その情報はどこから出たのか。
「いえない。あんたもジャーナリストなら理解できるはずだ」
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10万部前後だった同紙の発行部数は、テロ事件後、ほぼ倍に増えたという。バクリーは「真実を伝えるわれわれの報道姿勢が支持された結果だ」といった。
「われわれは国民の求める記事を提供しているのだ」
国民の求めるもの。それはエジプトだけでなく、アラブ各国に根づく「ユダヤ陰謀説」を指すらしい。大きな災禍や事件に見舞われると、根拠なくユダヤ人を「悪者」に仕立て上げて流布される説のことだ。
今月3日付の同祇には「事故機は外部からの信号でコントロールされ、貿易センタービルなどに
突入していたことが判明」という記事も載った。
同時多発テロを、単に狂信的過激派による犯行と割り切ることのできない空気が、中東一帯にある。=敬称略(小森保良)