投稿者 えーてる 日時 2001 年 11 月 16 日 13:31:03:
【核・放射線テロの脅威に神経尖らせる米国】
−1998年に米国人に対する聖戦を宣言−
−放射線散布テロは現実的脅威−
ウサマ・ビンラディン氏は、パキスタンの英字紙ドーンに掲載の、11月7日に
行われたパキスタン人ジャーナリストによる同氏へのインタビューの中で、核兵
器をすでに所持していると語った。米政府はこれまで、アルカイダが何らかの生
物・化学兵器を所有しているとの見方をしてきたものの、核兵器所有の可能性は
否定していた。しかし、ビンラディン氏の今回の発言を米政府は深刻に受け止め、
核テロの脅威に神経を尖(とが)らせている。(ワシントン・横山裕史)
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ドーン紙の報道によると、ビンラディン氏は「米国がもし化学、核兵器をわれ
われに対して使用するならば、われわれは化学兵器と核兵器で報復するかもしれ
ないことを宣言したい。われわれは、それらの兵器を抑止力として所持している」
と明言した。
ブッシュ大統領や米政府閣僚は、同氏の核兵器所持の主張の信ぴょう性を疑問
視しながらも、深刻に受け止めている。ブッシュ大統領は11月9日、「(アルカ
イダは)化学、生物、核兵器を追求している。その手段を備えるようになれば、
すべての国家、ひいては文明そのものへの脅威となる」と警告した。さらに、同
大統領は10日の国連総会演説で、アルカイダは「化学、生物、核の大量破壊兵器
を使用する能力を獲得し次第、それらを使用するだろう」と強調した。
米政府は、9月11日の同時多発テロ、10月以降の炭疽(たんそ)菌テロの結果、
核テロを含むスーパーテロが現実に起きるかもしれないという危機感を強めてい
る。アシュクロフト司法長官は10月7日と29日の2回、9月11日のテロ攻撃に匹
敵する大規模なテロ攻撃が発生し得るとの警告を発した。
その2回とも、核攻撃・核テロに対処する役割を担う米政府機関、核緊急探索
チーム(NEST)が緊急警戒態勢に入った。とくにNESTは、放射性物質探
知センサーを要所要所に配備して、ワシントン市内の主要政府施設を標的にした
核兵器あるいは放射線兵器使用の動きを監視したもようだ。
さらに10月7日には、米政府はチェイニー副大統領を、ホワイトハウスや副大
統領官邸からワシントン市外の秘密の場所に移動させ、大統領に万一のことがあ
った場合に備える措置を講じた。米政府は一切のコメントを避けているが、副大
統領の秘密の場所への移動は、核テロの可能性に関係していた可能性が高い。
米政府が考えている核テロのシナリオには、(1)いわゆる核爆弾の爆発による
大量破壊テロ(2)原子力発電所など既存核施設に対するテロ(3)放射性物質の大量
広域散布によるテロ――の3つがある。
このうち、(1)の可能性はほとんどないが、(2)(3)は極めて現実的な脅威であ
ると見られている。いずれの場合にも、人体に極めて有害な放射性物質が広範囲
に拡散し、多くの死傷者が出る恐れがある上、広大な地域が何年も居住不可能に
なり得る。
米国内では、ペンシルベニア州スリーマイル島での原発事故発生(1979年)以
来、原発事故、あるいは、原発に対する破壊活動が懸念されてきた。そこで、原
子力規制委員会(NRC)は、小規模の奇襲チームを作って、シミュレーション
で原発の警備態勢の検査を行っている。過去1年間に調べた11の原子力発電所の
うち6カ所で、奇襲チームは警備を突破して原子炉区域に到達し、放射能漏れを
起こし得る状況を確認した。
同委員会は、さらに、高速の鉄棒による衝撃、軍用機の衝突に対する耐性など
の検査を行い、原子炉のコンクリート防壁が持ちこたえたことを確認した。しか
し、9月11日テロのような大型旅客機衝突という事態に、果たして原発の構造が
耐え得るかどうかは疑問視されている。
9月11日以降、NRCは、全米31州にある103カ所の原子力発電所すべての警
備の見直し、抜本的改善を進めている。10月の2回の全米テロ警告の際も、ニュ
ージャージー州やニューヨーク州は、州内の原子力発電所に州兵を配備するなど
して、原発警備強化を最優先した。
しかし、米国内における核テロで最も可能性が高いとみられているのは、放射
線散布装置(RDD)を活用したテロである。これは核物質を通常の爆弾に詰め
込み、爆弾の爆発とともに有害な核物質が広範囲にわたり散布されるという形の
放射線爆弾テロ攻撃である。
ビンラディン氏とアルカイダが、放射性核物質を獲得していることは、ほぼ間
違いないとみられている。ラムズフェルド国防長官も11月11日、CBSテレビの
インタビュー番組で、ビンラディン氏の核兵器所持は疑わしいが、「生物・化学
兵器、場合によっては放射線兵器を所持していることは十分考えられる」と述べ
た。
ビンラディン氏はこれまで、核兵器取得の決意を公然と表明してきた。同氏は
98年に、「イスラムの核爆弾」と題する声明を公表し、その中で「神の敵を恐怖
に陥れるための可能な限り強力な力を準備することは、イスラム教徒の義務であ
る」と述べ、核兵器など大量破壊兵器獲得をイスラム教徒の義務と主張した。98
年と言えば、同氏が米国に対する聖戦を宣言し、軍人、民間人を問わず米国人を
テロ攻撃の標的にすると明言した年である。
同じ98年の9月、アルカイダの財務部長だったマムドウ・マフマッド・サリム
氏が、ドイツのミュンヘンで、旧ソ連、チェコなどの犯罪組織を介して、濃縮ウ
ラン数キロを不法購入しようとして逮捕された。
98年8月のケニア、タンザニアの米大使館爆破テロ事件の被告に対する今年2
月の裁判では、ビンラディン氏の元補佐ジャマル・アルファドル氏が検察側証人
として、ビンラディン氏の指示により、93年後半から94年にかけて、スーダン軍
将校から150万ドルでウランを購入する任務を与えられていたことを証言した。
ほかに、ウランの品質を検査するための機器をケニアから運び込む計画もあっ
たという。さらに、元ベラルーシ情報将校で実業家のイワン・イワノフ氏が、今
年初めにビンラディン氏の仲介者から接触を受け、使用済み核燃料棒を含む放射
性核廃棄物を購入する方法について助言を求められたと証言し、現在英国情報機
関がそれを調査している。
イスラエル政府は最近、アルカイダと関係があるとみられるパキスタン人のテ
ロリスト容疑者が、イスラエルに放射性物質と通常爆弾を組み合わせたRDD爆
弾を持ち込もうとしていることを確認し、逮捕した。米情報、法執行当局はこれ
により、米国内における放射線テロ攻撃の可能性に一層警戒を強めている。
国際原子力機関(IAEA)によると、93年以来、核物質の密輸事件は確認さ
れただけでも世界で550件以上に上り、その多くがロシア・マフィアを介して旧
ソ連の核物質が密輸されるという形で起こっている。未確認情報として、スーツ
ケース大のロシア製核爆弾が2個、ビンラディン氏の手に渡ったという情報もあ
るが、その真偽はともかく、核物質が同氏の手に渡った可能性はかなり高いとの
見方は否定できない。
IAEAは、世界各地に、兵器級核物質を含む放射性物質のブラックマーケッ
トが存在していることを指摘しており、イラクなどのならず者国家やアルカイダ
などのテロ組織もその取引に関与してきたとみられている。
米国防総省科学委員会は、すでに97年の時点で、「米軍、海外および米国内の
人口密集地に対する放射線散布装置(RDD)を使用したテロ攻撃」の可能性を
強く警告していた。同委員会は、RDDテロによる直接の被害以上に、それがも
たらす一般大衆への心理的効果、米国および同盟国への政治的影響の方に大きな
懸念を表明している。