投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 11 月 08 日 10:55:49:
■『ワシントンを救ったヒーローたち』
米中枢同時テロから間もなく二カ月。ハイジャックされた航空機三機がニューヨークの世界貿易センターとワシントン郊外の国防総省に激突し、ペンシルベニア州の山中にも一機墜落した。ユナイテッド航空93便だ。当初、米戦闘機による撃墜説が飛び交ったが、乗客らの操縦室奪還作戦で墜落したという英雄物語に変わってきた。最後の瞬間に何が起きたのか確かめようと現場へ向かった。(ペンシルベニア州シャンクスビル・立尾良二、写真も)
■現場周囲半径1キロ 立ち入り禁止で柵も
ワシントンから北西へ高速道路をひた走る。メリーランド州では名残の紅葉が目に鮮やかだ。ペンシルベニア州に入ると山をいくつも越え、空気が刺すように冷たい。墜落現場に最も近いシャンクスビルの村まで約二百七十キロ、車で三時間ほどだった。
村の人口は約二百三十人。この村を含むストニィクリーク郡区のグレッグ・ウォーカー郡区長(40)は「主に酪農で生計を立てている」と話す。村の中心の教会から約三キロ山道を登り、起伏のある大草原と山林の境目に墜落現場があった。周囲半径一キロ以上が立ち入り禁止で、柵(さく)まで張り巡らせてある。
ウォーカーさんは、遺族のために草原の中に追悼広場を造った。一般市民も国旗や人形、花、寄せ書きなどを供えに訪れる。「犠牲者名を刻んだ大理石の碑を近く建てる。寄付も集まった」と言うウォーカーさんは、墜落原因について「乗客が戦う決断をし、テロリストの狙いを阻止した。彼らはビッグヒーローだ」と強調する。
掲示板にも「シャンクスビルは93便の英雄たちを尊敬します」「神様、ヒーローたちをお守りください」と記されている。撃墜説について、ウォーカーさんは「分からない。ワシントンに到達していたら被害は底知れない。いざとなったら撃墜すべきだという推測も分かる。でも、撃墜ではなく、乗客がテロリストと戦ったと信じたい」。
現場からさらに約百三十キロ北西へ離れたピッツバーグ在住の軍礼拝堂牧師ジョージ・プリプテンさん(82)も追悼広場を訪問。「米国は開かれた国で自由に出入りできる。常に万全な防御はできない」と言う。撃墜説について「国を守るため、時には仕方のないこともする。倫理的に許せない生物兵器の使用もあり得る。不幸にも緊急の事態に直面したときに何をするかだ」と直言を避ける。
■「ミサイルなら機体バラバラ」
土ぼこりを上げパトカーが近づいてきた。ピッツバーグの刑務所へ囚人を護送した帰りというデラウェア郡の保安官ジョン・ピサーノさん(52)は「下降してきた機体はワンピース(一個)のまま激突したと聞く。鼻から突っ込んだらしい。戦闘機がミサイルを発射すれば、空中で機体がバラバラになって落ちてくるはずだ」と撃墜説を否定した。
村に住む会社員マイク・ローゼンタールさん(42)も「撃墜の話はウソだ。乗客の英雄談には魂を揺さぶられる。ワシントンを救ったんだ」と話す。自動車修理工場を営むブルース・グラインさん(61)は「あの時、ものすごい音と振動で工場を飛び出したよ。撃墜もあり得ることだ。だってワシントンに向かっていたんだから」。
■FBIは回収品を開示せず
九月十一日午前八時四十二分(現地時間)、93便は乗員乗客四十五人を乗せ、ニューヨークからサンフランシスコに向かい離陸した。乗客が機内から家族に電話した第一報から、同九時二十分ごろテロリスト四人にハイジャックされたとみられる。
その乗客は「ナイフで一人刺された。犯人は爆弾も持っている。FBI(連邦捜査局)に知らせて」と話したという。ほかの乗客や乗員も、座席備え付けの機内電話や携帯電話で次々に家族や友人に連絡。世界貿易センターと国防総省への民間機自爆テロを伝え聞いた乗客らは、次第にテロリストと戦う決意を固めたとされる。
93便はオハイオ州クリーブランド上空で急旋回し、ワシントン方向へ向かった。
ある連邦政府高官は、「こちら特報部」の取材に対し「国防総省に突入したハイジャック機の当初の目標は、ホワイトハウスだった。しかし、朝日がまぶしく二度目標を見失った揚げ句、巨大な国防総省に目標を変えたことが航跡などから分かった。ペンシルベニアに落ちた飛行機は、連邦議事堂を目標にしていた」と明かす。
同九時五十分、通過先のピッツバーグ空港の管制塔職員らが避難。断続的に続いた乗客らの電話連絡は悲壮そのものだ。
■「バターナイフ でやってやる」
「子どもたちに愛していると伝えて」「さよなら、もう一度顔を見たかった」「二人殺された」「みんなで相談して決めた。反撃だ」「やつらがこの飛行機を何かにぶつける計画なら、その前にやるべきことがある」「よしやってやる。朝食のバターナイフが武器だ」
同十時六分、93便は墜落した。回収されたボイスレコーダーや無線記録の中に、操縦席で争う音や「ここから出て行け」と叫ぶ声が残っているとされる。ウルフォウィッツ米国防副長官はしばらくして、93便を米空軍機が追尾していた事実を認めたが、撃墜説は否定した。
しかし、現在も墜落現場に近づけず、ボイスレコーダーなど回収品や証拠品は非開示で不明な点も多い。地元紙ピッツバーグ・ポストガゼットは十月二十八日付の特集記事で「最後の瞬間はミステリーだ」と報じた。
「F16戦闘機三機がバージニア州の空軍基地から緊急発進していた」と指摘する同紙のデニス・ロッディ記者は、ただ「墜落時、戦闘機はミサイルの射程圏内に到達するまで十四分間を要する位置に離れていた。大統領が撃墜命令を出したのは確かだが、作戦遂行前に墜落した」と撃墜説に否定的。しかし「百パーセントないとは言い切れない」とも。
同記者は「乗客に操縦席から引きずり出されそうになったテロリストが、方向舵(ほうこうだ)のペダルをたたいたため、機体は裏返りながら墜落した」と分析。取材規制については「何度も情報開示を求めているが、FBIが進行中の犯罪捜査の詳細は明かせないと言う」。
座席備え付けの電話だけでなく、飛行中に携帯電話の通話は可能だろうか。
ロッディ記者は「レーダーが機影を確認できないほど超低空を飛んでいたので、携帯電話も使えたはず」とみる。エンブリィ・リドル航空大学(アリゾナ州)のリチャード・ブルーム教授は「地上と離陸直後は通話可能」と指摘。
同教授は、撃墜説について「政府が情報を隠せば、陰謀やうわさ話が必ず出てくる。ハイジャックされたほかの三機と違い、93便の乗客は状況を把握し、何らかの行動を準備する余裕があったとの仮説は立つ」と言いながら「墜落原因は分からない」。
連邦議会は93便の乗員乗客に対し、軍人に与える最高の戦功章「名誉勲章」授与を検討している。