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テロリストの軌跡 アタを追う12【朝日新聞12月11日付】
犯人像 日米欧とは異なる描き方
「息子は犯人ではない。今もどこかできっと生きている」
同時多発テロの主犯格とされるモハメド・アタの父、モハメド・エルアミール・アタ(65)はそう信じている。職業は弁護士だ。
カイロ郊外、ピラミッドに近い住宅街に父親が住むアパートがある。11階建てビルの最上階だ。
人口増加が続くカイロでは、住宅地がどんどん郊外に広がっている。十数年前まではこのあたりも半砂漠の無人地帯だった。今はアパートのビルが立ち並んでいる。
アパートの入り口で門番に止められた。父親は来訪者を一切拒んでおり、手紙を受け取ってもいけないといわれていると門番はいった。
事件直後、父親は一度だけ記者会見している。
しかしあの異様な雰囲気の中ではなく、2人で向き合ってじっくり話を聞きたかった。本当はどんな息子だったのかと。
電話にはだれも出ない。知人から教えてもらった携帯電話の番号を毎日押しつづけた。本人がやっと電話
口に出たのは、事件から2カ月近くたったころだった。
「まず2万5千ドル(約310万円)払ってくれ。それをパレスチナに寄付してから、改めてインタビューの日時を連絡する」。そう告げられた。
「まず会ってから条件について相談したい」
「だめだ。これが唯一の方法だ」
穏やかだが、き然とした口調だ。電話を切られそうになった。
「ひとつだけ教えてほしい。息子さんは生きていると信じているのですね」
「もちろんだ」
声色が変わった。それ以上話は続かなかった。
■ □ ■
カイロの外国人記者協会の求めに応じて、9月24日、父親が会見した。各国の新聞やテレビの記者約100人と、父親1人が向き合った。冒頭から容赦ない質問が飛んだ。
「何千人も殺されたんだ。あんたはすべてを説明する義務がある」
「息子から届いた手紙を全部見せろ」
米国の記者たちの質問は詰問調だ。しかし父親は息子を決して容疑者と認めようとしない。興奮した記者の質問が激しくなると、父親はさえぎるようにいった。
「モサドのしわざに違いない。息子のパスポートを使って、やつらがやったんだ。息子はどこかで監禁されている」
「モサド」はイスラエルの情報機関だ。会場から失笑がもれた。
■ □ ■
知人たちは、父親が提示した「2万5千ドル」は断りの口実に過ぎないと見ている。「記者連中はみな、米国の発表をうのみにして息子を犯人と決めてかかっている。何をいってもむだだ」。周囲にはそうもらしているという。
実は、事件を起こしたのがアタらではないと考えているのは、父親だけではない。エジプト人記者はいう。
「いま世論調査したら、国民の大半がイスラム教徒の犯行ではないと答えるはずだ」
日本や欧米とまったく違う犯人像が、ここでは描きだされている。=敬称略(小森保良)