投稿者 AERA 日時 2001 年 11 月 22 日 08:54:21:
近づいた「標的」オサマ
「核兵器」を持って山へ!?
http://www.asahi.com/column/aic/Mon/aera.html
2001年11月23日号
「核兵器を持っている」。その真意は? 地元紙編集長から「オフレコ」話を聞いた。
編集部 河野正一郎(イスラマバード)
それは、首都が計画的に放棄されたことを示している。
カブールが陥落した11月13日、タリバーンの幹部たちは各地から最大拠点である南部の町カンダハルに集まった。
最高指導者オマール師を筆頭に、旧ソ連との戦争で司令官だったザイーフ・パキスタン大使も前日の夜、イスラマバードを離れ、会議の場に向かった。今後の戦略などを話し合い、カンダハルを新首都に決めた。
会議の日、カンダハルにいたタリバーン関係者はこう言う。
「会議はカンダハル近郊の山間部であった。オマール師はいたが、オサマ・ビンラディンは会議の席にいなかった」
●「ムシャラフ大丈夫か」
地元ジャーナリストによると、国際テロ組織アルカイダを率いるビンラディンの行動パターンはこうだ。
まず彼は、「移動エリア」を決める。そのエリア内に5、6カ所の洞窟を確保する。それぞれの洞窟には、大勢のアラブ人兵士らが護衛につく。彼はジープやロバでエリア内の洞窟を一日に何度も行き来する。しばらくすると、また別の移動エリアを決め、洞窟を新たに5、6カ所確保する。これを繰り返す。オマール師とは無線や携帯電話を使わず、特別の通信員を通じて連絡を取り合っているという。
では、ビンラディンはいま、どこにいるのか。
少なくとも、ついこの間まではカブールからそれほど遠くないところにいたとみられる。
パキスタン地元紙のハミッド・ミール編集長(36)は11月8日、彼と会った。
ミール氏は7日夜、アフガニスタンの首都カブールから、ジープで出発した。車内では目隠しをされた。砂利道を何時間か揺られた後、車を降りた。目隠しを外され、翌8日の朝6時だと知らされた。米軍機が上空を飛び、タリバーンによる対空砲火の音が聞こえた。寒かった。
車は山道をゆっくりと走ったので、時間のわりにはそれほど遠くまでは進んでいないように感じた。地形から考えても、カブールの北方に思えた。目の前にいた武装兵に、毛布を渡され、小さな部屋に入った。ボディーチェックを受けた後、じゅうたんの上に座った。沼のように柔らかだった。部屋の中には10人以上の若いアラブ人がいたという。
しばらくして、ビンラディンと、アルカイダのナンバー2であるエジプト人ザワヒリが部屋に入ってきた。3年半ぶりに会ったビンラディンはいきなり、ミール氏にこう言って笑った。
「ムシャラフ(パキスタン大統領)は大丈夫か?」
相手の様子をうかがう余裕すら感じさせた。ミール氏がビンラディンと会うのは3回目だが、風貌は以前と変わっていなかった。
●「核兵器を持っている」
ミール氏は英語で質問した。ザワヒリがアラビア語への通訳を務めた。途中、何回かザワヒリがミール氏の質問を通訳できずに間があいたが、ビンラディンは理解して、質問に答えた。だが、彼は最後まで英語は口にせず、アラビア語で欧米社会を批判した。
インタビューが始まって約1時間後、彼は淡々と語った。
「われわれは核兵器と化学兵器を持っている」
ミール氏はこの発言を聞いたとき、こう直感した。
「米国に対して、反撃する力を誇示する狙いがあるのか?」
どうやって入手したか、どんな爆弾か、使い方はわかっているのか――。ミール氏は矢継ぎ早に質問したが、彼はこう言って質問をかわした。
「次の質問をしてくれ」
核兵器の質問を始めてから約30分後、ビンラディンはミール氏が置いた録音用のテープレコーダーのスイッチを自分で止め、言った。
「朝食をとろう」
●「旧ソ連の核爆弾」言及
ビンラディンは紅茶を飲みながら、独特の赤っぽい色をしたパン「アフガン・ナン」にバターを塗り、オリーブをつまんだ。彼の好物である羊肉は食卓になかった。ナンをつまみながら彼は言った。
「旧ソ連の崩壊後、あの地域で幾つも核爆弾が行方不明になっているのは知っているか?」
パキスタンの英字紙ドーンに掲載されたビンラディンの「核兵器所持」発言は10日、世界中を駆けめぐった。
アフガニスタン国境に近いパキスタン西部の町で、ある関係者を通じ、「タリバーン部隊の司令官」を名乗る人物と会った。彼は年齢をいわず、アディ・イブラヒミ・アフマッドと名乗った。部下らしき男を伴っていた。
アフマッド氏は北部同盟の進攻後、兵を引き、国境を越えてきたと言った。ビンラディンとも会ったことがあるという。
アフマッド氏は内ポケットから、アフガニスタンのたばこの袋を取り出した。燻した草を親指と人さし指でひとつまみして固め、その固まりを下唇の裏に入れて味わうものだ。彼は、たばこが口になじんでから話し始めた。
「たぶんビンラディンは核を持っている。生物兵器は私でも持っている。買ったものもあるし、われわれが作ったものもある。数種類ある。いま戦うと一般人を巻き込んでしまうから兵を引いた。ゲリラ戦では徹底的に戦う。手段は選ばない。ビンラディンも、核兵器を使ってでも抵抗するはずだ」
ビンラディンは核・化学兵器の使用をちらつかせながら、包囲網をくぐり抜けようとしている。米軍と国際社会は、彼を追いつめられるのだろうか。
パキスタンの情報機関、国防省統合情報局(ISI)は、軍事訓練などを通じてタリバーンと関係が深かった。米軍の空爆が始まった10月7日に長官が交代したときも、タリバーンに情報が漏れないようにするためともいわれた。
●「だれにも捕まらない」
そのISIの元長官ハメッド・グル氏は、ビンラディンはいま、タリバーンの主力とともにカンダハル近郊の洞窟に潜んでいるとみている。
「タリバーンはいまも一枚岩だ。ゲリラ戦になれば、タリバーンは強い。いまは北部同盟を町の中に入れて、自分たちは山間部に潜んで踏み入ってきた敵を包囲する。時期を見て町へも再攻撃するはずだ。そして、最後までビンラディンを守るだろう」
ミール氏との別れ際、ビンラディンはこう言ったという。
「だれも私を捕まえられない。仮に捕まったとしても、イスラムの同志がこの戦争を続ける。旧ソ連と同じように米国をここから追い出す」
戦争は新しい局面に入った。これからは山間部でのゲリラ戦だ。核兵器、化学兵器の怪しい影を引き連れながら――。