投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 12 月 05 日 11:46:04:
イスラエルが3日、パレスチナ自治政府を「テロ支援団体」と断じ「テロとの戦争」を宣言したことで、ブッシュ米政権は難しい立場に追い込まれた。自らも主張する「テロとの戦争」を理由にイスラエルの強硬策を支持すれば、アラブ・イスラム諸国の反発は必至だ。そもそもイスラエル側に大義があるのか、という問題もある。米国の論理を借用したかのようなイスラエルの戦争宣言には、アフガニスタン攻撃の問題点を浮き彫りにする側面もありそうだ。【ワシントン布施広】
●相似形の戦争
「これは容易な戦争ではない。短い戦争でもない。だが、我々は勝利する」。シャロン・イスラエル首相の演説は、ブッシュ大統領の演説を思い起こさせる。
ブッシュ政権はタリバンが同時多発テロの首謀者とされるウサマ・ビンラディン氏をかくまったとして、アフガンへの武力行使に踏み切った。「テロリストをかくまう者はテロリスト」という「ブッシュ・ドクトリン」だ。
最近の対イスラエル・テロではイスラム原理主義組織ハマスが犯行声明を出した。シャロン首相は、ハマスなど過激派に対するパレスチナ自治政府の取り締まりが手ぬるいとして、アラファト議長の公邸付近などにミサイルを撃ち込んでいる。「アラファトに全責任がある」というシャロン首相の主張は「ブッシュ・ドクトリン」と重なる。
攻撃対象が正当なのかという疑問も、米・イスラエルに共通してつきまとう。イスラエルはテロの直接当事者ではない自治政府に報復攻撃し、国際的な非難を浴びた。米国内に、アフガン攻撃に関して「タリバンにテロの責任があるのか」と疑問視する声があるのも確かだ。
●イスラエルの弱み
昨秋から1年余りのパレスチナ住民との衝突でイスラエルはミサイルや戦車、戦闘機などを投入し、対イスラエル・テロの死者よりはるかに多いパレスチナ人が死んだ。イスラエルがイラクの原子炉空爆(81年)やレバノン侵攻(82年)などを行い、アラブ側から「国家テロ」と非難されてきたことも見逃せない。
レバノン侵攻時に国防相だったシャロン氏は、キリスト教民兵によるパレスチナ難民虐殺の間接責任を問われ、国防相を辞任した。「彼(アラファト議長)が歴史的にテロ活動に関与してきたことは、皆が知っている」(ラムズフェルド米国防長官)と、アラファト議長の過去だけを問題にするのは、不公平のそしりを免れまい。
●米国のジレンマ
ブッシュ政権はイスラム世界のラマダン(断食月)入り前後にパレスチナ国家の独立を認め(11月10日)、中東和平の積極仲介を約束した(同19日)。アフガン攻撃を遂行するには、「アラブ軽視」との批判もある従来の中東政策を改める必要があったからだ。
アラブ諸国は歓迎したが、和平仲介が本格化しないうちに激しいテロと報復攻撃が続き、米政府の目算は狂った。イスラエルによるパレスチナ自治政府への攻撃を強く支持はしないまでも事実上容認するに至り、アラブ世界には「米国の政策は朝令暮改」との不信感が強まっている。
米国には、仲介から手を引く選択肢もなくはない。だが、アラブ諸国との関係が冷え込めば、アフガン攻撃についての国際的な摩擦が強まるのは確実だ。米国の中東政策の柱である「イラク封じ込め」も難しくなる。
米国は、「積極的な和平仲介」と「テロとの戦争」への支持を両立させながら事態沈静化を図るという難しい外交を迫られている。
[毎日新聞12月5日] ( 2001-12-05-00:39 )