投稿者 dembo 日時 2001 年 11 月 20 日 19:49:41:
軍国化が進むアメリカ
(リチャード・ローティ、ツァイト誌66号、2001年9月)
http://nakayama.org/polylogos/chronique/231.html
アメリカ合衆国は戦争状態にある−−それがどんな戦争なのかは明らかではないとしても。アメリカがこうむったような打撃を受けて、贖ないを求める措置をとらずにいることはできる国はない−−それがどのような措置であるかは明らかではないとしても。
ブッシュ大統領が宣戦布告によってタリバンを脅して、オサマ・ビンラティンの引き渡しを求めるのではないかという意見もある。あるいはサダム・フセインのイラクに対して行ったような攻撃か繰り返されるという意見もある。確実なのは、アメリカはすでに軍事国家であるが、この文章を書いている間にも、さらに軍国化が進むだろうということだ。アイゼンハワー大統領がかつて「軍産複合体」と呼んだものが、さらに権力を強めるに違いない。
わたしたちに望むことができるのは、アメリカが採用これから採用しようとする次のステップについて、議会が審議するチャンスを捉えるられことだけだ。そしていわゆるトンキン湾決議のように、大統領の決定にまかせた一般的な了解や白紙委任状のような説明に、議会が満足してしまわないことだ。
こうした白紙委任状は、ジョンソン大統領や後継のニクンン大統領がベトナムでとった行動を正統化する役割を果たしたのだった。アメリカの憲法では、議会に宣戦布告をする権利をみとめているのだが、冷戦とは宣戦布告されない戦争のことだった。ニカラグアでのコントラ支援から、パナマ侵入、そしてベトナム戦争と朝鮮戦争にいたるまで、戦線布告なしで戦争が遂行されてきたのである。いずれの場合にも大統領は、国民の意見を問うことなく、独断で開戦を決定してきたのだった。
ブッシュ大統領が今回は、なにかを実行する前に、これからどうしようと考えているかくらいは、議会と国民に説明することを期待したい。わたしたちはベトナムでの戦争には勝てないことはるか以前から知っていたのに、ワシントンの政治を支配していたジョン・ウェインばりのマッチョな考え方のために、ベトナムで多数の人々が殺戮されたのである。「確固とした決意」とか言いながら。
過去数か月にブッシュ政権は異例なほどの傲慢さを示してきた。国民に政治的な決定の妥当性を説明するための真面目な努力をすることなく、広範な政治的な決定を下したあとで、国民に知らせるだけなのである。たとえば愚かしいロケット防衛計画がその一例だし、さまざまな協定な国際条約を一方的に破棄したのもその例だ。わたしたちアメリカ国民は、実際に実行された後で、初めて政府から決定についての説明を受けるようになってないるのである。しかしこれは民主主義的なプロセスが機能するやりかたではない。冷戦時代からというもの、アメリカの民主主義は大きな打撃を受けてきたのである。
ロッテルダム、コベントリー、ドレスデン、広島のような巨大な破壊をもたらない限り、バクダッドやカブールを破壊しても、アメリカ国民は許容するだろう。わたしたちが受けた襲撃に対する妥当な回答として、国威の闡明と決意を示す必要性のもとで、こうした破壊も許容されることだろう。しかし爆撃が開始されてからの数か月の間に、政府は長期的な政治的な決定を下すに違いない。その決定の目的は、新たな攻撃を阻止することにあるだろう(生物兵器を使った攻撃は、さらに大きな破壊をもたらす可能性がある)。
こうした広範な政治的な決定は、行政府だけが下すべきものではない。まず議会にかけて審議して、国民の間で詳細に検討すべきものだ。それでないとアメリカの民主主義はさらに深刻な打撃をうけるだろう。そして安全保障を追求する国の権力がさらに強化されるだろう。
ブッシュ政権には、尊敬すべき立派な理性的な人々が参加している。政府の中には、隠れファシストなどはいないのである。それでも共和党の政府は、民主党の政府よりも、エドガー・フーバー、オリバー・ノース、ジョセフ・マッカーシーなどの暗い人物の影の影響をうけやすいのである。マッチョな考え方は、共和党の専門なのだ。共和党は恥知らずにも、兵器フェティシストに阿り、死刑支持者に阿り、投獄される黒人男性の比率が増えるのが、健全な内政の兆候だと考える人々に阿ろうとする。
だからわたしのような民主党左派が、九月一一日の攻撃のニュースを聞いて、「おい、市民の権利はこれでどうなるんだい」と考えたとしても、決してパラノイア的な反応ではない。そしてラムスフェルド国防長官が記者会見で、信頼できる情報を伝達しようとしなかったことを知ると、この懸念はさらに強まるのである。ニューヨーク・タイムズが、ペンタゴン文書を公開したことで明らかになったのは、こうした政府発表情報を通じて、政府は国民を恥知らずにも欺き続けたきたこと、そしてそのことを反省してもいないということである。この数か月に、こうした欺瞞はさらに多くなるだろう。そしてこうした欺瞞が隠そうとするさらに深刻が事態が発生するだろう。
アメリカ合衆国が戦争を遂行するたびに、個々の市民が国にたいしてもつ市民権が打撃をうけてきた。第一次大戦の際には、ユージーン・デブズのように、兵役を否定した社会主義者の労働組合の指導者は投獄された。第二次大戦の際には、日本からの移民が収容施設に監禁された(最高裁の汚点である)。
一九一三年にはアメリカ自由人権協会(ALCU)が、個人の権利を保護するために、民間組織として誕生した。そしてとくに戦時中に個人の権利を守るために法廷闘争を展開して、この協会は高い評価を受けたのだった。運がよければ、今回の戦争遂行の際には、ACLUは警戒を強めなくてもすむかもしれない。しかし政権についている側にとっては、「国の安全保障」というのはとても強力な武器になるものだ。国民の意見も、個人の権利も踏みにじることのできる切り札なのだ。わたしたち民主党左派は、ACLUに対する財政的な援助を強化すべだろう。
アメリカ合衆国は現在は、共和国というよりも帝国に似ている。しかしアメリカ政府があからさまに示している傲慢さにもかかわらず、わが国は外国にも多数の友人たちがいる。これまでアメリカには、憲法にふさわしい民主主義の手本があったことに感謝している友人たちが。こうした友人たちが、近い時期にアメリカ政府が下す決定に失望しないことを望みたい。報復に関する政府の決定は、アメリカの民主主義の将来を左右するのである。
作成:中山 元 (c)2001