投稿者 dembo 日時 2001 年 11 月 22 日 09:13:27:
自由を安全と交換せよ
http://www.spiegel.de/politik/ausland/0,1518,168587,00.html
Carsten Volkery, ニューヨーク
隔離房監禁刑、秘密法廷、国内諜報活動―アメリカ政府は、憲法規定ぎりぎりのところで行動している。アメリカ人は、幾許かの自由を断念する用意がある。しかし彼らは、期待どおりの安全を手に入れているのか?
ニューヨーク―異常な時代が異常な決定を要求している―アメリカ政府関係者たちは、9月11日のテロ事件以来、このような要求を毎日繰り返している。非常事態という名目の下、彼らは急激に権限を拡大している。経済政策に関してはまだ議論がある一方で、監視<取り締まり>前線への進軍方向(→注1)は明らかであるように思われる。FBIとCIAは、自分たちが望むものをすべて手に入れている。
アメリカ自由人権協会(ACLU)は異議申し立てを行い、いかに急速にジョージ・W・ブッシュ大統領と司法長官ジョン・アシュクロフトが憲法を空洞化しようとも、ほとんど追従していない。ブッシュは先週、テロリスト容疑者を軍事法廷にかけることを発表したとき、この要求にさしあたり最も新しいきっかけを与えた。この法廷は、傍聴者や陪審員なしで秘密裏に行われる。秘密の情報源から得られた証拠資料は、被告が弁護士をつけることを禁じるのを認めている。重要なチェック機能を放棄することで、裁判のスピードが速められる。
「議会が予め宣戦布告せずして、軍事法廷が召集されたことは未だかつて一度もない。大統領の決定は、政府に権力分立を尊重するつもりが全くないことを示す証拠である。」とローラ・マーフィー(Laura Murphy)ACLU代表は語った。
対テロ戦争において、政府はタブーを犯すことをも恐れていない。それゆえ捜査員は今や、取り調べのために拘留されている者とその弁護士との間の会話ですら盗聴することを許されているのである―これは、法治国家においてはこれまで考えられなかったような事態である。アシュクロフトは、この決定を「必要不可欠なもの」として擁護している。彼は公民権運動の信奉者に対し、この新しい特別規定が「ごく僅かの容疑者」にのみ適用されるものだとして安心させている。しかしながら理論的には、テロに関与した「十分な疑い」があるすべての者に該当するのである。9月11日(のテロ)との関連でFBIは約1200人を逮捕したが、その多くは根拠のない嫌疑によって逮捕されたにすぎない。逮捕された者たちは独房に入れられ、外界と連絡をとることはできない。政府は情報遮断を命じている。アムネスティ・インターナショナルのような人権団体ですら、この独房で何が起こっているか知らないのである。
「ここで何が起こっているのか?」
捜査はほとんど専らムスリム、とりわけアラブ人を対象としている。確かに当局は、人種的・宗教的帰属は重要ではないと主張している。しかし現実は異なるようだ。ここ数日間で、2000年1月以降に学生ビザあるいは就労ビザでアメリカへ入国した5000人の外国人がFBIの捜査員の訪問を受けた。尋問されたほぼ全員がムスリムであり、大半はきわめて品行方正である。この「インタビュー」の唯一の根拠はこうだろう。おそらく誰かがテロリストに関して知っているだろう、というものだ。
議会では、このような捜査に直面して不快感を表明する声が増えている。「私はここ20年間、これほど多くの代議士が質問をするのを未だ聞いたことがない。」と法務委員会委員長の民主党上院議員パトリック・リー(Patrick Leahy)はニューヨークタイムズ紙に語った。上院議員らは司法省に対し、来週にも公聴会を開くよう求めた。
しかし両議院は、10月末に圧倒的大多数で刑事訴追を新たな段階へと高めるテロ対策法案を可決したばかりである。公的には、FBIとCIAに権限を付与する法律は「テロリズム防止にふさわしい手段を準備することによるアメリカの団結と強化に関する法」ということになっている。世間ではこの法律は、簡潔に「愛国者法案」と呼ばれている。この法案は議会を迅速に通過したため、多くの代議士は法案内容を理解することすらできなかった。「この法律は、考え得る中で最も非民主主義的な方法で可決された。」と民主党乗員銀バーニー・フランク(Barney Frank)は警告した。
より暗黒な時代への逆戻り?
「愛国者法案」は、FBIの任務を刑事訴追から国内諜報活動へと変化させている。予防は遅すぎてはならないのだ、と新しい哲学は述べている。捜査員は今や、所有者に情報を提供することなく住居や職場をくまなく捜査することが許されている。彼らは、秘密裏にコンピューターの固定パネルをコピーすることを許されている。同様に、司法上の命令がなくても私人のインターネット利用や電話を監視することも許されている。彼らは有効期限が切れたビサを持つ外国人を、何らかの理由から故国へ送還することができない場合には無限に監禁することを許されている。
さらにこの法律は、これまで明確に区別されていた諸官庁の間の障壁を取り払っている。CIA国外諜報機関は今や、FBIのデータバンクや大陪審の前でなされた秘密供述に介入している。財務省も、データの交換に加わっている。これによってCIA諜報員は、再び国民を捜査することができるのである。諜報活動と刑事訴追の明確な区別は1975年のウォーターゲイト事件以後導入された。当時、ニクソン大統領は権力を悪用し、政治的なライバルに対して諜報員を投入したのである。
事態を見守っている者たちは、より暗黒の時代に逆戻りしないよう警告を発している。「このような法律が標的としているのは最終的にはテロリストではなく、政府とは異なる見解を持つ一般の市民であるということを歴史は示している。」とテンプル大学の法学教授デイヴィッド・ケイリーズ(David Kairys)は語っている。
しかし、アメリカ国民は安全保障問題において政府を支持している。「彼らは政府にチャンスを与えるのにやぶさかではない。」とピュー・リサーチセンター(Pew Research Center)のキャロル・ドハーティ(Carroll Doherty)は語っている。彼女はこう語る。「大多数が1200人の逮捕者に対して目下なされている取り扱いを支持している。少なくとも55%は9月11日からの一週間で、幾許かの自由すら断念する用意があった。35%はその用意はなかった。最新の世論調査では、あの熱狂は既に明らかに冷めている。58%が、市民権の制限に対し"やや、あるいはかなり不安である"という態度を示している。」
批評家:この法案はテロにストップをかけてもいないだろう
ブッシュ政府は、苦境においてあらゆる良心の呵責を放棄した最初の政府ではない。最も有名なモデルは、アブラハム・リンカーンである。南北戦争中、大統領は何千人もの南部諸州のシンパ―そこには選挙で選ばれれた代議士も含まれた―を監禁した。第二世界大戦中も、根拠のない嫌疑で大量拘禁が行われた。11万人の日系アメリカ人が―彼らはサボタージュを行うかもしれないという単なる懸念から―何年にもわたって[強制]収容所に拘留されたのである。
「愛国者法案」がアメリカをより安全にするか否かは、まだ到底証明されてはいない。反対票を投じた共和党代議士ロン・ポール(Ron Paul)は言う。「この法律が9月11日のテロにストップをかけてもいない。」ACLUのローラ・マーフィーは、法のシステムというものは秘密法廷がなくても機能すると指摘している。結局のところ、1993年のWTC爆破事件を起こした者やオクラホマシティ連邦ビル爆破事件の犯人ティモシー・マクベイは、通常の裁判によっても有罪判決を下される、と。
しかしアシュクロフト司法長官は、司法システムの再編成をまだ到底成し遂げたわけではない。「人々を拘禁しても、誰も知らされないような国々であるかのように感じられ始めた。」と「憲法上の権利のためのセンター(The Center for Constitutional Rights)」(→注2)のデイヴィッド・コール(David Cole)は語る。「9月11日以前から、この国は別の方向に導かれていたのだ。」
注:
1. 監視<取り締まり>前線への進軍方向・・・監視が強化される状況を皮肉をこめて表現している。
2. 「憲法上の権利のためのセンター」・・・ニューヨークの非営利団体。1966年に公民権を法律的に支援するセンター。スタッフはアメリカ合衆国の法廷と国際法廷で人種に関する正義、女性・労働者の権利、人権、表現の自由などの領域で重要な司法上の判例を確立させてきた。
http://www.ezipangu.org/japanese/wtc/forward/7.html